お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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ヌレバタウン(濡れ羽タウン) ドンカラスの濡れ羽色と形容される独特の深みを持つ漆器の色にちなむ。基底現実の輪島市。


#11 敗北してなお改めざる、これを敗北と云ふ

ー*-

 

 ヌレバタウン。

 

 北陸地方の輪島市に相当するこの町は、やはり輪島市と同じく漆器ーウルシの樹液を木製製品に塗布することで装飾を行いつつ強靭にする工芸製品ーが特産品となっている。

 

 「ウルシ塗りのモンスターボール!いつ見てもおしゃれ~!グレイシア、買っちゃおっか!ノブレスボール6個しか持ちだせなかったし!」

 

 カグヤの足元でグレイシアがじゃれつきながらうなずいている。さすが令嬢のポケモン、ボールも格調高いものに入りたいらしいーだからって新しくゲットするためのボールが特注品6個きりなのはどうかと思う。

 

 「…なるほど、いろいろありますのね…」

 

 (うん、全部高いんだろうけどさっぱりわからん!)

 

 「お姉ちゃんの代わりとして恥かくよ…ちゃんと勉強してよ…」

 

 カグヤが小声でささやく。もっともではあるが、それよりも「年下美少女に耳元でささやかれる」というシチュエーションに、前世が童貞の蒼玻は内心かなりキていた。

 

 「そ、それで、ヌレバタウンのおみやはどこかしら?」

 

 「露骨に話をそらす…

 

 あ~、アテのおじいちゃんか~...おみやにいるのかな…?工房覗いたほうが手早い気がするけど私あのおじいちゃん苦手なんだよね...」

 

 (クセの強い人、なのか…?ってか工房?)

 

 「ここのぐうじのポケモンとよりしろさまは、どんな相手なのかしら?」

 

 「よりしろさまはキンレンと同じで特殊個体だよ。ただ今のお姉ちゃんがポケモンについての知識あやふやでむしろ良かったかもしれないし悪かったかもしれない…」

 

 (怖い言い方だ...「良かった」ってのは先入観があるとかえって足をすくわれるってことだろうけど…

 

 …え、初見で見るのがそれはそれで激ヤバななんかなの?そんなにわけわからないの出てくるの?)

 

 「それにヌレバっておみや信仰がかなり弱いんだよね。」

 

 「えっ、それは、おみややおみや巡りに価値を見出してない…ってことですの?」

 

 「…そうじゃないよ。『おみや』っていう『場所』に価値を見出してないの。

 

 ほら、ヌレバのよりしろさまは渡りをするから。」

 

 自らが強い力を持つことで祝福(オーラ)をカケラとして分け与え、また祝福(オーラ)を大地に満たす存在、よりしろさま。それゆえにキンレンおみやのように、よりしろさまが住む場所は信仰の対象となる…が、ヌレバタウンのよりしろさまは少々特殊であるがゆえに、「生息地」への信仰がさほど高まらなかったのだ。

 

 「だから宮司って言ってもおみやを祀る役目というよりは単に街の名士で...

 

 …あっ、ちょうど見えてきた。」

 

 カグヤが指さしたのは、いかにも木造純和風建築といったおもむきの、黒い瓦屋根を擁く年代物の文化財だった。

 

 「たのもーっ!」

 

 「た、たのもー?」

 

 建物の中からガヤガヤと、急に騒がしく物音が聞こえる。

 

 「挑戦者の方ですね!?親方を呼んできますので!」

 

 (...親方ぁ?)

 

 「おーぅ、ちょいと待っといてくれやー!」

 

 野太い、頑固ジジイの声が聞こえてきた。

 

ー*ー

 

 「挑戦者たぁどこの奴かと思ってたが、カグヤの嬢ちゃんの姉さんか。

 

 カグヤの嬢ちゃん、ここのしきたりは教えたかぃ?」

 

 「…あの、アテさん、私、アテさんの試練は毎度毎度内容が変わるって聞いてるんだけど...?」

 

 「おぅ?そうだっけかのぅ?」

 

 作業服を着たマニュアルサラリーマンの次は、ねじり鉢巻きをしたエプロンon和服の爺さんと来た。蒼玻は「…宮司とは?」と内心首をひねる。

 

 「まぁ作業の合間にやってるからなぁ。挑戦者のポケモンをちゃんと見定められれば、形式なんぞなんでもええのよ。トキトビとグンジョウの若造どもはそういう『本質』がわかっちょらんくせに堅物だからいかんのぅ。」

 

 よくわからない大人のトラブルに巻き込まないでほしい…蒼玻もカグヤも、早くもこの豪快かつ元気なお爺ちゃんにげんなりし始めていた。

 

 「今日の儂は久々に傑作ができそうでのぅ。

 

 手早く、すませるぞ。交代なし3本勝負でいいかのぅ?」

 

 「交代なし、ですの…?」

 

 「一度塗った漆を剥がして塗り直すことはできん。人生に待ったもやり直しもないんじゃよ。」

 

 (だから出し直しはない…と?いやこれ、シンプルにすんなり進めて早く終わらせたいだけでは…?)

 

 そのとおりである。

 

 「では、バトルコートに行こうかの。先に行ってるぞぃ!」

 

 ほっほっほっほと自転車に飛び乗るお爺ちゃんであった。

 

 「…なんだか、もう、疲れてきましたの…」

 

 「でしょ…?」

 

ー*-

 

 「さて、では、せーので出していくぞぃ。せーの!」

 

 「行くのですわヒトモシ!」「行くんじゃドーブル!」

 

 普通のドーブルと違い、アテのドーブルの尻尾は黒くツヤツヤと輝いていた。

 

 「ふうむ、殴り合いしてくるわけじゃなさそうじゃな?」

 

 (BREAKワザを初手撃ちすれば一体追い詰められて有利が取れる…けど如何にも何してきそうかわからないからな…)

 

 そもそも、1対1×3回という条件は3対3に比べてもBREAKワザを先に打った方が有利過ぎる。出し方によっては初手で一体仕留めることも可能であるクセに、以降相手がBREAKワザを使えなくなるのだから。相性を覆すほどの威力を持つ上にタイプによる軽減はできても無効はできない(もっとも、実は「壊れた」と呼ばれるユキコシ地方に於いてはすべてのワザがそうである)中で、BREAKワザ早出し勝負になってしまうのはあまりにもあんまりである。なのに、1体先手で倒されても3対2の勝負を行うことができる3対3ではなく、1体先手で倒されることで1本取られ、残りどちらか1体倒されれば決着がつく3本勝負なのだ。

 

 だが逆に、交代なしでありかつ先手BREAKワザが流行戦術であるということは、このドーブルはBREAKワザへの何らかの対抗手段を持っていると考えたほうが良さそうだった。

 

 「…ま、そう簡単に引っ掛かってはくれまいの。

 

 ポイズンテールじゃ。」

 

 ドーブルの真っ黒な尻尾がぶんぶんと振り回され、ヒトモシに迫る。

 

 「おにびですわ。近づけてはなりません!」

 

 ヒトモシの周りを紫の灯火が舞い、走ってくるドーブルへと次々に叩きつけられるが、ドーブルは異常にすばしっこく避けていく。

 

 「ならば...あやしいひかり!」

 

 その光を直視すれば混乱してしまうことは目に見えている。ドーブルは目をつぶったまま飛びのいた。残っていたおにびが次々と命中する。

 

 「よし、まずは一撃…とでも思っているのじゃろうかな?」

 

 ヒトモシがぐらつく。その白い体がさらに色を失ったかに見えるー毒状態だ。

 

 「なんで...触れられていないはずですわ!」「じゃって、ウルシかぶれはウルシに触れなくても起きるからのぅ。」

 

 (そうか、漆器職人の連れている、物を塗るポケモン…あの黒いインクは、ただのインクじゃなくて、ウルシの樹液!)

 

 「ウルシオールの揮発点は200度…うかつにほのおワザで温めて、ましてアタマに炎を掲げておるようではやむなしじゃろ。」

 

 「…っ、ならば短期決戦ですわよ。ニトロチャージ!」

 

 「ふぉっ、ドーブル、くさむすびじゃ。」

 

 燃え上がりながら突進するヒトモシの足元に、木質の枝が何本も次々と生え、ヒトモシを束縛しようとする。もちろん火炎がそのすべてを焼き尽くす…のだが、そのすべてが羽状複葉(ウルシ科)であった。

 

 ヒトモシの疾走の速度が、だんだん、低下していくーニトロチャージによるすばやさの増加を、かぶれ毒による疲弊が上回っているのだ。

 

 「ふむ。避けよドーブル。」「今ですわ。あやしいひかり!」

 

 再びの怪光が、今度は激しく明滅し、ドーブルが自らの尾を手で掴んで目を覆う。

 

 「ヒトモシ、右ですわっ!」

 

 目をふさいだままのドーブルのバックステップーけれど、蒼玻は、ドーブルの回避のクセを見抜いていた。

 

 ドーブルが飛びのいたその方向へ先回りするように、燃え上がるヒトモシが突進する。

 

 「…今ぁ!」

 

 瞬間、ドーブルの尾が、振りぬかれた。

 

 毒を蓄えた筆先が、ヒトモシをはたき飛ばす。そして、ドーブルが炎に包まれた。

 

 ヒトモシが地面に落下するーすでに戦闘不能になっている。対してドーブルは、炎の中にいながらも、数秒、ふらつきながらも立っていた。

 

 「…戻るのじゃドーブル。

 

 すまんがのぅ、2体をすぐにポケモンセンターへ連れて行ってやってくれんか!」

 

 アテの弟子が、ドーブルとヒトモシのボールを持って車に飛び乗った。。ユキコシ地方ではバトルがバトルで済まないことはさほど珍しくはなく、直接のダメージはワザを使用するポケモンの心構えでなんとかなっても、毒や火傷は長時間放置するとシャレにならない。

 

 いわゆるベクトル理論ーポケモンバトルに於けるワザと殺し合いに於けるワザはスカラー()だけではなくベクトル(性質)も違うという理論では、「状態異常を記述するベクトルは一方向にしかない」と言及される。ともかく状態異常によるダメージの蓄積は危険なのだ。

 

 「…とはいえ、ま、大丈夫じゃろ。車内で応急処置はできるしの。基本的にはなんでもなおしとげんきのかけらで解決するわぃ。

 

 さて、ドーブルの勝ち、じゃよのぅ?」

 

 ヒトモシが落下した時点ではまだドーブルは立っていた。つまりそういうことだ。ほぼ相打ちに近いが、ヒトモシのダイレクトアタックを察知してベノムショックによるカウンターを決めたのだから読み合いの点でもアテとドーブルは上をいっている。

 

 「さてと、次の一体じゃが…

 

 儂はコイツを出すときに、ヒントを与えることにしておる。」

 

 「ヒント?ですの?」

 

 「儂はヌレバタウンを愛しておる。美しい山と海、山海の恵みがもたらす豊かな味わい、立派な木とウルシが生み出す最高級の漆器、これがヌレバタウンじゃ。

 

 じゃから、ヌレバタウンを、もっと知ってほしくてのぅ。」

 

 (いや、んなこと言われても、ぶっちゃけ能登半島って田舎だからほとんど知らないしな…ましてポケモンの世界でどうなってるかなんて...)

 

 石川県なんて金沢しか知らない、それがほとんどの日本人だろう。

 

 「ヌレバタウンの海はたいへんきれいでのぅ。人々の美しい心が海をきれいに保ってきた。じゃから…

 

 問題じゃ。ヌレバの浜、と言えば?」

 

 「…わかりませんわ。強いて言うなら、砂浜、でしょうかしら?

 

 どちらにせよ出せるポケモンは決まっておりますわ。イーブイ!」

 

 「行け、シロデスナ!」

 

 「でんこうせっかですわ!」

 

 (はつげんちょうせいはここぞという時にとっておくしかない。タイプ相性的には勝ち目はある…!」

 

 シロデスナの砂の身体に、イーブイが高速で体当たりする。

 

 キュッ。音が鳴った。

 

 体当たりのたびに、澄んだ音がシロデスナから鳴る。

 

 「シロデスナ、かたくなる。」

 

 キュッ、また音が鳴る。

 

 「イーブイ、いったん距離を取って様子を見ますわよ。スピードスターですわ。」

 

 体当たりしなくても、星屑が衝突するたびに、やはりシロデスナから済んだ音が鳴る。

 

 「不気味ですわね...」

 

 「そろそろかのぅ。すなあつめ、じゃ。」

 

 キュッ、またも音が鳴る。

 

 もうでんこうせっかもスピードスターも数十回と繰り返した。しかしシロデスナはぴんぴんしている。そしてイーブイのほうがむしろ肩で息をしている有様だ。

 

 「…答え合わせじゃがな。

 

 ヌレバタウンの南の浜は砂がキレイでのぅ。踏むたびに砂がこすれて音が鳴るんじゃよ。少しでも異物が混じれば鳴らないらしいがのぅ。

 

 シロデスナの身体は、そのヌレバの砂でできているんじゃ。」

 

 (もしかして、あの音は、砂の鳴る音!?)

 

 鳴り砂。それはヌレバのコトガ浜をはじめとして列島の数十か所で見られる現象。そして、ポケモンがこの現象を起こしている場合、それはあるワザとしてとらえることができるー「なきごえ」だ。

 

 「何をしてもされても鳴り砂は鳴る。そうなるように毎日手入れしているからのぅ。そして鳴り砂が鳴るたびに攻撃力は下がり、そしてこちらの防御力と体力はかたくなるとすなあつめでいくらでも高められる。

 

 おぬし、この要塞、如何に攻略する?」

 

 鳴り砂はあくまで疑似的なワザであり、ワザや特性でどうにかすることは難しい。そして「踏まれたり押されると鳴る」という性質上攻撃を受けるたびに鳴るため、数十回もの攻撃はその数だけ鳴り砂を鳴らし、イーブイの攻撃力は今や実質的に0に等しい。

 

 アテ老人はーそしてニワカオタクでしかなかった蒼玻もーあずかり知らぬことだが、本来の「なきごえ」は通用しないワザがある。いわゆる特殊ワザだ。しかし鳴り砂はそれ自体がワザでないだけに物理・特殊を問わず攻撃力を下げていた。もはやスピードスターとて意味をなさない。

 

 「どうするかと言われれば...どうしようもありませんわね…」

 

 攻撃するたびにこちらの攻撃力は下がり、生半可な攻撃ではもはやかたくなったシロデスナをどうにかすることはできない。そして多少シロデスナにダメージを与えても、シロデスナには回復の手段があるー詰みだ。

 

 「ですから、こうしますわ。

 

 イーブイ、うそなき、BREAK、はつげんちょうせい!」

 

 イーブイが甲高く鳴いた。同時に、大地が、空中が、金色の粒子に満たされる。

 

 「ほぅ、そう来たか。」

 

 (ドーブルで軽々しくBREAKワザを使うとシロデスナとの対戦で火力が足りなくなる、と。うまくできてるな...?)

 

 しかし、イーブイ、否、ブラッキーのBREAKワザは並みのBREAKワザではない。サーフゴーの時と同じだ。

 

 響き渡る声が鳴り砂などかき消し、バトルコートに響き渡る。

 

 そのワザは染みわたり、そして、「物の集合によって構成されるポケモン」を物理的に吹き飛ばす効果があるーそれがコインでも、ガスでも、そして砂でも。

 

 シロデスナの身体から砂が吹き飛び、アテを砂嵐が襲う。

 

 「ひょひょひょ、困難もまた人生!」

 

 砂まみれのアテは笑うものの、内心かなり驚いていた。長い彼の人生経験でも、ワザで進化し同時にBREAKワザを飛ばしてきたユキコシ在来イーブイなど見たことがないのだ。

 

 「イーブイ、砂が霊体に戻る前にでんこうせっかで削りきりますわよ!」

 

 何度も何度も、ブラッキーが光を纏い、すっかり”棒倒し”のようにスリムになってしまったシロデスナへと挺身攻撃を繰り返す。

 

 砂が鳴る澄んだ音は、もはや聞こえない。あくタイプのワザの音が浸透するとはそういうことだ。

 

 ”かたくなる”の効果はもはや存在しない。シロデスナの身体を硬くしていた砂そのものがほとんど吹き飛び、そこにはもう透明な霊体しかない。

 

 「すなあつめじゃっ!」

 

 「バークアウト!」

 

 ひょろひょろのシロデスナへ、砂が集まり始める。

 

 イーブイが透けて見えるブラッキーが、大音響を響かせる。

 

 シロデスナの身体が、砂の城を取り戻す。

 

 「…間に合わなかったですの...!?」「いや...!」

 

 ひょろり。シロデスナが前のめりに突っ伏したー砂が集まりきって回復するよりもわずかに早く、とどめが刺されていたのだ。

 

 イーブイが、嬉しそうに鳴いた。

 

ー*-

 

 「泣いても笑っても、この勝負で最後じゃな。

 

 行くのじゃオツユデス!」

 

 真っ黒に艶光りするお椀が、モンスターボールから飛び出した。

 

 「おねがいですわ、ブロスター!」

(言うことを、聞いてくれ...!)

 

 「みずのはどう!」

 

 お椀を、水弾が弾き飛ばした。

 

 空中をクルクルまわるお椀から、ニョキッ、細い腕が2本生える。

 

 「だしをとる、じゃ」

 

 2本の腕が光を帯び、一回り大きな水弾が飛び出して、ブロスターを襲った。

 

 地面がえぐれ、ブロスターがクレーターの中央に押し付けられる。

 

 「なっ...今のは...!?

 

 威力で負けるのなら仕方ありませんわ。ロックオン!」

 

 ブロスターの左の腕から赤いターゲッティングビームが奔る。

 

 「もう一度、だしをとる、じゃ。」

 

 ービームは、オツユデスのピカピカ輝くお椀の身体に乱反射され、幾筋にもわかれて散乱した。そして、お椀のフタが開き、ひょろっと白い液体状のオバケが現れて、赤いビームを放つ。

 

 「様子を見ますわよ。ビームを避けなさいな。」

 

 だがブロスターは、ぷいとそっぽを向く。

 

 (おいっ!?やっぱだめか!?)

 

 再びブロスターの右腕のハサミが開く。

 

 「ブロスター、避けるのですわっ!聞いていらして!?」

 

 ブロスターを赤いターゲッティングビームがとらえる。

 

 「っ、ブロスター、アクアジェットで時間を作りますわよ!」「かたくなる!」

 

 ロックオンを散乱させたにもかかわらず、オツユデスは避けるそぶりを見せず、そして一方でブロスターも身動きせずにそのハサミの中の光を強め...

 

 ...そして銀色の閃光がお椀を吹き飛ばした。

 

 天高く飛んでいくお椀。だが、ほとんど地上から見えなくなったところでフタが再びぱかりと開くー赤いターゲッティングビームは未だブロスターを指している。

 

 銀色の閃光が、ブロスターを襲った。

 

 バトルコートを激震が襲う。蒼玻が膝をつく。

 

 アテだけが、ひょっひょっひょと元気に笑っている。

 

 ブロスターは、目を回し倒れていた。

 

ー*-

 

 「…箱入り娘とは思えんくらいにはちゃんとしておるがのぅ、そのブロスターはどうにかしたほうがいい。うまくいかなくなったと思ったら自分で勝手にする...信頼関係が毛ほどもないのぅ...

 

 お...っ?」

 

 アテは、見事な側転を披露した。

 

 アテがいたはずのところを、水弾が飛んでいく。そして、真後ろ、ジムバトルコートを覆うバリアが砕け散り、壁面に丸い穴が空いた。

 

 「ブロスター!?」

 

 ボロボロのブロスターに、金色の粒子が空間から凝縮されていく。

 

 「いかん、オツユデス、みがわりじゃっ!」

 

 金色の、あまりに太い光線が、空中に浮かぶオツユデスを呑み込んだー「最初からさっさと潰してしまえばよかったのだ」と言わんばかりの殺気溢れた一撃である。

 

 「かげぶんしん、かたくなる!」

 

 空中に数十体のオツユデスがふよふよと浮かぶ。

 

 水流、いや金色の激流を身にまとい、ブロスターが宙を駆ける。もう「だしをとる」ためにワザを受けるなど思いもよらず、無数のオツユデスがあたふた中空を逃げ惑い、次々と消されていく。

 

 「ブロスター、やめてっ!」

 

 蒼玻は叫び、ノブレスボールから捕獲ビームを出した...が、ブロスターの答えは、金色の閃光だった。

 

 「お姉ちゃんっ!」

 

 カグヤが投げたボールからヒヲマトウハネが飛び出し、まもるでバリアを張って蒼玻をギリギリ守る…が、バリアは悲痛な音とともに壊れ、土煙が上がる。

 

 ヒヲマトウハネは、蒼玻を押し倒し、その上でボロボロになって倒れていた。

 

 「時々おるんじゃよぅ、敗北に納得がいかず暴れる若いもんがのぅ...!」

 

 アテが右腕を掲げるー握られているのは、茶色と金色の光を瞬かせる、正二十面体の結晶(カケラ)

 

 「カグヤ、ブロスターは...!」「暴走しちゃってる!いわゆるフルスペックワザだよ!止めないと死人が出る!

 

 凍り付かせて、グレイシア!」

 

 カグヤにとって一番大切なパートナーは、ちゃんと望みをかなえようとした。ただ、ただでさえ極細の「ぜったいれいど」のビームは、空中を飛び回るブロスターBREAKに当たるはずがない。

 

 次々と水弾が四方八方に放たれ、壁はボロボロに崩壊を始め、地面にはいくつもクレーターができ、人もポケモンも逃げ惑う。アテただひとりが、ひょうひょうと時々横跳びを披露するばかりで泰然としていた。

 

 「血気にはやる若者を止めるのも老人の務めじゃ。

 

 力を借りるぞぃ、サジンノリュウ!」

 

 茶色い粒子が、アテが掲げるカケラから、空中を飛び回るたくさんのオツユデスたちへ吸い込まれた。

 

 刹那、蒼玻とカグヤの視界が消失した。すべてが茶色に覆われて前が見えなくなったのだ。

 

 土臭い匂いが満ちる中、砂埃が晴れ、視界が復活するーそこには再び、ブロスターが倒れていた。

 

 「...まあそういうわけじゃ。しばらく残って自分を見つめ直すがよかろぅ。」

 




オツユデス みず/ゴースト おすいものポケモン

 ヤバソチャ・ポットデスのユキコシ地方版。年季を重ねたヌレバ塗のお椀がポケモンとなった存在。お吸い物のカタチで姿を現す。
 個体により「せっかく食器として生まれたのだから使われたい」ショッキのすがたと、「高い漆器として大事に秘蔵されたい」ひぞうのすがたが存在し、前者はお吸い物を注ぐとお吸い物に霊体を乗り移らせ持ち主に美味しいお吸い物を御馳走するが、後者は使われそうになると自らお吸い物の身体を実体化させて自らを守る。

 専用ワザは「だしをとる」。自分が受けたワザを、威力を倍として返す。…常に自分がより強力なワザを打てるため極めて強いワザに見えるが、必ず後出しであり、ワザを受けなければならず(ただし受けた上で無効化することはできる)、そのうえに「だしをとる」工程があるためソーラービーム以上に溜め時間が存在する(しかも自分のことをよくわかっているポケモンや自分より強い相手と戦ったことがあるポケモンならば、溜め時間が長い自分のワザを避けることはさほど難しくない)。



アテ、ねじり鉢巻きした和服の鈴木治郎吉みたいな男を想像していただければ。

身が引き締まったユキコシぼんぐり製の特注ノブレスボールの現在の割り振りは、カグヤが元から持っていた手持ちに6つ、蒼玻用に持ちだした6つがイーブイとブロスターとヒトモシに1つずつで余りが3つ、お嬢様妹はボールにこだわるタチなので7匹以上のゲットはありません。
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