お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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ヌレバタウン反転暴走(第3次)

ヌレバタウンで起きた3回目にして最大の反転暴走事件。

行方不明者1人、重症者38人、行方不明ポケモン多数、建物全壊25軒半壊104軒を数えた。





#13 血戦、ヌレバタウン!(下) 壊れた世界で輝け心

ー*-

 

 あちこちに落下した看板やら店先の商品やらが散乱するヌレバの街並みを、自動車が爆走していく。その後ろを目が血走ったペラップやトリミアンが追いかけてきていた。

 

 「イーブイ、スピードスター!ヒトモシ、あやしいひかり!」

 

 2体でひとつの「キンレンおみやのカケラ」にしがみつき、荷台からワザを放って迎え撃つ。ブロスターがそれを興味もなさそうに眺めている。

 

 「次どっちだ!?アブソル!

 

 OK右!おいキミ曲がるからな!」

 

 未来がある程度視えるポケモン、アブソルが示す方向通りにトラックが走る。

 

 引き殺さんばかりに突進してきたトラックへ、ラクライが電撃を放つ。だがアブソルはサイコカッターで電撃を相殺してみせた。

 

 「そう言えばカケラを使っておりませんわよね?」

 

 「ああ、言ってなかったか。

 

 ポケモンの精神を善から悪へ反転させる反転暴走現象の防止は、BREAK進化によってBREAKフィールドの効果を反転現象以外で受け切ってしまうか、カケラを使ってBREAKフィールドのオーラをすべて吸収しポケモンに集まらないようにするか以外にもうひとつあるんだよ。

 

 キーストーンとメガストーンは人とポケモンの心、魂をリンクさせる。人が善なる心を失わなければ、ポケモンの心もまた、というわけさ。余計なオーラ、エネルギーの浪費もなくいざとなればメガシンカを切れる、実に効率的というわけだな。

 

 おっと、進めなくなってるな。」

 

 アスファルトが完全に砕けている。先に進んだポケモンの戦闘によるものだろう。

 

 後ろからは、目が血走ったポケモンの群れ。グライガー、ズバット、キャタピー...後ろからは地響きが聞こえる。

 

 「ここは俺が食い止める。キミは...こっからは車よりも、走った方が効率が良さそうだな。」

 

 ニヒルな笑みを崩さず、青年は砕けた道路の向こうに見える崩れた堤防を指さした。

 

ー*-

 

 「ヒトモシ、戻ってくださいまし!」

 

 瓦礫が灰燼へと変じ、空気は熱で揺らぐ。戦場のさなかを、蒼玻は危ない足元に気を付けながら走っていた。

 

 もとより、今の蒼玻は着物に袴。決して走りやすいわけではないし、その上に裾が長いので自由が利かず引っ掛かり易いのだ。そのうえ、げんきのかたまりを数十個も入れた肩掛けバッグもそれなりに重い(袖に入りきらなかった)。

 

 「イーブイ、まだ大丈夫ですの?」

 

 擦り傷だらけのイーブイがうなずくーどう見ても強がっている。

 

 「あと一息、ですわよ。」

 

 アオバ・フロックスは50m走10秒を切れないし、今や慣れない服と身体の蒼玻では15秒も怪しい。さらにいえばアスファルトがあちこち砕け物が散乱する道だからその倍は時間がかかる…目算以上に時間がかかりまくる状態で、へとへとを極めながら、1つ通りの向こうの海岸公園を睨む。

 

 「あと5分...かしら...」

 

 地面を蹴って走り出す...わけにもいかない。

 

 「今度はスコルピですの?イーブイ、もう一度はつげんちょうせいを頼みますわ。」

 

 袖の中からマッチ箱を取り出し、マッチ棒を5本まとめて掴んで一気に擦り付ける。

 

 赤い火が蒼玻の白い和服を背景に輝く。ピンとはじいて、マッチはイーブイの毛を焦がしたー次の瞬間、イーブイが激しく燃え上がる。

 

 「ひのこBREAK(パワーバーナー)!」

 

 ブースターが吐き出すのは、すべてに着火することができる火種粉の渦。こんがり焼けたスコルピが小さく縮み逃げていく。

 

 「この調子で進みますわよ。」

 

 海岸公園の向こう、壊れた堤防を越えた先にいるカグヤやアテぐうじにげんきのかたまりを届け、態勢の立て直しを見届ければ蒼玻の仕事はおしまいだ。

 

 (...俺を車で行けるところまで届けてくれたあの男、来ないけど大丈夫か...?

 

 いや、他人のことを気にしてる場合でもないか。)

 

 -まさに、そのとおりだった。

 

 斜め後ろから、風が吹いた。

 

 白い髪が前へと吹き流される。

 

 肩が、軽くなった。

 

 「え...

 

 あ、わたくしのバッグ!返してくださいまし!」

 

 プレゼント袋と肩掛けバッグを小脇に抱えたその紅白の鳥(デリバード)は、崩れた木造家屋の上に立ち、これ見よがしに蒼玻へとあっかんべーをしてみせた。

 

 「ならばイーブイ、あのデリバードに...」

 

 (ダメだ、はつげんちょうせいでほのおタイプを得ている今、瓦礫の上にほのおワザなんて使ったら延焼する...!)

 

 そこまでわかっていて、デリバードが「道路の上にスコルピが現れ、対応のためにほのおポケモンを出した直後」を狙ってきたとすれば「善が悪へ反転し暴走する」現象にふさわしい悪辣さだ。

 

 「イーブイ、あの電線にスピードスターですわ。」

 

 とても単純な話である。電気を浴びて感電すればサンダースへのはつげんちょうせいができる。

 

 うっかり蒼玻のほうへ電線が吹き流されてきでもしたら感電死待ったなしだーブースターは蒼玻を見つめたが、蒼玻が深くうなずくのでは仕方がない。星屑が飛ぶ。

 

 電線がちぎれ、垂れさがる。ブースターの像をわずかにまとうイーブイはすぐに駆け寄り電線を前足で小突いた。

 

 何も起きない。

 

 嗜虐的な笑みを浮かべたデリバードが、抱えたプレゼント袋から千切れた電線や砕けた碍子を取り出した。

 

 (コイツ、はつげんちょうせいの仕様を理解して、先回りしてサンダース封じを...!)

 

 デリバードに金色の粒子が集まっていく。

 

 「イーブイ、避け」

 

 金色を纏う白い光が、イーブイを襲った。

 

 土煙が噴き上がり、蒼玻が爆風で瓦礫の山へ叩きつけられる。

 

 「イーブイっ!?」

 

 翼の斬撃が、消失した視界の中に音を響かせた。

 

ー*-

 

 ブロスターだって、蒼玻の指示なぞ聞きたくもないが、だからといって好き好んで善悪の反転や暴走を味わいたいわけではない。

 

 オーラをまといキンキラキンに輝きながら、ブロスターは自らの力を活かすことはなくずっと静観に徹していた...自らを満たそうとするどうしようもなくどすぐろい感情にフタをしながら。

 

 その感情は、土煙が晴れた時、頂点に達した。

 

 血まみれで横たわり、デリバードに足蹴にされるイーブイ。

 

 イーブイへ手を伸ばしたまま突っ伏している、服を切り裂かれ素肌に血が見える自らのトレーナー。

 

 言葉を持たない(ブロスター)にはその苛立ちを人間がどう言語化するかなどわかりはしない。ただ...ブロスターの瞳には、金色の自分が情けなくそしてみすぼらしく思えた。

 

 ー力にあぐらをかく俺と、力不足なのに血まみれになっても戦う少女に雑魚ポケモン。馬鹿なのはどっちだ?

 

 -でも、力に甘えて、いざ力が足りなくなったら八つ当たりした俺よりも、力が足りないのを知ってそれでも進む彼女のほうが、馬鹿だけど、立派だ。

 

 ブロスターには、蒼玻が強く、尊く、美しく見えた。力ではなく、心が。

 

 なぜそうしているのか自分でも気づけないうちに、ブロスターは右腕を開いていた。

 

ー*-

 

 ニタニタ嘲笑しながら血まみれのイーブイを蹴とばそうとするデリバードを、金銀の閃光が横合いから張り飛ばした。

 

 殺意に満ちたりゅうのはどうは、BREAK状態ならではの絶大な威力で、デリバードの身体を海岸公園どころかその先、200mは向こうの崩壊した堤防に叩きつける。

 

 ブロスターは水流をまとって堤防までひとっとび、肩掛けバッグを器用に右腕に収納し、舞い戻る。

 

 それひとつで新車が買えるとカグヤが言う高級バッグは値段だけの仕事はして見せ、げんきのかたまりはひとつも傷つくことがなかった。

 

ー*-

 

 ボロボロの人々とポケモン達が、アテをはじめとして傷の深い数人・数体を内側にした半円陣を組み、堤防の残骸で背中を守りながら、迫ってくるポケモンたちと必死に戦う。

 

 「やれ、アテさん、ここが俺たちの死に場所かい?」

 

 「何を言うとるんじゃ。おぬしらが戦えば街の被害は軽微になるし、さっきからわしを囮にしてして逃げればなんとかなる言うとるじゃろぅ。

 

 時間はわしらの敵ではないんじゃからな。」

 

 「でも爺さんの敵だろ。」

 

 一刻も早く搬送しなくてはアテの身体がもちそうにない。ただでさえ彼はいくらハツラツとしていようが老人なのだ。

 

 「…捨て石になんざできるかよ。あんなちっちゃい女の子でさえ諦めず戦ってるんだ。」

 

 「誰が小さいって!?

 

 ああもう、グレイシア戻って!

 

 苦し紛れの最後の一匹とは思わないでもらえるかな!ウールー!」

 

 それでも、いくらカグヤが強くても、あちこちから袋叩きにされてはかなわない。

 

 「そうは言っても、にっちもさっちもいかんじゃろぅ!?逃げるんじゃ!」

 

 「それには及ばないって言ってるでしょ!」

 

 「じゃが」「それは間違った、判断ですが、よく頑張ったと、思い、ますわよ、カグヤ。」

 

 かぶさってきた、とぎれとぎれだがよく通る声。カグヤは驚愕した。

 

 「…お姉ちゃん!?」

 

 ブロスターBREAKに片腕をもたせ掛けながら、蒼玻が渾身の力でもう片方の腕を振る。

 

 肩掛けバッグが宙を舞い、半円陣の上からげんきのかたまりを降り注がせた。

 

 「おぅ、ブロスターを手名付けたんか。よぅやったのぅ。

 

 さて、皆の衆、気張るぞぃ。」

 

 確かな声とともにアテが3つのボールを開く。

 

 -ニンゲンどもに立て直されてはかなわない。血走った目のホエルオーが波を従え海上高く飛び上った。

 

 「いかん、全員散れぃ!」

 

 だが、当のアテ本人が動けない。足が折れてしまっている。

 

 398㎏+αが頭上に迫る。

 

 「…言うたじゃろ。

 

 時間はわしらの味方じゃ。それに、カグヤ嬢ちゃんのほうが正しかったようじゃのぅ。」

 

 ホエルオーが、膨大な水とともにすべてを押しつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 視界のすべてが消失する。

 

 かすかに香る土と潮の香り、そしてすべてを覆い隠す茶色、目を開けることが失明に直結すると直観できる”何か”に見舞われていることが誰にでもわかる異常事態。

 

 戦場のはるか遠く、例えばポケモンセンターの屋上から見ていた人たちには、青い何か(ホエルオー)を頂上にして、茶色い柱がモウと高層ビルのように立ち上がり、ゆっくり崩落するのが見えた。

 

 ようやくその場の皆が目を開けた時、砂浜は一変していた。

 

 海へと半島のように突き出た砂浜、倒れる十数体の暴走ポケモン、その中央で、アテを背中に乗せて、そのポケモンは糸のように細くしなやかな触角をピンと伸ばす。

 

 2対の翠の翅に、ピンク色の網目状のスジが光っている。尻尾の先にはあふれるBREAKオーラと生命力が金色の「よりしろさまのカケラ」と白色の「げんきのかけら」として析出し数メートルにも及ぶ鞭を為している。

 

 「フライゴン...?でもフライゴンじゃないですわよね...?」

 

 赤いゴーグルに覆われた眼を見上げ、蒼玻は呟いた。

 

 「あれはサジンノリュウだよ、お姉ちゃん。砂を司る、ヌレバのよりしろさま。」

 

 「リージョンフォームかしら?」

 

 「ううん、特殊個体。フライゴンの群れを連れてないってことはこれでも急いで来たのかもね。」

 

 視線の先で、サジンノリュウは両の手にピンクの光を宿し、ほいと上へ持ち上げる仕草をして見せた。

 

 ーサジンノリュウの サンドスローイング!

 

 海面が持ち上がり、膨大な量の砂が、海中のポケモン達を巻き込んで空高く撒き上がった。

 

 砂が真下にあれば(それがどんな状態であれ)中空高く打ち上げる、砂の魔術師ならではの究極の一撃が、暴走ポケモンたちを何度も何度もシャッフルした。あらゆる反撃を許さない連撃は、精密に暴走ポケモンのみを呑み込んでいく。

 

 「今だよ!攻撃を叩きこんで!

 

 マハリハグルマ、ラスターカノン!グレイシア、ぜったいれいど!」

 

 「ドーブル、ダストシュート。オツユデス、シャドーボールじゃ!まだ死ねんぞぃ!」

 

 「ブロスター、砂全体をロックオンしてりゅうのはどうですわ!」

 

 砂の渦がワルビアルをオーダイルをサンドパンをホエルオーをキングドラを巻き上げては地面にたたきつけ、再び空高く打ち上げシェイクし続ける。もちろん血走った眼を開けることなど叶わない暴走ポケモンたちへ、げんきのかたまりで回復したなみいるポケモンたちが距離を取って攻撃を叩きこむ。

 

 変則的なレイドバトルは10分ほど続き、すべての暴走ポケモンがひんし状態になったころ、ヌレバタウン観測所によるBREAKフィールドの安定報告というカタチで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 「そういうわけなんですよ。あの少女、なかなか見どころがありますね。」

 

 ニヒルな笑みを浮かべて、青年は笑った。

 

 「ただのお嬢様だなんてとんでもない。面白いオモチャだと思いますよ。」

 

 「本題に入れ、コンフリー。お前にキーストーンとアブソルストーンを与えたのはおままごとのためではないのだからな。」

 

 画面の向こうで、仮面の男が低く囁く。

 

 「ははは、急かさないでくださいよ。そう効率が変わるわけじゃないんですから。」

 

 会話の効率も、アブソルストーンの入手効率も。

 

 「とにかく彼女は、命の賭け方、ベットの仕方を分かってる。期待値が読める人間は上の下、期待値を読んだ上でそれすら投げ捨てて自分の心に全ベットできる人間は上の中ですよ。」

 

 「そして俺こそが上の上だ、とでも言うのかね?ハハ。

 

 そんなことはどうでもいい。人なんて社会の歯車に過ぎんのだからな。アオバ・フロックスとても例外ではない。

 

 いくらトレーナーとして成長していようがね。」

 

 「クワズさんがそういうなら、まあそういうことにしておきましょうかね。」

 

 あらゆることを疑い、絶対に納得などしない口ぶりで、コンフリーは返答した。

 

 「それで本題だ。

 

 コンフリー、肝心の実験はうまくいったのか?」

 

 クワズと呼ばれた白仮面の男に、コンフリーは冷たい笑顔で返した。

 

 「ええもちろん。俺の期待値は100%ですよ。

 

 第23次ヘルリアライザー(人為BREAKフィールド妨害装置)実験は成功です。もっとも、やはり単なるヘルリアライザーの起動では『壊れた神』の召喚も世界の破壊も無理なこともまた、実証されていますがね。」

 

 「無理もあるまい。神とつながる『壊れた歯車(マハリハグルマ)』だって盟約の血筋(フロックス)と共鳴させられないのに、『壊れた神』の召喚ができるはずがないだろう。」

 

 「それどころかやっこさん、バトルで負けてそうそうに退場してましたしね。

 

 BREAKフィールドの制御だけじゃない、暴走させたポケモンを物理的に制御する方法を考えないといけないんですよ。汚れ仕事を全部ゴフク屋に外注するのも、どうなんですかね?」

 

 「ふむ、検討しておこう、では。」

 

 「はい。

 

 すべては、ラスト団のために。」

 

 「すべては、ラスト団と、ユキコシ地方のために。」




サジンノリュウ むし/フェアリー 

 ヌレバ半島の海岸線のあちこちに住まうナックラーは、他の地方とは異なり激しく生存競争を行う。狭い砂浜で行われる蟲毒に等しき競争の結果ビブラーパに進化できた個体はそれぞれの砂浜を飛び立ち、サジンノリュウの庇護を受けて半島中の海岸をフラフラと飛び回り、死んだ同胞の生命の力をその身に集める。

 サジンノリュウが秋に死ぬとビブラーパたちは一斉にフライゴンへ進化するが、その時にもっとも生命の力を集めていた個体だけはその力を「フェアリーオーラ(特性)」に昇華させることで新たなサジンノリュウに進化し、1年間同族を助けながら海岸を放浪する。この進化の瞬間は空飛ぶ多数のビブラーパが青い進化の光に包まれる中、生命力がピンクの光として一体に集まり、金色の光をまとってサジンノリュウがうまれるため、美しい秋の風物詩となっている。

 特性にはフェアリーオーラの他にデューンプリズン(砂丘の監獄)を持ち、じめんワザを実質タイプ一致として使える他、地面にいるすべての敵のすばやさと命中を下げる。
 
 専用BREAKワザであるサンドスローイングは、地面から砂を巻き上げて砂の柱を生み出し相手を突き上げる範囲攻撃。ナックラーが巣穴から逃げようとする獲物に対して砂をかけて落とす習性に由来するのではないかと言われている。
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