お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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「それでは、第一回ナノハナトレインコンテスト、開演です!」
ササユリはじっと座り、車窓を眺めていた。
ー「ユキコシ地方にはコンテストの伝統がありません。コーディネーターは事前に駅で降りて所定の位置に付かなくてはなりません。パフォーマンスは片方の車窓からしか見られません。列車をゆっくり1時間超かけて走らせても1㎞を平均2分で通過します。無理では?」
-「やったことがないからファーストペンギン...ファーストポッチャマになれる、ライドポケモンがいるからそこまで手間ではないし駅から離れたところでパフォーマンスする必要はない、別に本場ホウエンやシンオウでも客席のすべてが見やすいわけではない、駅の付近でゆっくり走らせて3分ほどのパフォーマンスを2~3回行い駅の遠くでは普段通りに走らせて車窓の景色を楽しんでもらえば良い…どうかしら?」
聞いた時は説得力があるような気がしたが、しかし今になってみれば蒼玻の言葉は頼りないように思える。だいたいまだおみやだって2つしか回っていないというではないか。
「開演とともにホウオウ駅を彩ってくれるのは、おおしらやまむしポケ館が誇るビビヨニスト、イチゲ!」
ー視界を、色とりどりの翅が彩った。
「きれい...」
色とりどりの鱗粉が空に模様を描く。列車は虹のトンネルに包まれた。
列車の走行音にも負けずに、コロトックやペラップ、ラプラスたちの大合唱が聞こえてくる。しっかりした、それでいて耳に心地よい音色は、久しく休むことを忘れていたササユリの身体を、ゆったりとシートに預けさせていた。
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「こちらカグヤです。6番目、カオルさん、準備はよろしいでしょうか?」
「はい。万全です。」
...予想通り、いや予想を超えてくれた。
ユキコシでの第一回で、世にも珍しい走行中の列車からの観覧ということもあって、歴史に名を刻みたいんだろう。…シンオウ地方からヌレバ空港へ飛んできたポケモンコーディネーターがいたのはびっくりした。
「カグヤ、緊張しますわね。」
「…そうだね。バトルは盤面を整えれば『見れる』ものになるけれど、ポケモンコンテストはちゃんとした人が来て、こちらも観客席をちゃんとお膳立てしないと成立しない。」
それは、俺の思い付きでこのイベントを企画してから十数日、俺たちが苦しんできたことだった。前例のないイベントを前例のない方式で行うために、シンオウやホウエンから文献を取り寄せて、そしてここまでたどり着いたのだから…
「みなさん、お願い、ですわ...」
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オンバーンがりゅうせいぐんを放ち、降り注ぐ流星をばくおんぱが吹き飛ばす。青い海を花火が彩る。
トンネルの中を、さながらプラネタリウムのように光が舞う。
窓を開ければ安らぎの香りが吹き込み、桜の花びらがさわやかに森林に降り注ぐ。
(私は、強い、独り立ちしたポケモントレーナーのつもりでいて、ポケモントレーナーのことを全然わかっていなかったのですね…)
-ずっと、五里霧中で、無我夢中で、生きてきた。7おみや巡りだって、目的ではなく手段だった。
だから、大事なものをたくさん、見落としてきたのかもしれない。
(ポケモントレーナーはこんなに、ポケモンの魅力を引き出すことができるのですね。)
-それに、ササユリが一人で列車の車内でゴフク屋と戦っていた時、ホウオウ駅では地元のトレーナーたちが駆け付けようとしてカグヤと一触即発になったと言うではないか。
(地元の人たちだって、普段乗らない人たちも、ナノハナ線を大事に思ってくれている。それすら、私はわかっているようでわかっていなかった...)
気づいていなかっただけで、ナノハナ線にはたくさんの美しい景色が、それを大切にしてくれる人々がいる。そして、ポケモンの力と人々の想いをもっと引き出せばきっと、ササユリの夢は叶う。
「なんだ、簡単なことだったじゃありませんか。」
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「だからってこれはちがくありません?」
途中停車駅でホームから聞こえてきた声に、ササユリは脱力しながらつぶやいた。
「えー、そこで師匠は私に言ったわけですね。
『おいお前』
『なんですかい師匠』『なんですかい師匠』
『ええい同時にしゃべるな、うるさくてかなわんわ、『りんしょう』か?
まあいい、お前も落語家なら、落とし噺のひとつも語ってみせろ』
とまあ、これも稽古だ、そう言うわけですな。
ポケモン図鑑にも書いてあるようにメタモンは笑うと力が抜けて変身がとけるそうでございます。師匠はせっかくならお互いに笑わせて見ろと、まあそういうわけでございまして、そっくりな2人がとっておきの噺を始めたのでございます。
『ええ、御運び様で誠に有難うございます。ええ、とりポケモン、と申しませば、いたずら好きな側面もありまして、たびたび地上のものをついばんでいってしまう。ところが短慮にいろんなものをつまみ食いすると、時々自分に跳ね返ってくることもございます。私のお腹も、最近ぷにっとしてきてございまして、本日申し上げますのはそんな、ついつまみ食いをしてしまったとりポケモンの話でございますな。』
…とまあ、話しておりますと、どこからか笑い声が聞こえてくるではありませんか。私たちが顔を見合わせますが、どちらもメタモンになってはおりません。では誰が笑っておるのやら、そう思って脇を見ますと、師匠がいたところにですね、おおきな色違いのメタモンが笑い転げているわけでございました。
やや、メタモンが化けていたのは私ではなく師匠だったのか、私たちは顔を見合わせ、どちらともなく笑い始めたのでございます。
さて、私もこんな話をしておりますとみなさんがいつの間にか笑顔になっていくのを見ることができまして、それが落語家の幸せなわけであります。人間、他人を幸せにするとついつい笑顔になってしまいます、そんな噺で、本日の締めとさせていただ」
落語家の笑顔がふにゃりと崩れて、どろりと服ごととけ、メタモンが姿を現す。時刻表の裏に立っていた落語家そっくりの青年がメタモンをボールに戻し、「きます。ご清聴ありがとうございました」と頭を下げたところで、列車はゆっくりと走り出した。
「…いや、ポケモンコンテストとは、なんかちがくありません?やっぱり。
面白かったですけど。」
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エーフィーが降らせた雨を、色違いのハクリューが凍り付かせる。サイコキネシスが演出する季節外れの樹氷がはじけ、メブキジカたちの春夏秋冬が一巡した。
「これで終わり、ですね…」
思えば長かった。定刻どおりに走らせる義務と責任と緊張に支配されているいつもは、列車に乗ってもあっという間にナノハナ駅についてしまうのに。
「物足りない、そんな気がします。」
しかし、もうナノハナ駅の駅舎が見えている。
協力してくれた通りすがりのお嬢様姉妹にメールでもするか...そう思ったまさにその時、ササユリの端末に通知がポップアップした。
「…『これはわたくしたちからの餞別ですわfromアオバ』『窓の外を見てくださいfromカグヤ』...?いったい...」
ー「ビビヨン、ふんじんを撒いて」
-「ランプラーおにび、イーブイひのこですわ。」「ヒヲマトウハネ、ねっぷう」
炎の帯が、列車の上を通り過ぎていく。
細かいヒビが炎の帯に奔り、
空中に吊り下げられたウールーが白い羽毛を膨らませる。
「扇形の炎、白い胴体、緑の縁取り...まさか...」
黄金の粒子が、ウールーの真後ろに、まるで尾羽のように沸き上がった。
「ホウオウ...!?」
そして、グレイシアが、炎の帯を飛び越え、わずかな空間のヒビを足場に”頭”の部分で背を伸ばす。同時に冷気がヒビに吸い込まれ、”翼”の末端からダイヤモンドダストとなって吹き出し、炎に溶かされて乱反射に彩られる。
炎で覆われた翼。
白い胴体。
金色の尾羽と頭。
白と緑の縁取り。
そして、羽を彩る、虹。
青空をバックに駅舎の上空で列車を出迎える、それはまさしく、ホウオウタウンにたびたび渡りをしてきたと伝わる伝説の鳳、ホウオウの姿だった。
ウールーを吊り下げる何者かの羽なのだろう、赤と黒の羽が、ひらひら舞い落ちてくる。たまたま車窓から入ってきた一枚を、ササユリは手のひらで受け止めた。
「…ファイアローの羽かと思いましたが、これだけ、違う...?
まあそういうこともあるでしょう。この羽は記念に飾っておきましょうか。」
虹色に輝く羽をそっと手帳に挟み、ササユリは汽笛に耳を傾けた。
ナノハナ鉄道ナノハナ線ホウオウ駅発ナノハナ駅着トレインコンテスト特別列車、ナノハナ駅1番ホーム、到着。