お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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ナノハナキャッスル編、始まります。


#18 城主の隠し事

ー*-

 

 「あー…アオバ様とカグヤ様でござりまするか?それがしはナノハナキャッスル城主ブラシカ家が筆頭家臣、ツグミツと申す者。此度(こたび)はお二人の案内(あない)(つかまつ)ってござります。

 

 話はアテ様から伺っております。城主のハル様が本丸でお待ちでござります。」

 

 ちょんまげを結わえた壮年のサムライが、厳粛に告げる。

 

 「…ほへ~」

 

 ただ、サムライほどではないが時代錯誤ー大正ロマン姿の少女は、どうもサムライの存在に気付いてすらいなさそうだった。

 

 「お姉ちゃん、なに呆気に取られてるの?」

 

 深紅のドレスの少女が、呆れて声をかけ、それでもダメそうだと肩をゆさぶる。

 

 「…カグヤ。」

 

 「なに?」

 

 「世の中、まだまだすごいものがありますのね…」

 

 「はいはい、すごいね。いいから行くよ。」

 

 「それがしらの城、お褒めにあずかり光栄でござる。」

 

 ツグミツ、そう名乗ったサムライの城...ナノハナ湾を南から見下ろす標高300mの山の尾根を覆わんとするかのように、石垣が並び、木の建物が無数に輝いている。

 

 天守閣こそないものの、ところせましと並ぶ砦と山肌を埋め尽くす野面積みの威容は、蒼玻を圧倒するに充分なものだった。

 

ー*-

 

 この世界、苗字があんまり意味ないんだよな...

 

 どうせ旅に出ればどこの家の出身かなんて関係ないしバトルの勝敗にはもっと関係ないし、バトルで心を通わせたらみんな友達!みたいな世界だし…

 

 フロックスだって、某菱とか豊某みたいな大企業でかつ五摂家とはいかなくても旧華族くらいの名家って聞いてるけど、特にそれで何かを得ようという気もカグヤになさそう...まあこれは逃げてるからってのもあるけど。

 

 だから、ゲームでもアニメでも主人公は名前だけ名乗って旅をしていた。結局、苗字(家名)の価値を、あだ名なみにしか認めていない世界なんだよな。

 

 ...にもかかわらず、「ブラシカの嬢ちゃん」と、アテぐうじはこの城の主を家名で呼んでいた。ということは、よっぽどわけわからん家なんだろうなと思っていたけど...

 

 「はえ~~」

 

 「お姉ちゃん、わかったから、感動したのはわかったから。」

 

 「それがしの祖先も浮かばれるというものでござりますな。」

 

 ...いや、こんなクソデカ山城の城主とは思わないじゃん。

 

ー*-

 

 「おもてをあげい。」

 

 響き渡る声は、意外にも、高かった。

 

 「長旅御苦労であったじゃろう。

 

 (わらわ)が、ナノハナキャッスル城主家ブラシカ家が当主、ハル・ブラシカである。」

 

 (...のじゃロリ!?)

 

 「アオバですわ。」「カグヤと言います。」

 

 「…そなたら、頭は下げるふりをしても、妾に心からひさまづく気はないと見えるな?」

 

 扇で口元を隠しながら彼女が低い声を漏らした瞬間、ナノハナキャッスル本丸大広間に緊張が走った。

 

 脇で控えるツグミツら家臣のサムライたちが、ボールに手を伸ばす。

 

 「…控えよツグミツ。軽挙は許さんぞ。」

 

 「「「「「はっ」」」」」

 

 「そなたらも、もう少し、妾たちの顔を立ててはくれんかのう?」

 

 (「丁寧語、お嬢様言葉は使ってもいいけど、謙譲語や尊敬語は使っちゃだめ」...

 

 カグヤ、どうするんだ、この張り付いた空気...?)

 

 「ハルさん(・・)も、それをしないを承知のうえで、あえてプレッシャーをかけてるんじゃないの?」

 

 カグヤは、悠然と言い放った。今度は大広間が凍り付き、ハル・ブラシカが震える。

 

 (な、なにが起きるんだ...!?)

 

 ポケモンのワザでもないのに、プレッシャーがすごい。蒼玻は、ボールに手を伸ばすべきか逡巡する。

 

 「っ...っ...っ!」

 

 扇の内側から、こらえきれない声が漏れる。

 

 (ヤバイ、ここで死ぬわけには...!)

 

 「っ、っ...っ!

 

 っはっはっはっは!愉快じゃ愉快じゃ!」

 

 (は?)

 

 蒼玻が目を丸くするーもう本日何度目かもわからない。そしてサムライたちは無表情になる。

 

 「タダの旅人ではないとは薄々アテ殿の文面で察しておったが、どうやら思うた以上に訳アリらしいの!特に妹、そなたは底知れぬ矜持を感じるわ!」

 

 「…どうしてそれを?」

 

 「目を見れば、わかる者には丸わかりじゃ。隠しておきたいのなら『こだわりメガネ』でもかけてくるんじゃな!

 

 ツグミツ、そなたならば気づいておったろう?」

 

 「…はっ。それゆえ急ぎお通しした次第にござりまする。」

 

 「こ奴らは賓客じゃ。城中にはそう伝えよ。城外に知られること許さず、ともな。」

 

 ハルはそう告げ立ち上がる。

 

 (えっ、待って?)

 

 蒼玻の心の声など無視して、ハル・ブラシカは、用件を聞くこともなく、大広間を去っていった。

 

ー*-

 

 「姫はああ見えて我儘でござってな、アオバ様の願いを簡単に聞き届けるつもりはないのでござろう...」

 

 「では、ツグミツさんが、お姉ちゃんのお願いを聞くことはできない?」

 

 「…文書(もんじょ)方に取り計らってみるでござる。」

 

ー*-

 

 「どう?手はずは整ってる?」

 

 「まだでござる。今忙しい時期でござってな...」

 

ー*-

 

 「あら、これはなんですの?倉庫の整理、というわけでは...」

 

 「…これは客人様!?なんでもない、なんでもないでござるよ!」

 

 (...なんでもない…のか?あんなにたくさん...)

 

ー*-

 

 「Wi-Fiはどこ?天気予報が見れないのはさすがに...」

 

 「あ、ああカグヤ様でございますね!天気予報でしたら私が気象台から聞いてきます!」

 

 「…ついでにWi-Fiのパスワードも教えてくれたりすると宿泊客としてはうれしかったりするかなーなんて。」

 

 「そ、それはサイバーセキュリティ上、申し訳ございませんが…」

 

 「…そっかー。」

 

 (...この山城に一番似合わない言葉だねサイバーセキュリティ...)

 

ー*-

 

 「ハルさんにお会いできませんかしら?この前の話の続きをしたいですわ。」

 

 「えっと、姫様は書状で事情はご存じでございます。いずれ手が空き次第事務方から...」

 

ー*-

 

 「は~、疲れましたわね。カグヤ、どこかにテレビはないかしら?」

 

 「…お姉ちゃん、それが、ないの。」

 

 「…そんなことがありますかしら?いくら古城と言っても...」

 

 「というかこの城おかしいよ。テレビがないんじゃなくてテレビがあったはずなのに隠してるって感じがする。」

 

 「…だとしたらテレビだけではありませんわね。」

 

 「…お姉ちゃん、何を見たの?私はたぶんネットを封鎖されてると思う。」

 

 「わたくしはたくさんの刀や鎧を見ましたわ。たぶんあれは...」

 

 「「戦の準備」」

 

 ガラガラガラっ!

 

 「誰っ!?ウールー、コットンガード!」

 

 カグヤが抱きしめもふもふしていたその毛玉は、もふられるだけのことはあり、あっという間に綿毛で蒼玻とカグヤを包み隠した。

 

 「ちょっ、ま、待つのじゃ。そなたらに隠し事をしていたことには謝ろう。じゃから妾の話を聞いてほしいのじゃ。」

 

 「そう言って忍者が屋根に隠れてたりするんでしょ?お姉ちゃんに傷はつけさせないんだから!」

 

 「ああもう、そう思うならトリックルームでもなんでもすればよいではないか…聞き分けのない小娘じゃのう...」

 

 「小娘って...何歳かしら?」

 

 「16じゃ。」

 

 カグヤが、コットンの中からぬっとペロッパフのように顔だけ覗かせる。

 

 「…お姉ちゃんより年下じゃん!」

 

 「えっ」

 

 「そうですわね。ちなみにカグヤともたった一歳ですわ。」

 

 「うっそじゃろ...?

 

 いや、カグヤ殿が15歳なのはわからんでもない。じゃが...数え年じゃなかろうな?」

 

 「カグヤ、違いますわよね?」「違うよ?」

 

 「…じゃが、しかし、アオバ殿にはなんというか、17にしてはおぼつかない、頼りない感じがしたのじゃが...いやでも確かに言われてみれば年齢の重みを感じないことも...?わからぬ...」

 

 蒼玻はぞっとした。この姫、蒼玻が転生憑依者でまだこの世界に数か月しかいないため慣れていないことも、それでいて前世の人生経験が17より長いことも、2回会っただけの雰囲気で辿り着きかけている。

 

 「カ、カグヤ、コットンをやめさせてほしいですわ。」「…何かあった時のためにヒヲマトウハネ出させて。」

 

 「…カグヤ殿は、年相応に無邪気で年のわりにはしっかりしておる、それで説明つくんじゃけどなぁ…」

 

 「ハルさん、そ、そんなことはいいから、わたくしの願いと質問、聞いてくださるかしら...?」

 

 「…む、うむ、あいわかったのじゃ。

 

 特別なイーブイじゃったな?それについては、確かに当家はそなたらを助けられる古文書を所蔵しておるはずじゃ。ただなにぶん文書が多いが文書方の手も空いておらん。あ奴ら最近はサイバー戦までさせておるからのう...」

 

 文書方のサムライがサイバー戦、つくづく奇妙な巨大山城である。

 

 「では、わたくしたちだけで探させていただく、というのは」「やめておけ。どうせそなたらには見つけられん。」

 

 沈黙が彼女たちを覆うーすぐそばに重大なヒントがあるのに、人手不足でどうにもならないのは、さすがに歯がゆい。

 

 「…そうなのじゃ。そなたらが見たたくさんの武具、無線封止、それにそなたらがニュースを見れんようにしたこと...すべて、説明しなければならんのじゃ。」

 

 「戦の準備、だよね?今時...」

 

 サムライが殿様の下で覇を競っていたのは数百年も前である。この御時世にサムライがいることだけでも異常なナノハナキャッスルが、それもどこかと戦をしようなど考えられない。

 

 「ナノハナキャッスルの戦力はよりしろさま抜きに考えればおみやに匹敵すると言われてる。ぬしポケモンだっている。何をするつもりなの?」

 

 「…ああ待て待て、そなた本当に物騒じゃな!?

 

 普通に考えればわかるじゃろう。妾らが未だ時代錯誤にサムライをし、山にこもり、己らを鍛え続け、そして今戦をしなければならないわけがな。」

 

 「…ホープ団、ですわね。何処かに来襲するのかしら?」

 

 カグヤが息を飲むーそれならば、キャッスルが戦の準備を始めるわけだ。約1000年間ユキコシ地方の侵略をたくらみ、南の山や北の海、果ては空を超えて大陸からたびたび侵攻するゲリラ集団は、ナノハナ武士団が常在戦場でいつづける最大の理由なのだから。

 

 「…もう来ておる。

 

 ほれ、市街の向こう、北のナノハナ湾に、島があるじゃろ?」

 

ー*-

 

 始まりはナノハナタウン役場とポケモンセンターのサーバーが落ちたことだった。

 

 ゴフク屋による攻撃を疑い、役場と協力し合同でパトロールをしたりしていたものの、緊急連絡網が不全なのだから一重事あった時にはトレーナーの招集に遅れが出る。武士団本体にも臨戦態勢を整えさせていた矢先、ナノハナ市街の北、ナノハナ湾に浮かぶアマモアイランドから火の手が上がったのだーハルはそう語った。

 

 「ツグミツらが駆け付けた時には遅かった。アマモアイランドは、すでに半分がホープ団海軍を名乗る不逞の輩に占拠されておって、ツグミツは橋を守りながらアイランドからの避難を助けるので精いっぱいじゃった。」

 

 現在、アマモアイランドはホープ団の完全占拠下にある。かろうじてナノハナタウン本土とつながる2つの橋は確保できており奪還の進軍路は確保されているが、いざとなればポケモンのワザで落ちそうなコンクリート橋をホープ団が見逃しているのは、あちらにも橋づたいにナノハナタウン本土へ侵攻する意思があるからだろう。

 

 麓のトレーナーたちにも限界がある、早く城方はアマモアイランド奪還の戦をしなければならない...要するに、そう言うことだった。

 

 「しかし、わたくしはナノハナ駅でイベントをしましたわよ?」

 

 「イベントの終了後すぐにツグミツが迎えに行ったじゃろう?

 

 外の地方からも客人が来ておる大事なイベントじゃとササユリ殿が言うのに、妾らの不始末で延期にするわけにもいくまい。じゃから妾らが全力で橋を防衛し情報を封鎖しておった。そなたらにもこのまま隠し通して妾らだけで解決するつもりじゃったんじゃがのう...」

 

 「…イベントに差し支えるから隠蔽して、隠蔽したまま引くに引けなくなってたから不自然なことを私たちにしてたのは理解したよ。でもハルさん、だったらなんで、さっさと奪還しなかったの?

 

 おみや並みと評されるナノハナ武士団なら、すぐにでも軍を起こしてゲリラを鎮圧できたはず。そうするノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)が、貴方たちにはある。なんでそうしなかったの?」

 

 カグヤが詰める。ハルがたじろぐ。

 

 「…できなかったんじゃ。

 

 ナノハナ武士団はヌシさまと一心一体、妾らがヌシさまを守り、ヌシさまが妾らと城を守る。

 

 じゃが最近、ヌシさまは戦いに消極的じゃ。ねぐらにこもって出て来ぬ。ヌシさま抜きでホープ団と戦いつつ、予備の戦力でヌシさまをお守りする、それにはさすがに相応の準備が必要じゃった。」

 

 -それが、今事態がこじれている理由であった。

 

 「ヌシさまは強い。強いゆえに普段ならば小癪な工作など押し通れる。じゃが今はヌシさまを頼れん。妾らは正面突破以外では弱いのじゃ。」

 

 今のナノハナ武士団の若手に、本当の戦をした経験はない。ウキクサ率いるホープ団海軍は最近もたびたび上陸してゲリラ戦をやりポケモンを奪ったりして、蒼玻も襲われたというのにだ。そして実戦経験が少ない中、絡め手戦術・ゲリラ戦法に長けたホープ団相手に47㎢もの島で掃討戦をやるのはなかなか容易ではない。

 

 「…私たちが、何か力になれない?」「わたくしたち、こう見えてホープ団海軍のトップを撃退したことがあるのですわ。」

 

 「っ、おお、あのウキクサ将軍をか!それは心強い。

 

 いや、しかし身内の恥が原因じゃというに、こんなこと客人に頼んでいいものじゃろうか…」

 

 「…いいじゃありませんの。旅は道連れ世は情け、ですわ。」

 

 「…そう言ってくれると助かるのじゃ。

 

 現在アマモアイランド内部の様子はよくわかっておらん。ドローンでは落とされるしひこうタイプを入れて何かあっても困るゆえにな。それを知りたい。アテ殿が言うにはそなた、ファイアローBREAKを持っておるじゃろう?」

 

 ファイアローBREAKなら攻撃より速く飛んで空撮できる...そういうわけであった。

 

 「わかりましたわ。その頼み、わたくしたちができる範囲で、全力で尽くしますわ。」

 

 「うん。お姉ちゃんをまたホープ団の危険にさらすのは嫌だけど、これもノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)、だからね。」

 

 「うむ、頼んだぞよ。」

 

 「…ちなみに、どうしてぬしポケモンが動かないのか、聞いてもいい?」

 

 「…マジのガチで機密じゃぞ?」

 

 「うん」「はいですわ。」

 

 「…子離れがの。できんのじゃ...」

 

 -いや、子離れできなくて島一個奪われてそれを隠蔽って、マジのガチで身内の恥事案じゃねえか!

 

 蒼玻は、怒鳴るのを懸命にこらえるのだった。

 

ー*-

 

 「キミ、ナノハナタウン役場とポケモンセンターの状況は?」

 

 「依然、ダウンしたままです。」

 

 「そうか。

 

 ...ならば最大効率で、ナノハナキャッスルに挑むことができるな。」

 

 「厄介なヌシがダウンしているのもありがたかったですね。奴が前線に出て来ていたらと思うとぞっとしますよ。」

 

 「ヘルリアライザー改(人為BREAKフィールド収束装置)を使っても、エネルギー効率も持続率も低下するからな。まったく、勝利の期待値を上げてくれてありがたい限りだよ、ホープ団に礼を言いたいね。」

 

 叩きのめして絶望を味あわせた後でねーニヒルな笑みは、暗闇の中でいつまでも変わることはなかった。




 無限に地名考えているように見えて、おみや都市以外のほとんどの地名とキャラ名はモデル地域/出身地の自治体の植物や関係が深い植物あるいはその学名から取っています。(例:アカマツタウンは珠洲市、珠洲市の樹はアカマツ)。ナノハナタウンは七尾市の花から取っており、ブラシカはアブラナ科の学名です。またアマモアイランドは能登島(アマモの重要生息地)。でもキャラ名はともかく地名は色とか香りが本来なんだよな...おみや都市以外考えつかないけど...

 なおハル・ブラシカ姫の「ハル」は、七尾城能登畠山氏の最後の城主、畠山春王丸にちなんでいます。こっちは16歳どころか5歳で籠城中に病死してますが…七尾城行ったときにあまりに能登畠山氏がかわいそうで(名族なのに内乱するし幼い当主が病死するし信長の救援は間に合わないし城取った上杉謙信は「いやあ家臣が裏切ってくれたから能登分捕れて今夜の月はめっちゃ綺麗ですわwww」とか「この城いい眺めで草」みたいなこと言ってるし)、ちょっとモデルにしてみることにしました。
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