お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#19 ナノハナの変(序) 侵攻の山城

ー*-

 

 「ヌシさま、お立ちになってはいただけませぬか?

 

 ナノハナの民草も、妾の家来も、みな、ヌシさまの御出陣を待ち望んでおり申す。」

 

 「それがしからもお頼み申す...!」

 

 ハルとツグミツが、地に額を付けんばかりに平伏する。

 

 ヌッと、”ヌシさま”が顔を出した。

 

 赤い頭についた小さな眼をぎょろりと動かし、ハルとツグミツ、御付きのサムライたちを睥睨する。

 

 グ、ガァァァァァァァァ!!!!!

 

 咆哮が響き、サムライたちがたじろぐ。山城全体が揺れたようにすら錯覚させられる。

 

 「ヌ、ヌシさま、そこをなんとか...!」

 

 パチパチと瞬きが逡巡を表す。だが...

 

 「…ダメ、か...」

 

 巨大なクリムガン(ヌシさま)は、ぷいと顔を背け、腕の中の小さな子供をひしと抱きしめた。

 

ー*-

 

 「城から連絡を受けています。ナノハナ役場の...」

 

 「自己紹介は後でいいですわ。それより、状況は?」

 

 1㎞にも及ぶ、簡素ながらしっかりとしたコンクリート橋。青い海の上に映える白いブリッジの端で、数十人のポケモンとトレーナーがそれぞれにストレッチをしたり食事をしたり仮眠を取ったりしている。「ここが明日の最前線」と言わんばかりの光景に蒼玻はいささか吐気を覚えてすらいた。

 

 「はい。

 

 アイランド占拠以降、このアマモ大橋と、北の中アマモ農道橋(ツインブリッジアマモ)にそれぞれ20人を常に配置し、三交代を取っていただいて封鎖しております。

 

 ホープ団の人数はおそらく数百人規模、ポケモンの数は約1000~2000といったところかと。あちらから侵攻してきた場合は市街を守って遅滞戦闘を行い、ナノハナ武士団やサジンノリュウの到着を待つ予定です。」

 

 鉱山内に常にいるキンノコブシのようなよりしろさまと異なり、サジンノリュウはフライゴンの群れを引きつれて半島内を回遊飛行している。この前のヌレバタウン反転暴走事件のように、大きな事件が起きればやがて現れるだろうーだからこそホープ団も大規模戦闘を避け、電撃占領をしたのちじっと島に潜んでいるのかもしれなかった。

 

 「航空偵察でバリケードらしきものを確認しましたが、ドローンだけではなくひこうタイプポケモンまでも撃墜・鹵獲されてしまいまして、役場としましては有志のトレーナーの自主協力をお願いするのみですから…」

 

 「自分のポケモンを失うかもしれない航空偵察にポケモンを出してくれなくなった、さりとて武士団は地上戦で強いポケモンはいても空戦となると自分の城の守りでせいいっぱい、ってことかな?」

 

 「そうです、カグヤ様。

 

 ...ナノハナ武士団はヌシさまの突破力と防御力で切り開いた道を恐れ知らずのサムライが突っ切っていくのが持ち味と言われていましたから、ヌシさまがご不調となられますと厳しいようでして...」

 

 普段、ぬしポケモンを守る必要などなく、むしろヌシが先陣切って突っ込んだところへ己の身を顧みず続くのがナノハナ武士団の戦術であった。にもかかわらずヌシなしに戦わなければならないどころか手勢の半分をヌシとヌシの住処の守りに割かねばならないとなるとかなりパフォーマンスが落ちるらしい。

 

 「もちろん、武士団の方も、役場の職員の中にも、ひこうポケモンを出せる方はいました。ただ、どうやら敵には強力ないわタイプのBREAK進化ポケモンがいるらしく、並みのひこうタイプではかなわないのです。」

 

 「ウキクサのオムスターですわ。BREAK進化、するんでしたわよね?」

 

 トキトビしまでなんとか丸焼きにしたアイツは、こんなところで猛威を振るっていたらしかった。

 

 「現在BREAK進化が確認されている飛行できるポケモンは、クロバット、メガヤンマ、サザンドラ、オンバーン、バルジーナ、ヨルノズク、ドータクン、そしてファイアロー...すいすいとからやぶりで素早さを上げられるオムスターBREAK相手に安全に航空偵察ができるのは、圧倒的な速度を持つファイアローかクロバットかオンバーンのBREAK進化個体のみだけど...」

 

 武士団は卑怯なことを嫌うのでイメージが悪いクロバットを持っていないし、オンバーンもファイアローも隣接するジョウトやカントーでは絶滅してしまったくらいには希少なポケモンだ。カグヤの手が必要になるのは無理もない。

 

 「そういうことだからちゃっちゃとやるよ、ファイアロー。」

 

 カグヤが放り投げたノブレスボールから、灰と赤の隼が飛び出し、空中から沸き上がる金色の粒子を集めて羽ばたく。

 

 役場の職員からカメラを受け取り、足に結び付ける。

 

 「無事に帰ってくるんだよ、ファイアロー!」

 

ー*-

 

 「ヌシさまが動いてくれれば客人の手なぞ借りずに済むのじゃがのう...」

 

 「…あのぶんでは無理でございましょう。数十年ぶりの我が子、しかも今までいずれの子も親離れして旅立っております。手放さず溺愛するのも無理ござらん。

 

 それがしたちは次善の策を練るのみ。」

 

 ツグミツたち7家臣が、机の上に広げられた地図を指先でコツコツ叩く。

 

 「このアマモアイランドの軍勢、規模と配置がわかれば...せめてどちらの橋が手隙かわかればよいのでござるが…」

 

 「文書方のサイバー工作はどうなっておる?OSINTで情報は手に入らんのか?ホープ団団員のSNSアカウントを特定したと言っていたではないか!」

 

 「文書方曰く、特定されることを前提に何らかのツールで徹底的に軍事機密を排除しているため投稿から情報を得るのは困難、ハッキングも同様に困難と...」

 

 「コンジキへの援軍要請は!?」

 

 「忘れたのでござるかツラタツ殿、コンジキのぐうじはあの引きこもりでござるよ。」

 

 「うーむ、ならばヌレバタウンに...いやしかしアテ殿が援軍を率いてこれば道中のホウオウタウンやナノハナ鉄道にバレる、これ以上各方面に借りを作るのは...」

 

 「水中からの偵察はできんのか...?アイランドの磯では水ポケモンが隠れるにも限界があるか...」

 

 トキワ評定ー諸将が議論を重ねて結論が出ない様子を表す、要するにこの世界の「小田原評定」である。

 

 「ええい各々方、何をためらっておられる!

 

 我らは誉れ高きナノハナ武士団ぞ!客人が空の目を助力してくれようと言うのに、橋ひとつ渡れんでどうする!」

 

 ツグミツがそう叫ぶが、諸将は頷かない。

 

 (...7家臣が足を引っ張り合っておる...かつては半島全体に覇を唱えた我等も、もはやサムライの時代は終わったというに、所領時代のプライドを引きずって派閥争いに精を出してはまとまるものもまとまらんのじゃがのう...)

 

 その時だった。

 

 グ、ガァァァ...ヌシの咆哮が、山城を本当に揺らした。

 

 「っ、何が起きた!?」

 

 「伝令っ!

 

 し、市街から、所属不明の武装勢力が大手門めがけて来襲っ!その数約30!」

 

 「30!?ホープ団の浸透兵か!?」「いいえ、攻め手は皆『R』のワッペンを付けており、海人(ホープ団海軍)山人(ホープ団陸軍)外つ国(ホープ団空軍)ではなくユキコシの訛りを話しておりますっ!」

 

 「(ロケット団)はとっくに撤退したはずでは...?

 

 まあいい、それがしが行き申す。30ごとき小勢、各々方の手を煩わせるまでもございますまい。」

 

 「ツグミツ、頼んだぞ。」「応ッ!」

 

 (じゃが、ヌシが本気で威嚇するほどの何かを、ヌシさまを襲撃したわけでもないのに持っている…本当に30の小勢と侮っていいものか...?)

 

ー*-

 

 「…キミ、名前は?」

 

 山道、燃える板壁に両脇を挟まれながら、その青年は涼しそうに笑みを浮かべていた。

 

 「それがしはナノハナ武士団が棟梁、ハル姫が一の家臣、ツグミツ!

 

 行け、キリキザンっ!」

 

 「俺は...なんだろうな。

 

 ある時は偶然居合わせた善意の協力者、またある時は反転暴走事件唯一の行方不明者、そして今は...

 

 ...時代の変革者『ラスト(Rust)団』、それが、この俺コンフリーの、今名乗るべき名、かな?」

 

 スッと、目が細められる。

 

 「今回はメガシンカを使うまでもないよ。こんな時代遅れの巨城、もっと効率のいい方法があるからね。

 

 行け、フラージェス。」

 

 草をまとう妖精女王と、鋼刃を持つ武士ポケモンが向かい合った。

 

ー*-

 

 「ファイアロー、戻ってきてっ!」

 

 カグヤが、マイクに向けて叫ぶ。

 

 画面の中では、大勢の人々がボールを手にアマモ大橋の方へと整然と行進していた。

 

 「武士団総員配置に付けぃ!城方へ伝令を出すんじゃ!」「トレーナーの皆さん、襲撃の撃退に御協力を!」

 

 サムライと町職員が背後でしきりに指示を飛ばす。

 

 「航空偵察を始めたとたんに攻勢なんて、いささか展開が早過ぎですわね…ブロスター、ランプラー、イーブイ、準備はよくって?」

 

 「お姉ちゃん、こうなったらまたウキクサを倒すだけだね…

 

 ...ヒヲマトウハネとウールーはお姉ちゃんの護衛を。グレイシア、マハリハグルマ、ビビヨン、蹂躙するよ!」

 

 橋の向こうから、地響きとともにポケモンの群れが現れる。

 

 トレーナーとサムライたちが、ボールを次々に放り投げる。

 

 戦いが、始まった。

 

ー*-

 

 「姫、やられ申した...っ!」

 

 よろよろ、額から血を流しながら、ツグミツが大広間に現れた。

 

 「Rの紋章の集団...ラスト団...強うござる...!

 

 各々方は気を付けられよ...!」

 

 その言葉に続き、爆音が、震動が、本丸御殿を揺らす。

 

 「っ、ツグミツ殿がやられたか...!

 

 カゲタカ、俺を手伝え!戦うぞ!」「お前に指図されるのは気に食わんが乗った!」

 

 諸将が次々と立ち上がる。

 

 「姫様とヌシさま、ヌシさまの御子をお守りするのじゃ!えいえい」「「「「「「応ッ!」」」」」」

 

 野太い叫びが響き渡ったその中で、場違いな落ち着いたテノールが、聞こえてきた。

 

 「おやおやみなさん、威勢が宜しいことで。」

 

 大広間の入り口で、倒れ伏す何人ものサムライを背に優雅に立つ不気味な青年。彼の姿に気付いた瞬間、諸将に緊張が奔る。

 

 「貴様っ」「何奴!?」「無礼者!」「斬り捨てい!」

 

 「ヒスイダイケンキにカモネギにナゲキダゲキにガラガラにソウブレイズまで...みなさんよくぞここまで育ててきたね?」

 

 「黙れ痴れ者が。我が本丸に土足で踏み入るからには、覚悟はできておるのじゃろうな?」

 

 一喝するハルに、ツグミツがすがるように告げた。

 

 「姫、奴がラスト団のコンフリーです。それがしを倒した圧倒的実力の持ち主!」

 

 「ツグミツひとりなら不意を突かれるかもしれんが、このナノハナ七人衆で袋叩きにすればどうかな?あわせろツグツラ!」「俺に指示するなカゲミツ!ナゲキ」「ダゲキ」「「インファイトォッ!!」」

 

 「無駄だよ。

 

 フラージェス、受け止めろ。」

 

 鍛え抜かれた2体の格闘ポケモンの腕と脚が、フラージェスへラッシュを叩きこむ。

 

 フラージェスがふらつく。

 

 「フェアリータイプには格闘ワザは効果不充分だがッ!」「鍛えたサムライのワザはタイプ相性を超えるッ!」

 

 「それがしも助太刀致す!ソウブレイズ、あの無礼者に『かなしばり』ッ!」

 

 「悪に使う刀を選ばず!ダイケンキ!『ひけん・ちえなみ』ィ!」

 

 フラージェスと青年を、さらなるワザが襲おうとする。

 

 それでもコンフリーは、フンと鼻息を鳴らした。

 

 「なんて非効率的な人たちだ?

 

 キミたちの人生の成功確率は、ゼ・ロ・パ・ァ・セ・ン・ト。」

 

 ハルと諸将たちを一人ひとり指さし、そして、電子回路で覆われた立方体ーさながらルービックキューブのようなーを宙へと放り投げる。

 

 キューブ上の回路が、金色の光を無数に奔らせる。

 

 「まずいっ、何か来るッ!カモネギ、みがわりを作れッ!」

 

 「遅いんだよ。ヘルリアライザー改(人為BREAKフィールド収束装置)、起動っ!」

 

 ーキューブから放たれた金色の粒子が、視界を塗りつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フラージェス、BREAK...?」「ってことは奴は特性にフラワーブリーズが追加されてるでござるな。放っておくと勝手に回復するはずでござるよ。」「ならば速攻で斬り伏せるのみ!」

 

 金色に輝くフラージェスが、腕を無造作に振るう。それだけで、足腰をサムライたちとともに鍛えぬいたダゲキとナゲキが吹き飛び、大広間の奥に激突して掛け軸ごと落下する。

 

 「違うっ、各々方、アレはただのBREAK進化では」

 

 「ダイケンキ、もう一度、ひけん・ちえなみィ!」「ガラガラ、ボーンラッシュ!」

 

 「フラージェス、ミストフィールド_BROKEN。続けてグラスフィールド_BROKEN。」

 

 貝殻の剣が、金色のフラージェスの胸を貫く。

 

 巨大な骨が、フラージェスの頭に振り下ろされる。

 

 だが、その直前、大広間全体が、ピンクと翠の光に覆われた。金色の粒子がわずかに舞い立つ。

 

 -???の ミストフィールド_BROKEN!

 地面にいるポケモンは 状態異常に ならない!

 フェアリータイプのワザは 威力が あがる!

 ドラゴン・かくとう・むし・あくタイプのワザは 効果が なくなる!

 

 ー???の グラスフィールド_BROKEN!

 地面にいるポケモンは 時間とともに 回復する!

 くさタイプのワザは 威力が あがる!

 みず・じめん・でんきタイプのワザは 効果が なくなる!

 

 「「なっ!?」」

 

 剣と骨が遠くへはじき返され、無防備になったヒスイダイケンキとガラガラに、フラージェスの頭上からソーラービームが放出される。

 

 光線はナノハナキャッスル本丸御殿の壁を突き破り、2体は野外へと放り出された。

 

 「んん、ソーラービームを連射したほうが、単位時間当たりの効率はいいんだよな。

 

 ...天井、邪魔だね。」

 

 フラージェスの頭上にミルク色の光球が現出する。

 

 「貴様、やめ」「クソ、でてこ」「まだまだ」

 

 「フラージェス、ムーンフォース_BROKEN」

 

 金光まとう月の力が、真上へと放射され。

 

 「姫様、ヌシのところへお逃げなされよッ!」

 

 600年の歴史を持つナノハナキャッスル本丸御殿の美しい瓦屋根は、この時を以て完全に消滅したのだった。

 

ー*-

 

 「奴ら、ようやりおるわ...」

 

 ハルとツグミツが、本丸御殿の裏にある井戸に飛び込む。

 

 ヌシポケモンであるクリムガンは、本来はイワークやディグダが掘った地下洞窟に潜む。だがナノハナキャッスルにそのような洞窟はなく、したがってクリムガンは自力で山城の下にいくつもの洞窟を掘っていた。

 

 ぴちゃん...

 

 地下水がせせらぎをなす暗い通路の中を、2人が静かに進む。

 

 グガァ...クリムガンの子どもが、暗闇の中で目を細め、手を振った。腕にまとった「ほのおのパンチ」の炎が、煌々と洞窟を照らす。

 

 「み、御子様!無事じゃと思っていたが、無事でよかった!」

 

 走ってきたハルを、クリムガンが両手で受け止め...ようとした瞬間、横合いからヌッと、大きな青い腕が出てきて、ハルをはばむ。

 

 「…ヌシさま、どうなされたのじゃ?」

 

 グガァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 山城が震える。

 

 ぬしクリムガンが、ツグミツの後ろを睨む。

 

 「見切りをつけて逃げるのは下の上、しかし案内してくれたことは中の上と言ったところだね…

 

 ぜひとも、キミで性能実験をしたかったんだ...歴史に名を残すぬしポケモンである、ナノハナキャッスルのクリムガン、キミでね…」

 

 ぬしクリムガンが、子どもをかばうように、狭い洞窟に立ちふさがる。

 

 金色のフラージェスBREAKが、金色の粒子で洞窟を昼間のように輝かせる。

 

 「よし、ヌシさま、お頼み申す!痴れ者を粉砕して(たも)れ!」

 

 咆哮。そして、クリムガンが駆けだしながら青い腕を振るう(ドラゴンクロー)

 

 「タイプ相性など気にせず一撃できる自信、それを裏打ちする実力は上の下...

 

 しかし無駄だね。ミストフィールド_BROKENは既に発動済みなのだから。」

 

 腕がフラージェスを横薙ぎに払うかに見えたその瞬間、金色の身体に弾かれ、クリムガンの身体が洞窟の壁に衝突した。

 

 「…フィールドワザは、ミストでは一部のタイプからのワザ効果を半減し、グラス、サイコ、エレキでは一部のタイプのワザ威力を上昇させる。

 

 フィールドワザをBREAKワザにした場合、制約の一部が壊れる。すなわち、どのフィールドも有利なタイプのワザ威力が半減し、自分のタイプのワザ威力が上昇する。

 

 では、俺のこの新装置を使った場合、BREAKワザをも超えた限界の先のワザを使った場合、どうなると思う?」

 

 「っ...

 

 ...威力上昇だけではなく、有利なタイプからの攻撃が完全に無効になる、かの...?」

 

 コンフリーの拍手が洞窟に反響する。

 

 「大正解!そういうわけなんだ。俺はそのヌシのワザが『ドラゴンテール、ドラゴンクロー、かみつく、つじぎり』だって聞いてるよ。

 

 無駄なあがきは諦めたほうが効率的だと思うね。それとも偶然わざマシンを持ち歩いてたりするのかい?」

 

 グガァァァァァァァ...

 

 お前の思い通りにはさせないークリムガンが吼え、コンフリーと金色のフラージェスを睨み、爪の先でハルの肩をひっかけて引き寄せる。

 

 「ヌシさま、ここは妾が戦い申す。ツグミツもまだやれるじゃろ。妾とて奥の手は...」

 

 クリムガンは首を振り、我が子を指さした。

 

 「…そうか。

 

 ここでヌシさまが倒れなされば、誰も御子様をお守り申し上げられぬ、そう仰せにあられるか。」

 

 クリムガンが、頷いた。

 

 「…っ...

 

 ヌシさま、ご無事であられよ!

 

 御子様、妾に付いてきてくだされ!」

 

 髪がないクリムガンだが、子どもは、まるで後ろ髪を引かれているかのように、ハルに続いて走り出した。

 

 「お待ちくだされ、それがしもお供いたし申す!」

 

 ツグミツが走り出す。

 

 洞窟に、咆哮が何度も何度も、響き渡る。

 

 「さて、さっさと効率よく終わらせようかな。」

 

ー*-

 

 「こちらアオバとカグヤですわ!ハルさん、どうなっておりますかしら!?

 

 わたくしには、城から火の手が上がっているように見えますわ!」

 

 「こちらハル・ブラシカじゃ。

 

 ...結論から言おう。ナノハナキャッスルは落城じゃ。」

 

 「落城!?あれだけサムライがいて、ヌシさまも引きこもるくらいには子供を守りたい、そうなのですわよね?まださすがにそっちには行ってないと思いますのに...」

 

 「そっちに行く...?

 

 ああ、ホープ団ではない。

 

 ラスト団。襲撃者はそう名乗っておった。人数は少ないが、『BREAKワザの限界を超えた』と称してな。

 

 かなわんかった。妾はヌシさまにかばわれ、御子様を落ち延びさせるためにツグミツと2人で逃走中じゃ。」

 

 「ラスト団...」

 

 「そちらは如何なっておる?見たところ煙が上がったりはしていないようじゃが...」

 

 「…それを伝えたかったのですわ。

 

 ホープ団主力はアマモ大橋から約1400のポケモンと300人のトレーナーで越橋」

 

 「何!?ホープ団も動いたと申すのか!?」

 

 「…しましたが、思ったよりも手ごたえはありませんでしたわ。100人のトレーナーが率いる600のポケモン、それに商工会や漁協、役場からの増援もありまして、先ほど、そのすべてを撃退しましたわ。一部の手持ちとすべての捕虜を置き去りにし、ホープ団は漁船を奪って港からナノハナ湾へ逃走しましたの。」

 

 「追撃しておるのか?」

 

 「その余力はなさそうですわ。立て直して追撃するかとも悩んだのですが、城のあちこちから煙が上がり通信が途絶しまして...」

 

 「妾らを気にして、ホープ団には海上に逃げられた...

 

 ...奴らが適当に人目に付かない入り江に隠れ潜むのはいつものことじゃ。衛星画像でもなかなか尻尾を見せん奴らを追うのは無理じゃろ。責めはできん。

 

 ...1400体を600体で撃退?確かに有志トレーナーはみなそれなりに強いと聞いておるが…1400と言えば確かに多い、ナノハナ史上最大級やもしれぬ。じゃが、300人で1400体じゃからフルパーティーですらない雑兵トレーナーであろう。」

 

 「ええ...

 

 それに、ホープ団の軍勢に、オムスターは...

 

 ウキクサはいませんでしたわ。」

 

ー*-

 

 おそといってきてもいい?(グガ、グガァ?)

 

 気を付けるのよ(グガガア)

 

 ...

 

 ...どうしてこんなボロボロに!?(グッガァ!?)死んじゃダメ、しっかりして!(グガ、ガァァ!)

 

 おそと...つよいやつ...こわい…(グガ、グガァ。ガァ...)

 

 ...もう、外に出なくて、いいから。(グ、グガ、グガァ)母さんが、守るからね(ガァ、ガガァ)

 

 ー姫、我が子を、どうか...!

 

 「あっけないものだね、あの高名なぬしクリムガンともあろうものが。」

 

ー*-

 

 ー「ウキクサはいませんでしたわ。」

 

 ...あの三将軍ウキクサが、好戦的でしばしば単独で上陸してポケモンセンターやトレーナーを襲撃するというウキクサが、いないじゃと...?

 

 「よく聞けアオバ殿、ポケモン1400体はおそらく...」

 

 ー「カグヤも同じ意見ですわ。せーの」

 

 「「陽動」」

 

 ...オムスターBREAKとウキクサ将軍は、おそらく単独かわずかな精鋭を引きつれ、雑兵がアマモ大橋で大立ち回りしている間に、どさくさに紛れてどこかの隠しルートから上陸...

 

 ...じゃがしょせんせいぜい十数名じゃ。厳重に監視されておるアマモアイランドから、大乱闘の間にこっそり気づかれず抜け出して上陸できるのはそれだけのはず。ナノハナタウンの人口を考えれば上陸して市街で暴れても破壊して奪うことしかできず、占領地は増えぬ。むしろアマモアイランドという占領地を手放すだけじゃ。

 

 ー「『アマモアイランドを引き換えにしても、ナノハナから奪いたいものがあるんだよ...それも、占領統治の維持が不可能なゲリラである以上、土地じゃない...』

 

 ...カグヤの言葉ですわ。心当たり、ありますわよね?」

 

 「…いかん!

 

 無敵のヌシさまが、御子様を守るために出陣せず必ず城におる…しかもラスト団によって瀕死状態にされてじゃ!

 

 奴らはブラシカ武士団600年の支柱、ぬしポケモンを強奪するつもり、そうじゃなっ!?

 

 そうじゃよ…な...?」

 

 違う。

 

 まだ何か、妾は見逃しておる。

 

 ー「ハルさん。落ち着いて、大声を決して上げず、聞いてくださるかしら。

 

 ホープ団の越橋が始まったのは、わたくしたちが現場に到着してすぐ、ですわ。

 

 ホープ団はわたくしたち、もっと言えば7おみや巡り成就者のカグヤや、一度ウキクサを倒したわたくしが城を離れていることを知って、ウキクサを逃がした、そうでなければタイミングが良すぎますわ。」

 

 ...それは。

 

 ー「ウキクサの脱出タイミングに、ラスト団とやらの襲撃タイミング。すべて、敵に都合が良すぎますわ。」

 

 「出でよドドゲザン、『ドゲザン』」「受け止めよっ、来い、クチート」

 

 あやしげな刃紋を帯びた刀が、ガバリと大口を開けた鋼顎に食い止めら...れなかった。

 

 ー「城内、家老上層部に、スパイがいますわ。」

 

 通信機が地面に落ちる。

 

 クチートの顎から歯が折れ飛び、血しぶきが迸った。

 




 今話長すぎで草ァ!(なおまだ続くもよう。)



 ”ナノハナキャッスルのぬしポケモン”クリムガン (特性:りゅうおうのたかぶり/さめはだ)

 狭い洞窟を走り回っているはずのクリムガンが、なぜか洞窟地帯ではないナノハナキャッスルに一体だけ住み着いた個体。ブラシカ家がジョウトの本家から600年前に分家して当地にやってきたときにはすでにいたと伝わる。単為生殖系統であるらしく、数十年に一度ほどタマゴを産むが、皆狭さに耐えかねて巣立って行った。

 冬の厳しい寒さや自分で洞窟を掘り進めなければならないこと、また武士団と600年鍛錬を重ねたことで極めて強く大きく成長しており、また強者が集まり育つユキコシ最大の山城という立地のため濃く蓄積するBREAKオーラに対して独特の適応を遂げた。

 特性「りゅうおうのたかぶり」

 ぬしクリムガンのみが持つ特性。強者が鍛え続け600年、BREAKオーラが蓄積したこの地で、先住者である彼女が時とともに得た力。BREAK進化ポケモンに対してワザの威力が増大する。
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