お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#23 オーベムPANICで突然に!?/夢すら強化するその進化

ー*ー

 

 「起きて!蒼玻起きて!」

 

 「ふみゅ〜ん?なんですの…?

 

 …というか、誰ですの?」

 

 「ブロスターが海老フライになっちゃった!」

 

 「寝ぼけてるのはどっちでして!?」

 

 蒼玻は、飛び起きた。

 

 腰に手をやる…ノブレスボールがあるはずもない。今蒼玻が着ているのはネグリジェなのだから。

 

 そして、目の前にいるのは…

 

 …ふっかふかの服に全身身を包んだ、少女。

 

 「…んなわけないじゃありませんの!イーブイ!起きるのはわたくしではなくてわたくしたちですわよ!」

 

 茶色いセーターの上に薄茶のコートを羽織ったベレー帽のロリの肩を掴み、蒼玻は叫んだ。

 

 「えっブイっ」

 

 ポン、少女の姿が消え、ちょこんと布団の上にイーブイが座る…それだけだ。特に、目覚める感覚とか、世界が消える感覚とかは、ない。

 

 「…これ、夢オチですわね。それもわりとめんどくさいタイプの…」

 

 額を押さえ、とりあえず上着を羽織り、隣室へと急ぐ。

 

 (…あれ?なんで鍵が開くの?)

 

 「カグヤ!失礼し…起きますわよ!起きれてませんけど!」

 

 布団の塊に叫ぶ、そして布団をめくる。

 

 「…は?」

 

 目が、あった。

 

 蒼玻の、思考が、停止した。    

 

 「まさか(マサカ)気づく奴(キヅクヤツ)いるとはな(イルトハナ)。」

 

 赤いドレスの、金色のオーベム顔の妹は、そう口にした。 

 

ー*ー

 

 「貴方ですのね。この異常事態を起こしているのは。」

 

 「だとして(ダトシテ)どうする(ドウスル)

 

 この少女は(コノショウジョハ)完全に(カンゼンニ)催眠下で(サイミンカデ)我々が創った夢世界にいる(ワレワレガツクッタユメセカイニイル)夢遊状態にして(ムユウジョウタイニシテ)死なせることも(シナセルコトモ)できるのだぞ(デキルノダゾ)?ンン?」

 

 「ウザいですわねこのオーベム!」

 

 イーブイがブイブイ吠える。

 

 「プロイェークト(プロイェークト)なぜ失敗する(ナゼシッパイスル)

 

 同志と相談していた(ドウシトソウダンシテイタ)お前(オマエ)夢世界に完全に呑まれていないな(ユメニカンゼンニノマレテイナイナ)?」

 

 「夢に完全に呑まれる?

 

 …そういえばオーベムってエスパータイプ、しかも金色ということはBREAK進化…同志ということは複数…

 

 …これ、わたくしたち姉妹へのイタズラではなく、もっと大規模な陰謀ですわね。経緯思い出せませんけど」 

 

 「その通り(ソノトオリ)

 

 皆が眠り(ミナガネムリ)我々の思いのままとなったとき(ワレワレノオモイノママトナッタトキ)皆の心のサイコパワーが(ミナノココロノサイコパワーガ)夢を現実にする(ユメヲゲンジツニスル)!」

 

 「…それってすべてが貴方方の思い通りってことじゃありませんの!?」

 

 ・眠らされた人やポケモンに、オーベムが催眠で思いのままの夢を見せる。

 

 ・すべての人が夢世界でオーベムの思いのままになった時、おそらくは夢世界の囚人のサイコパワーぶんだけ、夢世界の出来事を現実にも顕現されられる。

 

 問題は、「より強く、より多くの催眠」という夢も叶えられる、むしろカグヤやイーブイといった他者が催眠にかかっている/いたという夢を見させられているこの状況がそれなのだろう。

 

 夢世界の囚人を増やすために夢世界の権能を使えば使うほど、夢世界へ権能をもたらす囚人が増え、多くの囚人のサイコパワーで次第にオーベムBREAKたちは全知全能になっていく…そう考えるととんでもないことである。

 

 「そうとも(ソウトモ)さあもう一度眠るがよい(サアモウイチドネムルガヨイ)…」

 

 蒼玻の視界が、パステルカラーに点滅する…

 

 ー「ランプラー、痛みによって得られるものというのはありますよ…ナイトヘッドですわ!」

 

 …刹那、黒紫の波導が、壁をすり抜けて蒼玻、イーブイ、そしてオーベムBREAK顔のカグヤを襲った。頭痛のあまりみな、目を閉じ頭を押さえる。

 

 ー「今のうちに部屋の外に逃げてくださいまし!」

 

 耳ではない、頭の中に直接、声が聞こえた。

 

ー*ー

 

 「貴女は…」

 

 「どうせ夢の中なのですから、言葉遣いはいいですわよ。それとも未だ、お嬢様言葉に自信がなくていらして?」

 

 蒼玻の目の前に、蒼玻にそっくりな、白い着物と袴に三つ編みを編み込んだ白い長髪、清楚で純粋無垢な顔の少女が立っていた。違いがあるとすれば、その青い瞳に秘めたプライドを示す輝きだろうか。

 

 「アオバ・フロックス。盟約の血筋フロックス家家長、フロックスホールディングス次期会長…いずれユキコシの至宝となる令嬢とはわたくしのことですわ!」

 

 おーほっほ、そんな声すら聞こえてきそうな口ぶりなのに、その名乗りどおりの重責に見合う瞳、そして謙虚さのオーラを感じる。これが本物のお嬢様か…蒼玻は震えた。

 

 知らず、背筋がピンとする。

  

 「蒼玻さん、ですわね。わたくしのことは好きに呼んでいただいて…

 

 …いえ、アオバお嬢様などと呼ばれてはわたくし困ってしまいますわ。アオバちゃん、そう呼んでくださるかしら?」

 

 「えっと…アオバちゃん?俺のことは…」

 

 「わたくしの身体に入ってからは、見ていましたわよ。もちろん今日も。ああそれから、はじめのころはわたくしの身体にどぎまぎしてらしたことも。」

 

 「…っ、忘れてもらえるかな…?ごめんっ!」

 

 「下賤の者に見られたところで気にしない…と言うとでも思いましたの?見るだけではなくもう少しで知らぬ男に辱められるところだったではありませんの。わたくしさすがに…

 

 …冗談ですわよ。今さら知らぬ仲ではありませんしね。もっとも今となっては『自分』の身体に欲情しはしませんでしょうが。

 

 それよりも話は急ぎますわ。態勢を整えなければなりませんから。」

 

 「…機会があったらまた謝らせてくれ。それで…

 

 …俺ですら半分諦めていたし気づいていなかったアオバちゃんが、なんで今、目覚めて、俺達が催眠にかからず逃げられてるんだ?めちゃくちゃ心霊系ポケモンのランプラーはわかるが…」

 

 「それには、わたくしたちがどうしてこの夢世界にいるか、話さなければなりませんわね。」

 

ー*ー

 

 それは、蒼玻とカグヤが、ナノハナタウンから半島の付け根を横断し、コンジキシティに向かう途中、ハネバミタウンを通っていた時だった。

 

 「『宇宙ポケモン展』?」

 

 ポケモンセンターに貼られていたポスターに、蒼玻が足を止める。

 

 「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 「…ほら、近頃わたくし、イーブイのはつげんちょうせいを使いこなすために、『強い意思で自らを錯覚させる》ことに取り組んでいるじゃありませんの。

 

 ですから、エスパー(不思議なもの)ブラッキー(夜と月光)にまつわる、宇宙展が、何かわたくしたちにインスピレーションを与えてくれるのかと思ったのですわ。」

 

 そうして姉妹は、ハネバミ宇宙博物館を訪れたのであった。

 

 「思った以上にカオスですわね…カオスの沙汰ほど面白いといわんばかりにカオスですわ...」

 

 レックウザやデオキシスを観測するのに用いられた歴史的なロケットや衛星の実物。科学館につきもののプラネタリウムは、ただ美しい星座をカップルに見せるだけではなくアルセウスやディアルガ・パルキアから始まったこの宇宙の歴史を雄弁に魅せてくれる。

 

 …そして、そんな展示のすぐ隣で、宇宙人の像が立って、壁に古今東西のUFO写真が並んでいた。

 

 「『数百年前に、どんなポケモンとも異なる、人間が作ったとしか思えない”皿”のような物体がハネバミタウンにたくさん飛んできました。それ以来ハネバミタウンはUFOにまつわる事件がたびたび起きる『宇宙人の町』なのです』...?

 

 …それで宇宙人の町を名乗るのもすごければ、作った博物館に宇宙人と宇宙科学とシンオウ神話が同居してるのもすごいですわね…」

 

 感心しながらも、姉妹は展示コーナーを進んでいく。そして、宇宙とポケモンとのかかわりを展示する企画展コーナーにさしかかった。

 

 入口に、金色の仮面が置いてある。

 

 「オーベムのBREAK進化個体をかたどった仮面だって。」

 

 「それの何がすごいのかしら?」

 

 「BREAK進化は2000年前、大災厄(カタストロフ)を生きのびたままはてやま連峰の三神に祝福を授かった種類にしか得られない、つまり、宇宙から来たとイッシュで言われるオーベムは、2000年前にはユキコシを訪れていた...ってことみたい。」

 

 「それ、イッシュの言い伝えが間違ってるだけじゃありませんの?」

 

 言いながら、2人は金色の仮面を覗き込んだ。

 

 仮面に、覗き込まれた気がした。

 

ー*-

 

 「こうして、わたくしたちはみごと、オーベムBREAKの催眠にかかったのですわ。」

 

 あれが仮面ではなく本物のオーベムだったとしたらもっと前に催眠にかかっていたのかもしれませんが、アオバはそう告げた。

 

 「それで、なんで俺とアオバちゃんはこうして、夢世界とはいえ...無事なんだ?」

 

 「結論から言えば、オーベムたちの策略には一つだけ、思いもよらない穴があったということですわよ。

 

 あの時確かにわたくしたち姉妹は催眠にかかりました。ただ...オーベムは、よもやわたくしの身体が魂を2つ持っているとは思わなかった。だから...催眠は半分こされて中途半端になり、むしろ表に出られなくなっていたわたくしを夢世界に浮上させてしまったのですわ。

 

 ほら、ヒトモシに出会った時のこと、覚えてますかしら?」

 

 「…せっかくゴーストポケモンなんだから俺の魂見てみろ的なことを言ったな…」

 

 「あの時までわたくしの魂は半ば死んでいたのですわ。蒼玻くんが代わりに身体を動かしてくれていなければ、『頭部外傷による遷延性植物状態』の診断書をいただいていましたわ。」

 

 「…その場合、どうなるんだ?俺の世界では植物状態が長く続くってことは脳がそれなりに傷ついてるってことでわりとヤバかったが…」

 

 「…蒼玻くんの世界、たぶん『魂』という概念が乏しいのですわよね?」

 

 エスパータイプやゴーストタイプが存在する世界と、超常現象が眉唾である世界では、魂や霊的なものへの理解度が違って当然であった。

 

 「正直、魂が迷信だと思ってたよ。しょせんは人間は化学反応の累積、魂と呼ばれているものも単なる電気信号の集まりでしかない…って。

 

 でも異世界転生しちゃったから、さすがに信じるしかない。…そもそもこの世界で、魂ってなんなんだ?」

 

 「魂というのは、『人格』と不可分な、ある種のイデア、形而上学的概念ですわ。人格は経験を蓄積することで思考回路を醸成し、醸成された思考回路は経験するすべてに対して何らかの判断を下す…それらの回路と働きすべてをひっくるめて魂と呼ぶ、それ以上でもそれ以下でもありませんわよ。」

 

 ドライな言い方で、かつあえての強調…「それだけではないんだろうな」と蒼玻は思ったが、アオバの解釈としてはそれでいいのだろうし、考えてみても特に「魂は経験と思考回路からなる、経験を消化して思考の糧と判断にするシステム」という解釈に便宜的な問題があるようには思えない。蒼玻やアオバの今の状態も魂についてはそれで説明できるわけだし。

 

 「この世界に於いては、植物状態は脳が正常でなくなることで、身体と魂が繋がらなくなることとしても説明できるわけですわ。

 

 ですから、脳の損傷で物理的に体を治したところで...魂を『目覚め』させてやらなければ恢復できないこともありえるわけですわ。あるいはそこに魂がない抜け殻の身体が、補助で無理やり生命を維持している場合も、そうかしらね。」

 

 ゴーストポケモンが魂を持ち去っていった状態で、ポケモンの力を借りて無理くり生きながらえても、魂がなければ目覚めることは叶わない。

 

 「ですから、身体を元に戻しつつ、魂を何らかの手段で励起させる必要があるわけですわね。

 

 あの時、おそらく蒼玻くんは、脳へのダメージとショックで意識を失い魂が閉じ込められたわたくしに代わり、わたくしの身をポケモンセンターか病院へ運び、そしてポケモンの力で治療されたことで医学的にはギリギリ身体損傷を完治させることが間に合ったのでしょう。」

 

 発見が遅れ意識が失われたまま放置され続ければ、直接の脳へのダメージだけでなく、脳内出血、部分的な脳内低酸素状態といった継続的・進行的なダメージがアオバを恢復不能点(ポイントオブノーリターン)へ導いていたかもしれない。

 

 「それでも...

 

 …医学的なアプローチでも通常のポケモン的なアプローチでも、表層にある蒼玻くんの魂はよくても、深層に閉じ込められたわたくしの魂を励起させるどころか気づくことすらできなかった。カグヤがどう思っているのかはわかりませんが…

 

 …けれど、ヒトモシが、すべてを見てあわよくば食すつもりでわたくしたちを覗き込んだ時に、様相(ファイル形式)の違う異世界由来の魂と、その奥でわずかに揺らぐわたくしの魂を見て…それが観測になった。わたくしはあの時はじめて、『感覚』『思考』をした、つまり魂としての生を取り戻したのですのよ?

 

 それと同じことが今回も起きたのですわ。催眠のために、意識、そしてそれを裏打ちする魂を観測して、働きかけ、『経験と思考と判断』を迫る…それもフルスペックかつBREAK進化かつ、『夢世界から抽出したサイコパワーで夢を現実にする』力も使って。結果として、奥底に眠っていたわたくしの魂が励起して、夢世界という半分催眠の中に現出した。けれど『催眠の半分こ』の結果として催眠は夢世界への引きずり込みだけの中途半端で終わりオーベムたちの作戦は失敗した、これが現状ですわ。」

 

 「…ちなみに、アオバちゃんは、どう思ってるんだ?俺が身体を動かしてることとか…」

 

 「別に気にしてはいませんわよ。殿方に身体を好きにされるのは少々…いえ、それも乙なものがありますわね。」

 

 「おい。

 

 …いやそういう話じゃなく。」

 

 「心配しなくても、今すぐにでも無理に返せなんて言いませんわよ。蒼玻くんがいなければ最悪あそこで野垂れ死んでいましたし、今だってオーベムBREAKと夢世界の力でギリギリ励起されているだけでこの事件を解決して夢から醒めたらわたくしはまた醒めない夢に逆戻りですわよ?」

 

 「…じゃあ、ずっと夢の中に」「見損ないますわよ蒼玻くん。わたくしが…わたくしが知る蒼玻くんと言う男は、そんな男ではありませんわ。命を賭けても誰かを救う、城で見せてくれたばかりではありませんかしら。

 

 こんなイレギュラーに乗ってそんなメリーバッドエンド目指してどうするんですの。確かにここまで魂を強く励起させてわたくしの行動を可能にするイレギュラー二度とないかもしれません…が、わたくしとカグヤのためにはてやま連峰を、湖の3体の神様を目指している、そうなのでしょう?」

 

 「…ああ、そうだったな。

 

 必ずお前をなんとかする。だから...今はひとまず、人々を救わせてくれ。」

 

 「言われなくても。さあ、迎えうちますわよ。もう一人のわたくし?」

 

ー*-

 

 オーベムBREAKたちにしてみれば噴飯ものであった。

 

 ハネバミ宇宙博物館の来訪者は、もともと軽い催眠状態にある。宇宙の神秘に触れたかと思えば宇宙人のようなオカルトを語られる、それを暗い館内に星がちらつく中でされることで少々トランス状態にあり、そこへBREAK進化したオーベムの専用ワザ「コスモサークル」をかけることによって、ただ催眠をかけるのではなく催眠状態の人やポケモンからサイコパワーを掠め取ることができるようになる。

 

 サイコパワーをただ掠め取って好き勝手するのでは効率が悪い、彼らはそう考えた。催眠をかけている間は思い通りの光景を見せられる、つまり夢を見せられる…まず出だしに少々のサイコパワーで皆に見せる夢を束ね、創り出した大きな「夢世界」はもはやコスモサークルを発動しなくても自力稼働しサイコパワーをオーベムにもたらした。

 

 オーベムが催眠で見せている夢世界なのだから内容はオーベムの好きな通りになる。そして夢世界から「収穫」したサイコパワーはワザ「みらいよち」の応用で「現実世界に望む結果を出力する」方式で夢を現実にするのに用いる。BREAK進化による能力上昇、夢世界から供給され続けるサイコパワー、それらを用いれば夢世界の囚人は増え続け、やがてはオーベムたちはかなりの現実改変能力を得るだろう。

 

 …にもかかわらず、その計画は半ばで頓挫していた。

 

 夢世界の中に、催眠にかからず思い通りにならない者が2人、ポケモンも2体もいる。しかもそのうち1人は何かにサイコパワーを吸収しており収穫効率を悪化させている。そして彼女たちが好き勝手に動き回るたびに夢世界のオーベムへの従属度も低下し、自分が催眠で見せている夢なのに自分の思い通りにならないことがでてきている。

 

 -オーベムBREAKは知らぬことだが、アオバは本来ならば、脳の奥底からわずかに蒼玻を盗み見るしかない程度に魂の状態が悪い。それが「励起」して夢世界で歩き回っているということを実現するのにかなりサイコパワーが使われていた。というのも「コスモサークル」のサイコパワーを掠め取る理屈は「本来ならば起きて自由に行動しているはずの者が寝て思い通りになっていることにより、本来使われるはずの精神(サイコ)エネルギーが宙に浮き、それが手に入る」なので、本来寝ているはずのアオバが自由に行動しているのでは充電池を逆につないで放電しているようなものである。

 

 とにもかくにも、憤慨である。10数匹のオーベムBREAKが輪を組み、手をピカピカ点滅させて話し合う。

 

 「奴らを倒して(ヤツラヲタオシテ)無理やりにでももう一度寝かせてしまえ(ムリヤリニデモモウイチドネカセテシマエ)

 

 「それでもダメなら(ソレデモダメナラ)現実で殺せば(ゲンジツデコロセバ)夢世界から排除できる(ユメセカイカラハイジョデキル)

 

 「とにかく早く対処しないと(トニカクハヤクタイショシナイト)夢世界の力が減ってしまう(ユメセカイノチカラガヘッテシマウ)

 

 「ならばこうしよう(ナラバコウシヨウ)

 

 そして、夢世界の空に、金色の粒子が湧きあがる。

 

ー*-

 

 「おいおい、うそだろ...」

 

 蒼玻は呆然と空を見上げた。

 

 「あら、『頭痛薬(アスピリン)が欲しい』って顔をしてらっしゃいますわね。」

 

 アオバが、手を後ろで組んで楽しそうに蒼玻の顔を覗き込む。

 

 「…少しは動じてくれよって思ってる。」

 

 蒼玻が見上げる先、夢世界のハネバミタウンの空に、光る円盤がいくつも浮いている…まごうかたなく、UFOだ。

 

 「博物館に絵が展示されてたな…『そうはちぼん』だっけ?」「催眠をかけられたのはみな博物館の来館者ですものね。UFOの夢を見させるのは容易ですわ。」

 

 だからってUFOが大挙して飛んで来るのは困る。

 

 「いったん隠れようか…」

 

 「いいえ、お待ちなさい蒼玻くん。」

 

 アオバが、真正面を指さす。UFOにそっくりな銀色の建築物ーハネバミ宇宙博物館が、いつのまにか鎮座していた。

 

 「どうして…」「ここはオーベムが見せている夢の中ですわよ。わたくしたちを操れないまでも建物の位置変更くらい容易いのでしょう。それより。」

 

 博物館の入り口、自動ドアが開き、数十人、いや数百人の人々がフラフラと幽鬼のごとき様相で出てきた。その先頭には、金色のオーベム仮面をした人間が十数人、蒼玻とアオバを睨んでいる。

 

 「我々に従わなければ(ワレワレニシタガワナケレバ)この人々を自殺させるぞ(コノヒトビトヲジサツサセルゾ)そこを動くな(ソコヲウゴクナ)。」

 

 先頭で、カグヤが呼びかけた。

 

 「なんてことを…」

 

 UFOが、頭上へと迫る。

 

 「とでも、言うと思いましたの?」

 

 蒼玻の言葉を、アオバが引き継いだ。蒼玻の眼が引きつる。

 

 「動く必要など、ありませんわよ。一歩だって。

 

 カグヤぁ!ほかならぬ貴女の姉が呼ぶのですわ!

 

 応えなさいなっ!」

 

 その声は、とてもよく、心に響いた。蒼玻にも、そしてカグヤにも。

 

 カグヤが、両の手で額を押さえ、うずくまる。金色の仮面の下から苦しそうな声が聞こえる。

 

 「今ですわアオバくん。チャンスは一度だけ。わかっていますわね?」

 

 「…いやなんのことかもわからないんだが…?」

 

 「ならばこのアオバ・フロックスが直々に教えて差し上げますわよ。

 

 戦いにおいて取るべき立場は3つ。心理的優位、戦術的優位、そして戦力的優位ですわ。

 

 先ず心理的に揺らがせ、勝つための方策を構築し、しかる後にそれを実現し得るだけの手札を切る...

 

 勝利条件は『夢世界の破壊』そのためにはおそらく、夢をオーベムの支配から逸脱させる必要がありますわ。」

 

 アオバが真上を指さす。

 

 「UFOを、落とす、か…」

 

 「勝つための方策、わかりましたわね?そして、予想外にカグヤが催眠から脱しようとしていることでオーベムたちが狼狽している今このうちの一瞬が最後のチャンス…

 

 手札はすでにそろっているはずですわ。

 

 わたくしとカグヤを超える、即座に目覚めさせるほどの互いの絆。

 

 ここのところ数日練習しているあの技。

 

 そして、宿泊中なのにカグヤの部屋の鍵が開いたこと…」

 

 「…夢の中だから、ちょっとは、俺の、いや俺たちの想像力が効く…!?」

 

 オーベムが自由自在に夢を見せるほどのことではない。それでも、見せられているとはいえ自分が見る夢なのだ。当然と思ったことは当然になる。

 

 「あとは、わたくしの代わりに貴方がつないだ絆を、信じますわよ。」

 

 「そうだな…

 

 やるぞイーブイ!はつげんちょうせい…」

 

 -絆を想像する必要はない。すでにそれはこの上なく実感しているから。

 

 -サイコパワーを想像する必要はない。この夢世界はサイコパワーで支持されているから。

 

 -月や夜闇を想像する必要はない。真上に、この上ない宇宙の神秘(UFO)が浮かんでいるから。

 

 それらがうたかたの夢だから、なんだと言うのか?イーブイにとって、自らの存在意義は蒼玻にあり、そして蒼玻もまたイーブイのために生きてくれている…夢だろうと現実だろうと、そんなことは大した問題ではない。

 

 ー雪が降り注ぐ。

 

 ー水が足元に湧きだす。

 

 -草木がかぐわしく薫る。

 

 -電光が毛を逆立てる。

 

 -そして、情熱の焔が、瞳にともった。

 

 「…『カハリヤツカゲ』ッ!」

 

 ニンフィアが、エーフィーが、ブラッキーが、グレイシアが、シャワーズが、リーフィアが、サンダースが、ブースターが、かわるがわる現れ、そして最後にイーブイへと戻る。

 

 そこにいたのは、8種の進化系の虚像を纏いしいにしえの獣の姿だった。

 

 「()だが(だが)我々のUFOを(ワレワレノユーフォーヲ)落とせるはずがない!(オトセルハズガナイ)!」

 

オーベム顔の人々がうろたえながらも、自らをそう鼓舞する。それに従い、UFOの下に、いくつもの光弾が生成される。

 

 「あら、博物館を訪れたのなら、この伝承、いえ神話も、知っていらっしゃいますわよね?オーベムも、皆さんも。」

 

 -容易に想像できる事柄ほど、人々の脳に暗示として浮かび上がり、夢世界に具現化しやすい…いや、揺らぐオーベムたちの心にすら、アオバは暗示をかけていた。「それが起きてもおかしくない」という暗示を。

 

 「『かつてハネバミの地にはたびたび怪鳥が出現し、民より物を奪いて困らせにけり。

 

 この地を治めたるやんごとなき御方、それを聞きて、三匹の犬ポケモンを連れ、ハネバミを訪れたり。

 

 御方、一射にて怪鳥を落とし、犬ポケモン、その羽を喰いにけり。これよりかの地、羽を()むの意から、ハネバミと呼ばれるようになりにけり』。

 

 UFO(怪鳥)やんごとなき御方(フロックス)犬ポケモン(獣型ポケモン)…ならば一射(一手)で、すべて片が付くのではないかしら?」

 

 -オーベムが出現させたUFO(そうはちぼん)とても、ハネバミのUFO伝説を想像の源泉として夢の誘導に使っている。ならばもっとありえそうな地名の由来という伝承は、催眠つまりトランス状態の人々の夢をこの上なく誘導してしまう…

 

 心はいいように操られ、作戦は裏目に出て、オーベムたちは完全に、アオバの掌の上にあった。

 

 ならばとオーベムは自らが催眠にかけている人々に、暗示をかける…「今この場で死ね」と。

 

 …だが、それもなされない。

 

 人々が、いやオーベム自身が、ハネバミ伝承の再現にサイコパワーを使ってしまっている今、望まない死を選ばせるほどの強い催眠は、すでに不可能になっていた。

 

 バランスは既に、アオバの側にある。

 

 「撃ち落とせ、スピードスターッ!」

 

 夢世界のハネバミタウン...宇宙から来たと伝わるポケモンが創りし宇宙の街に、星屑が飛ぶー

 

 -いや、星屑かと見えたのは星屑などではなかった。

 

 ”8つの影を帯びたるモノノケ(中略)さながら百鬼夜行のごとく”-虚像のブースターが、シャワーズが、リーフィアが、グレイシアが、サンダースが、ブラッキーが、エーフィーが、ニンフィアが、大空を駆け、そして上空に滞空するUFOたちへと飛び掛かる。

 

 UFOが光弾を放つが、虚像たちはそれらをすり抜け、力の奔流となり伝承の化身となって突進する。いなされた光弾があたりの建物を木っ端みじんに破壊していく。

 

 「あら、黙ってあれを受けていたら一撃で蒸発してましたわね…」「おっかねー…」

 

 炎が、水が、草が、氷が、雷が、闇が、超常が、神秘がUFOを貫いたかと思うと、たった一撃にしてUFOは爆発し、煙を上げて墜落していく。

 

 空に、ヒビが入った。ガラスの温室が割れるかのように。

 

 「そんな(ソンナ)我々の夢が(ワレワレノユメガ)~~!!」

 

 オーベムBREAKの金仮面をつけた人々が叫んだかと思うと卒倒する。その中にはカグヤも含まれていた。

 

ー*ー

 

 空の破片が零れ落ちてくる。

 

 「もうすぐ、この夢もおしまい、ですわね。」

 

 「アオバちゃん...」

 

 「あら、そんなに、わたくしとの別れを惜しんでくださるのかしら?」

 

 「だって…

 

 …アオバちゃんのこと、カグヤに聞くだけだった。会ったことなくて、でもずっと身体を借りてて申し訳ないと思ってた。だから...」

 

 「そんな顔をしないでくださる?わたくしも蒼玻くんと会えて楽しかったですよ。わたくしたち、相性いいのではありませんかしら?」

 

 ふふふ、アオバが、白い三つ編みを耳の上へかき上げる。

 

 「アオバちゃん、今度はきっと、現実で、君を…」

 

ー*-

 

 「ふわぁ…」

 

 大きく、伸びをした。そして、目を開く。

 

 目が、あった。

 

 「オーベム!?」

 

 オーベムたちが飛びのく。蒼玻も飛びのく。

 

 オーベムたちの周りにわずかに金色の粒子が舞っているのを見るに、UFOの撃破による夢世界の破綻で、オーベムたちのBREAK進化は解除されたらしい。

 

 ならばもう一度催眠からやり直せばよいと言わんばかりに、十数体のオーベムの手が点滅するー

 

 「お姉ちゃんっ!」

 

 ー叫び声とともに、白いコットンが蒼玻の視界をふさいだ。

 

 「ウールーのコットンガード、こんな使い方もあるのですわね。」

 

 「お姉ちゃんごめん…よくわからないけど、なんかすごい変な夢見させられてた気がする...」

 

 汗でびっしょりで少々透けて見えるドレスから、蒼玻が目をそらす。

 

 「だから、ここで挽回するよ。

 

 蹂躙して、マハリハグルマっ!」

 

 空間のヒビが分岐し、オーベムを取り囲んだ。点滅の光が吸い込まれ、ヒビの別の部分から光が放出される。

 

 自らが催眠にかかってはかなわない…オーベムたちはあわてて催眠をやめる。

 

 (心理的優位、戦術的優位、そして戦力的優位…!)「オーベム、もしかして貴方方は、こう考えているのではありませんかしら?

 

 『なぜ夢世界が破れたのか。完璧な作戦だったはずなのに。』」

 

 余裕を見せること、相手に自分の優位を見せること、心を揺さぶること…心理的優位をつかむため、コクコクうなずくオーベムたちに蒼玻は告げた。

 

 「貴方方の夢世界が破れたのは当然ですわ。

 

 夢というのは、往々にして破れるものですわ。ましてそれが、目覚めれば忘れてしまうような儚い夢であったのなら、特に。

 

 最初から、失敗して当然でしたのよ。」

 

 「…お姉ちゃんに一歩近づいたね。

 

 行くよウールー、マハリハグルマ!」

 

 「さあもうひと頑張りですわよ、イーブイ!」

 

ー*-

 

 「あっけなかったね…お姉ちゃんが夢の中で戦ってくれた結果だよ。

 

 …そういえばお姉ちゃん、ちょっと雰囲気変った気がするけど、夢の中でなんかあったの?

 

 「…イーブイと少々有意義な特訓をしただけですわ。」

 

 「…そう、なの?それにしては...」

 

 「カグヤ...

 

 …いいえ、なんでもありませんわ。」

 

 「もう、なんでもないなら匂わせぶりなそぶりしないでよ。」

 

 (今は黙っておこう、夢の中でアオバに会ったことは。だってあれは結局夢だったのかもしれないのだし、そうでなくても、アオバは決して、現実に戻ってくることが簡単なようには言わなかった。夢の中に現れて自由に行動することすら今回くらいのイレギュラーが必要で、二度と心の深層から出て来れないかもしれないって。

 

 無意味に希望を持たせたりはしたくない。でも...)

 

 「カグヤ、必ず、アオバちゃんを現実に呼び戻して見せますわ。」

 

 「んー?お姉ちゃんなんか言ったー?」

 

 「独り言でしてよ。」

 

ー*-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー「カグヤ、必ず、アオバちゃんを現実に呼び戻して見せますわ。」

 

 -「アオバちゃん、今度はきっと、現実で、君を…」

 

 「そんなの、わたくしはまだ、望んでいませんのに…」

 

 蒼玻くん…その魂は、ぽつりと心をこぼした。




コスモアイル羽咋(羽咋市宇宙科学博物館)はトンチキでいいぞ!()


オーベムBREAK エスパー

 宇宙から来たとも伝わるポケモン、オーベムのBREAK進化個体。オーベムよりも強力な催眠能力を持ち、五感を完全に催眠下に置くことで自らの夢世界にいざなうことができる。

コスモサークル(オーベムBREAKの専用ワザ)

 催眠により夢世界にいざなった者たちの夢を共通にすることで夢世界を自律稼働させ、さらに催眠下の者から精神エネルギーすなわちサイコパワーをいただくワザ。


カハリヤツカゲ(はつげんちょうせいイーブイ最強形態)

 古の記録にわずかに書き残されている、ユキコシ在来イーブイの最強形態。現在では完全に純系のユキコシ在来種がいないこと、人里と農耕の出現により生存競争が軟化したこと、数百年にわたりカハリヤツカゲ化しやすい戦闘気質イーブイが狩られ穏便に隠れ潜む系統が野生で残りやすいかったことなどから出現しなくなっている。

 進化系の8つの姿を影のようにまといあるいは操り、イーブイの群れが一斉にカハリヤツカゲを発動した場合はさながら百鬼夜行のようであったと伝えられる。

 その原理は「あえて中途半端にはつげんちょうせいを行うことで、実体を変化させず進化先の能力だけを得る」ことを8進化先に対してそれぞれ行い重複させること。

 すなわちカハリヤツカゲという伝承の正体は、「8つの進化系を実体としての進化ではなく『スタンド』として出現させる」能力である。
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