お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
そのポケモンに触れた者 三寸にして想いを奪われ 全てを見失う
そのポケモンに傷をつけた者 七刻にして志を奪われ 生ける屍となる」
~ユキコシ地方に伝わる伝説より~
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「お姉ちゃん、無事だったん…だ...」
うわめっちゃかわいい、蒼玻はそう思ったがもちろん声に出したりはしない。いきなりバレてはたまらない。
「え、ええ...」
アオバ・フロックスの妹、カグヤ・フロックス。白というより銀髪のぱっつん、三つ編み。垂れ目の清楚な女の子。その顔が、今にも泣きだしそうに歪んでいる。
「ジョーイさん!医務室貸して!人間用の!」
全身薄汚れ、髪には血の筋がはしる姉を、カグヤはほとんど真っ青になりながら医務室へと引っ張り込んだ。
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「ふう、良かった。お姉ちゃんの身体に何かあったら大変なんだから。」
どうやら脳に異常はなく、やや意識の混濁はあるがショック性の一時的なもので数日で収まるでしょう、ただし確認できない脳内の出血などから体調が急変することがありますので24時間は目を離さず、何かあればご連絡くださいーテンプレくさいセリフを聞いた後、カグヤは個室の扉をきっちり閉めて鍵を掛け、そしてやっと一息ついた。
そして、しばし沈黙し、ごにょごにょと口元を動かし、そして口を開いた。
「…でさ。」
「な、何かしら。何があったのかは、ジュンサーさんが来てから説明しますわ。」
とりあえず、自分がアオバ嬢ではないことは隠して出方を見たほうがいいー蒼玻は必死に練習したお嬢様言葉を使おうとする。
「お姉ちゃん、やっぱり、お姉ちゃんじゃ、ないよね?」
「えっ」
「あのさ、お姉ちゃんはもっと高潔なオーラに満ち溢れてるから。」
あんまりにもばっさりすぎる言いぐさであった。
「嘘くさすぎる取ってつけたようなお嬢様言葉、隠しきれない品のなさと洗練されてないそぶり。それでお姉ちゃんになりすまそうとか、バカにしてる?」
「バ、バカにしているわけではありませんわ。」
「うん、口調ももう取り繕わなくていいから。
で、あなた誰?お姉ちゃんはどこ?」
深い闇をたたえた瞳。もう嘘は付けそうになかった。
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「納得、してくれるのか…?」
俺はポケモンが空想上の存在としてしか存在しない世界から転生しました、貴女のお姉さんが気を失った拍子に憑依したらしいです、だからお姉さんの魂は行方不明で中身の魂だけ別物なんです…そう言っても、自分でもすぐに納得できるか怪しいし、死に際に見ている夢と言われた方が納得いく。
「するしかないよ。だってこの地方には心をつかさどるポケモンがいるんだから。それに異世界の伝説だってあるし。」
できたばかりの妹は、端末の画面を見せてきたーそこに映されているのは、UMAトリオこと、ユクシー、アグノム、エムリット。
「…知識、感情、意思をつかさどる準伝説のポケモン、だっけか?
確かに心に関係するポケモンだけど...」
人に知識・感情・意思を与えたり奪ったりはできるかもしれないが、別世界から転生だかして憑依している人間に対してできることがあるのだろうか…?
「ううん...そこから説明しなきゃダメなんだ...あ、そっか、ユキコシ地方を知らないんだっけ...
いい、よく見て、この三体は白じゃなくて黒でしょ?」
なるほど、ユクシー、アグノム、エムリットなら白いはずのお腹が真っ黒に塗りつぶされている。
「これはこの三体のユキコシのすがた...正確にはちょっと違うらしいんだけど...
ユキコシ神話の三体は、シンオウに伝わるのなんかよりずっと強くって、昔この地方を一度異世界から来た脅威が滅ぼした時に、イーブンまで持ち込んだ...って言われてるんだから。伝承通りなら魂をお姉ちゃんの身体から取り出して移し替えたり…うん、別の世界に戻すこともできると思う。そうして、お姉ちゃんをその身体に呼び戻すことも。」
異世界は存在するし、心や魂の超常現象も起きるしなんとかできないわけではない…ユキコシ人の価値観ではそうらしかった。そしてユキコシのユクシー・アグノム・エムリットは魂の憑依や異世界転生といった事象にも対応しうる...
「…それで、コイツの魂を呼び戻したとして...
…その時、俺はどうなるんだ?」
そう、蒼玻の肉体はもう日本では死んで、とっくに荼毘に付されているはずだ。ポケモンの力で今の肉体から出してもらって元の持ち主に肉体を返したところで、帰る自分の肉体があるわけではない。
「さあ?私は魂のことや心のことはよくわかんないけど、三体にもできることとできないことがあるし、そもそもユキコシのユクシーアグノムエムリットは荒神だから、私にできることはお姉ちゃんを守ることだけかな。」
蒼玻は身体を震わせたーもう一度死ぬのはあんまりありがたくはない。けれど、異世界で知らない少女に憑依?している現状は決して楽観できるものではない。神にすがって解決するならそれに越したことはないのだ。
「そこをなんとかならない?替えの肉体を用意してもらうとか、元の肉体で生き返らせてもらうとか…」
「三体に勝てはしないまでも負けないくらい強くなれば、なんとかなるんじゃない?お姉ちゃんに関係ないことだから私はそこまで面倒見ないよ?」
「…わかった。どっちみち一人で生きていけるわけじゃないし、安穏と身体借り続けるわけにもいかないし、協力する。」
「あくまで一時的な共闘だからね。お姉ちゃんの身体に、わざとじゃなくても勝手に入り込んでること、許してないからね!特に男だなんて!」
お姉ちゃんの身体に変なことしたら死んでも殺すから、そう言われ蒼玻は縮みあがった。頭痛薬が欲しい。
「そのためにはまず、お姉ちゃんは手持ちを捕まえて、強くならなきゃ。三体がいるはてやま連峰は、おみや巡りを終わらせたトレーナーじゃないと立ち入りすら推奨されてないよ。」
アオバ・フロックスは先祖代々受け継ぐディアンシー以外の手持ちポケモンを持っていなかった。妹と異なり後継ぎなので今までトレーナーとしての旅をしてこなかったのだ...だからこそ、姉妹で出奔同然に旅立ったことがどれほど異常なのかということでもある。
「おみや?」
「他の地方で言うポケモンジムのこと…ってかいちおうユキコシリーグとして承認を受けてるからジムなんだけど。7つのおみやの宮司とよりしろさまに勝てば、はてやまおみやの三体に挑む実力があるって言われてるよ。
…あと、お姉ちゃんのふりをしなきゃいけないんだからしばらくここで猛特訓ね。」
-この時、蒼玻にはまだ、わかっていなかった。
ユキコシ地方が、どのような地方なのかを。
Q:コイツ、ポケモンプレイしてないのになんでUMAトリオの伝説知ってるの?
A:ピク〇ブ百科事典万歳!
おみや巡り
ユキコシ地方の主要7都市にある「おみや」を回り、おみやを祀る宮司(他の地方に於けるジムリーダー)とよりしろさま(いわゆるぬし)に認められるチャレンジ。おみやはジムとしての資格を満たしており、ぬしポケモンを四天王8つ目であるはてやまおみやの三体をチャンピオンと見なしたユキコシリーグが書類上存在するが、おっかなすぎて挑戦できたものではなく、参拝だけでもおみや巡りを果たしたことになる。
ユクシー・アグノム・エムリット(ユキコシのすがた)
ユキコシにそびえる「はてやま連峰」の山頂近くにある「かえらずの湖」に眠るとされる伝説のポケモン。シンオウ地方のそれとは異なり、身体の色は黒を基調にしている。ユキコシ地方に伝わる「破壊の神話」の象徴的存在であり、ユクシー・アグノム・エムリットの壊れた姿ともユクシー・アグノム・エムリットを壊れた状態で再現した姿とも言われる。