お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

35 / 107
ーディアンシーが傷口を手で撫で、そして、はっと何かに気付き、両手で口元を押さえた。

ーディアンシーが、胸元で手を押さえ、そして、どこかつらそうな表情をして…斬られた鉄格子の向こう、廃坑へと飛び込んでいった。

ー「そうして、お姉ちゃんをその身体に呼び戻すことも。」

ー「…貴女にもわたくしにも、価値なんて、生きている意義なんて、なかったのかもしれない。ですけれど、わたくしは貴女に、生きていてほしい、そう思いましたの。わたくしが貴女に、生きてそばにいてくれるだけで価値がある大切な存在と思うように、貴女にとってのわたくしがそうであったらいいなと思うのです。」

ー「逃げろ。お前たちだけでも、逃げるんだ。」「なんの価値もない俺が、それでもコイツを守りたい、そう決めたんだ。」

ー蒼玻が強く、尊く、美しく見えた。力ではなく、心が。

ーお前の生きる意味、立ち上がる意義がそこにあるんだろうがっ!

ー「俺にこの世界で生きる意義を与えてくれるみんなに、俺のできることをしたい、応えたいって思ってる。」

ー「けれど、わたくしは、より実り多く、そして生きた意義と足跡をみんなに遺せる、そういう、新たな生を歩みたい。」

ー「見損ないますわよ蒼玻くん。わたくしが…わたくしが知る蒼玻くんと言う男は、そんな男ではありませんわ。命を賭けても誰かを救う、城で見せてくれたばかりではありませんかしら。」「だから...今はひとまず、人々を救わせてくれ。」

ー「早く出ていけ人間ども。」「…人間に、騙されんようにな。」

ー 「いまさら...

 いまさら、いまさらどのツラ下げてっ!」

 蒼玻はなぜ、フロックスとして前に進み、命を賭け続けてきたのか。

 ディアンシーはなぜ蒼玻を見捨てたのか。

 皆の想いが交錯し、それぞれが四者四様の想いを抱き、旅は新たな局面へ。



#31 ノブレス・オブリージュ_Beyond Time

ー*-

 

 ”「姫様、こういうわけなのでございます。

 

 フロックスのまがい物はカセキを奪うつもりです。」”

 

 ”「…それは違います。

 

 ...近衛の皆さんに伝えなかったことを、謝らなければなりませんね。」”

 

 ”「姫...?」”

 

 ”「それよりも、急ぎましょう。もしもう一人のアオバさんが私の思う通りの方なら、時間がありません!ついてきて!」

 

ー*-

 

 ”「私は、貴方が、もう一人のアオバさんが、自ら戦いに巻き込まれに来るだなんて、思ってもいなかったのです。

 

 あのトキトビ島での別れの時、私たち一族との盟約がゆえにアオバさんが狙われていることはすでにわかっていました。それがアオバさんなら良くても、まったく関係のない赤の他人であるもう一人のアオバさんに、誰かを守るため、誇り高く生きるために闘わなければならない天命を残すのは、私には忍びなかったのです。

 

 ですから、私はあの場で、アオバさんが意識を失ったと同時に魂が変わってしまったのを感じた時に、すぐに盟約を捨てて立ち去ることにしたのです。どのみち魂が変わってしまったので盟約(メガシンカ)は機能しませんでしたし。」”

 

 「…じゃあ、なんで、なんで、お姉ちゃんが悪いことになってるの?お姉ちゃんをあそこにほったらかしておいたの?せめて一言でも...!なんでお姉ちゃんを見捨て...!」

 

 カグヤの声が、震えている。

 

 「…仕方がなかったのです。家宰(メレシー)たちの忠誠心の高さを考えれば、もしフロックス家を案じての盟約破棄と正直に伝えれば影に日向に手助けしようとしてかえって良くない結果になることは明らかでしたから。」

 

 -道理は通っていた。もしトキトビやヌレバやナノハナキャッスルでの騒動でメレシーが登場していれば、メレシーが明らかにどこかの令嬢とわかる少女に付き従っていれば、実家、フロックス・ホールディンクス幹部陣に捕捉されるリスクは上昇していただろう。せっかくカグヤだってぐうじ以外の旧知の人物を頼らず旅をしているのに、ぞろぞろ供を従えるなど愚かの極みだ。

 

 「よもや、近衛メレシーたちの忠誠心が高すぎて皆様に対して怒り狂うとは思いませんでした。」

 

 メレシーたちが、ばつが悪そうにうつむいた。

 

 「可愛さ余って憎さ百倍、と言いますのよ。」

 

 「...それでも良かったのです。先代も先々代も消された今、フロックス家の方々ですら信用できるかわかりませんでしたし、であれば私たちがユキコシを守る天命を果たすのに人間との協力は必要ありませんでした。それに、人間不信、フロックス不信に凝り固まったにしても、それがためにアオバさんを戦場から遠ざけようとするのならば、私の願い通りでしたから。

 

 ...それでも、戻ってきてしまうのですね。それも、仲間を集め、強くなって。」

 

 (そうだ。確かに最初はカグヤに言われて始めたおみや巡りの旅だったけど、生きている意味なんてなかった、誰にも必要とされてこなかった俺が、かけがえのない仲間と旅をして、情動のままに誰かと助け合う、それは俺にとって...

 

 ...これが、この生き方が、在り方が、俺なんだ。)

 

 「わたくしの大切な仲間がいて、わたくしが救いたいと思った者がここにいる。それで、充分ですわ。」

 

 視線を、イーブイに、オリセクトに、向けて、蒼玻は決然と告げた。

 

 「…逃げてもいいのですよ?任せてもいいのですよ?

 

 貴方はフロックスではないのです。なんの義務も、天命も、背負ってはいないのですよ?」

 

 「カグヤが『魂が違うわたくし』を見抜いたのと同じですわ。

 

 大切なものが大切、助けたいものを助けたい、そのことに、天命も家柄も関係なくってよ。

 

 心から、自ずと、誰かを思って動ける、大義も天命も義務も理由になんかならない、そういう誇り高さが高貴なる者の抱くべき志(ノブレス・オブリージュ)だと言うのならば、わたくしは...

 

 ...俺は、俺も、フロックス...蒼玻(アオバ)・フロックスだ。」

 

ー*-

 

 ディアンシーが、蒼玻を守りたい、巻き込みたくないと思った。

 

 メレシーが、フロックス家ですらその任でないのなら、人間の手を借りず自分たちでポケモンを護ろうと思った。

 

 カグヤが、たったひとりの姉を守りたいし取り返したい、そう思った。

 

 蒼玻が、自分の大切なポケモンを取り返したい、悪人に奪われようとするカセキポケモンを守りたい、カセキポケモンがもたらすユキコシ地方への危機を防ぎたい、そう思った。

 

 ーフロックス(シバザクラ)の性質は「弱弱しくても負けない」、花言葉は「合意」「一致」。

 

 蒼玻の指輪が、キラリと輝いた。

 

ー*-

 

 「ええい!

 

 フロックスだと!?なぜそんな連中がこんなところに!しかも長話に興じやがって!

 

 クソ!余裕のつもりか!?だがそう何度も何度も逸らせはしまい!

 

 さっきは不覚をとったが…

 

 ...出力を上げろ!再照射ァ!」

 

 ゴフク屋のリーダーが額に青筋を立て、したっぱたちがあわただしく動き回る。

 

 パラボラが旋回し、蒼玻たちの斜め後ろ...ディアンシーとメレシーたちを指向した。

 

 蒼玻がほほ笑む。ディアンシーが腕を広げ、カーテシーをする。

 

 「…戻ってきたよ…デイアンシーが、お姉ちゃんの下に...

 

 ...おめでとう、おねえちゃん、蒼玻さん...」

 

 「さあさあさあ...

 

 ...誇り高き俺らの燦然、誰にも超えられはしないさ。」

 

 デイアンシーの下半身を包む岩に、ヒビが入った。

 

 額の宝石がピンクの光を帯び、ハートを描くように膨れ上がる。

 

 スカートの下から12本ものピンク水晶が伸びるーそのすべてが、金色の粒子を内部に散りばめていた。

 

 一度視界をふさいだ2枚の透き通った細いヴェールが、後方へと勢いよくたなびく。

 

 「照射今ァ!」

 

 ゴフク屋のしたっぱが叫び、不可視のコントロールビームが、パラボラアンテナから放出された。

 

 瞬間、その場にいた人もポケモンも、誰もが、太陽をもしのぐ眩い輝きに、目をつむった。

 

ー*-

 

 メガディアンシー(盟約の一族)フェアリー/いわ 特性:マジックミラー/きらめきヴェール

 

 メレシーたちの中でももっとも誇り高いと言われる一族を率いるディアンシーが、メガシンカした姿。純潔さを示すウェディングドレスとも、美しさを引き立てるプリンセスドレスともとれる姿をしている。

 

 光を浴びると眩く反射し、その輝きを穢すことは誰にもできない。

 

ー*-

 

 「ハッハッハ!操ってやった!操ってやったぞ!盟約のディアンシーを!

 

 世界は、これでまた一歩、ゲーチス様のものに...!」

 

 「ディアンシー、ダイヤストーム。」

 

 な...!そんなことがあり得るはずがない...!目を剥いたゴフク屋たちを、ダイヤの渦が包み込んだ。

 

 黒いプラズマ団制服がボロボロになり、パラボラアンテナもその下のマシーンも傷だらけになる。

 

 「チッ...

 

 お前ら、やっちま...え...?」

 

 ゴフク屋たちを、たくさんのポケモンたちが、睨んでいた。

 

 「そんな馬鹿な...!おいてめえ!言う事を聞くっス!」

 

 グレイシアを蹴とばそうとしたしたっぱが、凍えつくほど冷たい吐息を吐きかけられ、卒倒する。

 

 「…ディアンシーに光を当てると裸眼を向けられないほどの輝きを放つ。そしてとびきり高貴な私たちのディアンシーはね、貴方たちみたいな、卑しく穢れた意志を赦さないの。」

 

 害意の浄化ー伝説の破壊神によって悪を基に再創造され、三体の心を司る伝説が張ったBREAKフィールド(敬意といたわり)というヴェールで覆ってごまかしているユキコシという地方にとって、究極のアンチテーゼのような存在が、そこにはいた。

 

 ポケモンたちが、一斉に口を開き、腕を掲げ、なんらかのエネルギーを蓄えている。

 

 「さあ...

 

 ...悪事のツケを払う準備はよろしくって?」

 

 パラボラアンテナとマシーンが、爆炎とともに消し飛んだ。

 

ー*ー

 

 「ヌスビトさん、いいんかねぇ?元プラズマ団に好き勝手させておいて。羽が生えてどっか飛んでっちまうかもしれねえぞ跳ねっかえりだけに。」

 

 「ゴフク屋は建前上は来る者拒まず去る者追わずですのでな。

 

 巧くいったなら上前をはねてから官憲にでも売ればいい。失敗したのなら残った上層部も責任を問うて俺の子飼いにすげ替えてプラズマ団の蓄積物を乗っ取ればいい。やりたいように暴走させておいたほうがどう転んでもいい結果になるのですな。」

 

 「悪と焼きもちは焼けば焼くほどおいしくなるってわけか。

 

 で、すげ替えるんなら誰を据えるんだ?」

 

 「うーん、子飼いの中でトップと言えば...」

 

 「…おいおい、俺はやらないぞ。俺だけに折れないぞ。」

 

 「そのギャグはつまらないですな。

 

 まあ近いうちにラスト団の連中がイベントを用意してくれそうですからな。それを終えてから大粛清してもいいですな。

 

 それより、アナタの出番ですな。」

 

 「うおっ、やっと見つかったのか、あの嬢ちゃん。」

 

 「ええ。後追いでしか捕捉できなかったけれど、やっと、我らの前に姿を現してくれたのですな。

 

 副会長さんからは、生きてさえいればどんな状態でもかまわないと言われていますな。」

 

 「そいつぁ豪勢だねぇ。

 

 さてと、ヌスビトさん、俺ぁちょっくら行ってくるよ。」

 

 「さっさと仕事を済ませてくるんですな。」

 

ー*-

 

 ミルホッグ、レパルダス、ワルビアル、ダストダス、ムーランド、ヒヒダルマ、シンボラー、ズルズキン、ガマゲロゲ、デスカーン、キリキザン、シビルドン、サザンドラ...

 

 ...ずらりと並ぶイッシュ系のポケモン、ユキコシでは見られないはずの種類すら混じり、そのすべてが最終進化であることは、遠く離れたこの地方でそれでも野望を諦めなかった人々の、苦労の結晶だった。

 

 まあ、どれだけ孤軍奮闘したところで、彼ら(プラズマ団)が悪人であることに変わりはないのだが。

 

 「者ども、ひねりつぶせッ!」

 

 「させると思う!?

 

 ウールー!」

 

 カグヤが、金色と緋色の光を明滅させる正二十面体の結晶を掲げた。

 

 「ウスベニおみやのカケラですか…!」

 

 館長が呟く。それと同時にグレイシアがあわててイーブイを抱きしめ、冷気で体を覆った。

 

 「『ごう・みっかみばん』」

 

 その声は、怒りに震えていた。

 

 ウールーの全身が、金色の粒子を帯び、赤く燃え上がる。

 

 -ウールーの ごう・みっかみばん!

 

 瞬間。

 

 ゴフク屋のポケモン達の身体が、一斉に燃え上がった。

 

 「なっ...ガマゲロゲ、なみのりで火を消すっス!」「シビルドン、あまごいだ!雨を降らせろっ!」

 

 大温室の中央に雷雲が渦巻き、イッシュポケモン達をびしょぬれにしていく。

 

 それでも、火は、消えない。

 

 【じゅえん(呪焔)状態:必ずやけどになる。 ひんしになるまで治すことはできない。】

 

 「お姉ちゃん。」

 

 「ええ、わかっていますわ。

 

 イーブイ、はつげんちょうせい『カハリヤツカゲ』、でんこうせっかですわ!」

 

 ブースター、シャワーズ、サンダース、リーフィア、グレイシア、エーフィー、ブラッキー、ニンフィア。8つの虚像がイーブイの身体から分かたれ、そしてめいめいに駆けだしていく。

 

 「な、なんだそれはっ!?」「させるかっ!」「サイケこうせん!」「ダストシュート!」「きりさく!」「はかいこうせん!」「ヘドロばくだん!」「きあいだま!」

 

 攻撃が、イーブイの虚像へ殺到した。

 

 メガディアンシーが、両手を合わせ、空気を圧縮する。

 

 空気中の二酸化炭素がプラズマ化し、炭素が遊離し、圧縮され、結晶化する。

 

 「ダイヤストームッ!」

 

 ダイヤの渦が、8つの虚像を包み込んだ。殺到するすべての攻撃がいなされ、そして、そのままゴフク屋のポケモン達を呑み込んでいく。

 

 ダイヤの渦の中で、ポケモン達が最後に見たのは、ピンクの光に照らされる実体なきイーブイ進化系たちだった。

 

 「…へっへっへ、油断したなお嬢さんッ!

 

 ナットレイ、ジャイロボール!」

 

 高速回転する鋼の円盤が、イーブイに迫る。

 

 メガディアンシーの右手が、宙をなぞった。

 

 光とともに、二酸化炭素が手中に凝華していく。

 

 ピンクの光が描く手先の軌跡が、鋭い剣を成す。

 

 -メガディアンシーの ラディアント・レイピア!

 

 現出したのは、なにものにも侵されぬダイヤモンドの光でできた、高貴なる破邪の剣だった。

 

 メガディアンシーが握る光の剣が、迫るナットレイを押しとどめる。 

 

 何本か、鉄のトゲが斬られ飛んでいく。

 

 メガディアンシーの後ろで、イーブイが、地面を足で踏みしめる。

 

 イーブイが、全力で跳躍ー

 

 -イーブイの とっておき!

 

 -ナットレイが、突き飛ばされて回転しながら勢いよくガラスドームを割って、温室の外へ姿を消していった。

 

 「超えられはしない、確信したとおりでしたわね?」

 

 「くっ...」

 

ー*-

 

 「ディアンシー、わたくしといっしょに来ませんこと?

 

 ...俺といっしょに来ないか?」

 

 ”「よいのですか?私は、一度は貴方を見捨てて...」”

 

 「それだって、俺にまでフロックスとして(気高く)戦う使命やら義務やら宿命やらを背負わせたくはなかった、そういうことだろ?

 

 ずっと案じてくれて、でもひとりで本当のことを隠してきた。それで、大事な時に動いて、俺と心を通わせてくれた。

 

 俺がお前に、仲間になってほしいと言うのに、これで不充分か?」

 

 ”「…2つ、いいですか?

 

 聞きました...貴方はどうして、何度も命を賭けてまで戦ったと。

 

 逃げても良かったことだってあったと思います。どうして貴方は...本当に、仲間のためだけなのですか?

 

 それに、そうして命を賭けてまでする大切な仲間に、どうして私をくわえてくださるのですか?」”

 

ー*-

 

 なぜ、戦うのか。

 

 ーカグヤにとって、それは家名とともにある天命だ。誰かのために身を削って戦うことが求められているのなら、大企業として名族として、それをしないことは自分も家柄も許さないからだ。

 

 -ディアンシーにとって、それは存在そのものだ。かつてユキコシを守るため立ち上がったと伝わるメレシー一族の姫として、ひとたび危機があれば立ち上がり、例え何もなくともフロックスとともにユキコシ鎮護の礎となる、それは本能にまで刻み付けられている規範だ。

 

 -メレシーたちにとって、それは義務だ。群れは自らのトップに従い、そのために戦う。誇り高き一族の精鋭近衛ともなればなおさらだ。

 

 -では、蒼玻にとっては?

 

 身体こそ因縁まとわりつくアオバ・フロックスだけれど、なにか薫陶や啓蒙をされたわけでもなく、いざとなれば逃げだすことも他人に任せることもできないではなかった。けれど、時にアスピリンをかみ砕きながら、彼は何も投げ出さなかった。そればかりか新たに抱え込みすらした。

 

 蒼玻を動かしてきたものとは、なんなのか?

 

ー*-

 

 「…理由を無理に言葉にできないわけじゃない。でも本当は、わざわざ言葉にするようなことじゃないんだ。

 

 心が叫ぶんだ。そうしろって。

 

 仲間たちが、この世界が、誰にも必要とされていなかった、誰にでも代替可能だった俺に、存在意義を与えてくれた、だから...

 

 ...だから恩返ししたい、なんてのは、無理な言語化だってのは、わかってる。

 

 仲間を失いたくない、それが自分を投げ打つ理由になるのは本当だ。だけど、仲間にしたいと思ったり、誰かのために戦おうと思うことに、本当はちゃんとした理由なんか、ありはしないんだ。」

 

 きっとそれは、自分の存在などしょせん無意味で無意義なのだと諦めていた空虚な青年が、存在してもいい、いや存在を求められているのだと初めて実感したことで、彼の中から目覚めた何かだったのだろうー夢の中のアオバ・フロックスは、もしかしたらそれに気付いていたのかもしれない。

 

 「きっと、もしかしたら、俺が存在する意義を与えてくれた仲間とこの世界のために何かをしたいっていう動機付けがあるのかもしれない。」

 

 ーかけがえのない、とはそういうことだ。大切な何かを失った時、人は色を失う。その何かが大切過ぎて、自分の存在の意義すらも見失う。それほど大切な自分の根幹を、人はかけがえのないと表するのだ。そしてそのために、人は時に命すらなげうつ衝動的な衝動に突き動かされる。

 

 でも、そんなことを意識するまでもないんだ。しなくちゃいけない何かがある時に、俺は俺の存在をなげうったってかまわない、そう、突き動かされるんだ。」

 

 大脳ではない。脊髄が、彼を突き動かす。

 

 「仲間にしたいのだって同じだ。

 

 考えて思うよりも先に、想いを感じた、だから...納得は諦めてくれ。

 

 カグヤが姉を大切に想うのと、きっと同じなんだよ。」

 

 家族が大切なことに、大切な家族のためになにかをしたく思うことに、理由も説明も必要ない。自然にスッと、大切に想い、なにかをしようとする、そういうものだ。

 

 結局、衝動の理由などというものは、感じた想いについて、後から「こういう因果で自分はそれを思ったんだ」というものでしかない。戦わなくちゃと感じることだって仲間に感じることだって。そして、人生は国語の試験などではないのだから、理由の説明など不可能だしその必要もないのだ。

 

 -蒼玻は、ただちょっと、それが強かっただけで。存在意義を感じていなかったからこそ、理由に先行した衝動に対して悩みなく自分の存在すらベットできるだけで。仲間どころか世界のために動けるほどの善性が眠っていただけで。

 

 「お前だって同じだディアンシー。いつか別れて、今日ここで会ったお前を、俺は大切だと思ってる。なんでか、ちゃんと言葉にして言えやしない。

 

 けど、アオバちゃんから託されて絆をつないだお前を、俺は。」

  

 「...わかりました。私もいっしょに行かせてください。」”

 

 ”「姫...」”

 

 ”「長老、ついてきてはダメですよ。

 

 私がアオバさんについていくのは、フロックスとともにある一族だからではないのです。

 

 ...私が、ひとりの私として、貴方、もう一人のアオバさんとともに歩みたい、そう思ったからです。

 

 行く先も知らず何処からか来て、混迷の時代にユキコシ地方を旅し、フロックス家という難しい立場になり、逃げても良かったのに前に進むことを選んでいた貴方が、何処へ向かうのか。

 

 そしてアオバさんはそれをどう思うのか。

 

 もっと見てみたい、もっと共に過ごしたい。

 

 ...私も、ちゃんと説明できない熱い衝動を、感じるのです。」”

 

 ”「姫...」”

 

 「…恋とかさ、友情とか、絆とかもだけどさ。あるいは正義や善、良心だってそうかもしれない。

 

 心の一番奥底から湧いてきて突き動かしてくるような衝動、何かを大切だと感じて、そのために何かをさせるような衝動は、いつも、完全には説明できないんだよ。理由よりも先に心が動いてる、考えるより先に感じてるんだ。」

 

 -だから、理由もなく説明もできない単なる衝動に、意味など、意義など、存在しない。

 

 「でも最近、そういうのが、一番すばらしいことだって思うようになったんだ。

 

 ...だから...

 

 ...俺といっしょに行こう。それで...

 

 ...行く先知らずのわたくしという存在、その行く末まで、ともに歩いて、『見届けて』くださいますかしら?」

 

 考えるよりも先に、そうしたいと、お互いが強く感じたのだから。

 

ー*-

 

 アオバくん、それじゃあまるでプロポーズだよ。

 

 ...「見届けて」...?

 

 なんでアオバくん、見届ける、なんて言い方を...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*ー

 

 「お姉ちゃん、いったん逃げるよ」

 

 翌日、サツキタウンのポケモンセンターの前で。

 

 カグヤ・フロックスは開口一番こう告げた。

 

 「思ったより状況が良くないの。博物館の一般客にそこそこのインフルエンサーがいたみたいで...」

 

 そこから先は、蒼玻にも想像がついた。インターネットには身元特定のプロが多数生息しているのだから、投稿者が姉妹の正体に気づいていなくてもそう猶予は伸びない。

 

 「…拡散された、すぐにでも居場所を突き止められて実家、本社に連れ戻されるかもしれない、そうですわね?」

 

 「パパもママもおじいちゃんも不審死した、あそこは剣呑すぎる...そろそろ潮時かもしれない。

 

 お姉ちゃん、ほとぼりが冷めるまでフロックス社から、ユキコシから離れよう。追手はまくべきだし援軍だって要るよ。」

 

 「亡命、ですの?」

 

 「転進とか戦略的撤退って言ってもいいよ。

 

 もしあの映像で副会長が、私たちの映り込みだけじゃなく強くなっていることにも気付いて脅威に感じたら、今度はただ傀儡にするんじゃなくてもっと直接的な危害を加えるかもしれない。それが陰惨な策謀だったら、今の私たちに対抗手段はない。」

 

 経営者としては優秀だが稀代のサイコパス、自分たちが家出を決意する原因となった男を、カグヤはそう評している。そして、評価通りのことが起きるかもしれない。

 

 「わかりましたわ。どこへ亡命しますの?ここからならジョウトが...」

 

 「ううん、誰か力を貸してくれる人のところがいい。それも見返りを求めず動いてくれる、そうノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)を胸に生きているような実力者。」

 

 そんな都合のいい人物を、普通はそう簡単に頼れはしないー

 

 ーまあ、この姉妹は普通ではないのだが。

 

 「名家のつながりでタマムシシティのエリカさん...っていうのもありだけど、カントーは陸続きだからせっかくなら避けたほうがいいかも。

 

 企業つながりでチャンピオンだからこの人とか…

 

 ...でもこの人、押しが強いから頼りたくないんだけど...仕方ないか。」

 

 カグヤはやや顔をしかめつつ、連絡先をタップした。




Q:どうして仲間/世界のために戦うんですか?

A:理由は探せばあるけれど、誰かのために戦うことに理由の説明が必要か?



 ラディアント・レイピア (メガディアンシーの専用ワザ)

 光の剣を作り出して斬る(ORASの特別映像 https://youtu.be/Eju1zieC5rM?si=YfM5t2IJjwX14Ai-&t=122 に出てきたやつですね)


 ごう・みっかみばん (ウスベニおみやよりしろさまの専用BREAKワザ・ウスベニおみやのカケラが授けるワザ) ゴースト

 積み重なった恨みを祟りの焔に変え、すべてを焼き尽くす。その焔は恨み晴れるまで消えることはない。

 「業・三日三晩」。




次回、みなさんご存じの某地方へ、転生ニワカ令嬢とシスコン妹の亡命ストーリー、始まります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。