お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
カントー地方の北、ジョウト地方の東。ユキコシ地方ー聞いたこともないポケモン地方に転生した現代日本人蒼玻は、自分が憑依している少女アオバ・フロックスが、ユキコシ最大の企業グループのトップであり、副会長の魔の手から逃れ妹カグヤと旅をする途中に襲われ意識を失ったことを知る。
6体のポケモンを仲間とし、アオバの意識を取り戻すための旅の中で、ポケモントレーナーとして成長する蒼玻。だが旅の途中、カグヤが副会長の手の者にさらわれ、さらに悪の組織「ラスト団」が最大都市ワカナエの市街地を占拠、無差別なポケモン暴走を引き起こす。
ラスト団のボスでもあった姉妹の敵、副会長クワズ。彼の目的は、時空を挟み込んで引っ掛かっているギギギアル(ユキコシのすがた)を暴走させながら古代文明の末裔であるフロックス家の絶望と共鳴させることで、世界に穴をあけて「2000年前闇から顕れユキコシのすべてを破壊・再構築した伝説のポケモン」ギラティナを召喚することだった。
BROKEN進化ポケモンにテラパゴス再現兵器「ステラーシステム」...猛攻をしのぎながらもついにクワズとカグヤが待つフロックスセンタービルに到達する蒼玻...彼を待ち受ける天命とは…?
ー*-
フロックスセンタービル。
ユキコシ地方で最も高い140mのビルは、内部のオフィスに勤める無数の人間が善の精神を喪失しポケモンとともに暴れまわったことで、その都会キラキラ感に似合わぬ血の匂い漂う空間になっていた。
エレベーターなんぞを使う人間はアホだろ...ゴフク屋の男の言葉に従い、蒼玻は140mぶんの階段を必死に駆け上がる。
「はぁ、はぁ、一生分階段上った気がしますわ。」
「じゃな。俺は恨まれたくないし逮捕もされたくないんでズラかるとするわ。」
薄情にも窓をたたき割って飛び降りていく男にため息をつき、そして蒼玻は、すーっと深呼吸をしてから、重い扉をゆっくりと押し開けた。
「やあ、ようこそ、弊社会長殿下?」
「貴族みたいな呼ばれようですわね、クワズ副会長?」
「…そういう話をしていたんだ。フロックス家はユキコシ一の古い家系で、古代ユキコシ文明の末裔で、
なんとも貴い血筋じゃあないかね、盟約の血筋よ。」
「…何から何まで初耳ですわね。それで?
なんにせよ、わたくしのやるべきことは変わりませんわ。」
「おっと、もう一つ話していたんだった。
深窓令嬢、お前が、本当のアオバ・フロックスじゃないって話だ。」
蒼玻が目を見開く。カグヤが唇を噛む。
「…お姉ちゃん...蒼玻くん。
このカスオヤジ、ちょっと無駄に有能すぎるみたい...」
「蒼玻くん...なるほど、男か。
多重人格やショック性の変質というよりは、憑依だな?さては抜け殻に魂が宿っているんだ。」
大きく息を吐き肩を動かして、蒼玻は覚悟を決めた。
「…確かに有能みたいだな、アンタ。
そうだよ、俺はアオバ・フロックスじゃない。でもな、蒼玻・フロックスとして生きてるんだ。
アンタの目的がなんであれ、俺の正体がなんであれ、やることは一つだ。
カグヤを救い出して、そうして...
...アンタを一発ぶん殴る!」
「話が早いようで助かるよ。俺にとっても、もはや変質して劣化して使えなくなった歯車など不要だ。
せっかくお転婆次女の目の前に来てくれたんだ、そんなボロ雑巾みたいな姿で。お転婆次女の目の前で始末し、お転婆次女を絶望させる糧にしてやる!
新時代の礎となれること、あの世で俺に感謝するがいい...!
ギギギアル、BROKEN進化!」
降り積もる黒い粒子を霧のようにまとい、歪な怪音を響かせ、金色にメッキされた歯車のポケモンが蒼玻を無機質に見つめる。
「…無理させたくはなかったけれど、無理させるしかないようだな、ディアンシー!」
ー*-
かたや、身体のあちこちが傷だらけ、息も絶え絶えのまぼろしポケモン。
かたや、空間へのヒビを幾筋も伸ばし分岐させる、さして珍しくはないリージョンフォームポケモン。
BROKEN進化さえなければ、これくらいでちょうどいいハンデだったのかもしれない。どちらも一撃か二撃で倒れてしまうという意味で。
「ついさっきメガシンカ解除に追い込んだのを見ていたよ。手負いの未強化ポケモンなど相手にならないね。」
”「困難とわかっていても、私はそうしたい!そうすべきだって、心が訴えかけてくるのです!」”
「そうだよな。
ディアンシー、最初っから全力だ!ダイヤストームBREAK!」
金色の粒子とピンクのダイヤが渦を巻き、
「ギギギアル、シャドーダイブBREAK。」
聞くに堪えない不協和音を奏でる歯車と歯車の間から伸びるヒビが、脈動し、グンと大きく拡がった。
原種ギギギアルと同じく0.6mしかないマハリハグルマ_BROKENの身体が、ギリギリ、ヒビへと吸い込まれる。ダイヤの竜巻もまた、空間のヒビへと吸い込まれていく。
「ディアンシー後ろっ!」
どこにもつながらず前兆もない空間の割れ間が突如出現し、マハリハグルマ_BROKENの無機質な身体がディアンシーを背後から突き飛ばした。続けて、ダイヤの渦がディアンシーの身体を襲う。
「ムーンフォースBREAK!」
「吸い込んでやれ。サイドチェンジBREAKだ。」
月光パワーもまたヒビへと消え、そしてお互いの位置が入れ替わる。愕然としながらもディアンシーはとっさに飛びのき、直後、ヒビが開いてムーンフォースが飛び出し真横を通り過ぎてビル窓を突き抜けていった。
(攻撃にも自分自身にも空間転移能力とかチートだろおい!しかもこれで
マハリハグルマのヒビは防御も転移もできて一見無敵だが、非常に細い「線」であり「面」の攻撃には対処できないーそんな定石は、ヒビの幅を0.6mまで広げたこのBROKEN個体には通用しない。
「ちっ...ラディアント・レイピアだ!吸い込ませるな!」
「かげうちBREAKで迎え撃て。」
まっすぐ細長い光の剣と脈動し分岐する漆黒のヒビが、何度も何度も剣戟を交わす。
-先に膝をついたのは、ディアンシーだった。
光の剣にヒビがまとわりつき、網の目のように包みこみ圧縮し粉砕する。
「シャドーダイブBREAK。」
再びヒビへと姿を消したマハリハグルマ_BROKENに、もはやディアンシーは対応できず、そして突如出現して鞭のようにしなるヒビによって壁へ叩きつけられ、マハリハグルマの本体が突撃する。
ディアンシ―は、あえなく崩れ落ちた。
「ディアンシーーッ!」
”「心配、しない、で、まだ、たたかえ...」”
「よそ見している場合かね?」
ディアンシ―を打ち据えたヒビが、しなり、分岐し、伸縮し、そして。
「心理的優位、戦術的優位、戦力的優位。
(避けられなっ…)
蒼玻の身体がヒビによって張り飛ばされ、ピンポン玉のごとく壁際へと転がっていく。
「お姉ちゃんっ!」
「チェックメイト。
ツカツカ、クワズ副会長が革靴の音を響かせる。
立ち上がろうとしていたディアンシーの動きが、止まった。
止まらざるを得なかったーもはや蒼玻の、そしてアオバ・フロックスの肉体の生殺与奪がクワズに握られているのは
カグヤの肩が怒りで震えた。
”「蒼玻さん!」”ーテレパシーが、壁際でうつむく蒼玻を起こそうと脳裏に響く。
血を吐き、蒼玻が目をしばたかせ、顔を前へと向けるークワズの冷酷な瞳が、目の前にあった。
「許さないっ!」ーカグヤが吼える。
クワズは、その大きな右の手のひらを目いっぱいに広げ、蒼玻の頭をつかみ、壁へと叩きつけた。
ゴン!
「お前の手札は尽きた。今日がお前の
ゴン!
口から血を流し、後頭部からも純白の髪に赤がにじむ。
ゴン!
「やめて!お姉ちゃんをそれ以上…お姉ちゃんを殺さないで!」
ゴン!
蒼玻を掴み叩きつけながらも、その目と言葉はカグヤを向いている。
「言ったではないか、認めたではないか。
とっくに中身はお前の姉ではない。お前の姉はもういない。」
ゴン!
「お前は、姉の姿をした者のとなりにいて感傷を慰めていただけだ。」
とっくにすりきれ灰色と暗赤色に汚れていた着物と袴にも、新しい鮮血が染みていく。
「姉の魂が消えた、そのことを心の底で受け入れられず、得体のしれない憑依霊を姉の代替物にしてお姉ちゃんお姉ちゃんと甘え腐っていただけだ、ガキが。」
ゴン!
-その言葉は、カグヤの心の深層を突いた。
「そ、ん、な…」
「ありもしない幻想だ、一度消えた魂が黄泉から戻ってくるなどな。なまじ肉体が腐らず動いているから無駄な希望を持つのだ。
ここでお前の希望を絶ってやる。」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、そんな」
ゴン!
マハリハグルマ_BROKENの歯車が、きしみ、ギチギチと震動し、噛み合わせから数十本もの糸のようなヒビを伸ばし、周囲の輪のトゲからも黒いヒビを無秩序に分岐させていく。
「メッキが剥がれるぞ。」
ゴン!
ヒビは窓をすり抜け、天井をすり抜け、空へと細く侵食し、夕空にいくつものヒビが入る
「おままごとはもはや終わりだ。」
ゴン!
カグヤの身体から、漆黒の粒子が舞った。
お願い、死なないで蒼玻!
あんたとアオバの肉体が今ここで死んだら、カグヤの精神状態とユキコシの未来はどうなっちゃうの!?
使命はまだ残ってる!ここを耐えれば、カグヤを救えるんだから!
次回「蒼玻死す」
みんなもポケモン、ゲットしたまえよ!