お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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 蒼玻は、主人公は敗北した。

 宿敵、クワズはカグヤを絶望させるために、蒼玻をーアオバ・フロックスの肉体を壁にたたきつけ、それとともにカグヤに「アオバ・フロックスはとっくにこの世には存在しない。ここにあるのは憑依霊が動かすアオバの肉体だけだ。そしてアオバを呼び戻す依り代になり得る肉体すらも、今ここで殺す」と、事実を突きつける。

 破局が、始まった。

 


#39 死人二人の挽歌/覚めない夢が醒める時

ー*-

 

 「メッキが剥がれるぞ。」

 

 ゴン!蒼玻の、何度も何度も木壁に叩きつけられた後頭部から、血が流れていく。

 

 「おままごとはもはや終わりだ。」

 

 ゴン!染まる純白の髪と煤けた着物。

 

 もはや猶予はない、自分が何をしようともしまいともクワズは蒼玻を殺すつもりだ...ディアンシーが駆けだそうとして、その石の胴体にヒビが絡みついていることに気付いた。空間の亀裂は覆ったものを空間座標的に固定し、動くことを許さない。

 

 「さらばだ、アオバ・フロックスの顔をした誰かよ。」

 

 持ち上げた頭を、ひときわ大きく壁から離す。だらりと垂れた蒼玻の手足は抵抗のそぶりを見せない。

 

 「そんな、そんな」

 

 もはやうわごと、喘鳴のような声が、椅子に縛り付けられたカグヤの口から洩れる。

 

 黒い粒子が、霧のように、マハリハグルマ_BROKENへとまとわりつく。身体をメッキする金色の光が薄れていく。カグヤの身体へとヒビが伸びていく。

 

 「カグ、ヤ…」

 

 「うん?何かね?遺言?」

 

 壁へと叩きつけようとするクワズの手が、止まった。

 

 途切れ途切れのか細い声が、血を唇から垂らしながら紡がれる。

 

 「カグヤ...

 

 いつか…

 

 …こんなことに、ゴホッ、なる気は...ゲホッ、してたよ。

 

 でも...

 

 ウッ...

 

 俺は...この世界で...

 

 …ッ...ゥッ...

 

 …愉し、かった、ぜ...」

 

 ガクリ、首が前のめりに倒れる。

 

 もたれかかってきた蒼玻の肩を片手で掴んで押しとどめ、再び壁へと叩きつけようとしたクワズは、そこでふと脇に目をやった。

 

 マハリハグルマ_BROKENの周りに、無数の黒いヒビが網目状に発生し、伸長し、分岐していくーまるで、世界を包むかのように。

 

 ギゴガシャーンッッッ!聞くに堪えない不気味な声が、ギコガコ響く歯車の怪音に混じって、本能的に人の背筋を冷たくさせる。

 

 つながり、隙間を埋め、それはもはや空間の「亀裂」ではない、「穴」だ。

 

 「始まるか…!」

 

ー*ー

 

 アオバの、大切なたった一人の姉の肉体が痛めつけられている時、カグヤには何もすることができなかった。縛り付けられて、立ち上がることもできなかった。

 

 …いや、もうどうしようもなく、目をそらしてきた事実を突きつけられていた。

 

 姉の身体に憑りついているナニカが、血と声を漏らす。

 

 「カグ、ヤ…」

 

 その言葉は、喘ぎ声は、カグヤ・フロックスの臨界点だった。

 

 「俺は...この世界で...

 

 …ッ...ゥッ...

 

 …愉し、かった、ぜ...」

 

ー*-

 

 違う。

 

 あれは、あんなのは、お姉ちゃんじゃない。

 

 じゃあ、私の、お姉ちゃんは?

 

 ー「お前は、姉の姿をした者のとなりにいて感傷を慰めていただけだ。」

 

 お姉ちゃんは...お姉ちゃんは...最初から、いなかった...

 

 -「姉の魂が消えた、そのことを心の底で受け入れられず、得体のしれない憑依霊を姉の代替物にしてお姉ちゃんお姉ちゃんと甘え腐っていただけだ」

 

 私には、何もできなかった。何もできない。

 

 ー「ありもしない幻想だ、一度消えた魂が黄泉から戻ってくるなどな。」

 

 もう、お姉ちゃんはいない。お姉ちゃんは、帰ってこない。

 

 ー「ここでお前の希望を絶ってやる。」

 

 お姉ちゃんの顔と身体でしゃべるアレが…

 

 -「愉しかったぜ」

 

 …希望?

 

 -「おままごとはもはや終わりだ。」

 

 全部、全部、偽り…

 

 …守るべきもの、好きなひと、もう、私には...

 

 …私には、何も...

 

ー*-

 

 心にヒビが入り、空間のヒビと共鳴する。

 

 急速に、マハリハグルマ_BROKENから金色が抜け、その歯車を漆黒に染めていく。

 

 心のヒビと世界のヒビがつながり、そしてカグヤとマハリハグルマ_BROKENの間の空間に「穴」がうまれる。

 

 「来たぞ...!」

 

 歯車が、ガチリ、悲鳴のような音を立てて、廻転し、廻天する。

 

 ーマハリハグルマの ギアチェンジ_BROKEN(ニュー_ワールド_オーダー)

 

 「穴」が広がる。1m、2m、3m、4m、5m...

 

 世界が、きしむ。

 

 「穴」の向こうから、不気味な気配が、瞳が覗く。

 

 世界が、悲鳴を叫ぶ。

 

 「穴」から伸びるいくつものヒビが、触手のように生物的に蠢いた。

 

ー*-

 

 …これで、終わりかよ。

 

 あっけなかった。でも、意味もないままぽっくり死んだ前回に比べりゃ、意義ある結末だったかな。

 

 「カグ、ヤ…」

 

 そして、アオバちゃん...

 

 「カグヤ...

 

 いつか…

 

 …こんなことに、ゴホッ、なる気は...ゲホッ、してたよ。」

 

 異世界に転生した俺の役目がこれだったのなら...

 

 …俺の役目は、存在意義は、ここで、幕切れか…

 

 でも...

 

 ウッ...

 

 俺は...この世界で...

 

 …ッ...ゥッ...」

 

 カグヤ。

 

 そして、アオバちゃん。

 

 短いアディッショナルタイムだったが…

 

 「…愉し、かった、ぜ...」

 

 ありがとうな。

 

ー*-

 

 「おねえちゃぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!」

 

 その断末魔にも似た大絶叫が、歯車の怪音も、世界が立てる唸声も、そして不気味な裏世界の呼び声も、すべてをかき消した。

 

 ーこんな、こんな世界、もう、もう...!

 

 ”壊れてしまってもかまわない、お姉ちゃんのいない世界なんか”

 

 世界の穴が、拡がる。クワズが拍手を響かせる。

 

 「ヒビ」の先に赤いツメが生え、金色の頭蓋と深紅の瞳がぎょろりと漆黒の「穴」の奥に光る。

 

 「さあ来い...!2000年前の、闇より顕れし伝説の破壊神!」

 

 ギゴガシャァーーーーンッッッッッ!

 

 灰色の身体がぼんやり見える。

 

 ーマハリハグルマの ギアチェンジ_BROKEN(ニュー_ワールド_オーダー)

 

 ひときわ大きく脈動する世界の穴、その向こうで、金色の頭蓋が閃光した。

 

 地天をないがしろにする、漆黒の閃光。

 

 ーギラティナ(????フォルム)の ロストインパクト!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 「やっと一息ついた時に誰から電話かと思えば、ソニアくんか。どうしたのかね?」

 

 「どうしたのかね?じゃないよカクミガシ博士!

 

 ナナカマド博士とアララギ博士とシンオウチャンピオンのシロナさんがすごい心配して今博士とかチャンピオンとか集めて国際会議してるんだからね!?」

 

 「おっと、それはありがたい話だね。長年相容れないとごねてつかず離れずでやってきたユキコシとユキコシ本草学を心配してくれるなんて。チャンピオンがいない地方だから僭越ながらこの私、ユキコシ本草学会理事長カクミガシの御礼でユキコシを代表させてもらおうか?」

 

 「…けっこうよゆう?なわけないか。

 

 世界中で時空震が観測されて大騒ぎになってるよ?震源のワカナエシティのことは情報が錯綜して全然わかんないし…ナナカマド博士とシロナさんはギンガ団事件以来の大時空震だってパニック寸前だし…

 

 …そっち、どうなってるの?」

 

 「ふむ…単刀直入に言うのなら、時空が崩壊しかけているね。」

 

 「…はい?」

 

 「ほら、キミのところもムゲンダイナ...マクロコスモス事件の時に時空ゆがめてたじゃないか。

 

 アレと同じだよ。いやちょっと違うか。

 

 世界の裏側にはどうもあのアルセウスに匹敵するバケモノがいるらしくて、ソイツがどこぞのアホのおかげで這い出してきてるんじゃないか、コンジキ大学ではそう推定している。PDFで送ろうか?」

 

 「後でお願いしてもいい?

 

 …それで、なんとかなりそうなの?」

 

 「無理だから諦めたまえ。なるようにしかならない。だから迂闊に外部に公開できないんだ。『このままヤツが完全に外に出てきたら、2000年前ヤツがそうしたように、怒り狂って山も川も海も人もポケモンも時空ですらも破壊しつくす』なんて、発表できるわけがないだろう?

 

 2000年前に古代ユキコシ文明がどうやって死傷者の痕跡も残さず幽霊船よろしく消えうせたんだか知らないが、今から同じように逃げ出す方法だってまったく思いつかない。伝説の破壊神を倒す方法?さらに思いつかないね。この地方では時としてマトモなポケモンバトルは成立しないから。」

 

 「…ブラックナイトは英雄とザシアン・ザマゼンタによって止まったよ。」

 

 「…伝承学的見地か。かろうじてそういう対処ができそうな人間は、妹は攫われ姉は抜け殻だ。

 

 まあシロナくんに伝えておいてくれたまえソニアくん。

 

 我々7ぐうじで、ヤツは食い止める。2000年前と同じならひとしきり暴れて満足すれば湖の三神と殴り合って適当に終わってくれるはずだが、そうならなかったとしても身命を賭してユキコシ地方に被害を極限する。何も心配することはない。

 

 たっぷり、私たちユキコシ本草学と7おみやとユキコシ地方への香典でも用意して待っていたまえよ。」

 

 ガチャリ。

 

 「ちょっと!?ちょっと!カクミガシ博士!?ねえってば!」

 

 「ふぅ…

 

 …さて。」

 

 カクミガシは、空を見て大きくため息をついた。

 

 「アブソル、実に逆境だね。」

 

 東ーワカナエの方角の空に、真っ黒なヒビが何本も奔っている。そして、地面も空も海も、かすかにきしみ音を立てていた。

 

 「反例、探してみようか。」

 

 死地へ赴くぞ...とは、さすがの彼女にも、口にできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-*-

 

 「いつか、こんなことになる気は、してたよ。」

 

 …わたくしも、いつかこの日が来るだろうとは、思ってはいたのです。

 

 ただ、まだその時ではない、これはわたくしが望む結末ではない、そうも思っていましたわ。

 

 「異世界に転生した俺の役目がこれだったのなら...

 

 …俺の役目は、存在意義は、ここで、幕切れか」

 

 いいえ。

 

 もし貴方の存在意義が、この世界に転生した価値が、天命がわたくしをここに連れてくることだったとしても。

 

 貴方にはそれ以上の価値がある。意義がある。世界にとってではなくて、わたくしがために。

 

 他ならぬ貴方だから、わたくしは...

 

 「俺は...この世界で...

 

 カグヤ。そして、アオバちゃん。

 

 短いアディッショナルタイムだったが…

 

 愉しかったぜ。」

 

 わたくしも、楽しかったですわ。




 蒼玻は めのまえが まっくらになった!

 ここで人生を終了します

 …人生を終了しています…
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