お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
ーだが、物語は終わらない。
「転生ポケモン令嬢」第一部、フィナーレ!
ー*-
眩く輝くピンクの光が、クワズ副会長の、そして「世界の穴」の向こうのギラティナの網膜を焼いた。
ギゴガシャァーーーーンッッッッッ!
けたたましく響く声が、鼓膜をつんざく。
「なっ…」
なおも高まる、目を開けていられないほどのピンクの光。その中心で、少女は左手人差し指を高く掲げ、芝桜の台座とダイヤの紋章の中央に
…少し躊躇して、考え直したかのように右手の薬指へ嵌めた。
「貴様...!」
「蒼玻くん...!?」
「あらあらあら…
わたくしが少々寝過ごしている間に、ずいぶんとまあ、やんちゃが過ぎるようですわね?」
強まり続けるピンクの光は、キーストーンとディアンシーを煌々と照らし、「世界の穴」を形成する漆黒を光量で塗りつぶしていく。ディアンシーの下半身を縛る「ヒビ」も、目がくらんだかのように、粘菌が光から逃げるかのように引き下がっていく。
「ディアンシー...
直視すること能わざる高貴なる輝きで、ひれ伏せさせますわよ!」
ハート形のピンクダイヤ。
垂れ下がる12本のピンク水晶。
勢いよくたなびく2枚の白いヴェール。
「穴」の向こうから届く邪気を弾き、燦然と輝くピンクの胴体。
強い意思を秘めたピンクの瞳。
「メガディアンシー...!?バカな…!メガシンカを前に解除してから2時間経っていない、トレーナーもポケモンもボロボロ、2度目のメガシンカなどあるはずがない!」
「いいえ、それは違いますわ。
だってわたくし、貴方と戦うのは初めてですもの。」
「あっ...」
カグヤが呆然と目を見開く。
「初めて…?それはどういう…
まあいい。何度立ち上がろうと何度さえずろうと、同じことの繰り返しだ!
回り続けろギギギアル!ニュー_ワールド_オーダー!」
ーマハリハグルマの
ヒビが再び激しく脈動し、「世界の穴」が、ピンクの燦然を押しのけて再び広がり始める。
「同じことの繰り返し?
巻き戻しの間違いではなくって?それも、マイナスへの。」
袖の下から取り出したノブレスボールを、上へと放り投げる。
「5体ともすべてカミツラオロチが倒したはず…」「そっか、その手が!」
「カグヤ、借りますわよ!
蹂躙の時ですわ!マハリハグルマ、ギアチェンジBREAK!」
力場異常、オーラ異常が強まり、時空が軋み歪んだ今だからこそ、その一手がすべてを覆すー少女はそれを信じていた。
ーマハリハグルマの
ボールから飛び出した、くすみ怪音を立てるギギギアルーその歯車の噛み合わせの間から伸びるヒビが、分岐し、伸長し、脈動する。
ーギラティナ(????フォーム)の ロストインパクト!
漆黒の閃光が「世界の穴」から噴き出し、ピンクの光を貫いて減衰しながらも迫り…脈動する太いヒビへ、吸い込まれた。
ギゴシャーッ!?
ヒビの向こうから不気味な呻き声が響き渡る。
同時に、「世界の穴」が、縮み始める。10m、9m、8m、7m...
「ギギギアルを共鳴させて、亀裂の進行を巻き戻す…
…そんなことができるのは...
そうか…貴様、本物のアオバ・フロックス!」
「よくできましたわね。」
異常は正常に塗り替えられる。破綻は均衡へと回帰する。「世界の穴」がついに完全に閉じ、その寸前、ワカナエ島を満たす
クワズのマハリハグルマの金属の身体が、逆流する負荷に耐えられず、ガラガラと響いて床に転がる。
赤い目を持つ闇から顕れし破壊神は、ついにその姿を顕現させることはできなかった。
ー*-
「…これで、こんな逆転で、勝ったとでも?
元はと言えば貴様を、アオバ・フロックスとそのキーストーンを相手にするつもりでいたのだ!
今更本物のアオバ・フロックスが戻ってきたとて、前提条件が戻ったに過ぎないッ!
ユキコシギギギアルとてそうだ!
少々歯車が巻き戻った!
歯車が外れた!
いくつかのパーツを逸失した!
巻き戻し工程が生じた!
だからなんだというのだ?そんなことが大義と大勢と時流の何に影響するというのだ!?
貴様を倒してギギギアルを、次代を巻き直す…!
覚悟を決めろ、覚悟を決めるんだ、深窓令嬢。
「前提条件が戻っただけ?
嗚呼、わたくしを…わたくしたちを、誰だと思っているのかしら!
戻ってなどおりませんわ。ずっと、進んでいたのです!今日!ここまで!」
「貴様は旅の間ずっと意識を失い寝ていた。貴様を動かしていたのはたまたま憑りついた何処かの馬の骨、カスみたいなものだろう?
家柄でなんともならないものもあるんだぞ。」
”「いいえ。
蒼玻さんは確かに、途切れたすべての縁を、繋いでくれました。私とアオバさんを導いて、ここまで来たんです。
ですから、私とアオバさんは、彼の苦しみも、努力も、存在も」”
「蒼玻くんの旅のすべて、無駄に、無意味に、無意義になんて、させはしませんわ!
ディアンシー、ダイヤストーム!」
「ほざけッ!
遅いわッ、既にエネルギー充填は完了したッ!
目標はセンタービル最上階!
撃って撃って撃ちまくれッ!」
-メガディアンシーの ダイヤストーム!
ーEmulated_”テラクラスター” powered by ステラーシステム!
フロックスセンタービル最上階の広い部屋を、ピンクダイヤが燦然と満たす。
フロックスセンタービル屋上の五角形の砲座から5方向へ飛び出した極細ビームが、市街の上空を伸びて何度も反射し、センタービル最上階のガラス窓を一点ずつだけ蒸発させて入射する。
「同じことの繰り返しと言っただろう!
一度1発で撃ち抜かれたディアンシーが、5発同時のテラクラスターに耐えられるわけなどない!メガシンカでディアンシー本体の防御力はむしろダウンする!
失敗の繰り返しは!勝算の代替には!ならないッ!」
「それで?
言いたいことは、それだけかしら?」
ピンクダイヤが、次々と蒸発し、かち割られ、テラクラスターのビームが部屋中を奔る。
「ディアンシー、わたくしの伝えたいこと、わかりますわよね?
『答え』、見えておりますわよね?」
”「はい」”
いくらダイヤを生み出しても、ビームを阻むことはできず、Emulated_”テラクラスター”の白いビームはピンクの光を裂き、部屋をピアノ線のように迸る。
「トリックルーム!」
「時間を稼いだところで連続照射し続ければよいだけ!すべてが無意味!
さあ、絶望の時だッ!」
減速した空間の中で、時価数百万いや数千万のピンクダイヤが、はじけ飛び、蒸発し、二酸化炭素へと次々霧散して、5方向から、いや無数の方向から、引き絞られたテラクラスターがアオバとメガディアンシ―に迫った。
ー*-
「せっかくユキコシが面白いことになっていると聞いて、部下を置いて一足早く帰ってきたというのに、そろそろ花火で祭はお開き、ですか?」
「…きみは、誰だい?」
「おや、これはホウエンチャンピオンにワカナエぐうじ。
先日は貴方の同業者と前同業者にお世話になりました。私はホープ団空軍中将、アルソミトラです。
「…戦わざるを得ないみたいだね。」「俺にまだ根性を求めるかよ。」
「いや、やめといたほうがいいんじゃないかな、ダイゴにオリザ。
アルソミトラは2体も伝説のポケモンを奪い持っている。勝てないし、さらに被害は甚大になる。キミたちの目的からしてもワカナエシティをまるごと石像にするのはとても非効率的な話だろう?」
「…それは...」「…そうかもしれねえが…」
「ラスト団のコンフリー、ウキクサから聞いたよりも話が分かる人間みたいですね。」
「わかってくれたついでに、1つビジネスと行こうじゃないか。」
「…私が赦せど、ユキコシ人などハッカが赦してくれませんよ?その手錠を外すことですら」
「対価はBROKEN進化の技術と、キミたちが追い続ける偉大なる祖先、古代ユキコシ文明についての知識…これでもかな?それはさすがに非効率的じゃないかい?」
「乗った。」
ー*ー
ダイヤモンドの語源:無敵、屈しないという意味の古代ギリシア語「アダマス」。
シンチレーション:表面反射によるチカチカとした輝き。
ブリリアンシー:比較的少ない回数ダイヤ内で反射して戻ってきた光による、白く強い輝き。
ディスパーション:ダイヤ内部で反射を繰り返し、プリズム効果で虹色となった輝き。
~フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「ダイヤモンド」の項目より~
ー*-
「なぜ...?
なぜ、まだ、テラクラスターが到達していない?
なぜ、まだ、アオバ・フロックスを仕留められない!?」
無数の光条が網目のように奔るトリックルームの中心で、アオバは涼しい顔で純白の髪をかき上げ、後頭部にこびりついた血糊を飛び散らせる。
「あぁ、そっか。」
ここまで黙って舌戦とバトルを見ていたかに見えたカグヤが、久々に言葉を発した。憧れの姉へキラキラした瞳を向けている。
「ほら。レーザーをダイヤモンドに当てたら全方向に光を放つ、そんな実験があったんだよね。」
ダイヤモンドの反射率は17%、屈折率は2.417、分散率は0.044ー強力なEmulated_”テラクラスター”はその細く引き絞られたビームに膨大なエネルギーを秘め、700℃の加熱やハンマーの打撃ですら耐えられないダイヤモンドなど確かに大した盾にはならない。ただし、この攻撃は特殊で、「ビームが命中・貫通した数秒後にダメージが発揮される」という特徴がある。すなわちビームはエネルギーの媒体を光に頼っている以上、ダイヤの貫通数秒後にそのエネルギーでダイヤを破壊できても、ダイヤモンドの光学特性そのものの影響を免れることはできないのだ。
「航空障害灯の反射ミラーでビームを跳ね返してた、ってことは、本気になれば手鏡でも跳ね返せる光学ビームであることは、初期設計と変わりないんでしょ?」
エミュレーテッド...あくまでテラクラスターではなく、テラクラスターの性質と攻撃力を再現したモノに過ぎない。光学ビームという機械的兵器による再現の限界、作用時間という技術的な限界、すべてが裏目に出る。
ダイヤストームによって生み出された無数のダイヤは、テラクラスターによって破壊されるはるか前に、入射したテラクラスターを内部で無数に反射・屈折・分散させて無数の光線へ分解し出射していく。まして時間が減速した空間で、決して前方へと飛び出すことはなく、そして、どれだけダイヤを砕こうとも、「到達すれば必殺のビーム」が目標に到達することは決してない。
強力なEmulated_”テラクラスター”に立ち向かうのに重要なのはダイヤモンドの耐久性ではなく、ダイヤの盾の数でもなかった。ダイヤの配置と、個々のダイヤのカットー計算されつくした美しさだったのだ。
ピンクの輝きが強まり続け、ついに、トリックルームの内部が見えなくなった。
「緻密にダイヤを制御して、すべての光の散乱が、自分たちに当たらないようにしている…!?そんな、そんなことができるわけが…!」
「優秀なダイヤカット職人は光の反射・屈折・分散を計算しつくして最上の輝きを生むことに人生を賭けるんだよ?
ましてダイヤモンドを自ら作り出すまぼろしのポケモンの特殊個体の専用ワザ『ダイヤストーム』...本当にできないと思う?
ところでさ。
…今、トリックルームが解除されたら、どうなるんだろうね?」
「ビームの速度は光速、トリックルームなしではいくら無数のダイヤで散乱させても、ビームのほうが早…い…」
光は媒体中光速度が低いところから高いところへ抜ける時に屈折率が高くなり、したがって極めて光速度が遅いトリックルーム中の光のほとんどは屈折率が高すぎて全反射ー外へ出ることなく内部へ反射される。光の出入りが極めて特殊だからこそ「”トリック”ルーム」と呼ばれる摩訶不思議な空間になるのだ。
ー光速度とトリックルームについてそこまで考え、そしてクワズは硬直し、叫んだ。
「照射ストップ!
おいステラーシステムAI!STOPだ!エマージェンシーストップ!」
トリックルームは直視できないほどのピンクの光に満ちている。だがそれは分散と屈折の結果無害になった「余り」に過ぎず、そしてトリックルームに閉じ込められた光は見た目よりもずっと多いのだ。
トリックルームの光全反射が解けた時、数分分の5発のEmulated_”テラクラスター”のエネルギーはすべて外へ放出される。もっと言えば、精密にダイヤストームを制御して5発のビームの散乱を管理しているメガディアンシーが、本当にトリックルーム解除時のビームの放出方向をコントロールできないと言い切れるのか?
「くっ、こうなれば...おいアオバ・フロックス!聞こえるか!俺はカグヤ・フロックスを盾にする!
蓄えたビームを安全に解放しろ!」
「無駄だし千日手だと思うよ。だいたいあれだけ細いビームに対して私を盾にするには、少々ガタイが良すぎるんじゃないの?
それとも私を人質にでもしてみる?それで暴発したらすべてが無意味だけどね。」
どうしたって、もはやクワズに打つ手はないのだ。
「もう『代替策』はないよ。」
「馬鹿な…ありえん…この俺が、なんの代替案もなく、完封、されるだと…?」
クワズは、ガクリとうなだれた。
かと思うと、おもむろに顔をビクリを上げた。
「そうだ…もはや、本計画の続行は、欠けたピースとロスした納期を埋め合わせることができない…
だが、俺は諦めない!」
全力疾走。
ドン!窓際に爆炎が上がる。
「…うそ...!?」
「さらばだ、盟約の血筋よ。
いずれまた、替えの効かない大義がお互いにあるのなら、ぶつかることもあろう!」
フロックスセンタービル最上階から飛び降りていくクワズのすぐ真上を、太陽もかすむ膨大な光量に収束されたEmulated_”テラクラスター”のエネルギーが、宇宙へ突き抜けていった。
※「本気になれば手鏡でも跳ね返せるビーム」:理論上は「膨大なエネルギーを光に込める」光学ビームである以上は鏡で反射できる理屈ですが、スパッタリングミラーであっても反射率は98%がせいぜい、つまりエネルギーのうち数%~十数%は鏡に吸収されます。手鏡程度では一瞬で蒸発して手に到達すること請け合いなのでオススメしません(ちなみに少しでも攻撃を受ければ吸収したエネルギーによって鏡の表面構造が変化して反射率がどんどん低下するため、反射による対抗は完全に無謀)。
・「ダイヤ・百花繚乱(ダイヤストーム&トリックルーム)」
アオバとメガディアンシ―が編み出した、ステラーシステムのビーム攻撃への対処法。
通常、ディアンシーは生み出した高硬度のダイヤによって攻撃を防ぐ。しかしあまりにエネルギーが強い「Emulated_”テラクラスター”」に対しダイヤを盾にしても、割れるか熱量で蒸発してしまう。
この方法では、トリックルームによって光学ビームを全反射封じ込めした空間内で、減速した光学ビームに多数のダイヤを当てて光線を無数に反射・屈折・分散させ、一本一本の光線を弱めつつ自らに到達しない方向へ散乱させる。このため極細の光学ビーム攻撃を完封し貯蔵することが可能。
無数のダイヤを生み出しては消し飛ばされないといけないため、防御力を削ってでも攻撃力を上げたメガディアンシーの能力でダイヤ生成を強化しないと発動できない奥義。またステラーシステムは超長射程ビーム砲であったためビームを細くしぼっていて光学的にコントロールできたが、幅が太い(直系0.2㎜以上)と散乱方向が多岐にわたりすぎてコントロールできないなど、実質的には対ステラーシステム専用の奥義。「強さ」だけではなく「美しさ」の観点に重きを置く生まれながらのお嬢様だからこそたどり着けた解答である。