お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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あ~~~!今すぐ訂正して引用文献探して明日には再提出しないといけない卒論をほっぽり出してやるハーメルンの投稿愉しい~~!

※今話、「ポケ食」に関わる描写があります。


#4 イーブイと時空の迷い子

ー*ー

 

 「どうしてるのかしらと思っていましたけど、やっぱりそうするしかないのですわね…」

 

 蒼玻は「活〆ドジョッチ」と書かれたパックが入った袋を手に、トキトビシティのさびれた街並みを歩いていた。

 

 (ドジョッチの養殖場は哀しい景色過ぎたな…)

 

 人は霞を食って生きるに非ず、ポケモンしか動物がいない世界では動物性食品の選択肢はおのずと限られる。部屋に引きこもるならともかく、自然が厳しく冬は寒いユキコシ地方でベジタリアンするのは至難だし、ポケモンフーズの材料になっている植物性タンパクはコストが高いので「ポケモン肉使用フーズによる同種ポケモンの共食い事故リスク」を避ける理由でしか使われない。多くの贅沢ができない人間はポケモン食をせざるを得ないのである。

 

 (お嬢様だからその気になればポケモンを口にしないで済むだけのお金あるんじゃないかな…

 

 …いや、カグヤはこれも込みでこの世界に順応してほしいんだろうな…)

 

 それにしても、蒼玻にとっては何もかもが物珍しく見える。街を歩けば、決して人通りは多くないとはいえガーディやポチエナ、果てはヨーテリーを連れて人が歩いているし、電柱の上にはポッポが止まっている。遠くの海で跳ねているのはタマンタかヨワシだろうか?

 

 家々も、駐車場がない代わりに大きな庭を持つところが多い。トラックならともかく乗用車ならライドポケモンのほうが便利なのだろう(トキトビ島ー本土間の交通がカーフェリーとジェットフォイルしかなく、大荷物を搬入するのでなければカーフェリーを使うよりもボールにライドポケモンを入れてジェットフォイルに乗った方が手軽かつ安くて速い、という離島ならではの事情もある)

 

 「ポケモンフーズ大安売り中!今ならきのみもお付けします!...商魂たくましいですわね…」

 

 (しかもこれ、カグヤが言ってた相場価格と大して変わらねぇじゃねえか。…定価を高めにして値引きでお得感を出す戦術か…)

 

 冤罪である(離島の物価は高い)。

 

 「カグヤは、手持ちの分はあると言っていましたわね…」

 

 (自分は、ポケモンフーズを買う前にまずポケモンを飼わなくちゃだな…)

 

 おみや巡りを成就させてはてやま連峰かえらずの湖の三体に頼みごとをしろ、カグヤはそう言った。そしてもちろん、ポケモントレーナーとして強くなるためにはまずポケモンが必要である。

 

 「カグヤは最初の一体はもらうのもアリって言ってましたわね…」

 

 (ただ、ユキコシ最初の一体って将来性がないんだよな…御三家じゃないから…)

 

 他の地方と異なり、ユキコシ地方では「博士が炎・水・草の御三家たねポケモンのうち一体を渡す」というイベントは存在しない。最初の一体は最寄りの市役所・町村役場またはその支所で与えられるもの(細長い地方であるし冬は移動が大変なので博士のところへ行くのは厳しい)だし、与えられるのはノーマルタイプのウールー(ただしコンジキシティ一帯、日本で言う加賀地方だけはアブソル)である。

 

 これはユキコシ地方では冬の積雪が数メートルに達しさえすることが大きく関係する。ユキコシでトレーナーをやっていくつもりなら、1に防寒2に防寒34がなくて5に積雪対策であり、人もポケモンもその羽毛で温まることができるウールーは最初の一体にぴったりなのだーただ、はてやまに挑むユキコシトップレベルのトレーナーになるのには向いていないだけで。

 

 (それに防寒は大事だけど、カグヤがウールー持ってるらしいし)

 

 最初の一体は必要ない。選択肢は(それを実現する手段はともかく)無限にある。ただ、選択肢が増えると人間はかえって悩むものなのだ。

 

 (いっそコンジキシティまで行ってアブソルを…いやでもトキトビ島(佐渡)からコンジキシティ(金沢)は遠すぎるよな…)

 

 ユキコシ地方では古くからメガシンカが存在する(ただし、その歴史についてはユキコシ地方の特殊な力場が起こす特有現象と混同されてきたフシがあり、さかのぼることは難しいが)。メガアブソルという強力な戦力を手に入れることは難しくはあるが不可能ではない…が、コンジキシティに行くのならその前に一体でもいいから捕獲して強化し、アブソルは厳選した個体を使うべきだ。

 

 「…どこかに、ほどよく強くてほどよく手軽で懐きやすいポケモン、落ちてませんかしらね…?」

 

 ただの買い出しというだけではなく、それもあって蒼玻はトキトビシティをうろついていたのである。トレーナーが他にも歩いているここなら野生のポケモンが牙をむいても安全だ。

 

 (…あれはヤブクロン、初心者が扱えるポケモンじゃない。

 

 …あれはコラッタ、将来性がない。

 

 …あれはロコン...えっ、アローラロコン!?アローラロコンナンデ!?)

 

 アローラロコンではなく、アローラロコンによく似たユキコシロコンである。収斂進化の力ってすげぇ!

 

 (あれはナゾノクサ、あっ逃げ出した

 

 あれは...あれは、段ボール?)

 

 段ボールがもぞもぞ動いている。

 

 「…捨てイーブイ拾ってください。なるほどですわね。」

 

 現代日本で捨て犬捨て猫を見ることはもうほとんどない。少なくとも都会育ちの蒼玻は見たことがない。

 

 (おおらかだよなこの世界…いい意味でも悪い意味でも…)

 

 段ボールの中から、イーブイはつぶらなひとみで蒼玻を見上げてきた。

 

 「か、かわいいですわ…」

 

 (さすがピカチュウに並ぶポケモンのアイドル…

 

 それにしてもイーブイ、ありだな…8通りのどれに進化しても強いはずだし…野生ポケモンを最初の一体にするにはバトルできないから手なづけるかカグヤの力を借りなくちゃいけないけど、拾ってください、だからな…)

 

 どちらにせよすぐには決められない。大事なことだし、それに今の蒼玻の身体は蒼玻だけのものではなくアオバ嬢のものでもあり、従って蒼玻のパートナーはアオバのパートナーにもなるのだ。一人で勝手に決めていいことではない。

 

 (帰って、カグヤに相談するか…)

 

 前世より長く美しい後ろ髪をイーブイの鳴き声に引かれつつ、蒼玻はその場を後にした。

 

 鳴き声が徐々に遠ざかる。それが急に、別の音で隠された。

 

 やたら黒く臭い煙を吐き、トラックが乱暴な運転で路地を抜けてきた。蒼玻は目を丸くしながらあわてて軒下に飛び退く。

 

 (あっぶな!そのうちそこらの家に突っ込むぞ…!?)

 

 トラックのエンジン音が止まる。ドアを乱暴に開く音が響く。

 

 (後ろ…捨てイーブイのあたり…?)

 

 振り向く。大柄な男が、イーブイの入った段ボールを抱え、乱暴にトラックの荷台へと放り込もうとしていた。

 

 (ボールはない…!狩猟免許も掲示してなかった…!)

 

 違法密猟、つまりはポケモンハンターだ。自分のパートナーにするためではなく、許可を得た食用狩猟でもなく、好事家のためにポケモンを無力化して狩っているのだ。

 

 「待ちなさい。」

 

 自分でも気づかないうちに、蒼玻は声を張り上げていた。高いソプラノが、街に響く。

 

 「…お?小娘がなんだ?」

 

 「そのイーブイ、どうするつもりですの?」

 

 「どうするって、見りゃわかるだろ?売るんだよ。」

 

 「…それは、違法なのではありませんの?見たところ許可証を掲示されてませんしそもそもこんな街中で狩猟許可は降りませんわよね…?」

 

 食用ポケモン狩猟は基本的には他にトレーナーがいないところで行われるー他のトレーナーのポケモンを狩ってしまう事故があったからである(閉鎖環境の養殖場はその限りではない)。被捕獲ポケモンは別のボールに入らないことを活かしたボール類似装置によるチェッカーは存在するが、それだって故障しないとは限らないのだ。

 

 「…バレちったか。 

 

 そうさ。俺らみたいなゴフク屋の構成員に許可がおりるわけないもんな。」

 

 「呉服屋?服飾の方が、なぜ?」

 

 「おうおう、ゴフク屋のことを知らないとはお前ユキコシの人間じゃねえな?

 

 いいか小娘、余所者に俺が教えてやるんだ、ありがたーく聞け。

 

 世の中にはな、俺みたいな悪いやつが、いーっぱい、いるんだよ。悪いことを考えるやつも、悪いことをしたいやつも。

 

 でも、悪いことを考えるやつが、自分ひとりじゃできない時に、周りの連中を誘うのはナーンセンス、だろ?誰かいいやつがいて捕まっちまう。

 

 悪いやつってのはな、考えててもやってても、居場所がねえんだ。だから、大旦那のやつが、俺みてえな悪ーいやつの居場所を作ってくれてるんだよ。悪いやつが悪いやつどうし集まって悪いやつの頼みを聞いたり悪いことを助け合える、悪の天国をな…!」

 

 (ロケット団みたいな悪の組織のしたっぱかと思ったけど、まさかの悪の営利団体かよ…!ユキコシにゃそんなのがいるのか…!?)

 

 ロケット団なら世界征服アクア団マグマ団なら海陸の拡大ギンガ団なら宇宙創造プラズマ団ならポケモンの独占と支配フレア団なら人類の選民マクロコスモスなら無限のエネルギー…ほとんどの悪の組織が志を持つ一方で、このゴフク屋とやらは志のない悪の集まりながらもスカル団やエール団のような烏合の衆ではなく、さながらかのモリアーティ教授の犯罪結社かあるいは日本の暴力団のように組織化されているのである。厄介極まりない。

 

 「…それで、その悪ーい貴方は、そのイーブイで何をなさるおつもりですの?ことと次第によってはわたくし見逃せませんわよ。」

 

 「何って、決まってんだろ?」

 

 カスみたいなポケモンでも使い道はいくらでもあるんだよ。寒さを乗り切るにはタンパク質が必要だからな。」

 

 誰かがやらなきゃいけねえ原罪だろ?悪がやるにゃぴーったりだ…などと、男はうそぶいてみせた。

 

 (悪ならではのみたいなこと言ってるけど違法密猟には変わりねえじゃんか!)

 

 そもそも食用狩猟にしても、麻酔などを駆使しポケモンを痛めつけないこと、わざわざ狩らなくてもいいなら狩らないことは鉄則である。拾ってくださいと書かれた弱ったポケモンを段ボールごと放り投げるのは倫理的ではない。

 

 「捨てられたイーブイってことは、価値のないポケモンってことだ。生きてても意味のないものの有効利用、え?なんか文句あるか?」

 

 (価値のない命、生きてても意味がない…か。)

 

 蒼玻は、カグヤに渡されていた、特殊なモンスターボール…赤と紫のボール(ノブレスボール)を袖口から出して、放り投げた。

 

 ノブレスボールの特徴は、金属とプラスチックではなく寒さによって実が引き締まったユキコシぼっくりを素材とすることによる、軌道の安定…美しい飛跡を描き、ボールはトラックの荷台、段ボール箱の中へと吸い込まれた。

 

 「おいっ!」

 

 蒼玻が走って、トラックの荷台へと飛び乗る。

 

 (スーパーマサラ人だっけか…?ネットミームもこりゃ本当かもな…!)

 

 「…ゲットしちまうか…それやられると出荷できねえな…いやハンターJの残党かプラズマ団残党の仲間に頼ればいけるか…」

 

 男がコキコキ首をひねる。

 

 蒼玻は、段ボール箱の中で転がるノブレスボールを拾い上げ、ボタンを押した。

 

 「…ついていただけますかしら?イーブイ」

 

 イーブイが、首を傾げる。表情は、不安に満ちていた。

 

 「…貴女にもわたくしにも、価値なんて、生きている意義なんて、なかったのかもしれない。

 

 ですけれど、わたくしは貴女に、生きていてほしい、そう思いましたの。」

 

 (思ってしまいましたの、か…)

 

 ー蒼玻はずっと、何の強みもない楽しみもない無色(ノーマル)な自分が、なんのために、どんな価値があって生きているのか、わからないでいた。そして、意義なき生に意味も意思も持てず、火が消えるように死んだ。

 

 だから、意義を、価値を与えたい。そして今世こそ、自分の生にも価値を持ちたかった。

 

 「わたくしが貴女に、生きてそばにいてくれるだけで価値がある大切な存在と思うように、貴女にとってのわたくしがそうであったらいいなと思うのです。」

 

 蒼玻が、腕を広げる。

 

 イーブイは、足を伸ばし、蒼玻の腕の中に飛び込んだ。

 

 「来てくれますのね!」

 

 (後悔はさせない。例え、この身体が元の持ち主の下へ戻っても。)

 

 「くっせえメロドラマはおしまいだ。悪ってのは面子が大事でな?

 

 行け、ドラピオン!」

 

 咄嗟に、蒼玻は身体を翻し、トラックの荷台から転げ落ちた。身体能力が上がってもスキルが上がっているわけではなく、受け身に失敗して身体をアスファルトに打ち付けることになるが、かまっている場合ではない。

 

 ドラピオンの尻尾の針が、トラックの荷台をぶち抜く。

 

 「イーブイ、早速で申し訳ありませんが、いけますかしら?」

 

 (逃げられれば、逃げられなくても誰かが聞きつけてやってくるまで時間を稼げればそれでいい…!)

 

 「ミサイルばり!」

 

 「スピードスター!」

 

 煙が舞う。  

 

 (とにかく派手に、助けを…!)

 

 「時間稼ぎのつもりか?ハサミギロチンだ。決めろ。」

 

 (確か一撃必殺の命中率は低い…)「ギリギリまで避けて至近距離からスピードスター!」

 

 ーハサミが、きらめいた。

 

 イーブイが、倒れる。

 

 「小娘新米か?素人にしちゃーいー判断だ。ただまあ…悪には悪運ってやつがあるってこった。」

 

 「そんな…」

 

 蒼玻が、崩れ落ちる。

 

 ポケモンはこの世界ではゲームではない。確率論は全ベットできるようなシロモノではない。…突きつけられるのは、残酷な「現実」だ。

 

 「さーて、覚悟はできたかー?」

 

 イーブイを左腕につまみ上げ、ドラピオンの尻尾は蒼玻へと振り上げられる。

 

ー*ー

 

 「蹂躙して、マハリハグルマ!」 

 

 甲高い声が響き渡った。

 

 蒼玻に今にも突き刺さろうとするドラピオンの尻尾の手前、空間にヒビが走り、黒みを帯びた電撃がドラピオンを貫く。

 

 続けて、薄汚れた歯車が何回もブーメランのように繰り返し飛来し、ドラピオンの全身を打ち据える。

 

 「ミサイルばりで迎え撃てっ!」

 

 奮闘するドラピオンの足元をすり抜けて、気絶したイーブイを回収し、トラックの影に隠れ、蒼玻はやっと、救援者の姿をー声でとっくにわかってはいたがー見ることができた。

 

 「マハリハグルマ、かげうち、シャドーダイブ。」

 

 何人かおずおず現れたトレーナーの先頭で、赤いドレスと白いボブカットが寂れた街並みに映えている。

 

 「カグヤっ!?」

 

 (それに、ギギギアル…?でもなんかおかしい…)

 

 「なんとか間に合ったよ、お姉ちゃん。」

 

 (目が笑ってない…)

 

 彼女の大事な姉から身体を預かっているのだ。危険にさらしたら怒って当然である。

 

 マハリハグルマと呼ばれたそのポケモンは、確かにギギギアルによく似ていた。しかし、その身体はツヤツヤの金属光沢を失っていたし、歯車が回るたびに歪な怪音がわずかに聞こえるし、何より歯車どうしが噛み合う箇所から、空間に黒いヒビのようなものが走っている。

 

 「カグヤ、そのポケモンは?」

 

 マハリハグルマから伸びるヒビが大きく拡大し、漆黒のナニカがドラピオンに接触する。ただ触れただけなのに、ドラピオンは大きくのけぞった。

 

 「マハリハグルマ…ユキコシのギギギアルは、世界とつながって回っているの。」

 

 ミサイルばりが空を舞いマハリハグルマに殺到する…またもやヒビが拡大、無数に枝分かれし、ミサイルばりのすべてが呑み込まれて消え去った。

 

 (にしては…回るたびに響く音はなんだ?噛み合いから伸びる「空間の割れ目」みたいなものはなんだ?)

 

 マハリハグルマの一番小さい歯車が、漆黒のヒビに呑み込まれる。直後、ドラピオンの真後ろに前兆なくヒビが発生し、ちびギアが飛び出してドラピオンの尻を打ち付ける。

 

 (あれじゃ、まるで、つながっている世界が壊れているみたいな…)

 

 「決めるよ、ラスターカノン!」

 

 「ドラピオン、あなをほれ!」

 

 アスファルトが砕かれ、ドラピオンの姿が消える。

 

 マハリハグルマの噛み合いから伸びるヒビが、ズモモと地面へと突き刺さる。  

 

 「おいおいそいつぁ…!?」「チェックメイト、だよ。」

 

 銀色のビームが地中から迸り、ドラピオンを空高く打ち上げた。

 

ー*ー

 

 「それでお姉ちゃん、その子連れてくんだ。」

 

 ホテルの一室で、蒼玻の膝にちょこんと座るイーブイの頭をカグヤのしなやかで小さい手がなでる。

 

 「捨てイーブイね…

 

 …かっこよくキメて来たつもりなのはいいけど、たぶんその子、一生進化しないよ?」

 

 「えっ」

 

 アスピリンくれ、蒼玻は天井を仰ぎ呟いた。

 

ー*-

 

 ワカナエシティ、ワカナエ島。

 

 高層ビルが立ち並ぶユキコシ最大の都市でもっとも高いランドマークこそが、エンジュシティから来た観光客に「ウチはとっくにやけたとうしかあらへんけど、ワカナエのもんはピカピカでご立派な”ねじれたとう”やなぁ」と揶揄されるフロックスセンタービルである。

 

 ユキコシ地方の経済・金融の中枢を一手に担うフロックス・ホールディンクスの本拠地、ポッキーの箱をねじったようなビルの最上階、地上140mで、ビルが本来主とあおぐアオバ・フロックス次期会長の座るべきシックな会長席は、今日も空席となっていた。

 

 「ヌスビト、お前本当にワルだな。」

 

 会長席の脇に置かれた、金銀があしらわれたゴージャスな椅子に身体を深くうずめ、ソファに座るでっぷりと太った男へと問いかける。

 

 「『いいえ、副会長様ほどでは。』とでも答えればよいのですかな?」

 

 太った男、ヌスビトは、楽しそうにからからと笑い声を立てたーしかし、その鷹のように鋭い目は笑っていない。

 

 「時代劇で聞いたこのやり取りを、俺がすることになろうとはな。」

 

 「我等ゴフク屋が、それだけ長い間、悪の代名詞として語り継がれている…よきかなよきかなですな。」

 

 「時代劇と同じく、本当に、カネさえ積めばなんでもやるとは、ハハ、呆れかえったよ。」

 

 「副会長様こそ、今やユキコシのカネを握っているのに、カネだけでは成し遂げられない境地をも目指しておられる。そのあくなき悪の志、このヌスビト、感服しますな。」

 

 「カネだけではなし得ない…か。

 

 ヌスビト、お前、カネを積んでもフロックスの血筋を手に入れられないと示唆している…わけではあるまいな?」

 

 ヌスビトは、大仰にのけぞってみせた。

 

 「おお怖い怖い。まさかそのようなことは。

 

 前会長夫妻の暗殺に、隠居ジジイをホープ団の襲撃に見せかけて暗殺...ご要望通り、フロックス家の直系は今や小童二人それもおなごではないですか。」

 

 カネでは成し遂げられないことー副会長にのし上がったこの男にとって、フロックス家の直系の血筋、ディアンシーと盟約を結んだ名家の血筋が、何よりも必要だった。だから、ヌスビトと手を組みあくどいことはあらかたやってフロックス・ホールディンクスを簒奪しても会長に就任はしなかった。

 

 「ただ...

 

 下からの報告なのですが、どうもディアンシーは盟約の血筋を見捨てたのではないか、という話があるのですな。」

 

 「聞いている。おそらく盟約の指輪もキーストーンとしての機能を失っただろうな。まあ、キーストーンに比べて手間ではあるが人間本体を操っても特に変わりはない。必要なのは盟約の血筋フロックスの心なのだからな。」

 

 「プラズマ団とフレア団の洗脳技術はしっかりリバースエンジニアリング済みですからな。人間の洗脳もお茶の子さいさいで。」

 

 「お転婆次女がマワリハグルマを持ち出したことも、姉妹が傀儡になるのを恐れて逃げ出したことも想定外ではあったが…しかし軌道修正は可能だ。」

 

 「ですな。トキトビ島から出ればどうやってもワカナエ港を経由しますし、ま、任せていただければ。」

 

 悪人二人のいびつな笑い声は、しばらく響き続けていた。

 




ゴフク屋 

 ユキコシ地方のならず者の集団。自然もポケモンも厳しいユキコシでは、悪の組織はしたっぱを集めて自ら悪事をすることはせず、汚れ仕事のほとんどをゴフク屋に外注する。
 ユキコシ地方では、他の地方の組織からやってきた人員が壊滅後も取り残されることが多い(1年のうち数か月を物理的に封鎖されてしまうことも原因である)。いろいろな組織の残党と技術を取り込み、ゴフク屋は近年膨張している。 
 ロケット団の下請けもしていたが、ロケット団の目標が世界征服だと知るや「征服された不自由な世界ではなく、悪のはびこる自由な世界がいい」と抗争を起こしユキコシから叩き出してしまうなど、悪ならではのプライドと実力を持つ。

はつげんちょうせい(イーブイの特性)

 ユキコシ在来のイーブイの特性。ポケモン進化とは遺伝子発現による変態であるが、遺伝子が不安定なイーブイは周りの環境により突然変異を起こしやすく、発現パターンによって8通りに進化する。しかし2000年前にユキコシのカタストロフに巻き込まれたイーブイの子孫の場合、ただでさえ不安定な遺伝子のいくつかが欠損しているため遺伝子発現を安定させることができず、進化できないか例え進化しても進化状態を数分しか維持できない。
 はつげんちょうせいの有無は簡単に区別できないことから、はつげんちょうせい持ちと後から分かってハズレとみなされ捨てられることが圧倒的に多い。
 

マハリハグルマ はがね/ゴースト

 ユキコシ地方のギギギアル。ツヤは失われ、歯車が回るたびに怪音が鳴り、歯車が噛み合う部分からは空間へヒビがはしっている。
 攻撃の際には空間のヒビの拡大縮小出現消失とヒビへの吸い込み・吐き出しを変幻自在に使う。
 世界とつながっていると伝えられる。
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