お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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前回までのあらすじ

 現代日本からの転生者、蒼玻。ユキコシ地方が誇るアオバ・フロックス令嬢は植物状態になったところで彼に憑依され、憑依問題を解決するための旅のさなかで彼を好ましく思うも、自らの会社を基点に起きる大陰謀の阻止によって彼を自らから失ってしまう。

 いかなるリスクをも乗り越え、アオバは蒼玻を取り戻したかった。自分を案ずる妹カグヤの制止を越え、向かった先はユキコシが西、霊魂・オカルトを古くから担当するウスベニおみや(ウスベニジム)。

 ウスベニおみやぐうじイチシノに挑み勝利したアオバはついに、自らの中にまだ蒼玻が残っているのか、どうすれば蒼玻を取り返せるのか、その答えを求める…


#43 「あの、誰にも超えられないってそういう意味じゃ...」

ー*-

 

 つわものどもが夢のあと。

 

 戦によって焼け落ちたウスベニの谷間にも、やがて人は戻ってきました。それはかつての住人であり、あるいは流民でした。

 

 彼らとて生きていかなければならなかった。ゆえに彼らはとのさまを見捨てたのですが、怒れるサムライの霊はそれを斟酌しません。逃げずに焼け死んだかつての隣人たちもです。夜な夜な谷間に満ちる焔はついに谷間に街をつくることを許しませんでした。そればかりか、谷の外に作られた新たなウスベニシティにも、その祟りは及びました。

 

 人とポケモンは、手をあわせて立ち上がりました。「いつまでも亡霊の恨みに苦しみ続けてたまるか」その一心で。ですが怪異どころか通常のゴーストポケモンすら理解が乏しかった時代、彼らは案の定苦戦します。

 

 そんな彼らに、力を貸した者がいました。

 

 「死者が現世を邪魔し続けるべきではない。世をしりぞいた者として、静かに生者を見守るべきなのだ」-そんな念もまたあったのです。自らの滅亡を受け入れ未来を守ろうとする声、はてやま三神の祝福(BREAKフィールド)に染みついたサムライたちの「義」は、一体のポケモンに託されたのです。

 

 ウスベニの谷間を鎮めた者たちがそこをおみやと定めた時、死霊たちから託された子孫への想いを宿すそのポケモンはウスベニシティの守り神として祀られることになったのです。のちに「ウスベニおみやのよりしろさま」と呼ばれる存在は、こうして誕生したのでした。

 

 (「ウスベニ夜話」三巻三抄「ウスベニ谷鎮められるのこと」現代語訳)

 

ー*-

 

 「我々はキミたちの強さを称えるよ。

 

 御神木(オーロット)に克った褒美が必要だよ。

 

 キミを『視て』あげるんだよ。」

 

 イチシノは武家屋敷の縁側に座り込み、不気味に静まり返っただだっ広い木造建築を背後にしてその巫女服を静かに整え、アオバに目の前に座るように促した。

 

 「キミに憑依的な魂魄が憑いているのか…

 

 じっと、目を開いてくれると助かるよ。辛くても瞬きはメッ、だよ。」

 

 アオバがその青い瞳を目いっぱい開く。

 

 イチシノはこくりと頷き、そして、自分の顔を覆う不気味な紙をそっと外した。

 

 真っ白で、ほとんど色のない瞳。透明、ガラス玉のようにすら見える双眸。それが、アオバの青い両目をじっと見つめる。

 

 「…どうかしら?」

 

 イチシノは...

 

 …首を、厳粛に、横に振った。

 

 「我々には何も『視え』ないんだよ。

 

 残渣みたいなものはあるよ。魂が巣くった痕みたいなもの、誰かが憑いていた痕みたいなもの。でも外にも内にも、別に特段憑きものはないよ。」

 

 「…本当に?奥底に何か『視え』たりは...」

 

 「霊が多少隠れた程度で我々の『目』から逃げられるのなら、日ごろ両目を覆わなくて済むよ。

 

 あの名家に憑く善霊ともなればどんなに強いものか、顔を逆に『視られ』たらどうなるのか、畏れていたけれど、拍子抜けしたよ。」

 

 「そう...ですのね…」

 

 アオバが見るからに落胆する。

 

 「お姉ちゃんお姉ちゃん、気落ち、しすぎだって。

 

 研鑽を積んだ人間でもできないことはあるから。たまたまかもしれないし…だから、まだ望みが消えたわけじゃないから!」

 

 「そう、かしら...」

 

 「妹さんの言う通りではあるよ。

 

 呪術師っていう人間は3種類にわかれるよ。科学を呪術として行っている例えば空を見て天気を占う人たち、何の根拠もない人たち、そしてゴーストタイプへの対処を鍛えた人たち...

 

 我々みたいなウスベニおみやの人間は3番目。霊感を強めれば霊魂が『視え』るようになるけれど『視られ』るようにもなる、だからこそ『視られ』てもなお負けないように霊魂と戦えるようになった人たちなんだよ。

 

 何処まで行っても実体は精神の世界に入れない。だから、ゴーストポケモンの視点、精神と霊魂の世界の視点も必要かもしれないよ。

 

 そうだよね、よりしろさま。」

 

ー*-

 

 武家屋敷の上空からふわふわと舞い降りてきたそのポケモンにアオバが最初に抱いた印象は「…ムウマージ?」だった。

 

 烏帽子のように立った帽子から、後ろへとたなびく長い翼のようなもの。首周りには赤い珠が燃えて、ムウマとムウマージのミックスのようになっている。

 

 呪文のような、真言のような音が、口から常に漏れていた。

 

 「これが…ウスベニおみやのよりしろさま、かしら?」

 

 「『サマヨウミタマ』。簡単に霊に目を付けられるこの神域で、名前を口にしても大丈夫な存在はそうないよ。

 

 心を司る3体の神様の祝福を最大限に帯びるよりしろさまであるとともに、怒れる呪霊を自ら鎮め給う、鎮守神なんだよ。」

 

 ムウマのようなムウマージのような、はたまたパルデア地方のパラドックスポケモン「ハバタクカミ」のような、それでいて赤く燃える珠はそれらとも異なる神秘性を与えていた。

 

 呪言を絶やすことなく、サマヨウミタマはアオバの目の前へ降り、ふよふよと漂う。

 

 視線が絡み合った。サマヨウミタマを見つめるアオバの瞳が、サマヨウミタマの瞳に写る。

 

 静寂が、武家屋敷を包んだ。

 

 「えっ」イチシノの口から声が漏れ、あわてて顔を覆う紙の上から口を手で押さえる。

 

 ガタガタガタ...!風が吹き荒れ、武家屋敷中の扉が震え、床や壁がきしむ。

 

 サマヨウミタマがアオバを睨みつける。首の周りの珠から激しく火の粉が飛び散る。

 

 ーその瞬間、誰もが、屋敷が、自分が赤く燃え上がるのを幻視した。

 

 「拒まれてる…拒まれてるよ。

 

 よりしろさまも祠も屋敷も、ウスベニの霊を鎮めるすべてのものが、キミの魂を拒んでいるよ。」

 

 「…どうして…」

 

 「どうしてかはわからないよ。ジョウトの人間が眉唾に思ってやってきて拒まれることはあるよ。ただ...」

 

 アオバはその点に於いては信頼の於ける人間だ。少なくとも数百年にわたりフロックス家家系図に空欄は一つもなく、その魂は世界に引っ掛かった歯車(マハリハグルマ)を共鳴させて時空に穴をあけられる古代ユキコシから伝わりしもの。そして知る限り、ヨシノシティ民どころかジョウト民の血がその血統に入ったことはない。

 

 サマヨウミタマが、汚物を見るような眼差しをアオバに向けてから、屋敷を飛び去って行く。

 

 アオバの手が空へと伸び、しかし彼女はついに、何をもつかむことができず寂しく地に両手を付けた。

 

ー*-

 

 「…こんなこと、あっていいはずがありませんわ。」

 

 闇夜に、少女の魂は呟いた。

 

 「わたくしはアオバ・フロックス。

 

 いずれユキコシの至宝となる令嬢。

 

 呪いでしょうが祟りでしょうが霊場でしょうが…誰も、何も、わたくしたちの輝く道を阻むことを、許され、赦せはいたしませんわ。」

 

ー*-

 

 「ねえ、お姉ちゃん見なかった!?」

 

 ウスベニの谷の外側、復元された旧ウスベニシティの街並みの入り口の門のギリギリ外側に設けられた質素な長屋。その入り口で、カグヤが叫ぶ。

 

 イチシノと彼女の部下であるらしき巫女や神官たちが、慌てた...というより怯えた表情でカグヤに応える。

 

 「長屋の中はすみずみまで探しました。いません。」

 

 「魂も探してみたけど、近くには感じないよ。」

 

 「手分けして占っていますが、付喪(つくも)、浮遊霊ともに、好意的に友好な手掛かりをくれはしません。」

 

 「カメラは?重要施設だし監視カメラとか…」

 

 「おみやになってる谷間全域が霊域、カメラなんて心霊写真だらけで使い物にならないよ。機械による監視の類は一切ないよ。

 

 結界は?」

 

 「街門と町人街の対呪結界に揺らぎがあります。これは...」

 

 イチシノが、辛そうな表情で、門の向こうに目を向ける。街の外だからか顔を目玉の描かれた紙で覆っていない彼女は、何を「視て」いるのかやたらと顔をしかめ眩しそうに目を細めていた。その視線の先、旧ウスベニシティの上空では、火の玉がまるで蛍火のごとくに乱舞している。

 

 「今夜は火の玉が飛びすぎなんだよ。これじゃまるで...」

 

 その先を、イチシノも巫女・神官たちも、決して口にはしない。言葉は力を持つと、それは口にするだけでも恐ろしいことだと、わかっていたからだ。

 

 「…お姉ちゃんは、まさか、霊域の中...いや、神域に…?」

 

 だから、カグヤの言葉に、その場の全員がびくりと身体を震えさせ、合掌をさせ、祈りの呪文を唱えさせた。

 

ー*-

 

 少女は山道を登りゆく。

 

 火の玉が背後で渦巻き横合いから飛び出すが、まるで気にも留めず、ただただ暗い石段に足音だけが響く。

 

 月明かりのない新月の夜、だというのに、空はなぜか、赤く少女を照らしているーまるで何かが背後で激しく燃えているかのように。

 

 何処からか嗚咽が、斬撃の音が、呻き声が、聞こえてくる。

 

 …すべて、少女には関係のないことだ。

 

 小高い山の上、石垣が築かれ、その上からは谷間に広がる旧ウスベニシティの街並みが見下ろせる。人魂飛び交うその下がなんだか赤いが、それもまた少女の興味の向くところでは決してない。

 

 少女は丁寧に袴の膝を折り、ついでに目の前をふさぐ人魂を袖で振り払い、草一本生えずジャラジャラと砂利のなる地面へと正座した。

 

 「ここが、ウスベニおみやの、祠…」

 

 朱塗りの小さな、神棚に毛の生えたような祠が、地面に直接、堂や何かで覆うでもなく置かれている。そんな無造作な設置であるにもかかわらず、傷ついている様子は全くなく、そして周りの地面には焦げたお札がいくつも散らばっていた。

 

 「…ユキコシが永遠(とわ)に伝う血が第一子、アオバ・フロックスが祈る。

 

 我が比翼の片翼たり連理の片枝たる魂、ここに戻し給へ。」

 

 焔が、地面を這う。

 

 お札が、次々と燃え上がり灰となる。

 

 山を覆う木々が、葉を落とし、枝を折り、幹を曲げる。

 

 「…

 

 そう。

 

 そうなのですわね。」

 

 アオバを、焔が包む。

 

 今や業火がウスベニ城だった石垣の上を覆いつくし、もっとも聖なるはずの祠ですら煙が上がっていた。

 

 「…それでも。

 

 直視すること能わざる輝きに、ひれ伏すのですわ!ディアンシーっ!」

 

 ノブレスボールが宙を舞い、キーストーンが光り輝き、そしてピンクダイヤの渦が石垣すらも砕いて焔の中に路を作る。

 

 ”「早く!そう長くは保ちません!」”

 

 「わかっていますわ!」

 

 石段を駆け降りるアオバ。その視界を、ふいに、人魂ではないもっと大きな影が横切った。

 

 眼下に燃え盛る街並みに、たなびく髪(?)がよく映えている。

 

 「サマヨウミタマ…貴方も、わたくしの邪魔をなさいますのかしら?」

 




 いくらお嬢様でも禁域の祠に立ち入るのはDQNなので、このお嬢様蒼玻を取り戻すためにガンギマリになっちゃってる疑惑がある…というより、よりしろさまに「蒼玻の魂は死んだと考えるしかない」と言われるよりもむしろ答えなく拒絶されるほうがショックで、すべてに納得がいっていないので、無理にでも答えを求めています。
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