お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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 ポケモンの世界の日本列島がひとつの国ではない(というか世界的に「地方」というよくわからない区分がまかり通っている)ことについていろいろオリジナル設定がなされています。

 本作では、ウスベニ武士団(≒朝倉氏)が滅亡の時にはなった祟りでヨシノのとのさま(≒織田信長)はおろか三英傑とその家臣団を濃尾平野もろとも呪殺し焼き払ってしまったため、基底現実の日本で天下統一をしていたはずの勢力がごっそり消えて権力の空白でますます一帯が混乱し、なし崩しのうちに天下統一・中央集権ではなく地方分権のようなカタチで緩やかな各地の連帯へ移行、その政体がグローバル・デファクトスタンダードになった...という裏設定をしています(もっと言えば、ユキコシ地方ではポケモンのワザが容易に洒落にならなくなりゲームバトルの範疇を越えるため、ゴーストポケモンが介在する呪詛が大惨事を引き起こす下地があった)。


#44 「お前、あの祠に行ったんか!?」

ー*-

 

 「ゲンガー、くろいまなざし!」

 

 「ジュペッタ、ナイトヘッドで祓え!」

 

 「ヤミラミっ、喰らいつけ!」

 

 「フーディン、さいみんじゅつで抑えるのよ!」

 

 「オーロット、しっとのほのおで吹き飛ばすよ!」

 

 「蹂躙してマハリハグルマ、シャドーダイブ!」

 

 人魂が狂乱し、実体のない幻焔が土塀木壁茅葺の街を赤く照らす。どこからか不気味な旋律が人の本能を恐畏させる中で、しかし巫女たちに先導されるイチシノとカグヤは歩みを止めない。

 

 「こんなの、キリがない...!

 

 …マハリハグルマ、かげうちで弾いてっ!」

 

 「とりあえず撃退できても、現代まで残っているだけでそこそこ強い霊だから、除霊なんてとてもできないよ。路を作るための…

 

 …オーロット、おにびを火の玉にぶつけるよ!」

 

 殺到する怪霊をはねのけながら巫女服とナイトドレスが言葉を交わす。

 

 -早く助け出さねば、間に合わないかもしれない…!

 

 「前にこういうことがあった場合はどうなったの!?」

 

 「ヨシノから来た人がこっそり入った時は、骨も遺らなかったよ。」

 

 火葬でも骨は遺る。にもかかわらず呪焔は骨すら遺さなかった。規格外に強い呪いだ。

 

 「例えウスベニの人間でも、結界と祠の呪力で扶けられる神官や、襲い掛かる呪霊を祓えるサマヨウミタマなしじゃ...!」

 

 そこから先を、暗示的に示しこそすれ、口にはしない。なぜなら言葉は力を持ち、そしてイチシノら巫女・神官たちもまたウスベニの人間だからである。

 

 「…でも、お姉ちゃんなら、きっと...!」

 

 希望的、観測。それでも走らざるを得ない。

 

 視線の先、小高い山の上、石垣が飛び散り、爆焔で赤く空が染まる。

 

 イチシノが紙の上から両目のあたりを抑えてうずくまった。「あんな、あんなに強い…!?」と嗚咽が漏れる。

 

 「なにが…!?」

 

 焔光をバックに見えたのは、吹き飛ぶ四角い何か、それにたなびく長い髪(?)と輝く珠を持つシルエット。

 

 「サマヨウミタマ…」

 

 カグヤが呆然と呟く。

 

 烏帽子に中央がとがるその帽子に、人影がもたれかかって乗せられていた。

 

ー*-

 

 「やっぱり、祠に行ったんだねだよ。」

 

 「ええ。そしてわたくしに、反省をすれど後悔をするつもりはありませんわ。

 

 もう、ここにわたくしの求めるものはない。

 

 先を急ぎますわよ、カグヤ。時間の無駄ですわ。」

 

 「…お姉ちゃん、それはどういう」「そういうわけにはいかないよ。我々はお姉さんをこのおみやの傍から離せない。」

 

 「…あら。

 

 では貴女は、わたくしを阻む、敵、かしら?」

 

 ブンブン、イチシノは紙で隠された顔を横振りした。

 

 「言葉が足りなかったよ。

 

 サマヨウミタマがキミを祠から連れ帰った。咎めても仕方ないんだよ。ただ、よりしろさまが愚かな人間のふるまいに対して動いたのは、よっぽど不味い事態なんだよ。」

 

 よりしろさまは旧ウスベニシティとサムライたち、とのさまの霊を鎮めている…だが、別に禁忌を破って霊域・神域を侵し霊魂を刺激し祠へ名を告げさえする愚かで迷惑な人を救う義務まで持ち合わせてはいない。結局サマヨウミタマとは「彷徨う御霊」なのであり、したがって善き神霊に思えても一線というものがある。

 

 「さっきとてつもない気配が『視え』たから、ひこうポケモンライドで遠望した。祠が跡形もなくなってる。いったい何をどう呼び覚ましたんだかだよ。それで、そんな呪いの只中にいて無事なはずがないよ。」

 

 言いながら。

 

 イチシノは門の向こう側を指さした。

 

 城があったあたりは煙に包まれ、そして街はいまも赤く燃え続けている。それらすべてが霊的な幻影であるにしても、効果がないわけではないのだ。

 

 「キミの服だって真っ黒に焦げてたよ。物理影響が出るほどの呪焔、魂が焼け焦げ尽きていないだけでも信じられないよ。

 

 苦しいはずだよ。」

 

 「…お姉ちゃん、どうなの?」

 

 「…何も...」「デスカーン、軽くナイトヘッド」

 

 「あっ...」呻いて、アオバは両手で頭を押さえて赤子のようにうずくまり、普段の清楚さなどかけらもなく無様に転げまわる。そうした状況を見慣れているのか、巫女・神官たちは眉一つ動かさずカグヤだけがおろおろとしていた。

 

 「…言わんこっちゃないよ。魂へのダメージ、精神へのダメージは目に見えないから強がってごまかせるけど、ちょっと揺さぶれば崩れる。気を張り続けていないと魂魄をむしばまれる。心霊スポットから帰ってきて発症する人が多いのは憑かれて後からやられるだけじゃなくて、受けたダメージが気を抜いてから心を崩すからなんだよ。

 

 …うわいっぱい憑かれてる。」

 

 イチシノは顔を覆う紙をどけて透明な瞳を開き、やっと壁際で持たせかかりながらむせかえる口を手でかわいく押さえるアオバ、その両目を覗き込むやいなや、ずぞっと後ずさった。

 

 「ふつう肩が重いとか金縛りで動けないとかじゃすまないと思うよ。高貴な血筋と魂に感謝するんだよ。

 

 …なにこれ…」

 

 ボヤキを漏らしながら、イチシノは巫女たちに指示を飛ばした。

 

 「祓って。今すぐに。憑き者落としと魂魄の養生をするんだよ。」

 

ー*-

 

 「イチシノ様、全然、憑きものが取れません…」

 

 「…邪気を寄せ付けない盟約のメガディアンシーの効果が効いていたはずだよ。多少はウスベニ城そのものの呪いで中和しても、強い呪霊しか憑けなかったはず。キーストーンこそあっても直接ディアンシーの扶けを受けられない今、呪霊の強さはさらに強まって簡単には落ちてくれないはずだよ。

 

 祠も消えて街も燃え続けてる。祓うにしてももう少し考えないとだめかもだよ…」

 

 「そうは言っても、よりしろさまの機嫌もわからないですし、祠まで行って旧ウスベニシティ全域、谷間の隅々まで鎮め直すなんて...」

 

 「危険すぎる。わかってるよ。

 

 ただ、何が起きているかはわかってる。結局はポケモンバトルになるんだよ。」

 

 「えっ…」

 

 「強い呪いが起きて祠が消え、サマヨウミタマが人を救う…お姉さんをサマヨウミタマはただの愚か者だと思っていなくて祠と街を鎮めるキーパーソンだと思っているはずだよ。」

 

 「…まさか、祠の代わりにする人柱…」

 

 「それが必要なら我々はそうする、そうするよ。でも、もしそうならサマヨウミタマが既にやってるよ。

 

 …祠の謂れは、荒れ狂うとのさまとサムライたちの霊を、城址に碑を置いて押さえたこと。それが吹き飛んだという事はとのさまとサムライたちの呪いの力が強く解放されたはず。無念の死を遂げた彼らは、生者を見つければ憑くはずだよ。」

 

 アオバに憑いている強い霊はおそらくはそうした者たちの一部…ゆえに、祠を建て直し再びとのさまとサムライの呪いを封じるには、アオバに憑いているものもどうにかしなくてはならない…逆にアオバの身体が武士どもの霊に乗っ取られるようでは呪霊どもは受肉して手の打ちようがなくなるかもしれないからこそ、サマヨウミタマはアオバを助けた...これがイチシノの考えであった。

 

 「憑いてる奴らに聞いてみるしかないんだよ。」

 

 「…しかし、イタコをするには危険すぎます。」

 

 「神官一同、アレがもし万が一とのさまや上級家来の霊であれば、口寄せをすれば器となる肉体が耐えられるか…それとも乗っ取られるか…見合わせています。」

 

 「弱い器しか用意できないのは我々の不徳なんだよ。だから、一番強い器がやるんだよ。」

 

 「…ぐうじ様!?何もぐうじ様が危険を冒す必要は...」

 

 「ノブレス・オブリージュ。力ある者はそれに見合う振る舞いをする義務を持つんだよ。」

 

ー*-

 

 顔を紙で覆っていることは、変わることがない。

 

 しかしその紙は、一つ目が描かれているだけではなく、口を覆うあたりに丸い穴があけられていた。

 

 一つ目一口の白面を身に着け、イチシノぐうじは一人、アオバと向かい合う。

 

 ピシャリ、襖が閉められ、カグヤも巫女・神官たちも部屋の外で正座し額を畳に付ける。

 

 たった2人、部屋の中で向き合うアオバとイチシノ。

 

 「祭神奉る祝神の徒としてユキコシが天地に祈り申し上げウスベニが護神サマヨウミタマの力借りて魂の枷定めし神明に情け欲し乞う。この者に身借りしたる霊魂の意我々に告げさせ給え」

 

 ミシ…音がして、白面にヒビが入った。

 

 白面の口…にあたる丸い穴から、両側へ裂け目が入っていく。まるで「口裂け女」ができようとしているかのように。

 

 「慎み給え、謹み給え...」

 

 白面の一つ目の端、両の目尻から赤い液体が滴る。

 

 イチシノに明らかに異常事態が起こっているにもかかわらず、向かい合うアオバは微動だにしないー否、もし第三者がそこにいたのなら、アオバの目が見開かれ、口をだらしなく開け放してよだれを滴らせる、お嬢様らしからぬ風貌をしていたことに気付いただろう。

 

 イチシノの口から漏れる呪言が途切れた。

 

 「『吾はウスベニ城が主、キウリウスベニ守。

 

 吾を呼び付ける汝、誰ぞ』

 

 我々はウスベニおみや一同なり。畏れ多くもキウリ様、ウスベニのとのさまたる貴殿がなにゆえ罪なき少女に憑きたるや?

 

 『罪なき?

 

 この少女は吾らウスベニ武士の眠りを醒まし、その魂は憎きヨシノ武士団のものを備えたり。族滅の他に心赦す行い非ず』」

 

 傍目から見れば、それは自問自答にも見えただろう。しかしイチシノは確実に、アオバに憑りついた怪霊に口を貸し、そして問答をしていた。

 

 「貴殿の識するところに疑義あり。

 

 『直答を許す』

 

 この少女の名、知らずや?

 

 『ヨシノに与する者が戯言、信じるに値せず』

 

 なれども彼女が真名、真にアオバ・フロックスなり。憑きものの疑あるが故に我々がおみやを訪ねたり。

 

 『憑きものであるか?

 

 確かにこの娘に吾等武士団の呪念効かじ。吾、こ奴の憑きものを間違えたり?然れども滅しける気配なし。憑きものが吾の因縁たらば、矢張り吾こヤツを呪わんと思ふ』

 

 ウスベニおみやが霊視、彼女に視たるは憑依霊が残渣なり。畏れながら申し上げるに、残渣を呪い殺すことは一騎当千なれど能わざる道理なれば、貴殿の失たらんや?」

 

 -お前は見慣れぬ魂を見てヨシノシティ出身者のものだと思って憑り殺そうとアオバ嬢にくっついたのかもしれないけど、コイツには憑依霊の残渣くらいしか見当たらないし、たぶんお前残渣を宿敵と間違えていもしない宿敵を呪い続けてるぞ。

 

 「『汝が弁考ずるに、吾等ヨシノ霊が残渣をこ奴が魂と間違え、そもそも存在せざる魂を呪い憑きて候?そは吾が面目汚し也。

 

 なんぞ礼を求めるか?』」

 

 -おっとこれは失敬。何かお詫びをしたほうがいい?

 

 「さらば我々ウスベニおみや、貴殿がウスベニ谷間が暴霊鎮めんと欲す。

 

 『ウスベニ城、今や縁無き霊にあふれ祠を奪いたれば、汝速やかに祠を祀りて不浄祓うべし。さすれば拠り所なき異共、神人に従ひて治まらん。』

 

 ウスベニが怪霊、人が身にて抗うこと不可なり。貴殿等が勇名この天地にひろく聞こゆが故、扶け欲す。」

 

 ー今ウスベニ谷で暴れまわってる人魂とかもろもろどうにかしたいんだけど?

 

 ー恨みに支配された無縁霊が祠奪ってるんだから、祠を取り返してお祓いすれば、神官の言う事聞いて退いてくれるんじゃないの?

 

 ー生身の人間に暴れ霊魂なんとかするのはキツイから名高いウスベニ武士の力を借りたいなぁ。

 

 「『そは不可也。

 

 神域侵して吾の怒り買いたる事は変わらず。吾が間違いの面目とフロックスが貴き名に依りて解告げども、扶けるに足る恩なし』」

 

 -いや、禁域の城址に入ってきて不用意に祟られるのは自業自得だろ。うっかり間違えて憑きすぎたのとマジで貴い家柄だったから助言してやったけど、力を貸すほどの借りはねえからな。

 

 ため息。イチシノは巫女服の袖から徳利を2つ取り出して、空中へ放り投げる。

 

 塩と清酒が宙を舞い、盛大にイチシノとアオバに降りかかった。

 

 「「ぐ、ぁぁぁ…!!!」」

 

 魂から絞り出すような呻き声。

 

 イチシノの白面が四分五裂に破け散り、あらわになった顔から血涙が畳へ垂れる。

 

 「ぁぁぁ…

 

 …あら?」

 

 「ぁぁ…はぁ…

 

 …憑いてた奴は出てったし鎮まったよ。思ったより物分かりが良かったんだよ。」

 

 「…それにしては、浮かない顔ですわね…」

 

 「交渉は失敗なんだよ。

 

 キミを呪ったのは過失だけどアドバイス以上のことをするつもりはない、祠は吹き飛んだのではなくて奪われたのでそれを取り返せばなんとかなる、それくらい独力でやれ...そういうことになったんだよ。」

 

 「…わたくしの力、まだ、必要かしら?」

 

 「…いや、キミが元凶なんだよ?」

 

 「申し訳ありませんわね。けれど、わたくしに必要なことでしたし、わたくしはやはり何も間違っていませんでしたわ。」

 

 「…お姉さん、キミはいったい、何に気付いたんだよ?」

 

 「それは、このウスベニでは話せないことですわ。」

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