お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
現代日本からの転生者、蒼玻。ユキコシ地方が誇るアオバ・フロックス令嬢は植物状態になったところで彼に憑依され、憑依問題を解決するための旅のさなかで彼を好ましく思うも、自らの会社を基点に起きる大陰謀の阻止によって彼を自らから失ってしまう。
いかなるリスクをも乗り越え、アオバは蒼玻を取り戻したかった。自分を案ずる妹カグヤの制止を越え、向かった先はユキコシが西、霊魂・オカルトを古くから担当するウスベニおみや(ウスベニジム)。
だがウスベニおみやのよりしろさまは回答を拒否し、あろうことかアオバを拒絶した。アオバは答えを得ようと禁域であるウスベニ城址祠へ赴き、結果、谷間の怨霊たちが一斉に暴れ始めてしまったのだった...
ー*-
「あのさ、今からちょっとだけ、お姉ちゃんじゃなくて、蒼玻くんとして答えてもらえる?」
「…わかりましたわ...わかったよ。」
「蒼玻くんはポケモンがゲームとしてしか存在しない世界から来たって言うけど、どんなところだったの?」
「…やっぱり、自分の世界が物語ってことが気になる感じか?」
「いいや全然?結局それってさ、私たちのふるまいが記されるのがゲームなのか歴史書なのかって話じゃん?何に書かれてようとも私は私らしく誇らしくそしてお姉ちゃんのために生きるだけだから。
…まさか、『この世界がゲームなら、実は俺たちは作者とプレイヤーの操り人形なんだ!自由意思なんてないんだ!』とか言っちゃう感じ?ないないない、私も蒼玻くんも、そしてお姉ちゃんも、心の向くままに人生を生きてるよ。それを操ったりすることなんか、引き籠りの文筆家気取りやぼっちゲーマー如きにできやしないって。」
「…じゃあ、なんで?」
「いや、単純に、価値観とかの違いで齟齬が出たらお姉ちゃんらしく振舞うのにしくじるかもしれないじゃん?」
「なるほど…
…って言っても、あんまり違わないけどな。同じ列島…俺の世界じゃ『日本』って国だったけど、地形は少し違ったけどだいたい同じ都市があるし、文明レベルも産業革命と電化をしてカルダシェフⅠには差し掛からないくらいの感じ、風景的にも自然がちょっと多いくらい…
…ポケモンがいるかいないか、ポケモンによって産業構造ができているか否かってくらいだ。」
「ポケモン抜きでよく社会が成り立つね…?エネルギーとか資源とかいろいろ足りなくならない?」
「だからみんなあくせき働いて、必死に外国の油田や鉱山掘って車や街を作ってたんだ。」
「…うわ...それじゃ家が吹き飛んだりしたら全部人の手で直さなくちゃいけないってこと?途方に暮れちゃう」
「けどポケモンが家を壊すこともないからな。
俺の住んでた街なんかはそういうモノづくりに長けた日本有数の大都市で...あぁ、地平線までコンクリートジャングルって感じの無機質なメガロポリスを作らないのもこの世界の特徴か。」
「コンクリートジャングルなんて、ポケモンが病んじゃうよ。
ねえ、それってどのあたりにあったの?」
「東海地方の…えっと、つまりジョウトの…あったあった、この地図で言うならこの…あれ?
…草地しかないな。ちょっと地形がズレてるからか…?」
ー*-
「我々たちの目的はウスベニおみや、つまり谷間全体を魑魅魍魎から取り返すこと、そのためにウスベニ城址の祠を奪還して祓うこと、なんだよ。
みんな、覚悟は?」
巫女や神官たちが厳粛に頷く。
「よりしろさま、これで、いいんだよね?」
空中にふよふよ漂いながら、サマヨウミタマはこくりと首を縦に振った。そして、アオバを睨む。
「…わたくしが怒りを買わなかったと言えば嘘になりますわ。」
巫女も神官も誰も触れたがらないことを、アオバはあえて自分から口にした。
「けれどすべては必要なことでしたわ。そしてわたくしは、最後に後悔をさせるつもりはありませんの。」
サマヨウミタマの視線が、アオバ本人から、肩の上のイーブイと傍らのディアンシーに向くー両者ともに、自ら視線を外すことはない。
ふっと、サマヨウミタマが、笑った。
「…よし、往くんだよ…!」
街門が不気味な音とともに開かれ、谷間に広がる旧ウスベニシティが見える。古めかしい街のそのすべてが、幻影の焔に燃え続けていた。
無数の人魂が星空よりも強く輝き、その合間にゴースやらカゲボウズやらヨマワルやらが見え隠れする。
「蹂躙して、マハリハグルマ!」
忍び寄る幽霊をヒビが空間ごと斬り刻み、ウスベニおみや奪還戦が始まった。
ー*ー
「オーロット、おにびで打ち祓うんだよ!」
「イーブイ、右から人魂来ますわ。」
「マハリハグルマ、ゴーストにかげうち!」
「清め給え浄め給え聖め給え」
「鬼神生者に八門の路を開くべし」
「悪霊退散滅鬼興神悪霊退散滅鬼興神」
イチシノ、アオバ、カグヤがポケモンたちにフォーメーションを組ませて人魂やゴーストポケモンを薙ぎ払っていく。その後ろで巫女や神官たち十数人が陣を組み、おのおのに呪文祝詞を唱えて結界を張り街を満たす焔を遠ざける。
「キリがないよ…!」
「ぐうじさん、サイレントフィアーでどうにかならないの?っと、そこの長屋にシャドーダイブ!」
「ゴーストポケモンはともかく怪異に恐怖を与えてもかえって恨みを募らすんだよ。
ああ、やどりぎのタネで撃って!」
「死霊の分際でこのわたくしに近づけると思わないでくださりますこと?ダイヤストームですわ!」
その時…上空であいも変わらず浮遊していたサマヨウミタマが、イチシノの目の前に舞い降りた。
イチシノが立ち止まる。その前で、サマヨウミタマが目の前の長屋を視つめる。
瞬間、長屋が大きく伸び上がった。
あんぐりと目を見開くアオバとカグヤに、巨大化した長屋から生えた腕が襲いかかる!
ーサマヨウミタマの シャドーボール!
爆発。アオバとカグヤが思わず腰を抜かす。気づけば長屋は元のままそこにあり、周りにゲンガーやらミミッキュやらハカドッグやらがわんさかたむろしていた。
「ここはもう異常の領域、何が起きるかはわからないんだよ!」
「ご、ごめんあそばせ…」「びっくりした…」
チリ…アオバの首筋に、何か不快な感覚が奔るー誰かに視られている?
「ディアンシー…」“「ええ、後ろですね」”
袖に手を突っ込み…
「ヒャッコク産62年ワインアタックですわ!」
自分ではまだ呑めもしないのに大枚はたいて取り寄せたヴィンテージカロスワインが勢いよく降り注ぐ。
「すわ錯乱か!?」「聖め給え浄め給え!」「けほっけほっ」「誰だ今の?」
紫の高級ワインが巫女や神官たちの白い服を染め…彼らの中央で、小太りの小男がむせていた。
「いつの間に結界をすり抜けて!?」「油断も隙もないな、悪霊退散滅鬼興神!」「浄め給え清め給え」
幣を振り塩を撒き、不審な小男を追い祓う。すると小男の身体が透けた。案の定亡霊が後を付けて来ていたのだ。
「…本当に何が起きるかわかりませんわね…」「お姉ちゃんまだだよ!」
結界の外、街を満たす焔の中へと後退りしていく小男が、ニタリと笑ってその姿を消したーぼんぐりの実を投げながら。
ーガラガラの ホネブーメラン!
ーガラガラの シャドーボーン!
「アローラガラガラ!?ここユキコシなのに!?」「海を越えて交易していたウスベニのとのさまの栄華がわかるんだよ。」「称えてる場合ではありませんわよ!」
ーブラッキーの あくのはどう!
ーマハリハグルマの かげうち!
ーサマヨウミタマの シャドーボール!
亡霊がゴーストポケモンの幽霊を従えているようでは無茶苦茶もいいところである…驚き呆れつつも反撃し、巫女の一人が小男がいたあたりに清酒の瓶を投げつける。
「オーロットじゃ荷が重いんだよ…
…招来せられよ、イダイトウ!」
とっくにヒスイ地方では見られなくなったしろすじバスラオの進化系、荒魚イダイトウ。だが、人やポケモンのオカルトに挑み続けるウスベニおみやでは、ただのゴーストタイプではなく「仲間の魂の力を借りて戦う」本種を苦心惨憺しながら維持し続けてきた。
「ウェーブタックルだよ!」
水流とともに人魂を薙ぎ飛ばし、アローラガラガラへ突進する。ホネ投げなどなんの抵抗にもならず呆気なく水に呑まれたアローラガラガラは一撃で戦闘不能となった。
「次はガラガラを…
…わわっ、増援してきたんだよ…!?」
一方でフロックス姉妹はといえば、決してガラガラたちと後から後から背後を狙ってくるゴーストポケモンたちに構っていられなくなってきていた。それというのも、真正面に見えてきた武家屋敷、その方向から、人魂を提灯行列がごとくに無数に並べた中を進んでくる貫禄ある老人が杖を手に歩いてきたのである。
「吾はウスベニ武士団が宿老、キンゴ・キウリ也。
殿が籠られたる城を侵す一軍、通すことまかりならず。
おとなしく立ち去られよ。」
「わたくしはフロックス家が現当主、アオバ・フロックスですわ。ここを通していただけると大変助かりますの。」
フロックスの名はユキコシ史始まって以来ずっと強い力を持ってきたのだから、今にも名が伝わる天下無双の武将である彼ならばその名の重みを理解して退くだろうーアオバはそう考えるも、その予想は「笑止!
「…時代の違いっ!
頼みますわよ、クリムガン!」
「吾が殿に、忠誠を…勝利を…!
ダダリン!」
(そういえばキンゴってグンジョウポートの支配をしていたんでしたわね…そりゃ船に関係するポケモン出てきますわ...)
沈船の錨に憑りついたポケモンを湊守が使っていること、それは、歳月が過ぎた今も彼がとのさまに託されたグンジョウポートに未練を残しているというだけではない…彼がすでに、湊守の本質を半ば失い死霊としての性に憑りつかれていることを暗示していた。
「パワーウィップにて候!」
「ほのおのパンチですわ!」「ビビヨン、ぼうふう!」
「2人がかりとは卑怯でござる。者ども、かかれいっ!」
人魂の群れが姉妹を取り囲む。そしてキンゴ本人もぼんぐりの実を5つ放り投げたーダダリンが6体整列する。
「…それはそれで卑怯ではなくて?」「サムライたるもの、如何に誹られようとも勝利することこそが肝要に候!一斉『りんしょう』!」
ーその音はどこか、念仏に似ていた。
響き渡る声に巫女・神官たちの呪文がかき消され、街を焼く焔が迫る。
まさに絶体絶命ーだが、それをウスベニの守り神が黙って見ているわけがない。
ーサマヨウミタマの こごえるかぜ!
心にしみわたる寂しい冷たさ。ダダリンたちの本体である海藻がブルブル震える。たまらずりんしょうも止む。
「礼をいいますわよりしろさま。
今ではなくって!?」
”「はい!」”
ーメガディアンシーの ラディアント・レイピア!
その一撃は、凍えるダダリンたちを越え、キンゴへと穿つように疾駆した。
キンゴが杖を投げ捨て刀を抜く。刀と細剣が宙でぶつかる。
ピンクに光るレイピアから光の粉が飛び散り、無骨な刀からは火花が散る。
カキン!
実体のないはずのレイピアが、砕けた。
メガディアンシーの身体が前のめりに倒れ込み、刀の切っ先がそのかわいらしい顔面へと迫った。
「殿…!この勝利を…!
吾、フロックスが盟約のディアンシーの当代、討ち取ったりぃぃぃ!」
「う、ぐ…?」
お腹を見るー光の剣が、老人の腹に突き刺さっていた。
正面を見るー渾身の一振りは、メガディアンシーの耳から垂れる水晶によって受け止められ、半ばまで水晶を断って止まっていた。
「…なぜ...」
「ポケモンのワザは再発動できる...そんなことも、わからなくなっていたのですわね…」
「…耄碌、したでござるな…」
幽霊は耄碌しないー自分でもわからないうちに宿老キンゴから無念に憑りつかれた亡霊キンゴになっていたからではないか、なんて、アオバは口にしなかった。
…これで、吾は、満足にござる...」
「…最後にもう一度存分に戦えたとでも?」
「然り。
レイピアの光に浄められるかのようにして、キンゴの姿が光と化して消えていく。人魂たちも飛び去って行く
「いや、ダダリンをどうにかしてくれないのですわね...」
人騒がせな幽霊だ…正直、アオバにはそうとしか思えなかった。
ー*-
「「「うわぁ…」」」
やっとの思いでウスベニ城址に辿り着いたアオバ、カグヤ、イチシノの第一声は、一つだった。
焼け焦げた石垣の上、城址の中央、本来は祠が置かれていた場所に鎮座ましましているのは、小さな石…そして、それを基点に渦を巻く、禍々しい気配。
巨大なミカルゲ…そう言葉で表すにはあまりにもあんまりな存在が、居座っていた。
「あの石…祠の中身ですね、ぐうじ。」
神官が告げる。
しかし、ただ赤い焔を外周に無数に回していることだけではなく、その禍々しさも、真っ黒に染まった要石も、そびえたつような巨大さも、聖なる祠の要石どころか108の邪悪な魂を留めるミカルゲの要石としても異様すぎる。
「…ミカルゲって確か、魂の集まりが悪さをしてたから要石でまとめて封じたって感じだったよね...?」
かすかに舞い散る金色と黒の粒子ーそれは、かのラスト団が辿り着いたBROKEN進化の境地に、このミカルゲも至りつつあることを示している。
「ということは、アレは逆ですわね…
悪さをする魂が要石に封じられたんじゃなくて、暴れる霊を封じていた祠石を霊が乗っ取ったのではなくって?」
ーオンリョ~~~~ゥン!!!
谷間に、呪詛が響き渡った。
福井が誇る名将朝倉宗滴をこんなふうに魔改変して怒られないだろうか…
ミカルゲ<
荒ぶる悪しき死霊が無数に集まり、封印の
霊たちは無念を晴らし宿敵を打ち滅ぼす大義のために動いているためBREAKフィールドの「善なる概念の付与」の恩恵を受けてその歴戦のサムライとしての志や強さをミカルゲに受け継がせることができたが、目的も存在も霊的な呪詛でしかないために悪しき性質もまた強く、かえってBREAK状態の限界をも超えたBROKEN進化へと至ってしまっている(ラスト団のBROKEN進化と異なり