お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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「お姉ちゃん、本当に、往くの…?」
頭の上にかざされたリング状の磁器発生装置と、純白の髪をかき分けて両側のこめかみに貼られた電極パッド…アオバの顔の美しさを翳らせるそれらを見ながら、カグヤはそう尋ねた。
「ええ。これで...これで蒼玻くんを取り戻す扶けになるかもしれないのでしょう?」
アオバの細くともしっかりした腕に駆血帯、指に飽和酸素濃度センサー、はだけた胸には心電パッドを看護士が貼っていくーなぜ発電所なんぞに一流医療設備と人員がいるのかと言えば、ポケモンを用いる主流医学で維持されない電磁気医学をユキコシの地で純粋研究ではない臨床治療として維持するこだわりもさることながら、原子力発電所という超危険施設を守り抜くためにいざとなれば要塞として機能するだけの設備が医療インフラ含めてあるからだ。
「アンタの扶けをするのは気に食わないし蒼玻とかいうアンタに名前が似た誰ぞのこともよくわからんが、そうだ。
電磁場は電気刺激として大脳のニューロンを励起させる。精神状態に存在する障害障壁症状を取り除いてくれるはずだ。オカルト女が言うところの、電気信号的な魂への干渉だな。」
アオバの足に貼られる筋電図電極と駆血帯を神経質そうに見つめ、トチュウが確認するように言ったー彼としても自分が何をしているのか完全にはわかっていない面がある。もともと彼は医師ではないし、「異世界人の魂の呼び戻し」云々の事情はぼかされ「とにかくイチシノが言うのだから」で頼んでいる側面もあるからだ。
看護師が、点滴と酸素マスクを運んできた。
「本当に、術式を受けられますか?」
麻酔の前処置であるアトロピン点滴が用意されるのを見ながら、アオバははっきりと頷いた。
「家名に賭けて、然りですわ。」
「それでは、マウスピースを。」
麻酔と筋弛緩剤を入れると言っても口内を傷つけないとは限らない、何と言ってもこの療法(の祖先)は現代日本で「電気『けいれん』療法」と呼ばれているのだ。というわけで、看護師がマウスピースをアオバの綺麗な口へ突っ込む。
そして、麻酔薬(ネッコアラが噛んでいる植物の成分)の点滴の針が、ゆっくり、アオバの左腕の静脈へ刺された。
「お姉ちゃん...」
「待っていてくださいな、カグヤ」
ウィンクーそして、アオバは目を閉じた。
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「筋弛緩剤注射始めます」
ゆっくり、脈拍が、そして呼吸が、遅くなっていく。
「酸素マスク」
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本当はやめてほしいと、今でも思っている。
…一度、いやトキトビとワカナエの2度死んでたかもしれないお姉ちゃんを、医療スタッフがいると言っても心臓と呼吸を止めてしまうのも抵抗がある…けど、それはイチシノぐうじが勧めてお姉ちゃんも受けたんだからいい。麻酔と筋弛緩の失敗なんてまずありえないし、電磁気刺激が失敗したとしても何も変わることはない。
…私が恐れてるのは、もし療法が、「成功」してしまったら…ってこと。
お姉ちゃんとタッグバトルなんてしたのも、もしかしたらお姉ちゃんにもしかするとがあってしまうかも、そう思ったから。
マイイカヅチならお姉ちゃんを叩きのめしてくれる。サジンノリュウが最後には蒼玻くんとブロスターを一撃で終わらせたように、いやそれ以上の強さで、私たち姉妹まとめて圧倒的な強さで勝ってくれる...それを少しでも悔しく思ってくれれば、お姉ちゃんの「未練」になる。そう願った。
お姉ちゃんは、蒼玻君を本気で現世に呼び戻そうとしてる。
お姉ちゃんとイチシノぐうじの「この世界とは異なるフォーマットで、蒼玻くんの魂がまだ脳内に残ってる」という希望的観測にすがって、たぶんほとんど無駄で終わりそうな電磁気刺激をためして、それがダメならはてやまでユクシー・アグノム・エムリットに祈って蒼玻くんを生き返らせようと…そう考えてる。
…だけど、異世界の人間である蒼玻くんが宿れる身体なんて...
二重人格だって、独立した2つの人格が存在するわけじゃない。あれはあくまで、人格の一部をあたかも忘れ去るかのように切り離して、切り離されたそれがもう1つの人格としてふるまうだけ。人格どころか、完全に後天的に憑依した霊魂なんて...同じ身体に複数の魂は宿れない。
蒼玻くんは前世の話として「仮面ライダーW」とか「仮面ライダー電王」とか、複数の魂を持つヒーローの話をしてくれたけど、それとも違う…同じ脳神経回路に2つ目の魂を呼び戻したらどうなるか。
-「お姉ちゃん、OSが1つしか動かない、メモリ的にどうやっても1つしか動かないコンピューターで、凍結した前のOSを無理に動かしたら、現行のOSはどうなるの?」
1つしか入らない入れ物に2つモノを入れようとしてる。
-「…現行のOSがバグるか、前のOSがバグるか、両方心中するか、それしかないんじゃないのかしら。」
-「お姉ちゃん、他人事じゃないんだよ。」
ー「わたくしはOSではなく魂ですわ。心でなんとかするしかない、それが心意気じゃありませんの。」
-「…お姉ちゃんのそういうところが、嫌い。」
嫌いで...
…大好き。
お姉ちゃん、例え蒼玻くんをバグらせてもかまわない。お姉ちゃんだけでも、無事に戻ってきてほしい。
…蒼玻くんがお姉ちゃんの身体に入って戻ってきて、それで…
…それで、「アオバは、俺を入れる
…前の私なら許せなかった。でも、お姉ちゃんは、それを覚悟してでも今これをしてる。
私は、どうすればいいの?
ー*ー
アオバ・フロックスの、オカルト的診断(byウスベニぐうじイチシノ)曰くの人格・霊魂的疾患。それを治す方法として、脳に電気を流して脳神経回路にけいれんを起こしつつ、磁場による誘導電流でニューロンを興奮させる方法を取るーそうトチュウと技術者たちは提案した。
脳神経回路とは要するに複雑な電気信号、それを宿すニューロン製回路だ。
例えば真っ暗な景色を見ている時の電気信号を再現してやれば脳は真っ暗な景色を見ているように勘違いするーそんなように外部からの電気的な干渉を繰り返すことで脳神経回路は興奮状態に励起し、幻聴幻覚頭痛脳梗塞鬱などの脳神経回路の異常を補うことができる…というわけだ。蒼玻の前世の世界、現代日本ではこれらは「ECT」「TMS」と呼ばれ「何が何だか詳しくはよくわからないが治るらしい」というノリで使われていたが、ポケモン世界ではなにしろ魂や精神を直接覗けるので電気と脳と精神と魂の関係について研究が進んでおり、より詳しくアプローチできる。
人格が空に浮かぶ雲のようなものとすれば、エアロゾルを空にまいて水蒸気を凝結させ、雨雲を発達させるようなものだ、この療法は。治療の成功は、数十回の細かい電磁気刺激の間に計測される脳波に於いて「脳の精神・人格にまつわる部位が、いちじるしく信号し、人格の励起を示した時」となる。
…トチュウたちが知らされていないことがあるとすれば、目指しているのはアオバ・フロックスの人格の励起ではなく、眠れるもう一つの魂蒼玻の励起である…ということだが。
あえてイチシノは指摘しなかった。彼女としては霊魂を脳から引きずり出すことは専門外だったし、アオバが神体から追い出されて浮遊霊化だろうが憑依霊化だろうがするのならもう一度ウスベニに来ればいいしもしそれをできないで現世からも消えてしまうのならば「それまでの人生」というものであるーなにより愛憎は恐ろしいし狂執も恐ろしいと身をもって知っている怨霊のおみやの者として、その両方を併せ持ちかねないアオバに余計なことは言えなかった。「自分がどうなってもいいから恋人を生き返らせてくれ」という女だなんて、対応を間違えれば生霊化しかねないしウスベニで禁域に立ち入るくらいならお百度参りくらい余裕であり得る。
けれどもちろんカグヤ、それどころかアオバ当人が気づいている。それはあまりにも危険だと。
魂は2つ同じ身体に宿れない。
憑依の類は話が別であるー今回、同じ物理身体に、それどころか同じ生体脳に宿らせようとしているのだ。守り神か何かとして物理付け裏付けのない霊魂を憑依させるのとはわけが違う。
霊魂を生体脳上に復活させるーそれはつまり生体脳を霊魂の裏付けとして使うということ。だが、1つの脳に1つの魂、これはもう絶対だ。サザンドラだってキリンリキだってドードリオだってバイバニラだってスコヴィランだってあくまで1つの頭に1つの意志が宿っているのである。マタドガスやメタグロスのような有機生体脳とは思えない存在までも「頭(と思しき部位)に1つの魂」のルールは守っていて、脳に魂の両存ができないのは不偏の原理と考えられる。
カグヤが、心配するわけだった。
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グンジョウ発電所の敷地の真ん中。マイイカヅチは今日も、発電所内のすべてをレントラーの権能で透視し、油断なく監視していた。
だから、それに気付けた。
「どうした、マイイカヅチ?」
-マイイカヅチの てんらいのへきれき!
はるか雲の上から突如として撃ちおろされる一筋の紫電。発電所を見下ろす山の木々が何本も吹き飛ぶのが、遠目に見える。
「…敵襲かっ!?」
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「敵襲!敵襲!」
「本発電所の警戒レベルはこれより最上位に引き上げる!
ジョウト電力本社とワカナエ電力本社に連絡!」
「偵察画像来ました!
敵の数は25!所属は不明!応答はなし!」
「偵察隊のオオスバメ被撃墜!」
「森は吹き飛ばしていい。警備隊を出せ!
ガラルではダイマックスバトルでの観客席保護に用いられているバリアなのだ、正体不明の賊が簡単に破れるものではない。
「湾外沖合にも不審船見ゆ!」
「湾内ソナーを注視!
みずポケモン隊のパトロールを高めろ!」
「ウスベニ、コンジキ、エンジュ、フスベからはなんと?」
「いずれも半日はかかるようです!」
「トチュウさん、どういうこと!?」
「ああカグヤさんか!不審集団の襲撃だ!」
「私も参加する!お姉ちゃんへの手術、止められないでしょ!?」
「…ああ、そうだが…」
脳への電磁気刺激そのものは止められるのだろうが、どうせ麻酔・筋弛緩剤は覚めるまで待つしかないのだ。もちろん呼吸補助の酸素マスクも。
「アンタが加わるなら助からんでもない。まあ俺たちとマイイカヅチで発電所は守り抜くがな!」
ワカナエ大乱と同時に行われたホープ団襲撃でも、グンジョウ発電所はなんの問題もなく敵襲を撃退した。憂慮?何もない。
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「憂慮することは何もない、そう思っていてくださると助かりますね。コンフリーなら『効率的だ』とでも言うのでしょうが。」
つい最近手に入れた手駒の名前を呟きながら、男はカツカツと軍靴で音を鳴らした。
「部隊展開、終わりました。」
「今回はそんな細かい作戦はないので布陣などどうでもいいのですがね。なにせもう、この私がこのユキコシへ帰ってきた時点で」
つい最近某地方でチャンピオンと前チャンピオンを倒して伝説ポケモンを強奪する暴挙に及んだ、ホープ団最大の危険人物は、状況開始を告げる前にこう言った。
「もう、戦術的勝利は確定しているのですから。」
次回更新、若干遅れるかもです(申請書タスクと昆虫採集が生えている)(そもそも後の方まで書かないとつながらなくなる)