お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#50 ホープ団空軍中将、アルソミトラ

ー*-

 

 「山をうろついてるバカどもは全部陽動、正面から突っ込んでくるか…」

 

 正門へとやってくる十人ほどの集団を監視カメラ越しに睨み、トチュウが言う。

 

 「正面から堂々とやってきても返り討ちじゃない?」

 

 「そうは言うがなカグヤさん、アホでもそんなことはわかる。…まあマイイカヅチは何処から攻めてこようと透視で把握して電速で突っ込んでくるから奇襲はできないし、多方面攻撃してもマイイカヅチの移動速度と攻撃力より早く次元歪曲障壁(ディメンションウォール)を破るのは理論的に不可能だ。」

 

 「どうしたって難攻不落じゃん。私たちがやるのは残敵掃討とか捕縛とか…」

 

 「いいや?

 

 それをわかって、わかったうえでなお秘策があるような連中だとヤバイ、そういう話だ。

 

 発電所正面には俺が出る。

 

 警備課長、全体への指揮は任せたぞ。」

 

ー*-

 

 「ここを通していただけますか?」

 

 男は、慇懃無礼に、トチュウへと告げた。

 

 もちろんトチュウが頷くはずがない。

 

 「入構申請をしてきてもらおうか。テメエが引き連れてるその物騒な連中をどっかにほっぽりだしてからな。」

 

 「ユキコシ人如きが?私に?指図ですか?

 

 簒奪者風情がよくもまあそんなに偉くなったものですね。」

 

 「…ホープ団か。」

 

 トチュウの表情が限界まで険しくなった。ユキコシ地方としては山賊海賊の類としているものの、古代ユキコシ文明の末裔を名乗るこの集団はゲリラ戦を行う武装集団、そこらの悪の組織とはわけが違うのだ。

 

 「ホープ団だよね貴方。

 

 ここで開戦だってできるんだよ。」

 

 当然ユキコシ一の名家がいるのだーホープ団が1000年続く敵組織である以上、フロックス家との因縁も深いーいくらでも断固とした判断が取れる。

 

 「おや、これは...フロックス家の次女の方ではありませんか。その節はウキクサ同志がお世話になったようで。」

 

 カグヤとトチュウに、怒りだけではなく、緊張が奔ったーホープ団海軍中将ウキクサ、彼を目上ではなく同輩かのように呼ぶという事は3幹部クラスの大物ということになる。

 

 「貴方、もしかして…」

 

 カグヤの脳がフル回転しその正体に辿り着こうとするときには、既にトチュウの手はボールへと伸びていた。

 

 「そうかい、わかったよ。」

 

 「何がです?」

 

 「テメエらはカスみてえな侵略者どもで、そしてこの原発を吹き飛ばすのもいとわないクズどもだってな…!」

 

 左手で、発電所の緊急即時停止の準備を通信機へ発令する。そして右手は、モンスターボールを掴む。

 

 「私たち自身は、正義ではなくても、大義ではあるつもりなんですけどねえ…」

 

 「1000年間の間にどれだけの戦争をして何万人殺したか、知らねえとは言わせねえぞ?」

 

 「?

 

 貴方は、貴方が今まで与えたポケモンフーズの数を覚えているんですか?」

 

 故郷奪還の大義を果たすために、個人個人が無辜の民であろうとも犠牲にして構わないー男は、ある意味であまりにもホープ団らしい男だった。

 

 「俺たちには力がある、責任がある、務めがある…!テメエらみてえなドカス、通すわけねえだろうがよ...!」

 

 トチュウがしびれを切らしたかのようにボールを放り投げる。プラスル、マイナン、ランターン、エレザード、ロトム、そしてライチュウ。

 

 「テメエは?出せよ、テメエのポケモンを。」

 

 男は、微動だにしない。

 

 いや、その口だけを、かすかに動かす。

 

 「その必要はないんですよ。」

 

 「あ?なんつった?」

 

 「その必要はない、そう、言ったのです。」

 

 バッサバッサ、翼の音が聞こえる。

 

 「なぜなら、もう、私たちは勝ったからです。」

 

 「…なんやと?」

 

 カグヤが手を叩き、叫んだ。

 

 「思い出した!アルソミトラだ!貴方の名前!」

 

 会ったこともない少女に名前を呼び当てられたことにも、男は眉一つ動かさないで指示を下す。

 

 「BREAK進化です。」

 

 いくらマイイカヅチが有利と言ってもそれはマイイカヅチが事実上の(デ・ファクト)伝説(・レジェンド)だからだ、今回は相手が悪いー焦るトチュウ。

 

 「な、それは、この前どこかで伝説ポケモンを2体強奪したって言う…!?」

 

 アルソミトラはそして、空から舞い降りてくるそのポケモンの名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「イベルタル!」

 

 -死を司る黄金の怪鳥、降臨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 「させるかッ!マイイカヅチ『てんらいのへきれき』!」

 

 -マイイカヅチの てんらいのへきれき!

 

 紫電は0秒で大気圏を貫く。

 

 衝撃と衝撃波は、遅れて響く。

 

 黄金の怪鳥は、真上から墜ちたその一撃によって、地面へと叩きつけられた。

 

 金色の粒子が霧散を始め、黒い本来の色調があらわになっていく。

 

 「どうなることかと...いや待てよ?」

 

 「気づいていただけない方が楽だったんですけどね。」

 

 アルソミトラのポケットから、ボールがひとりでに飛び出し、空間からオーラを集めたりはせず己の身体から眩い金色の光を放ち纏う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーゼルネアスBREAKの ジオコントロールBREAK(サンクチュアリ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 「何が…!?」

 

 いや、何が起きているか事実を把握することは可能だ。ただ、脳みそがそれを受け止められないから結果的に理解できないだけで。

 

 「さて、こちらから行かせてもらいますよ。

 

 イベルタル、デスウィング。」

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 生を司る樹鹿の権能で今や完全に回復した、死を司る怪鳥。その金色の翼が大きく開かれ、そして。

 

 -カグヤとトチュウは、錯覚した。まるで世界から光が失われたかのように。

 

 トチュウのエレザードが、ばたりと倒れる。

 

 「一撃、必殺だと…!?」

 

 「いいえ、違いますね。

 

 全体へ範囲攻撃、かつ、一体に一撃必殺、です。バトルスペックならね。」

 

 -死の神としての権能ならばさらに上だ、敗北ではなく死を賜ることになるぞー暗に、示唆する。

 

 サンゴジュおみやのよりしろさまの「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」も範囲攻撃かつ一撃必殺だ。だがあちらは発動条件が厳しく反動も大きい。大して「わざわいのよる」たるや、逃げ場がない。

 

 「…クソ。だが...

 

 …俺は負けるわけには、いかねえんだよ。そうだよな、マイイカヅチ。」

 

 「私も、ここで引き下がることは、絶対に、できないよ!

 

 蹂躙して、マハリハグルマ!」

 

 「てんらいのへきれき!」「かげうち!」

 

 紫電が空から駆け下り、空間のヒビが分岐と伸長を繰り返す。

 

 イベルタルBREAKが一撃で戦闘不能となり、またも落下を開始する。

 

 ゼルネアスBREAKがヒビによって張り叩かれ…しかしなんの痛痒も感じていないそぶりで再び生命力の奔流を放出する。

 

 そのとたん、イベルタルBREAKは再び何事もなかったかのように舞い上がる。

 

 「…わかっちゃいたがジリ貧だな…」

 

 「おとなしくここで降参するのもいいと思いますよ?今なら苦しめ辱めるのは一日だけにして差し上げますが。」

 

 ユキコシ民の人権など粗大ゴミほどにも大事にしていない一言を、わざわざ考慮してやる必要はない。

 

 「その『ヒビ』を駆けろ!ライチュウ、グランボルト!」

 

 ープラスルの てだすけ!

 

 -マイナンの てだすけ!

 

 -ライチュウBREAKの グランボルト!

 

 空間の亀裂、その細いスジの上を、一筋の光が奔る。

 

 (簡単なことだ...

 

 …イベルタルBREAKが致死の攻撃をして、そのイベルタルBREAKを倒してもゼルネアスBREAKが瞬時に回復させるから手に負えない…ならば、ゼルネアスを先に倒せばいい!文字通り一瞬、電速でダメージを与える「てんらいのへきれき」で回復の余裕もなく体力を削り切ってしまえば!)

 

 「てんらいのへきれき!」

 

 「マハリハグルマ、てんらいのへきれき!」

 

 カグヤがグンジョウおみやのカケラで発動させたそれも充分に強力だが、マイイカヅチの「てんらいのへきれき」はもはや破滅的な威力になる。特性「ランページサンダー」は身体に電気を受けるたびに能力がアップするため、電気ワザを使えば使うほど電気ワザの威力が上がるのだ。フルオートでつるぎのまいを積んでいるようなものである。

 

 2つの紫電が天罰のごとく突き刺さり、直後に電気の塊と化したライチュウBREAKが、ゼルネアスBREAKを貫いた。

 

ー*-

 

 ー「伝説ポケモンのBROKEN化はさすがにリスキーだが、BREAK進化ならば、ええ、これで成功確率は100%だね。」

 

 ー「しかしコンフリー、最凶のイベルタルBREAKをゼルネアスBREAKからの生命力供給で支えるこの戦術、穴がありますよ。」

 

 ー「…穴?期待値は100%だよ。」

 

 「ーいいですか、ゼルネアスBREAKから倒されたら万が一があり得ます。せっかくの伝説ポケモンをみすみす失うわけには...」

 

 ー「ゼルネアスは生命力を司るポケモン。ましてBREAK進化状態だ。いくらダメージを積まれても回復が上回るよ。」

 

 ー「いいえ。それでもたったひとつ、懸念があります。

 

 一撃で倒されてしまったら、という懸念が。」

 

 ー「…やっぱりアルソミトラ、キミは俺をスカウトして正解だよ。

 

 生物学と伝承学、ポケモンを考えるにあたって、どちらも欠けてはいけないんだ。

 

 いいかい、ゼルネアスは眠るときに『樹』となるこれは生命の象徴だ。だがもう一つ、活動状態の『鹿』はなんだ?

 

 メブキジカを考えてもみろ。奴らは車と衝突して大けがをしても、例え内臓がぐちゃぐちゃに破裂しても数時間はピンピンしている。アドレナリンが効いているということだが、それと同時に、奴らは生命力の期待値が高い。」

 

 ー「…もしや、ゼルネアスという神格がその身を鹿と成すのは、死ぬことがないから、ですか…」

 

 ー「致死的状態となってもそれを自覚しないし即座に死ぬことはあり得ない。その高い生命力が先に作用する...生命のパラメータが一時的にマイナスになることはあってもそれで死ぬことはない、そう考えられるね。上の上だよまったく奴は。」

 

ー*-

 

 「先に貴方は、ゼルネアスを先に倒せばいい、とでも思ったのですか?」

 

 閃電をバックに、淡々とアルソミトラが呟く。

 

 …果たして、ゼルネアスBREAKは、前足の膝をつきながらも、立っていた。そしてゆっくりと、再び立ち上がった。

 

 ーゼルネアスBREAKの ジオコントロールBREAK(サンクチュアリ)

 

 膨大な生命力が周囲に満ち溢れる。

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 闇が、世界を閉ざす。

 

 「たっ、退避だっ!」

 

 トチュウの叫びも遅く、ゴロリ、石化したライチュウが転がった。

 

 「ライチュウゥゥゥ!」

 

 「ファイアロー、フレアドライブっ!」

 

 考えるより先に、カグヤはボールを投げていた。

 

 赤い飛跡がイベルタルBREAKへと疾駆する。

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 どうにも、ならなかった。

 

 ”夜”そう形容するしかない暗闇を錯覚した次の瞬間、石化したファイアローが宙を落下していた。

 

 「ランターン、フラッシュ!」

 

 「わざわいのよる」

 

 「マハリハグルマ、ヒビを伸ばしてっ!」

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 眩む視界、闇で塗りつぶす3度目の”夜”、そして、その中を這い伸びる空間亀裂が石化したライチュウ、ファイアローを抱え込んでカグヤの元へと縮んでいく。

 

 ランターンが灰色の石となってゴロリと転がったーもはや悲嘆に暮れている場合でも驚いている場合でもない。

 

 「グレイシア、サンドスローイング!」

 

 アルソミトラとポケモン達が砂柱に包まれたのを確認し、3体の石像を手にトチュウとカグヤは必死に建物の影へ走り出した。

 

ー*-

 

 「あ、あの、トチュウさん、ポケモンは...」

 

 「ライチュウとランターンのことはいい。アンタのファイアローもだ。」

 

 「貴方...!」

 

 「そう怒るんじゃない。」

 

 建屋の影から、ビリビリと揺らぐ次元歪曲障壁(ディメンションウォール)を眺め、トチュウは返答したーさすがバトル王者ダンデが君臨していたガラルで認められるだけあり、伝説ポケモンの攻撃をなんとか耐えている。

 

 「どのみちアレが突破してきたら俺たちだって死ぬんだ。そううかうか心中してられん。」

 

 まるでポケモンを駒みたいにーカグヤは激昂寸前だったが、もちろんトチュウの言葉には続きがある。

 

 「だが巻き返すことだってできる。

 

 今調べたが、カロス神話に於いてイベルタルが生命力を奪ったポケモンは、ゼルネアスにより生き返る…それに石化現象はポケモンハンターが使う技術に似ている。

 

 魂とかそういうものを介在させずに生命力を奪うと、生物はおそらく有機性を失って停止するんだ。」

 

 三途の川を渡るという意味での霊魂的死ではなく、あくまで凍結に近い現象、それが「デスウィング」「わざわいのよる」が引き起こす石化現象だ...トチュウはそう看破した。そのうえで、それを解除するにはやはり、ゼルネアスの力が必要だと。

 

 「奪うなりだまくらかすなり、なんとかしてポケモン達をよみがえらせる…そうするためにも、それをする俺たちがやられるわけにはいかねえよ。」

 

 視界の先、イベルタルBREAKがその黄金の翼を大きく広げる。

 

 どす黒い金色の光球…そして、絶死のビームが放たれた。

 

 ガラスをたたき割るような破砕音。発電所を守る障壁(バリア)は今、ついに破られた。

 

 「グレイシア、ぜったいれいどっ!ビビヨン、ねむりごなっ!」

 

 「プラスルマイナン、メロメロっ!」

 

 ーあがいてやる、何としても。

 

 命中率が絶望的なことを揶揄される一撃必殺ワザだが、この場合カグヤには希望があった。ぜったいれいどの統計命中率は30%だがそれはあくまでバトルでの統計、次元歪曲障壁(ディメンションウォール)破壊のために狙いを定めて力を蓄えていた巨大なイベルタルBREAKを照準することならば、そこまで難しくはない。

 

 相手の性別に依存してしまうことで有名なメロメロも、オスメス両方から同時に放てば事実上の必中万能ワザだ。

 

 例え回避されても、ねむりこなのきりから逃れられるわけではない。

 

 3段構えの攻撃が、バリアを破壊したばかりのイベルタルBREAKとゼルネアスBREAKを見舞った。

 

 「…逃げるぞっ!」「えっ!?」「腐っても奴らは伝説、長くは保たん!」

 

 怪鳥の鳴き声が響き渡る中、カグヤはあわてて走り出した。

 

ー*-

 

 「…いやはやいやはや、神格と言えども色恋沙汰への相性はわかりませんからどうなることかと。」

 

 アルソミトラはさすがに冷や汗をぬぐったーどうやらゼルネアスとイベルタルは無性別ポケモンであるらしい。彼にとって素晴らしいことであった。

 

 「さてと。

 

 お前たちは変電所と非常用発電所を占拠してきなさい。

 

 この発電所、占領しても爆破しても美味しいですが、せっかくなら吹っ掛けられるだけ吹っ掛けましょう。」

 

 どうやら原発本体だけではなく、フロックス家という人的人質もまた得られるらしい...アルソミトラはほくそ笑んだ。

 

 「それにしても、ウキクサから話に聞く、フロックスの姉の方(アオバ)を見ませんね…

 

 …逃げた...とは思えませんし。

 

 伏兵に注意して、1棟1棟クリアリングしたほうがいいでしょうね。」

 

 「わざわいのよる」そう指示するたびにポケモンも建物もピキピキと石化していく。

 

 「サンクチュアリ」そう指示するたびにイベルタルもホープ団のポケモンも回復し、発電所員の必死の抵抗は無駄になる。

 

 木偶の所長と妹令嬢が抵抗したとて陥落は時代の問題で、いくら原子炉を止めてメルトダウンを防ごうとも占領してしまえばユキコシ・ジョウト両地方の安全保障と電力供給に対し文字通りの爆弾を抱え込めることに変わりはない...アルソミトラにとって、もうすべてが消化試合だった。

 

ー*-

 

 「地下に搬送しろ!」

 

 十数体の石化したポケモンを台車に載せ、発電所員たちが合言葉とIDカードを確認しながら走り去っていく。IDカードは「すりかえ」「どろぼう」で、合言葉はテレパシー等で盗めると考えるとこれでも万全ではないが、今は浸透工作員をいちいち心配している余裕がない。

 

 「どうしますか所長?」

 

 「停止は既にしたな?炉心冷却は完了したか?」

 

 「炉心凍結を実施しました。数日は外部電源なしでも保ちます。」

 

 -ポケモンの存在は確かにリスキーだ。堤防を作ってもギャラドスに吹き飛ばされるし、ロケットを上げたらメテノと衝突して落ちてきたなんて話もある。だが必ずしもポケモンがリスクばかりを生むわけではない。例えば冷却も加熱も容易になるー各種産業に於ける冷却配管は蒼玻の前世よりもよっぽど簡素だ。原子炉ともなればさすがに同等以上の冷却系を備えるが、万一の時に「とりあえずれいとうビーム」という安牌があるのはすばらしいことであった。

 

 「…とりあえず、大丈夫か…  

 

 …だがそれも俺たちが保安してこそだ。」

 

 とりあえず冷却させておけばメルトダウンは起きないし水蒸気爆発も起きないし放射性物質が流出したりもしない。冷却水の冷却系と循環系を維持するに越したことはないが、最悪こおりワザを当て続ければいいので原子炉さえ保持しておけばなんとかなるー問題は炉と制御施設が両方陥落した時で、非冷却運転されればメルトダウンするしそうでなくともホープ団のことだから直接原子炉内を加熱しないとも限らない。

 

 「いっそ、イベルタルで炉丸ごと石化してくれればそちらのほうが楽なんだがな…

 

 いいか、原子炉建屋を死守だ!」

 

 いくつかの画面がブラックアウトしているモニターを見ながら、トチュウは爪を噛んだ。

 

 「第7隔壁、破られます!」

 

 「予備電源系統、守り切れないとの報告が!」

 

 「予備電源電圧低下!隔壁の次元歪曲障壁(ディメンションウォール)、出力維持できません!」

 

 「第5、6隔壁はバリケードを設営し撤退!以降はエネルギーを敵正対隔壁に集中しろ!」

 

 「コガネシティ(ジョウト電力本社)から連絡です。エンジュのマツバジムリーダーから応援を取り付けたとのこと!」

 

 ワカナエシティ(ユキコシ電力本社)、フロックス警備保障から戦力を抽出し、ウスベニおみや、コンジキおみやにも増援を要請したとのこと...!」

 

 (マツバもオカルト女(イチシノ)もゴーストポケモン使いでオカルト系、イベルタル・ゼルネアスへの対処を提案してくれるだろう。アルソミトラは国際テロリストだがそれだけに列島土着の呪詛呪法など知る由もあるまい。)

 

 「…やはり半日、いや6時間だな。遅滞戦術で粘るぞ。

 

 トレーナーへの攻撃もアリだ。やるぞ!」

 

 「「「「「おう!」」」」」

 

ー*-

 

 カグヤは祈るようにモニターを見つめて、そしてとうとう、耐えられなくなった。

 

 画面の向こう、アルソミトラがメガネを拭きながら原子炉建屋を見上げるその右手前…こぢんまりとした平屋の、しかしそれなりに大きな建物。白く塗られ、モンスターボールと赤十字が大きく描かれているその建物が何であるか、言うまでもない。

 

 黄金怪鳥が大きく羽ばたく。

 

 「トチュウさんっ!」

 

 「ダメだ!増援が来るまで、建屋以外にリソースを費やすことはできない!」

 

 まだ医療棟に人がいるーそんなことはわかっている。けれどトチュウは、それを救援することなどできはしない。

 

 原子炉建屋の陥落だけは防がなければならないのだ。それはユキコシ・ジョウト両地方のエネルギー供給の失陥を意味し、そしていくらでも除染のやりようはあるとはいえホープ団に原子炉メルトダウンの能力を持たせてしまいかねないのだから。

 

 「6時間堪えてくれ。」

 

 「…確かにゼルネアスをどうにかすれば石化した人とポケモンは戻せるかもしれない!

 

 だけど今、お姉ちゃんは呼吸を止めてるんだよ!?」

 

 麻酔と、筋弛緩剤と、酸素マスク。

 

 イベルタルの生命力剥奪の権能が直ちに取り返しのつかなさを意味しないとしても、現時点で既に心肺を止めている人間に対しては?どんな伝承にもその答えはないし、しかも霊魂という意味でも治療のために電磁気で突っつき回している最中なのだ。

 「キミが何を思おうと、増援の到着まで、特攻してでも此処を守り抜く。それが俺達の、責任だ。」

 

 原子炉建屋へ向かってくるホープ団に、所員が建物の屋上からマルマインを放り込む。

 

 だいばくはつに巻き込まれホープ団団員が何人も倒れ伏す。

 

 イベルタルBREAKが翼を広げ、「夜」とともに、屋上ごと所員が石像となって固まる。

 

 ゼルネアスBREAKが輝きを放ち、血を流しピクリともしなかったホープ団団員たちが立ち上がる。

 

 ー一部始終をモニター越しに見つめ、トチュウは「こういうことだ」と、ただそれだけ告げた。

 

 「…貴方はそうかもしれない。

 

 けど、私にも譲れないもの、あるから。」

 

 「…アンタ…」

 

 トチュウの声が、怒気をはらんでいる。

 

 「私がどうしなきゃいけないかなんて、わかってる。

 

 それでも、私はお姉ちゃんと、いたいから。

 

 今度こそ、守るから!」

 

 ドン!ほとんど体当たりのような動作で扉を押し開け、カグヤは制御室を走り去った。

 

 「…マイイカヅチ、お前なら、電速で戻ってこられるな?」

 

 いいのか?確かにいつでも駆けつけられるが、炉が止まって外部から電気を得られない以上、消耗するばかりなんだぞ?マイイカヅチが視線で問いかける。

 

 「はあ…

 

 …俺も、ヤキが回ったかな。」 




 核技術がメジャーじゃないせいで核施設攻撃しても怒られ生じない世界()(まあホープ団の倫理観がイカれてるのもある)(急性被爆じゃなきゃワザときのみでなんとかなりそうな感もある)

 ユキコシ電力「言うて∞エナジーとかガラル粒子とかも野蛮だよ、核技術とは方向性違うけど。それだってカロス最終兵器とかブラックナイトとかになるじゃない。」


 特殊タグ演出使いまくったのはそれだけ重視してるから…ではなく、単に今まで忘れてました(「ニュー_ワールド_オーダー」「ロストインパクト」あたりはそのうち書き換えるかもしれない)。ただ「フラダリ転生」でキーポケモンとしたように、シンオウ三神を除いた中では神格ポケモンでも別格だとは思っています。

 ちなみに「三頭軍政」の時にカロス前チャンピオンカルネがルギア(ウキクサからの借り物)を知らなかったように、アルソミトラはルギアを使わずBREAKもなし、通常ポケモンだけでカロスチャンピオンを叩きのめしてゼルネアスとイベルタルを強奪しています。なんなんだこいつは...まあ軍事組織の海外部門トップなので部下に世界中の強いポケモンの厳選と育成とかやらせてるんでしょう。今回それを出さないのは、いくら強くても本気のマイイカヅチには勝てないのもさることながら、イベルタルBREAKの範囲攻撃に巻き込まれるとかえって面倒だからです。
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