お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#51 ポケモントレーナーあるいはたったひとりの肉親、アオバ・フロックス

ー*ー

 

 バトルの手当を受けてポケモン用医務室で安静を取りながら主人の帰りを待っていたイーブイは、にわかに騒々しくなる医療棟の雰囲気に首を傾げながら、さくっとエーフィーにはつげんちょうせいした。

 

 サイコキネシスで医務室の扉を開き、廊下へ出る。

 

 曲がり角を過ぎたあたりで、さっきまでいた医務室から「変ねえ締め忘れたのかしら。それよりポケモンを避難させなきゃ!」という看護師の声が聞こえたが、気に留めている余裕はない。

 

 濃密な、戦場の気配。旅に出てまだ半年と経たないというのに、血なまぐささをかぎ分けて身体が動くようになってしまっていた。

 

 今、大切な主は動けないのだからーイーブイはいったん元の姿に戻り、必死に、戦場の方向へと走る。

 

 爆風。

 

 「…おや、並のイーブイとは思えない雰囲気ですね。もしやウキクサ同志に聞いた、食わせ者のイーブイですか?」

 

 イーブイは毛を逆立て、意思を集中させた。想いは想像を錯覚へと変え、遺伝子に幻の環境変化を届ける。

 

 「…や?

 

 わざわいのよる。」

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる) 

 

 崩れた壁の向こう側から、「夜」が迫りくる。

 

 8つの進化系の虚像が浮かび上がり、一斉に吠えた。9本の色とりどりの光線が「夜」を裂いて殺到する。

 

 虚像が1つ消えた。イーブイがびっくりしながら後ずさるー虚像に分けていた生命力を奪われたのだ。命を削られるような怖気に身震いしつつ、曲がり角まで戻る。

 

 「…イベルタルもゼルネアスも入れませんね…

 

 しかしあのウキクサがあれだけ愚痴っていたポケモン、取り逃がさない方がいいでしょう。

 

 イベルタル、デスウィングで建物を石化させなさい。少しずつ削って追い詰めますよ。」

 

 死の気配。壁がパキパキと灰色の石へ変化する。イーブイは、なるべく建物内の人気のないほうへと、本能的な恐怖に追われ走り出した。

 

 「やれやれ...

 

 …マリルリ、館内を探索してください。」

 

 丸っこいみずうさぎポケモンが、医療棟の中をとてとてと走っていく。もちろんアルソミトラはポケモン任せなどはせず、自らもまたゆっくりと、部下を引きつれ歩き出した。

 

 

ー*-

 

 マイイカヅチは、レントラー譲りの透視能力で医療棟の方向を見透かし、看護師や医者たちが石化して固まっているのを確認し、嘆息してから手近なコンセントに触れた。

 

 電光がきらめき、マイイカヅチの姿がコンセントへ吸い込まれる。

 

 次の瞬間、マイイカヅチは現れた。行き止まりに追い詰められマリルリと向かい合うイーブイの、その隣に。

 

 あまりにも強い電場が、イーブイの「錯覚」を圧倒し、はつげんちょうせいで作りだしていた進化系の虚像たちが一斉に消失、イーブイ自身もサンダースへと進化させられ驚き慌てる。

 

 自分に起きた突然の進化解除&強制進化を理解しきれずにいるイーブイに、マイイカヅチはバチバチと電気を飛ばした。電撃はイーブイの頭上で正二十面体の輪郭を描き、そしてイーブイの身体へと吸い込まれる。

 

 何が起きたかはわからなくても、なにをすべきかは、イーブイにも理解できた。

 

 -マイイカヅチの てんらいのへきれき!

 

 -サンダースの てんらいのへきれき!

 

 紫電が、成層圏からコンクリートの天井へと墜ちた瞬間に蒸発、プラズマ電離させ、煙すら上げずに十数センチの穴を開けてぶち抜く。

 

 閃光ーマリルリはひとたまりもなく当然戦闘不能となった。

 

 「今だ、ドラパルト」

 

 超音速ながらもミリ単位の神がかり的機動で突っ込んでくるドラメシヤ、だが、マイイカヅチならうろたえる必要などないはずだ。何しろ壁越しにドラパルトの存在もワザの発動も透視し、音速などよりはるかに速い電速で動いて回避することが可能なのだからー

 

 -だが、今回は、違った。

 

 巧過ぎた。アルソミトラのタイミング読みは。

 

 マイイカヅチの透視能力は、あくまで獅子舞として羽織り模倣するレントラーのそれである。そしてレントラーの透視能力とは結局レントゲン線(Ⅹ線)を感知するもの...あまりにも強力な電磁場の変動が発生する「てんらいのいかづち」が視界に入っていれば、透視能力といえども「目がくらむ」-電磁場でレントゲン線が乱れ、見えなくなるのだ。

 

 まさに視界の埒外から突如現れたドラメシヤに、マイイカヅチはさすがにたまげた。常に透視と電速機動で対応できる彼にとって、唐突な強襲というものは初めてだったのだ。

 

 ードラパルトの おどろかす!

 

 ーマイイカヅチは ひるんで わざが だせない!

 

 「そこにいましたか、マイイカヅチ。グンジョウの守り神。

 

 圧倒的強者である貴方がいる限り、ユキコシ西端は難攻不落でした…

 

 …ですが、今は違うッ!」

 

 天井に空いた、わずか十数センチの穴。「てんらいのへきれき」の貫通痕。その向こうから、現世にあってはならないほどの濃密な死の気配が伝わってくる。

 

 イーブイにはわかっていた。ここで自分が退くわけにはいかないと。蒼玻が身を挺して守ってくれたように、自分もまた、マイイカヅチがやられるのを防がなければならないのだと。

 

 つい先ほど削られたばかりの命を、振り絞る。ブースターが、シャワーズが、サンダースが、リーフィアが、グレイシアが、ブラッキーが、エーフィーが、ニンフィアが姿を現す。

 

 -ブースターの めらめらバーン!

 

 -シャワーズの いきいきバブル!

 

 -リーフィアの すくすくボンバー!

 

 -グレイシアの こちこちフロスト!

 

 -ブラッキーの わるわるゾーン!

 

 -エーフィーの どばどばオーラ!

 

 -ニンフィアの きらきらストーム!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -イーブイの ブイブイBREAK!

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 9つの光球が天井めがけ突っ込むその瞬間、「夜」が顕現し、天井が完全に石化した。

 

 範囲攻撃のダメージーイベルタルBREAKのあまりにも強いダークオーラーが天井を粉々に砕き、そして、ひるんで動けないマイイカヅチを「夜」が襲う。

 

 幻闇を裂く9つの光球ーイーブイと、進化系8体の虚像たちが、イベルタルBREAKの翼の懐へと突っ込む。

 

 -マイイカヅチの てんらいのへきれき!

 

 取り返しがつかなくなるその間際、マイイカヅチは最期の力を振り絞った。

 

 夜を紫電が吹き飛ばし、極光が医療棟を満たす。

 

 光の中、イーブイと虚像たちに突き飛ばされたイベルタルBREAKが、空高く吹き飛んでいく。

 

 パチン。

 

 何も見えていない中で、アルソミトラは指を弾いた。

 

 -ジャラランガの スケイルノイズ!

 

 鱗から響く、耳障りな騒音。光を突き抜け、虚像たちを、イーブイを襲う。

 

 「少々手間取りましたが、まあ、いいでしょう。」

 

 天井に空いた大穴から医療棟内に落下したイーブイが見たものは。

 

 薄れ消えていく、自分が生み出した進化系の虚像。

 

 すぐ目の前に立つ、アルソミトラ。

 

 脇で完全に固まり、威厳を残しながらももはや不動の石像となってしまった、レントラーの獅子舞をするライコウ型電気(マイイカヅチ)

 

 そして。

 

 真上に迫る、「Y」をかたどる黄金怪鳥。

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 -イーブイは めのまえが まっくらに なった!

 

 「さて、続きを、しましょうか。」

 

ー*-

 

 カグヤが医療棟に辿り着いた時、すべては終わっていた。

 

 石像となったマイイカヅチ、その足元で倒れたまま石と化したイーブイ。

 

 3/4ほどをヒビだらけの石とし、度重なる攻撃を受け倒壊間際でグラグラ揺れる医療棟。

 

 「イーブイ、こんなになって...

 

 …それはそうと、お姉ちゃんは!?」

 

 石化したイーブイの頭をなで、粉塵舞う医療棟を走り出す。

 

 (確か、確か処置室は...!)

 

 そして、カグヤは見た。

 

 「うそ...」

 

 膝が、ガクリと折れて地面に付く。

 

 両手を煤けた地面に落とし、その深紅のドレスが粉塵で灰色に染まるのも構わず、カグヤはただ茫然と。

 

 涙が。

 

 「お姉、ちゃん...」

 

 古代遺跡のごとく石化し、そして粉々に砕け散って瓦礫がうずたかく積もる薄暗い空間。その瓦礫と瓦礫の間に「治療室」と書かれた看板が2つに折れて挟まっていた...これも、石化した状態で。

 

 「…ヒヲマトウハネ、フラッシュ。」

 

 それがどんなに危険を呼び寄せる行為かなんて、もうわかるわけもない。瓦礫の隙間の奥が見えるように照らす。

 

 薄い、石と呼ぶにはあまりにも薄く不自然な、おそらく石化前は布だったのだろう石片…医者や看護師の服ではない。なぜならそれらはすべて洋服でかつスーツ風ないし白衣…簡単にはだけられるようにゆったりとした作りになっていることが石化してもなおうかがえるようなシロモノでは、ない。

 

 「お姉ちゃんの…」

 

 手術着。

 

 「お姉ちゃぁぁぁん!!!!」

 

 瓦礫に、一滴、二滴、三滴、染み込んでいく。

 

 「ふん。」

 

 カツカツ響く足音を耳にして、大切な人の死を前にしてもなお聴覚が残っていて何かに反応もできてしまう自分をあさましく思いながらも、カグヤは振り返った。

 

 アルソミトラが、静かに、メガネを指で持ち上げ、立っていた。

 

 「私を恨みますか?」

 

 「いっそ…」

 

 イチシノなら言うだろう。アオバも実感したばかりだろう。…「恨み」とは、未練があってこそ生まれるものなのだと。

 

 「いっそ、殺してよ…」

 

 もはや、カグヤに、恨みを誰かに抱くほどの、未練など。

 

 「お姉ちゃんがいないのに、生きてたって、仕方ないよ…

 

 私が生きてる、意味なんて...」

 

 もはや、仇討に生存の意味を見出せるほどにも、彼女の心に希望は遺っていなかった。

 

 完全な、絶望。

 

 「お姉ちゃん...」

 

 「そうか…

 

 さようならですね。」

 

 (天国に行けば…会えるかな…)

 

 「一息で、終わらせてあげましょう。」

 

 うなだれるカグヤに影が差し、影は涙でできた地面のシミをわからなくする。

 

 カグヤの真上、ジャラランガが、腕を振り上げている。

 

 -ジャラランガの ドラゴンクロー!

 

 アローラ地方最強のドラゴンポケモン、その引き締まった腕が、いたいけなお嬢様の脳天めがけ、その鋭い爪と硬い鱗を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ークリムガンの ドラゴンクロー!

 

 カグヤの頭上、わずか数ミリ。

 

 あのトキトビで、老朽化した鉄格子がアオバの命運を変えた時、ディアンシーがアオバを守り切れなかったそのギリギリの高さ。

 

 青き龍腕は、まさにその高さで、ジャラランガの腕を受け止めていた。

 

 -クリムガンの リベンジ!

 

 いつかのナノハナキャッスルでとどめを刺したそのワザが、ジャラランガを殴り飛ばした。

 

 -ドラパルトの ドラゴンアロー!

 

 -ブロスターの りゅうのはどう!

 

 ドラメシヤ2匹が、銀色の閃光に呑まれて撃墜される。

 

 -シャンデラの サイコキネシス!

 

 アルソミトラの手から、投げられようとしていたモンスターボールが、てんてんてん、転がり落ちる。

 

 「クリムガン...?ブロスター...?シャンデラ...?」

 

 (信じ、られない…)

 

 …カグヤの手は、無意識に、頬の涙をぬぐっていた。

 

 「…主なしでも、立ち向かいますか。

 

 まさにラランテス(蟷螂)の斧と知るが良いッ!わざわいのよるッ!」

 

 絶望を抱く者にも、希望を残す者にも、「夜」の帳は、無機質に、無慈悲に、等しく、訪れる。

 

 ーイベルタルBREAKの デスウィングBREAK(わざわいのよる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裸眼では見ることができない、いや見ることが赦されないほどのピンクの光が、「夜」に灯をともして闇を振り払った。

 

 「あらあらあら/さあさあさあ」

 

 その声は、高らかに響き渡る。

 

 「誇り高き俺らの燦然/直視せざること能わざる高貴なる輝きに」

 

 芝桜の台座とダイヤの紋章が刻まれしキーストーンの指輪が、右手の薬指から左手の薬指へと移される。

 

 「ひれ伏すのですわ!/誰にも超えられはしないさ!」

 

 いずれユキコシの至宝となる令嬢は、とっくに崩れ去った天井の向こうから覗く太陽の光に純白の髪を透かしなびかせ、そう新たな始まりを讃えるかのように、そのソプラノボイスを奏でた。

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