お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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「お姉ちゃん、トキトビおみやを見に行くのもいいけど、それより前に見ておかないといけないものがあるよ。」
カグヤは、ポケモンセンター裏のバトルコートへと蒼玻の手を引っ張り、そして口にした。
「お姉ちゃんの話はここ数日、擦りあわさせてもらった。それでね。私には、お姉ちゃんが、ポケモンのことをちゃんとわかってるとはまったく思えない。」
「それは、ニワカオタクですもの...」
「そういうことじゃない、そういうことじゃないの。」
カグヤがブンブンと首を横に振りながら、ボールを放り投げ、ファイアローが登場する。
「ポケモンってね、手加減ができる生き物なんだ。そして、ポケモンバトルができる生き物なんだ。」
何をいまさら?ポケットモンスターは対戦ゲームだ...蒼玻はそう思った。
しかし、続く言葉は、ポケモンバトルとは、ポケモンとは何かを蒼玻に考え直させるものだった。
「例えばクイタランは、獲物であるアイアントを食べるために炎の舌を発達させた。だけど、ポケモンバトルに勝ってもそのまま相手を焼き尽くして食い殺したりはしない…例え相手がアイアントでもね。
例えばカイリュー。地球を16時間で一周できる、つまり巡航速度はマッハ2.5。『そらをとぶ』だけで衝撃波でほとんどのポケモンを倒せるはずだけど、実際にはパトル中に音速を超えたりはしない。
例えば十万ボルト。人が受けたら死ぬ電圧だけど、でんきポケモンの10まんボルトによる死者は他の地方では存在しない。
例えば炎ワザ。むしタイプが大威力の炎ワザを受けたら消し炭になってもおかしくないけれど、実際には死ぬことはない。
…ポケモンにとって、本気とフルスペックは全然意味が違うの。
いにしえのヒスイ地方ならともかく、人とポケモンが共生し自然があふれる現代、殺し合いなんて滅多に起きない。ポケモンは本能でも理性でも、いやもっと深いところで、そのスペックをセーブできる。言葉にされることはほとんどないが、誰もがそれを察している。
「ポケモンがゲームやアニメの世界から来た...って言ったよねお姉ちゃん。それで、その中では、ポケモンバトルの流れ弾でトレーナーが死んだり、した?
ユキコシではトレーナーバトルだけで、ここ5年に6人、あと行方不明者も2人出てる。」
ポケモンバトルで、死者はまだしも行方不明者とは闇が深い…「意味が分かると怖い話」じゃないかと蒼玻は肩を震わせた。
「まあトレーナーバトルはしつけるから、よほどの暴れん坊か進化後で出力制御しきれなかったかなんだけど、野生ポケモン相手だと、命を賭けなくちゃいけないことだって珍しくない。私は次女だからおみや巡りに行けたけど、正直、死ぬなと思ったことは何度かあった。」
だからこそ、フロックス家は後継ぎを旅には出せなかった。
「少なくとも、今のユキコシ人の先祖がこの地方に入ってきた時は既にこうだったらしいの。
ずっと、ユキコシのポケモンは、安全装置が欠けたような状態、リミッターが外れたような状態。」
車に例えるならば、180キロのスピードリミッターが付いていないようなものだ。スピードリミッターなしの車のアクセルを踏み続ければエンジンが耐えられる限界まで何百キロと加速できるが、当然そうすれば事故るーもちろん、そうならないようにちゃんとメーターを見て、速度が出過ぎたら下げればよいのだが、頭に血が上った場面でポケモンが出力を制御しきれるかというとそれは時と場合によるというわけだ。
「ファイアロー、オーバーヒート、フルスペック。」
ファイアローの身体が、赤熱した。火柱が高く上がり、カグヤも蒼玻も後ずさる。
しだいに、周りの草が燃え始める。ヒーターなど目ではない。リミッターのないポケモンのワザは、時に近づくだけでも危険なのだ。
「炎ポケモンでもユキコシでは1分以上のフルスペックオーバーヒートは命に係わる…ファイアロー、ストップ。休息して。」
立派な金色の懐中時計をパチンとしめ、カグヤが叫ぶ。…もっとも、余熱もくすぶる煙もそう簡単には収まりそうになかった。
「これでもマシなほう。ギャラドスがもしユキコシで本気を出して、それを止められなかったら、街一つ消し飛ぶ。
これが、ユキコシ地方が『壊れている』と呼ばれる原因なの。」
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冬は雪に閉ざされ、山と海に挟まれたユキコシ地方。そこは厳しい自然があるだけではなく、ポケモンも、”こわれた”、ブレーキにガタが来ている状態の地方。
このデンジャラスかつわかりにくい異常が起きた理由はよくわかっていないが、学者の間では「
その伝承とは、こういうものだ。
「今のユキコシに住んでいる人の御先祖様がユキコシの地に来る前、この地方には優れた技術を持つ古代文明が栄えていました。
しかし、ある時、闇から顕れた伝説のポケモンが襲来して暴れまわりました。
伝説のポケモンはとても怒っていて、ユキコシの大地も海も空も、すべてを粉々にしてしまおうとしました。
古代ユキコシの人々は、たくさんの遺跡を遺し、一夜にしてユキコシを見捨てました。
優れた技術を持つ古代ユキコシ人が見捨てたユキコシ地方に、伝説のポケモンを止められる者はもういません。
山は崩れ、川は干上がり、平野はくぼみ、海は空から降り、カミナリは地面から打ち上がり、命は途絶えようとしていました。
その時、三体のポケモンが、北から顕れたのです。
知識、感情、意思をつかさどる神様は言いました『八つ当たりで世界を壊すのはやめるべし』
伝説のポケモンは何も答えませんでした。
闘いは三日三晩続きました。
闘いが終わった時、伝説のポケモンは初めて、言葉を発しました『すまなかった』
神様は応えました『さらば、汝が壊したるもの、すべて、元通りに直すべし』
伝説のポケモンはそれに応じました。自分が壊した地方を、命を、元通りよみがえらせたのです。
ユキコシ地方に、再びおひさまが上りました。
しかし、そこはもう、かつてと同じユキコシ地方ではありませんでした。闇から顕れたそのポケモンの力は、正しく世界を直すことはできなかったのです。
多くのポケモンが
神様は、堕ちる前、最後にお告げを残し、周りを傷つけないようにとはてやまに去りました『汝ら、力を抑えるための心を身につけるべし。そは、お互いへの敬意と、いたわりである。敬意といたわりを忘れなければ、汝らの心は、失われし力の枷の代わりとならむべし。』
ポケモン達は、自分を鍛え、他者を敬い、新たなユキコシを生きていきました。強いポケモンの力は、死んでも地に満ち空に満ち、後に続くポケモン達は、亡くなったつわものたちの祝福を受け、祝福に感謝し、生きていきました。
やがて新たな人々がユキコシにやってきました。彼らは強大な自然、厚い雪、そして容易く力を振るうポケモン達のいるこの世界で、カタチに残るほど強い祝福を与えるポケモンたちを崇め、彼らの強い心にあやかろうと、『おみや』を建てたのです。
強く、そして優しい心を持ち、祝福を自ら生み出して分け与えてくれる...彼らこそ、強い心の持ち主へ神様の代わりに祝福を与えてくれる、神様の『よりしろさま』なのです」
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「壊れたユキコシ地方で、それでも頑張って生きてきたポケモンたちの力が、心が、祝福として満ちて、受け継がれていく...そう、ユキコシの人々は信じてきた。
今では、ユキコシでは死んだポケモンやあまりに強いポケモンは特殊なオーラを放出し、2000年蓄積されたオーラは特殊な力場としてユキコシ地方を満たしていると証明されているの。」
こわれた地方に満ちる
「この力場の力を用いるには、3つの方法があるの。そのうち2つは、力を空間から吸い上げて蓄えてくれる充電池みたいなもの...『カケラ』と呼ばれる結晶を使う方法。よりしろさまから与えられ、よりしろさまの清らかな心によって染まった『色付きのカケラ』と、希少な鉱石として得られるけれど単に大地の力を吸収して放出するだけの『透明なカケラ』の2つがあって、前者はよりしろさまのワザ、後者は自分のワザに祝福を掛けるの。
ただ、よりしろさまのカケラは入手も使用も融通が利かない使えるワザは決まっているし、『透明なカケラ』は本当に希少品で高級品だし公式バトルでは使えない、要するにどっちも頼りにはならないの。その代わりによく使われるのが、大地に元々満ちている祝福をつかの間だけ借りる方法。」
祝福は占有するものにあらずーなぜならばそれは先を生きてきたポケモン達に敬意を払いその強さと心をユキコシの大地から授かるものだからだ。しかし裏を返せば、特殊な手段なしでも誰でもBREAKフィールドから力を借りられるのである。
ファイアローが、再び指示が下る気配を察して、はばたく。
「いつもは先手でしか使わないんだけどね…
ファイアロー、BREAK進化!」
ポケモンセンター裏のバトルフィールドが、金色の粒子に満ちた。
「これが、BREAK力場...蓄積されたポケモンのオーラ...なのですわね…」
光が、ギュンっと、中央で浮かぶファイアローへと凝縮する。
「
金メッキをされたかのように眩く輝くファイアロー。羽ばたくたびに金色の光を撒き散らしている。
「メガシンカとZワザのようなもの、ですの?」
「正確には違うよ。
BREAKワザを使ったりBREAK進化が解除されると、ポケモンが授かっていたBREAKオーラは放出されて大地に返るけど、10分くらいのクールタイムを経るか数百メートル移動すればBREAKフィールドにオーラがリチャージされてもう一度使用可能になるの。
ただ、これはお姉ちゃん覚えておかないとダメなことなんだけど、トレーナーバトル、特に悪い奴とのバトルの時はなるべく先手でBREAKオーラを消費するか、それに失敗したらすぐ逃げないとダメ。相手が先に使っちゃうと、強力なBREAKワザで追い詰められてその上BREAKフィールドのクールタイム中は自分もBREAKワザを使えないから。」
アオバだったころはそんな配慮は不要だったー特異ディアンシーはたいていの攻撃を防げるので、むしろ賊が初手で撃つBREAKワザを防ぎきってじり貧にした方が良かったのである。
「というわけで、見せてあげようか。ファイアロー、ぐれんのつばさ!」
金色の翼が赤くメラメラと輝き、舞い落ちる金色の粒子までもが赤く輝く。
赤か金色かもわからないまさに太陽の輝きが、ファイアローの両の翼を覆う。
「祝福を受けている間は、リミッターのはるか上の出力でも、加護によって傷つくことはない…
…あの木を焼き尽くせっ!」
瞬間、空中に金色の線が走った。
カグヤが指さした木が、金色の光に両断される。
刹那、一抱えはある太い木が、丸ごと真っ黒な炭となって崩れ去ったーユキコシではそんなに珍しいことではないので誰も気に留めはしない。
「これが、ユキコシ地方...」
「ユキコシの危険性と、祝福をうまく使いこなすこと、お姉ちゃんはそれを学んでいかないとね」その言葉も耳に入らず、蒼玻は立ち尽くした。
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ドン!
どこからともなく飛んできた水弾が、バトルフィールドに砂埃を舞いあげた。
「私のお姉ちゃんを汚すのは誰っ!?」
左腕で目を覆いながら、カグヤが叫ぶ。
「汚してんのはお前だろうが、俺たちのユキコシ地方をよぉっ!」
目にも止まらぬ速さで降りぬかれたサワムラーの足を、カグヤはノールックで横っ飛びし、避けた。他の地方ならいざしらず、ユキコシでは死にかねない。
「おうおうおう、講釈たれやがって。全部聞いてたぞ!
人も、おみやも、クソッタレだ!」
砂埃が晴れると同時に、蒼玻とカグヤは叫んだ。
「イーブイ、スピードスター!」「ファイアロー、エアスラッシュ!」
「避けろサワムラー!」
ポケモンセンターの方から、騒ぎを聞きつけてかガヤガヤと物音が聞こえる。
「カグヤっ、先ほどの、BREAK進化で...」「お姉ちゃん、使ったばかりでフィールドがチャージされてない!」
もう通常の色合いに戻っているファイアローと、ポケモン図鑑のBREAKオーラ濃度計測アプリを見比べ、カグヤは端正な顔をしかめた。
「そりゃそうよ。俺はお前のBREAK進化できるファイアローが欲しい、でもBREAK進化していたら手ごわい。答えは一つだよな?
このホープ団海軍中将ウキクサ様が、わざわざ出向いてやったんだ。おとなしくそいつをよこすんだな侵略者ァ!
往けオムスター!ファイアローへみずでっぽう!サワムラーはイーブイにふみつけだ!」
「ちっ、ゲリラの分際で...
ファイアロー、エアスラッシュで応戦して!」
「イーブイ、避けてくださいまし!隙は大きいですわっ!」
高く飛びあがったサワムラーが、片足に全体重をかけて地面を踏み砕く…が、その大きなモーションを、ちっぽけなイーブイはひょいひょいと避けていく。
「ふん、このウキクサ様が、その程度を計算に入れていないとでも?サワムラー、追い詰めていけ!」
ドスンドスンドスン!
その足がイーブイへと踏み降ろされるたびにイーブイはバトルコートをはみ出し、落石防止コンクリート壁で覆われた山際へと追いやられていく。
蒼玻も、イーブイとサワムラーの一挙一両足を見逃すまいと、ともに山際へと移動する。
「よしっ、そこだっ!」
サワムラーの足が踏み降ろされ、イーブイが後ずさって避けるその瞬間、小石につまづいた。
転んで横たわるイーブイの目に、サワムラーの足が迫る。
「イーブイっ!」
叫び、蒼玻はその白い和服を土で盛大に汚しながら、滑り込んでイーブイを抱え、そのままスライディングしてサワムラーの足から逃れた。
「ポケモンをかばう、か。ならばともに死ね、侵略者どもめ。」
サワムラーのキックが再び飛ぶ。今度こそ避けられない…蒼玻は思わず目をつぶった。
「お姉ちゃんを助けてっ!ファイアロー、サワムラーへブレイブバード!」
オムスターが背後から攻撃してくるのも構うことなく、サワムラーへとファイアローが体当たりを敢行した。
「この俺のサワムラーが、ブレイブバードだけで轟沈するとでも...?着地したら体勢を立て直せ。」
苦し気な表情を浮かべながらも、サワムラーはまだ気絶しない。そして軌道の変わった足先が、コンクリート壁へとクラッシュする。
リミッターがこわれたサワムラーの足技とブレイブバードの運動エネルギーが重なった一撃は、当然落石防止壁など容易く砕く。一帯が煙に包まれた。
「落ち...きゃあっ!」
煙が晴れた時、サワムラーも、そしてイーブイを抱えた蒼玻もそこにはおらずー
-ファイアローがむなしく飛ぶ下で、ぱっくりと、地面と山肌に、トラック一台ギリギリ入れるほどの穴が空いていた。
ユキコシ地方の特徴、わかりにくいので示しておきます。
ピカチュウの10万ボルト=機械で出した十万ボルト電流(威力に於いて)
ピカチュウがサトシに10万ボルト→大したことがない
機械の十万ボルトをサトシに→死ぬ
ユキコシ地方でピカチュウがサトシに10万ボルト→死ぬ。この地方はポケモンではあってもファンタジーではない。
まったく同じ威力であろうと、ポケモンが繰り出すワザのそれはあくまでポケモンバトルの範疇に収まり、”ジョークで済まない”結果にはなりません。これはポケモンが不思議な不思議な生き物である由縁であり、ポケモンの行為はほぼすべてバトルの勝敗に帰結してその枠をはみ出すことはない。
これはポケモン世界に於いてとても不思議な現象です。ただ、ポケモンにはある種のリミッターがあり、バトルスペックというものしか普段は発揮せず、その限りに於いては伝説のポケモンを鍛えた通常のポケモンで倒すこともできます(第四の壁の向こうの基底現実から見れば理由は明らかで、ポケモンが文字通りの力を出したら例えばバンギラスは山ごと相手のポケモンを食べてしまうし伝説のポケモンなんてバトルどころではないし10万ボルトを繰り返し浴びたら死んでしまうはずだからと言って本当に相手のポケモンや人が死ぬのは空想科〇読本の中だけ)
ところがユキコシ地方ではこの神秘パワー(=ご都合主義)は壊れています。「ポケモンの営為は(そのポケモンが最初からキレておりガチスペックですべてを破壊することを決めこまない限り)バトルの範疇に収まる」というフシギパワーは最初から存在せず、リミッターのない彼らはうっかりするとバトルスペックをはみ出し、なみのりで街中に津波を起こしたりほろびのうたごえで死人を出したりします。ですからユキコシのポケモンは、生きとし生ける者への敬意といたわりを以て、自分たちのワザがバトルの範疇に収まるようある種のスポーツマンシップとともに生きているわけです(なお場合による)
カケラ ユキコシ地方に満ちる
どちらも「空間に満ちているBREAKオーラがBREAKワザ/進化で枯渇している時のバッテリー」であり、普段は周囲のBREAKオーラを吸収し使用時に解放する。