お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
現代日本からの転生男子こと蒼玻と、ユキコシ地方一の令嬢アオバ。2人は転生と憑依にまつわる諸問題をやっとのことで解決し、晴れて1つの身体を共有する恋仲として、旅の再出発をきった。
ユキコシ地方の7つのおみやの中で最強の名をほしいままとするサンゴジュおみや。フロックス姉妹はアオバの挑戦のためにおみやを訪れたが、あいにくだいぐうじチューリップは不在。「だいぐうじチューリップは人見知りで、2人以上他人がいると逃げてしまう」ー告げられたサンゴジュおみやの問題に対し、姉妹はだいぐうじの捜索と人見知りの解決を請け負った。
サンゴジュおみやの特別試練「だいぐうじを探し、だいぐうじの人見知りの原因を見つけて人見知りを改善してくれ」ーそれで、だいぐうじチューリップをどうやって探す?
ー*ー
「ファイアロー、空からお願い。」
カグヤの手首を、コクリ頷き、ファイアローがサンゴジュの空へ飛び立っていく。
”「でも、難しいですよね…」”
サンゴジュシティ都市圏の人口は約60万。もちろん「チューリップは、緊急連絡に呼べばすぐ来る」ということならそこまで遠くを捜索する必要はないとはいえ、実際に見たこともない人ひとりを、十数万の人とポケモン行き交う大都市から見つけ出すのは困難だろうーまして、サンゴジュおみやだいぐうじチューリップは人目を避けている。
「それはそうだなディアンシー、とはいえ足で歩き回って探すよりは…」
他人が耳を傾けているわけでもないのなら…蒼玻は前世通りの喋り方で発言する。それに、まったく同じ声色ながらも華やかで優雅なアオバの声が、同じ口から返答を返した。
「ですけれど、何もわたくしたちの試練だからと言って、わたくしたち直々に探し回ることもありませんわ。
カグヤ、如何かしら?」
「…ネット?見てるけど、特に情報はないよ。」
変装してたらわかんないしね…カグヤはぼやいた。誰もが着物やドレスで存在を知らしめ歩いているわけではないのだ。
「…いや…
…おみやのジムトレーナーさんは、決してだいぐうじの居場所を調べてないわけじゃなさそうだった。ネットはともかく、人脈だってあるだろうに、いくら変装したって素人、2年隠れおおせるか?
/わたくしにも疑問がありますわ。最強で、最強であることを求められる、サンゴジュおみやだいぐうじ…それが丸一日おみやから逃げることしばしで、その座を守り続けられるのかしら?」
「…お姉ちゃん、それは、矜持として?実力として?」
「どちらもですわ。
カグヤのポケモンたちだって、3日もバトルしなくてはなまるでしょう?
まして、最強であることを存在意義としている方なら?チャレンジャーからは逃げられても、バトルから逃げようとは思いはしないのではありませんこと?
/バトルを鍛錬できて、かつジムトレーナーの知り合いの誰とも会わない場所…か…」
「限られるよね、それ。もしそんな場所がこの街中にあるとすれば…」
ー*ー
フロックス・エステーツ社サンゴジュシティ支店。
サンゴジュシティの不動産取引・物件管理の半分以上を握る大企業は、時ならぬ騒ぎに見舞われていた。
「驚いたな、アオバさんとカグヤさんが来られるとか…」「最近あんまり経営に関与してないって聞いてたけどな」「何しに来たのかしらね」「そういや昨日サンゴジュおみやで見たって聞いたけど」
「おい、支店長が、ひとり説明に来て欲しいってさ!」
お前行けよ、いやお前…そんな視線が数秒交わされ、1人のサラリーマンがしぶしぶ立ち上がった。
「支店長、上にはへつらうけど下にはうるさいからなぁ…」
お嬢様の無茶や不満と支店長の不平は、俺が受け止めないといけないのかー眉をしかめる。シンボラーが彼のタブレットPCをサイコパワーで浮かばせついてきた。
「ありがとな…帰りいっしょに呑もうなシンボラー…」
ー*ー
「それでは、バトルができる私有の物件を探している、ということですね?」
「はい。誰にも見つからずバトルの鍛錬ができる物件で、この2年に売れたものを探しておりますわ。」
「売約済…ですか…
すみません、それに関してはお伝えすることはできません。」
「コラ君!ただのお客様じゃないだぞ!無礼じゃないかね!」
「支店長、そうは言われましても。既にお客様にお売りした物件については個人情報ですよ。」
「そこをなんとかするのが君の役目じゃないか!」
「まあまあ支店長さん。無理なことをはっきり無理というのも彼の仕事ですわよ。ね?」
「ム、アオバ様がそうおっしゃるのであれば…
オイ君、だったらもう下がっていいぞ。」
「…でしたら、名刺だけいただいてもよろしくって?」
ー*ー
思っていたのと少し違ったな…そう思いながら応接室を出てしばらく。
「もしもし、先ほどご迷惑おかけしたアオバ・フロックスですわ。
…他の方に聞かれない場所に移動できますかしら?」
サラリーマンは、名刺を見てかけてきたのだろう電話にビックリしながら、シンボラーに指示を出した。
「シンボラー、リフレクターを。
…遮音しました。それでお客様、お話とは…」
「まず最初に、先ほどは知らずに無理を言って申し訳ありませんでしたわ。」
「いえいえ、お客様が気にされることでは…」
「あの支店長についてはしかるべきところへ報告しておきますわ。きっと相応の沙汰が下されますし貴方に害はない、約束しますから安心なさいませ。
それはそれとして本題なのですが…サンゴジュおみやだいぐうじのチューリップさんがたびたび姿を消すことはご存知でいらして?」
「はあ…聞いたことはあります。それで…」
「わたくし、試練として、彼女が何処に姿を隠しているのかを探すよう言われましたの。それで、2年間人目に触れず、それでいてバトルの練習をできる場所、となれば、バトルコートがある私有物件は限られますわよね?」
「なるほど、それでここ2年に売れた物件を、と…
…しかしそういうことでしたらますますお伝えできませんね。」
「ええ、そうかもしれませんわね。というわけで、今からメールする資料の物件のうち、販売可能な物件を教えていただけますかしら?」
「メール…ですか?」
「市街区画に於けるバトル施設の設置には許可が必要…お祖父様の提案した法律ですわね。」
ユキコシ地方では、都市市街でのポケモンバトルには規制がかけられている。言わずもがな、うっかりバトル上のスペックを超えてやり過ぎると危険すぎるというユキコシならではの事情があるーかつてはガラル発の防壁システムもなかったから、許可・届け出が義務化されたのだ。
「市役所の法務か消防か防災に問い合わせれば教えてくれる…思ったとおりでしたわ。ですから、バトルができる私有物件すべて、その資料請求ですわ。
わたくしはそのリストマップの中の1軒を買いたい…
…ただ、貴方が『申し訳ありませんがその物件はお売りできません』と答えた物件についてわたくしがどう思うか、それについてまでは貴方の感知するところではないですわよね?」
「…確かにそれならば、私は他のお客様にお売りした物件をお教えすることにはなりませんね。あくまで売れないところを除外したマップを返すだけで…しかしそもそも我が社が扱っていない物件も多くありますよ?」
「あら、わたくし、貴方方は不動産の仲介もしていると聞いておりますわよ?
わたくしがわたくしの家名を貸しているのです。わたくしが手ずからサンゴジュでの物件を選ぶために、最大限の選択肢を提示してくださる、そう信じておりますわ。」
「…わかりました。お客様のご依頼、承ります。」
思ってたのとかなり違ったな...サラリーマンはそう思いながら電話を切った。
「ようお前、どうだった?お嬢様だろ?やっぱ大変だったか?
英雄なんて言う人もいるけど、やっぱり偉いお嬢様だしそもそもウチの会社の上の上だしなぁ。」
「いや...」
「いや?どうしたんだ?」
「思ってたより善良で、腹黒で、エキセントリックで、潔癖で...
...ハハッ。」
「…お前、普段より気合入ってる顔してるな。」
ー*-
...ま、目の付け所は悪くないんだけど、結局回り道であることには違いないんだよな。
「西地区、リストアップ終わったよお姉ちゃん!」
「俺は中央/わたくしは東、終わりましたわ!」
”「北、終わりました!イーブイさんどうですか?港湾終わった?」”
「次は私、新駅地区やるね!グレイシアたち、工業地区お願い!」
「第3団地を/都市公園をやりますわ。イーブイたち、東文教地区頼めますかしら?」
”「飲み物持ってきます!」”
...結局、売約済み物件の情報を得られなかったから、私有バトルコートの法規登録情報とバトルコート付き物件の未売約情報をマップに落とし込んで売約済み物件のあぶり出し、からの各物件を検索してわかることまで絞り込む...それまでしても、おそらく十数は残る。この広いサンゴジュシティに。
「今思ったんだけどさ、普通に夜討ち朝駆けしたほうが良かったんじゃないの...?」
「あそこで引き受けずに黙って凡百な待ち方したらアオバちゃんじゃないだろ、だいたいあのトレーナーたち泊まり込みで張ってるから、簡単にはチューリップだいぐうじも捕まらんぞ。
/なんだかおかしな評価をフィアンセからいただいているような気も致しますが、バトルに飢えているトレーナーたちが徹夜で張り込みかねないことも、それでいてチューリップだいぐうじが目撃されずにたびたび帰れているということは、わたくしたちが張り込んでも望みがないということも同意ですわ。」
「いや、そうじゃなくて、尾行とか…あっ、入るところを見つけられないってことは出るところも見つけられないのか...」
この世界はポケモンの世界、ファンタジー、その気になれば人を撒く方法なんていくらでもある…例えば「あなをほる」でトンネルを私設していたとしてもおかしくない。
「それにしても思った以上に多いですわね、ポケモンバトル可能物件...」
「町内会で持ってたり同好会的な感じで持ってるのも多いからね。」
「ちょっとしたワザの練習ができるスペースであっても準バトルコートとして登録が必要ですし暴発対策も必要ですから、実情に沿うかは別の問題ではありますわね。
...あら、子どもポケモンバトル塾に、ポケモン養護ホーム...
ポケモンを育て、看取るための施設もあれば/トレーナーのための施設もあるってわけか…」
「バトル喫茶にバトル釣り堀...バトルトレインもびっくりだね…」
さすが最強トレーナーのおひざ元...
「…ですけれど、商業施設はハズレですわね。ネットで紹介があるような施設では...
...あら、これは?
/バトルコート付きウィークリーマンション...リストに入れとこうか。」
「こっちのトレーニングセンターは?完全予約制だよ?」
「朝から晩まで毎日予約する人はいないだろ/そうですわね。まるごと買ったほうが早いですわ。」
…それはアオバちゃんだけだよ。
(心外ですわ!)
「そういえば、サンゴジュおみやって何か、タイプとかテーマとかってあるのか?いや、事前に聞くのは反則な気もするけど。」
「ほんとはあんまりためにならないけど、でもメタ張れる相手じゃないしね…
…『雪山』…『氷と山』…そういうテーマだよ。まさしく、はてやま連峰そのものみたいな。」
「ふーん…
…/それなら…
これなど/なんか、どう/かしら?」
ー*ー
サンゴジュスケートリンク。サンゴジュ総合体育館のスケートリンクに夏季用冷凍設備を導入してからは、大規模なイベントが無い限りは使われていない…そもそもあと一月もすればそこらの池も川も凍りつくのがわかっているのだからレジャーでスケートリンクに金を払うこともないのだ。
だから蒼玻は電話をかけた…今日今から、スケートリンクを貸し切ることはできますかしら、そう。そして返事は…
…否。もう貸し切られている、そう告げられた。
こおりタイプのポケモンのバトルの鍛錬をするのだ。ただのバトルコートではなく、せっかくなら、氷や雪に適したバトルコートがいいだろう。いくらほとんどのワザに対応したコートであろうが、それこそトレーニングセンターを毎日氷ワザで凍結させていれば、食べ放題で数十杯平らげる客のごとく顰蹙を買うこと請け合いだ(だいたいワザのダメージに対応していようが頻繁な結露や機器損傷、さらには温かい飲料の常時販売に対応しているわけではないし)。
ほとんど使われないはずの古いスケートリンク、これほどこおりタイプポケモンに適した鍛錬場も、そうはなかった。
「誰もいませんわね…/なあアオバちゃんこれってもしかしなくても不法侵入…/探せと言ったのは関係者の方ですし事後で話通りますわよ。/れ、令嬢さぁ…」
(ウスベニおみやといい、多少の無理は押し通るスタイルすぎる…)
カグヤはと言えば、スケートリンクの外で待たされている。ここでだいぐうじチューリップに逃げられては水の泡だからこそ、「2人以上他人がいると逃げてしまう」という忠告に従ったのだ。
「クレベース、ひょうざんおろし!」
(…いましたわね/いたよ…)
「モスノウ、ウェザーボール!」
仰ぎ見るような巨大な氷塊を、これまた呑み込まれそうなほど巨大な熱球が溶かし、水蒸気爆発とライデンフロスト現象で氷が爆裂する。
「ひゃっ…!」
逃げ場なしにスケートリンク全体に降り注ぐ氷片ーなるほど通常のバトルコートでは広さも耐水性も足りず、傷ついた壁面がカビてしまうだろう、スケートリンクを選んだことには蓋然性があるーに、ひっそりリンク外に着席していた蒼玻/アオバがびっくりして席の下に潜り込む。
「…わっ!?」
続くようにして聞こえてきたのは、かわいらしい…どこか幼げな声。
「…あら…」
(わお、ロリ声…/ちょっと蒼玻くん、黙っててくださるかしら?/…サーセン…)
モスノウの羽ばたきの風圧と、クレベースの氷瞼の下からの眼光、それらの迫力を背負いながらも、トレーナーの少女本人はおどおどと、座席の下から這い出す蒼玻/アオバを見ている。
「えっと…その…ひとり…ですか…?」
「ええ、わたくしひとりですわ。
わたくしはアオバ。チャレンジャーのアオバ。貴女は、だいぐうじさんでよろしいかしら?」
「うん…
…私はだいぐうじ。サンゴジュおみやだいぐうじのチューリップ。
それで…挑戦、受ければいい、んだよね?」
ーポケモントレーナーの アオバが しょうぶを いどんできた!