お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
ところでディアンシーとかテレパシー使えるやつが相手だと蒼玻とアオバの脳内会話に割り込めるの強い。
ー*ー
蒼玻/アオバは、チューリップだいぐうじのことを知るためにジムトレーナーと会話をしていた時のことを思い出していた。
「…どうして、チューリップだいぐうじは、おみやの運営に滞りが起きるほどに激しい人見知りになられたのかしら?差し障りなければお聞きしたいところですわ。」
そう尋ねられ、ジムトレーナーはむーっと唸るような声で悩みを見せた。
「チューリップ様は、サンゴジュだいぐうじは、ユキコシ最強でなければならないのです。
けれど、あの若さで最強となられた代わりに、多くのものを犠牲にされた…」
「犠牲…?」
「先代は本当に偉大でした。強くあるだけではなく強さを見抜く才まで持っていた。」
「覚えてるよ。すごい人だった…まあヌレバおみやのアテぐうじ並みに溌溂剽軽おじいちゃんでもあったけど…」
カグヤが懐かしむように応じる。…ちなみに話題の先代ぐうじはと言えば、寒暖の差激しいユキコシは滋養に良くないとうそぶきデコロラ諸島で悠々自適な隠居生活をしているらしい。
「ただ、ポケモンを育てるのは上手でも、人に関してはそうではなかった。いえ、チューリップとの相性が悪かったのかもしれませんが…
先代の見立てどおり、孤児だった彼女はまたたくまにおみやの最強となり、ぐうじの最強となり…記録的な早さでユキコシ最強のトレーナーとなりました。けれど、同時に、人間として最弱になってしまったのです。」
「人間として…それは、他人が2人以上いては逃げてしまうようでは、社会的に生活できない、という意味かしら?」
「そのとおりですアオバさん。本来なら私たちジムトレーナーでなんとかするべきなのですが…
…先代はカグヤさんのファイアローの動きを見きれなかったことで引退を決意されました。」
「あっ…老眼で辞めたの、私のせい…?」
「はい。
ただでさえ人見知りなのに、決してポケモンが衰えたわけではない自分が居座ってはプレッシャーとなり、かえって悪化する…先代はあえてサンゴジュを去られましたが、悪化しなくてもそれで改善されるわけでもなく…
…強いトレーナーは古今東西、我が強いものです。強いポケモンを従え、強い意思を持つ…そんな人物はたいていクセが強いですから。」
「カグヤみたいに?」
(ちょっと蒼玻くん!?/ごめんつい口挟んじゃった…)
「確かに私ほどお姉ちゃんを愛してる妹っていないもんね。」
「…あの、いえ、そんなつもりで申し上げたわけでは…
とにかく言いたいのは、サンゴジュの歴史の中でも、我の強い押し押しのだいぐうじを支え御する経験は豊富であっても、我が弱くすぐに人に押し負けるだいぐうじをなんとかするノウハウはなかった、ということです。
先代も、私達も、そしてよりしろさまも、心配しています。このままいつまでも…というわけにはいかない、と。
けれどチューリップだいぐうじは確かに最強で…そのことだけは確かなのです。」
だから手詰まりなのだ、だからタチが悪い、そう言わんばかりの憂え気な表情を、アオバは思い出して。
そして、同じように憂え気な表情の、目の前の存在に、意識は戻る。
「…アオバちゃん、現実逃避は終わった?
/ええ...」
回想を終え、純白の令嬢は前へと目を向けた。
”「魂がふたつ、あなた、まれびとですね?」”
純白の毛、雪粒が清浄な気配をまき散らしている。
「…やっぱり喋ってる...」
”「こころも、読めますよ?」”
白狐は、9つの尾をくゆらせ、どこか愉しそうに、自分より背の低い純白の令嬢を見下ろしていた。
ー*ー
サンゴジュシティ某所、カラオケ店個室。
「好きなもの頼んでいいよ。」
グレイシアを膝に乗せて撫でながら、カグヤはメニュー表をチューリップに渡し、自らはミラーボールとテレビの電源を切った。
「あの、カグヤさん…」
暗く静かなカラオケ個室という、どこか非現実的な空間に、チューリップの可愛らしい声が響く。
「なに?チューリップさん、歌いたかった?」
「そう、じゃなくて…
…カグヤさんこそ、歌わなくて、いいの…?」
「私は単に、他人に聞かれたくない話ができる場所が欲しかっただけだよ。」
ま、だからこそ入ったってこと自体がスキャンダルになったりもするんだけど…そんなことをぼやきながらタッチパネルからポテトを注文する。普段姉とともにいるときはいいものを食べさせてあげたいが、だからこそ一人になったら姉の身体にはとても入れられないジャンキーなものを食べたい、そんなカグヤであった。
「そ、そうなんだ…」
「ちなみに私の株主優待で入店してるからチューリップさんひとりじゃ退店できないよ。
逃げられないからね。」
「ぴぇ…っ」
最強のトレーナーを自認するチューリップだが、もはや半泣きであった。
しばらくの無言タイム。やってきた山盛りのフライドポテトをポケモンたちとカグヤが上品にかじる。
「えっと…
…怒らない、の…?」
「怒る?
できないこと怒っても、できないことはできないよね?」
「あうう…」
「私が知りたいのは、どうしてこうなったのか、だからさ。理由がないのに手段は湧いてこないもん。」
Why?ーそれが、カグヤの目的だった。なぜ最強のトレーナーがー最強であるためにはクセ強で我が強く人として強いべきであることがほとんどであるのにーなぜ対人では最弱なのか、それを知りたいし、知らなければチューリップだいぐうじの対人能力を強くすることはきっとできないからだ。
「わ、私の…
…カグヤさんは…っ…
…私が、弱いと、思いますか…?」
ー*ー
「弱い?チューリップさんが、かしら?それは解せない話ですわよ。」
アオバは、眼の前に堂々立つ大きなユキコシキュウコンを見上げ、そう問い返していた。
”「そうです。人の子の世に、彼女はあまりにも弱いのです。」”
(あれだけバトルが強くてか?ポケモンを育てるのも扱うのも超一流だぞ。)
”「人が群れることなき闘争と序列の生物ならば、きっと彼女は天下無双のヌシになったのでしょう。
しかしそうではなかった。なかったのです。
彼女はただの天才ではありません。歴史の長いサンゴジュおみやに彼女の悩みを解決するすべがないのは、百年前であれば彼女は見出されることなく死んでいたからです。」”
(トレードオフ、か…/…蒼玻くん、貴方は、「チューリップさんはバトルは強いけれど対人能力に難がある」のではなく「対人能力と引き換えにバトルの才能を得た」と、そう言いたいのかしら?
/…天才作家には精神を病む者が多いとか、あるいは自閉症みたいな精神障害者には一定数、サヴァン症候群のような特殊能力を持つ者がいるとか…あるいはもっと言えば、エリート大学にはコミュ障が多いのもそうだった。そういう例は確かに前世でもあったんだよ。)
善悪とは関係なしに、そういった人間は試される大地や古いムラ社会では生きていけない。「他人が2人いると逃げてしまう孤児」そんな者が才能を見出され幼くして出世できたのは、ユキコシ地方が現代化しサンゴジュシティが都市化し「アップデート」されたからだ。
”「彼女は生まれながらに最強であることの天才で、そして最強であることを求められました。けれどそれは、生まれながらに壊れていたそのヒビをさらに歪め広げることでもあったのです。」”
ー*ー
「私は、ずっと、ずっと、最強でいなくちゃって…
最強の才能があったから拾ってもらえて、最強のトレーナーだから支えてもらえてきたのに、私は、私...
…ね、カグヤさん、私は、弱い、かな…?」
複雑な感情が歪めるその悲痛な声を、カグヤはたった一声、切り捨てた。
「ま、弱いよね。」
ひぐっ…涙が、テーブルにシミを作る。
「じゃあっ…私はっ…どうしたらっ…
…みんなの期待に答えられるの…っ!?
カグヤさんは…私は、カグヤさんみたいに…っ」
カグヤさんみたいに、強くなりたいーバトルだけではなく社交もこなすフロックス家令嬢、カグヤ・フロックスのように。
「それはね、無理。」
硬直。
「だって、私が無理だったから。」
「……
……
……え」
「私は貴女と同じ。周りに求められてきた人間だよ?」
ー*ー
カグヤ・フロックスはシスコンだ。
カグヤ・フロックスは姉を愛している。
カグヤ・フロックスは強い。令嬢としても、トレーナーとしても。
ーそれは直接つながるものごとではない。
「お姉ちゃんは、好きだよ。
でももし仮にそうじゃなくても、私はお姉ちゃんを支えることを求められたし、求めるように育てられた。それが私の
姉アオバを…未来の当主を支え、万が一の時には代行する。そして、アオバがなる余裕がないだろうトレーナーとしての役割を果たす。唯一残った当主以外のフロックス直系として、当主令嬢として求められる以外のすべてのことが、彼女には求められた。
「私はだから、強くなるべく、求められた。人にもポケモンにもそして自分にも。…もちろんトレーナーのスペシャリストとしては貴女に遠く及ばないけど、ジェネラリストとして、オールラウンダーとして。」
今や2人しかいないフロックスとはそういうことだ。内閣ならば総理以外のすべての大臣、会社ならば社長以外のすべての重役、軍隊ならば将軍以外のすべての兵士、勇者パーティーなら勇者以外のすべてのジョブ…次女令嬢があるべき立場は、それだ。
最強とは言わない。けれど、優秀でなければならない。容姿もコミュニケーションも身体も頭脳もそしてバトルも。ーそれが、カグヤ・フロックスがカグヤ・フロックスである理由。
「私はそうしたかったし、そうすべきだった。だけどすべてをこなせなんてしなかったよ。
奸臣には巧くやられて、お姉ちゃんを3度も失くしかけて、無謀を諌める強さもなくて、大切な人の胸の内だってわからない。
私はみんなが思うよりずっと、無力だよ。それが、私の限界。」
アオバを連れ出して逃がすしかないほどの、蒼玻を旅させて強くさせるしかないほどの無力。ずっと彼女は悩んでいる。
ー*ー
「よりしろさま、わたくしにはわかりませんわ。
だってそれでは、解決策がないではありませんの。
人見知りはバトルの才と引き換えの天賦、周りの最強への期待が悪化の原因…それではだいぐうじを辞めさせるより改善の手段はありませんけれど、それでも解決にはなりませんし、そもそも彼女はだいぐうじたるべく、最強たるべく拾われたのですから辞めさせても病んでしまうだけですわよね。
貴女様は何をわたくしたちにさせたいのかしら?」
”「私は、見せてあげて欲しいのです。」”
(...見せる?言葉じゃなく生き様で語れ的な話か?)
”「強さを求められて、強さにこだわるチューリップだいぐうじだからこそ、貴女と貴方が強さを示すなら、きっと響くでしょう。」”
「…簡単に言って/くれすぎではなくって?」
ー*-
「いつだって悩んでるよ。
いつだって悔いてるよ。」
ー私がもっと強ければって。
「でも無理なものは無理。
私の分、私の才、私のリミットはあるから。
そんなこと、齢15の小娘がわかってるんだからみんなわかったうえでだよ。
それでも、みんな...
...みんなが、よりしろさまもジムのみんなも、貴女を推戴することを選んでる。
求めてるけれど、それと同じくらいに、必ずしも求める全部は達成できないってわかってる。
壁にぶち当たったなら、自分に優しくしたっていいんだよ。」
「だけど、私は、私があるべき姿は...」
「…そうだよね。
物心ついたころから、かな?」
チューリップの育てられ方はよく言えば英才教育だが悪く言えば洗脳だろう、カグヤは思ったが口には出さない。ただ、生まれつきの性質だけではなく、「最強だから拾われ、最強であるよう求められた」生き様は、言葉で超えられない歪みを生んでいるとは、わかりきっていた。
「だから...」
カグヤは着信通知を開き、既読を付け、顔を上げた。
「貴女が強さにこだわるなら。
貴女に充分な強さがあるのなら。
貴女が最強のポケモントレーナーたる運命なら。
人と人、人とポケモンがつながることで生まれる強さがある。それを見ることが、貴女の持ってない強さをくれるんじゃないかな。」
「私が、見るべきもの...?」
「うん...
...ちょうど今、お姉ちゃんから連絡があったんだよ。」
ー*-
| あの |
| よりしろさまと戦うことになりましたわ。 |
| 蒼玻くん、お姉ちゃんのふりしてくだらない冗談言うとキレるよ |
| いや今送ったのアオバちゃんだぜ |
| ドン引き |
| 「2人の力をあわせなきゃ見せられない強さ、見せてやれ!」みたいな話だとさ |
| さすがよりしろさま...こっちの会話もお見通しだったりしそうで嫌だな... |
| チューリップちゃん連れてくね… |
キュウコン(ユキコシのすがた) こおり/フェアリー
全身がぱらぱらと雪散る純白の毛に覆われた、聖なるはてやま連峰の万年氷河に住まう美しいポケモン。サンゴジュ南方の山々からたびたび降りてきては雪山の化身と信じられていたが、登山技術が発展しただけではなくワカナエ南方・トキトビ北部の山脈で見つかるユキコシロコンから進化したユキコシキュウコンであってもサンゴジュよりしろさまのBREAKオーラを浴びることによって寸分たがわぬ美しさを帯びることが知られるようになり、近年急速に身近になりつつある。
アローラへ観光に訪れた者が言うことには、アローラのキュウコンそっくりである。ただし近年の研究では、ユキコシロコンはアローラロコンよりむしろ原種ロコンに近縁であるらしい。
サンゴジュおみやよりしろさま「ユキツヌシカミ」:キュウコン(ユキコシのすがた) こおり/エスパー(BREAK進化個体)
「雪津主神」ーそれは真に、雪山の化身。
マイイカヅチと同じくデ・ファクトな神格として雪を司るが、それだけではなく2000年ずっとはてやま連峰で三神のそばにいたために心を読み癒すことができる。