お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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「いてて、そういえば、この島は鉱山の島でしたわね…
イーブイ、怪我はありませんの?」
どうやら自分はありそうである...袴と袖がわずかに赤くなっているのを見て、蒼玻はため息をつく。抱えていたイーブイは大丈夫そうだ。
「イーブイ、ここから動いたとして、匂いで戻ることはできるかしら?」
イーブイがうなずく。「かぎわける」を覚えていなくても、どうやら野生動物として、暗い坑道の脱出くらいはできそうらしい。
「イーブイ、たぶんここは落下したところからそんなに離れてないと思うのですけれど、いったんここから抜け出さずに、坑道の奥へ進もうと思いますの。」
なんで?イーブイが首をかしげる。
「おそらくサワムラーがいっしょに落ちてますし、外にはあのウキクサとかいう男も待ち構えていますわ。坑道のどこかでやり過ごせば、BREAKフィールドのリチャージとともに、カグヤがあのすさまじいワザで男を倒してくれるでしょう。」
BREAKワザは一度きりなので基本的には一体しか倒せないが、BREAK進化は長続きする。姉の魂を戻すためなら今姉の身体に宿る蒼玻の魂はさっさと死ねと思っているフシがあったりと、蒼玻にとって全幅の信頼を置ける人物ではないのだが、しかし間違いなく実力もアオバ・フロックスの身体への熱意も信じてよさそうだ。
「急ぎますわ。サワムラーとこんな狭いところでバトルしたら避けられませんもの。」
ー*-
「はぁ…どこにいるのかしら、カグヤ…」
時おりズバットが飛び出して嘲笑ってくる。
「あらイーブイ、どうなさいましたの?」
イーブイが嫌そうな顔をして立ち止まった。
ー*ー
そのポケモンにとって、それは久しぶりの大物だった。
廃棄された旧坑道には怨念が溜まりやすい。最後の使用者が残していった道具から生まれたそのポケモンは、山の何箇所かの穴から時おり落ちてくるポケモンの生命力を吸い、生きていたのである。
ただ、今回落ちてきた命は、ひとつは何やら猛々しく弱るまで待たなければいけなさそうではあったが、もうふたつは…あてどもなく彷徨っているように見えたし、それに片方は並のポケモンだがもう片方は感じたことのない極上の魂に見えたのだ。
ー坑道に満ちる怨念は、基本的にはトキトビ金銀山で死んだポケモンそして人々ー特に人の中には流刑人などの罪人(冤罪含む)の無念からできている。それら怨念によって生まれたポケモンにとって、今回落ちてきた命が極上の魂に感じられたのも無理はない、なぜならそれは一度死んだすなわち生きた死人の魂だったのだから。
ポケモンは、白い身体を引きずり、青い炎を揺らして姿を見せた。どんな命でも暗い洞窟では不安で仕方がないのだから、灯りをともせば安心して着いてきてくれるのだー命吸いつくされるまでずっと。
「…なるほど、ヒトモシですわね…」
その極上の魂を持つ命は、ヒトモシと呼ばれたそのポケモンの予想通り近づき立ち止まり、そしてあろうことか話しかけてきた。
これがニンゲン?はじめて見た…ヒトモシは目を丸くする。
「こらイーブイ、そうカリカリしてはいけませんわよ。このヒトモシが怪しいのはわかっておりますし、危ないのもわかっておりますから。」
もしかしてバレてる!?…ヒトモシは蝋でできた身体を震わせる。
「…わたくしのもとに現れたということは、わたくしの生命?魂?を狙ってますよね?」
ウンウン…頷いちゃだめだった!
「ちょうど、よかったですの。
わたくし、少々特別な魂なのですわ。せっかくですから、視てはいただけませんこと?」
どういうコト?…ヒトモシの理解力ではよくわからない発言、頼み事だった。
イーブイを連れた少女は、しゃがみ込みヒトモシの炎に目線をあわせた。
ヒトモシが、つい癖で、妖力のこもった炎を揺らめかせる。
少女の目がとろんと揺らぐ。
ヒトモシは、その極上の魂の生命力を得られはしないかと、今にも飛びかかってきそうなイーブイにビビりながらも少女の目の奥を覗き込んだ。
ー何かが、視えた。
ー*ー
ちょっとした、悲劇だったのでしょう。
けれどわたくしは、この状況、結構心地よく、また悪くないように思っておりますわ。
カグヤは心配させてしまうけれど、天命の悪戯で斯様な仕儀になったというのでしたら、この壊れた世界の流れに身を任せてみるのも一興というもの。
沈む瀬があるのなら、いつか浮かぶ瀬もあることなのでしょう。
ー*ー
ナニ!?ナニこの魂!?…大きく揺らぎ、像を結ばない魂。ヒトモシはそんなもの、視たことがなかった。
「…如何かしら?」
どうもこうもない。なぜいつの間にか自分が後ずさっているかも、ヒトモシにはわからなかった。
「わたくしの魂、命、ここで食べてしまうには惜しいのではないのかしら?」
(あれ?なんで俺、こんなに自信たっぷりなんだ…?)
しかし、「壊れた」と呼称されるこのユキコシ地方は、気象に由来するこおりタイプと同じくらいに、悪・ゴーストタイプがはびこっている。悪にもゴーストにも弱点を取れるとはいえゴーストタイプに弱点を取れ、更にはいざ万が一妹とケンカとなった時にはがね/ゴーストの得体のしれないマハリハグルマに対して有利な優秀なポケモンであるシャンデラを手に入れられるチャンス、決して悪いものではない。
(ヒトモシが生命力を吸う以上、リスクはあるけどな…でもサブウェイマスターがシャンデラを使ってるからには、ヒトモシ族が生命力を吸うにしても健常者なら影響が出ない程度なんだろ。)
あくまで、遭難者や探検者に寄って集って付き纏い、ゴーストタイプならではの呪詛なども交えてエサとして弱らせ続けると大変なことになるだけであり、食べて寝て健康を維持している日常生活に於いては少しばかり寄生しても問題にならない…蒼玻はそう考えていたし、実際そうなのである。悪意を交えた捕食ならともかく、ただのパートナーポケモンとしてのヒトモシと他のポケモンには、体力にたかるか財布にたかるかの違いしかない。
「ヒトモシ、わたくしといっしょに来ませんこと?」
ヒトモシは、ぶんぶん首…上半身を横に振った。
「あら、おいやですのね。
ならば、ちょうどよかったですわ。イーブイ、やっておしまい。」
エ〜〜〜…ヒトモシは震え上がってあわてて背を向け逃げ出した。こんな得体のしれない魂の持ち主に着いていくのも真っ向から戦いを挑まれるのも不気味でたまらない。
が、ヒトモシの背に、その指示を待っていたとばかりにスピードスターがいくつも突き刺さる。
どうもこのニンゲンから逃げられないらしい…ヒトモシがそう悟ったときには、すでに前のめりに倒されていた。
ー*ー
「それで、この坑道からはどうやって出られますの?わたくし追われてるのですわ。」
ヒトモシはとほほとどこか寂しい気配を漂わせ、案内を始めた。
(案内が得られるなら、ほとぼりが覚めるのを待つよりさっさと別口から脱出したほうがいいよな。)
しばらく歩くと、イーブイが嬉しそうに走り出す。外の匂いがしたのだろう。
「イーブイ、待ってくださいまし。ヒトモシ、よろしいですわね?」
否やが言えるものか…ヒトモシは黙って蒼玻に抱えられる。
そうしてイーブイと蒼玻は再び走り出した。なるほど、外からの明かりが差し込んでいる。
「お外ですわーっ!」
ー本物のお嬢様は、数時間ぶりに太陽の下に出られても、叫んだりはしない。
頭がぶつかりそうな圧迫感のある坑道を脱出し、きれいな空気を吸ってする背伸びほど気持ちいいものはない。
「おや、電波が復活しましたのね。…すごい件数の通知。」
その時、水流が蒼玻の頭上を通過し、背後の山肌を殴りつけた。
「不在着信…?」
何本もの木が倒れ土砂が崩れ、蒼玻が飛び出してきたばかりの坑道出口がうずもれる。
「お姉ちゃん逃げて!サワムラーは倒したけど、ウキクサとオムスターに逃げられた!」
「鬼ごっこはおしまいだぜ。俺の領土で逃げられると思うなよ。
落とし前は付けさせてもらうぜ。」
いかにも粗野な、海賊然としたラフな日焼けの男、ホープ団海軍中将ウキクサ。彼が腕組みするそのとなりで、オムスターが、触手をゆらゆら揺らしていた。
ー*ー
「先ほどから気になっていたのですけど、わたくしたちを侵略者と呼んだり、俺の領土?とは、なんですの?」
「ふん、お前らはいいよな。安寧に安住して、自分らが誰の犠牲の上に立っているかも知らないで。
俺たちホープ団こそは、お前らが姿を消したとうそぶく古代ユキコシ人の末裔!
壊れてしまったユキコシと、失われた技術...長年戻ることができずに、やっと戻ってきてみれば見知らぬ連中があっちこっちに街を建てておみやだなんだと言いやがり、あまつさえ山岳を越えて我らの住まう地へ攻め込みやがる。
俺たちは1000年挑み続けてきた、お前ら侵略者に。そしていよいよ、反攻の時ってわけだァ!」
「…いや知ったこっちゃありませんわよ!?」
(いつの時代の因縁だよ!)
「だいたい、1000年前に挑んできたのなら、2000年前の大災厄から1000年もユキコシから逃げてたってことじゃありませんかしら?
その間に、ユキコシ地方を一から開拓したのは誰だと思っているのかしら?」
その開拓と発展の時の信仰こそが今のおみやを作ったのだ。民法でも20年なのに、1000年放ったらかしておいて開拓されてからのこのこ戻ってきて返せとはずいぶん虫の良い話ではある。
「…黙れ!澄ましたこと言いやがって!
オムスター、げんしのちから!」
「な、避け...!」
逃げる隙など与えないと、気持ち悪いほど長く伸びた触手が、イーブイとヒトモシをジャンプから叩き落とす。そこへ閃光が奔った。
ヒトモシがぱたりと倒れ、イーブイもボロボロになってふらつき倒れた。
「貴様らなぞBREAKワザを使う必要もない。
オムスター、まとめて楽にしてやれ。」
オムスターの口が大きく開き、ゆらゆら揺れる触手が、さっきの何倍も大きい閃光のかたまりを抱え込んだ。
-ユキコシ地方のポケモンにリミッターなど存在しない。意思によってだけ威力はセーブされている。心が敬意といたわりを忘れたのならば、そのワザは容易に人やポケモンを殺すだろう。
蒼玻は、両腕を広げ、イーブイとヒトモシの手前で立ちふさがった。
「逃げろ。お前たちだけでも、逃げるんだ。」
ー*-
ーこのフシギで不気味なニンゲンは、馬鹿なのかもしれない。暗い坑道で、自分を形作る怨念で、こんなのは見たことがない。なぜこのニンゲンは、自分をかばおうとしているのだろう?
-自分を拾ってくれた、生きててほしいと願ってくれた、大切なひと。ここで死んでほしくない。
イーブイが立ち上がる。
ふらつく。
ヒトモシが、小さな手でイーブイの足を支える。
ヒトモシの頭が自分の足を焦がすのも構うことなく、イーブイは、身体に力をみなぎらせたーどうしてか、自分の知らない自分が沸き上がる、そんな気がした。
そして、閃光が迸った。
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閃光が瞬く。
「算数何点だったー?」「俺60てーん!」「あたし76点!」(こんな誰でも解けるテストになんの意味があるんだろう...)
「百メートル走、蒼玻最下位じゃん。だっせーの。」「こんなん自転車に乗ればいっしょだろ。茶番だ茶番。」「それ言っちゃ走ることがそもそも無意味じゃね?」「…そうだな...」
「蒼玻、そんな雑用任せて、良かったのか?」「いいよ別に」
「蒼玻くん、先生は感心しませんよ。なんですかこの『人生は死ぬまでの暇つぶし』って。」「だって、座右の銘を書けって言ったじゃないですか。人生なんて産まれてから死ぬまでなんですから、そうでしょう?」
「蒼玻、お前のテーマ、大変そうだな。」「それもそうですし、一番つらいのは、なんというか当たり前のことを実際そうだって実証してるだけで、意味があるのかこんなんって感じなんですよね。」「ま、そんなもんだよ。」
...これ、走馬灯か?
「蒼玻、注射怖くないのか?」「痛みだってどうせ十分もすれば忘れるんだから怖がるだけ無駄だろ。」
「蒼玻、同人誌作るんだけどなんか書いてくれない?」「俺よりアイツのほうがいいこと書けるぞ。」
「蒼玻ってさ、自分のこと大切にしてないよね。自分が嫌われ者になればいいみたいな美学?厨二病?そういうのやめたほうがいいと思う。」「どうせ俺が傷ついたって誰も気にしないだろ。俺だって気にしないし。」
...いや、いけすかないガキだな俺。
「蒼玻って、ポケモンやってないのか?知ってるみたいだけど。」「俺がやっても大して勝てないしそのうちやめちゃうよ。ときどきタイムラインに流れてくるの見てるくらいでけっこうさ。」
「蒼玻へ。入院辛いだろうけど、元気で帰ってきてくれるのを待っています。」(どうせ、俺が死んでできなくなることも、俺がやらなくちゃいけないことも、ないんだよな...
20年と120年、潰す時間の桁が一個違うだけ、か...」
才能もなく、努力も半端で、何にも打ち込めないし、何も意義ある何かなんてなしえない。誰にでもできることをちょっとやるくらいの80億分の1。星屑から生まれていつか星屑に戻るうちの1つ。
「なんの価値もない俺が、それでもコイツを守りたい、そう決めたんだ。」
蒼玻は、笑った。
一人と2匹の目の前が、真っ白になった。
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熱風が、蒼玻の頬を撫でた。
閃光が押し返され、そして爆風が視界を覆いつくすーこのワザ、この威力、この炎、つい数時間前に見たばかりだ。
「オーバーヒート!?どこから!?」
蒼玻の後ろで、美しく膨れ上がった白い毛にオレンジの身体を包む炎獣が、口からメラメラと炎を漏らしていた。
「イーブイ!?進化した...のか!?」
(カグヤが、ユキコシのイーブイは進化しないものが混じってるし捨てられてたならきっとそう...って...それにブースターへの進化は確か石が必要なはず...)
ブースターが、蒼玻の目を見つめ、吼えた。
「ブースター、何か、言いたい、のか...?」
ブースターが、前へと首をしゃくり、蒼玻の背を前足で叩く。
「…オムスターと戦え...いやそれはやってたから違うな。
...もしかして、前を向け?」
ブースターが何度もうなずく。
「…そっか、そうだよな。
俺は...コホン。わたくしは貴女に生きていてほしい。貴女もわたくしに生きていてほしい。だからわたくしたちはわたくしたちのために前を向いて生きていく。ですわよね。
ブースター。『一撃』で、決めますわよ。」
想い、心機一転を、全力でぶつけてやる...ブースターがかまえ、4本の足で大地を踏みしめる。
「まずっ、オムスター、BREAK...」
大地に、空気中に、金色の粒子がぶわっと沸き上がった。
視界が金色に満ち、そして、それが夢だったかのように晴れ渡る青空へ明ける。
金色の光は、ブースターの口元に集まっていた。
「こんな、こんなところで、俺が、ウキクサ様が負けるだと...!?」
ブースターの口元で、金色の光を纏い、炎が渦なして陽炎の向こうへブースターの姿を覆い隠す。
「
金色のオーラをまとい、無数の炎の粒子が小さな太陽かのように凝集、そして、吹き荒れた。
オムスターに炎ワザの威力は1/4?ちょっと力を出せば簡単に相手を殺せる威力が出かねないユキコシで、受け継がれたつわものたちからの祝福によって、真っ当にバトルとして成り立ちつつポケモンの限界をも突破させる神秘的軌跡、それがBREAKワザだ。タイプ相性など今のブースターにとって問題にはならなかった。
炎粉の渦が、オムスターを取り込み、潤う触手も、重厚な殻も、丹念にあぶる。
陽炎の向こうを見通せるようになった時、オムスターはところどころに焦げ目を作り、のびていた。
「ちっ...
興ざめだぜ。ズラかるか。
だが貴様の顔、覚えたからな。」
ウキクサは振り返らず走り去っていったので、それを見ることはなかった。
(俺も、覚えたからな。次は、逃がさない...!)
蒼玻の足元で、イーブイが一声鳴き、こてんと倒れた。
はい、共依存()
はつげんちょうせい(イーブイの特性)
ユキコシ在来のイーブイの特性。ポケモン進化とは遺伝子発現による変態であるが、遺伝子が不安定なイーブイは周りの環境により突然変異を起こしやすく、発現パターンによって8通りに進化する。しかし2000年前にユキコシのカタストロフに巻き込まれたイーブイの子孫の場合、ただでさえ不安定な遺伝子のいくつかが欠損しているため遺伝子発現を安定させることができず、進化できないか例え進化しても進化状態を数分しか維持できない。
個体や育成によってはこの特性を利用していくつもの進化先をオーラを纏うかのように使いまわすことができるが、そもそも外来のイーブイやはつげんちょうせいを失い安定した系統を進化させた方が便利な上に、はつげんちょうせいの有無は簡単に区別できないことから、はつげんちょうせい持ちと後から分かってハズレとみなされることが圧倒的に多い。
ホープ団 古代ユキコシ人の末裔を名乗る組織。ユキコシ地方の奪還を掲げている。陸海空軍の3つにわかれ、陸軍は深い山中や山脈を越えた南の地方に、海軍は海に、そして空軍ははるか外国に拠点を置き、数百年もの間侵攻しては討伐隊を派遣されを繰り返してきた。
ユキコシ人からしてみれば、2000年前の(そして約1000年ユキコシから逃げ出していた)人々がいまさら、自分たちの先祖が苦労して切り開いた地を「奪還」しようなど噴飯ものである。一方でホープ団にしても、先祖代々の悲願をいまさら取り下げるなど考えられない。