お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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 学マス楽しいね!(更新遅延の気さくな挨拶)

 今話、大変長くなります。タイトルのバリエーションが思いつかなくて話数を増やせなかったからだね。


 これまでの転生ポケモン令嬢

 現代日本からの転生男子こと蒼玻と、ユキコシ地方一の令嬢アオバ。2人は転生と憑依にまつわる諸問題をやっとのことで解決し、晴れて1つの身体を共有する恋仲として、旅を続けていた。

 最強のおみやことサンゴジュおみやをクリアし、晴れて7おみや巡り成就者となった蒼玻/アオバ。だがその時、サンゴジュシティに火の手が上がる。

 ユキコシ地方の因縁、ホープ団。史上まれにみる強大な力を手にした悪の組織が今、牙をむいた...!


#61 誰がための最強_Whom?

ー*-

 

 サンゴジュおみやを構成する、はてやま連峰への鳥居、バトルスタジアム、そして海を見下ろす天守閣…

 

 …それらめがけて東から飛来したオトシドリの大群に最初に反応したのは、人間ではなく。

 

 サンゴジュの守り神たるユキコシキュウコン変異個体、慣用名「ユキツヌシカミ」は、スタジアムの端から観客席を駆け上がってスタジアムの縁を飛び出し、天守閣の屋根を駆け上り、最上階の屋根に立って、空を睨んだ。

 

 息を吸い込む。

 

 天守閣の屋根が凍りつく。

 

 息を吐く。

 

 ーユキツヌシカミの ふぶき!

 

 通常のふぶきなら、それはせいぜい数十メートル、バトルコートの向かいにしか届かなかっただろう。だがあいにく最強のよりしろさま、加減をしなければ、殺す気でやれば、そのふぶきはキロメートルの射程を持つ。

 

 凍れる吐息は東方の青空を侵蝕し、オトシドリの数十匹が翼を凍りつかされて即座に墜落した。

 

 その頃には、サンゴジュスタジアムにいあわせた観客ーその大部分は、自分の番を待つトレーナーたちーもまた、異常事態に対してパニックをやめ早くもポケモンを取り出していた。

 

 腕に覚えがある者はでんきタイプやいわタイプ、そしてこおりタイプを出し、あるいは遥か天空から紫電を落とすBREAKワザ「てんらいのへきれき」を下す。

 

 そこまでの自信がない者は、ジムトレーナーたちの指示に従って、ポケモンを持たない観客や観光客を誘導し、あるいはネットを駆使しSNSやライブカメラ中継で得た情報を書き出している。

 

 次々とオトシドリが撃墜され、続くひこうタイプ…スワンナやらダイカイデンやら…も次々と撃ち落とされて、市街地へ落下していく。

 

 ”「…ここはもう、大丈夫そうですね…」”

 

 ユキツヌシカミは、視線を東から変じるー南へ。

 

 自らの故郷、ルーツ、本来の宿るところである聖なる山、はてやま連峰…南に広がる山々を見上げ、ユキツヌシカミはその双眸を険しく歪めた。

 

 ”「侵略者が…」”

 

 吐き捨て、脚に力を込める。

 

 跳躍一途、雪が舞って天守閣を白く染めたかと思いきや、すでに、ユキツヌシカミは姿を消していた。

 

ー*ー

 

 サンゴジュおみや、天守閣二階。

 

 だいぐうじチューリップとジムトレーナー数人、蒼玻/アオバ・フロックス、それにカグヤ・フロックスは、突然に舞い込んだ責務に顔を青くしていた。

 

 サンゴジュシティ市役所は、戒厳発令と権限譲渡の宣言をした直後、焼失したのである。当然行政機能は消え果てたからして、無政府状態を経て遠からずサンゴジュおみやが市制の統括権を手にすることは決まっていたとはいえ、正当な手続きの後にサンゴジュシティの市制権が「民選市庁」から「軍事的実力たるおみや」「ふさわしき権威たるフロックス」に託されたという事実の重さはやはり違う。

 

 もっと言えば、蒼玻/アオバとカグヤが震えているのは、負った責任の重さではなく、事態そのもの...3人のトラウマになりかけているあのワカナエ大乱ですら起きなかった市庁機能喪失と市全域への被害が発生している、ということだ。

 

 「状況をまとめます。」

 

 ジムトレーナーの一人がタブレット片手に口を開く。

 

 「多発爆発テロから2時間、現在判明している被害は、サンゴジュ市役所陥落とそれによる行政機能喪失、市街56か所の爆発炎上とこれに伴う路面電車、市バス、西列島鉄道ユキコシ線、ユキコシ鉄道ユキコシ線すべてが運航を停止、水道、電気、ガスすべてもインフラの破壊により途絶。ユキコシ放送塔も爆破されたため、現在放送インフラはデボンの衛星通信で確保しています。

 

 爆発の他に毒ガスによる被害も報告されています。市街2区画を離脱するように指示を出しました。

 

 被害人数はおそらく死者だけで4000人を超えます。ポケモンはもっと...」

 

 そもそも市役所がまるごと焼け落ちている。職員も来訪者も逃げ出せた者が確認できていない。4000人は妥当な数字だった。

 

 「テロ組織に占拠されている地域は、市役所ビルと他に市内2地点です。幸い人質はいません...というより生存者がいないもようです。」

 

 あまりに悲惨な状況だった。

 

 こんな状況だからこそ、全力でテロリストを叩きのめし叩き出したい…誰もがそう思うが、しかし現実には、戦闘に関する権限だけではなく行政も司法も…サンゴジュシティのすべてを託されてしまっている。

 

 ただ蒼玻に言わせれば、この重い軛を捨てるわけにもいかない。このポケモン世界の政体は建付けが悪いのだ。ポケモンバトルに強いだけのジムリーダーが地域の人格者名士として首長の真似事をしていたり、酷いと集落のおさのごとき存在がのさばっている。道理でフロックスなどという、公的には大財閥の創業者一家にすぎない存在が「ユキコシ一の名家」として尊崇されるわけで、こんな「三権の分立どころか所在すら判然としない」世界で無政府無秩序状態のまま市街戦をおっ始めようものなら戦国時代の完成だ。

 

 「…誰かが、まとめなくてはならない。市長の遺言は正しかったですわね…」

 

 はっきり言ってはた迷惑ですけれど…とは言えない。言ったところで相手はもう死んでいるらしいし。

 

 「今しなくちゃいけないことをまとめて、誰かが指揮して、惨状を収拾しつつ、軍事的に事態を解決しなくちゃいけない。

 

 誰が、何をするの?」

 

 カグヤの問いに、一同は顔を見合わせた。

 

 「テロの解決なら、焼け落ちた市役所ほかに立てこもっている一団を排除しなくてはいけませんね。向こうも来るとわかって備えているでしょうし、大きな戦闘になるでしょう。」とジムトレーナーが言えば、別のジムトレーナーが「それもあるけど、爆破の実行犯すべてがアジトに逃げたわけじゃないはず。潜伏犯もいるしもしかしたら第二波のテロもあるかも」と返す。

 

 「避難誘導も、自主的にやってくれてる人達もいるけど、足りないよね?戦いになるんだよね?」

 

 「寸断されたインフラの復旧も…いえ、これはフロックスで行いますわ。/あちこちに逃げた避難民はどうするんだ?それこそサンゴジュ市制そのものだろ。」

 

 「おみやの、守りも…無視はできない、よね…」

 

 結局これは、再確認作業でしかない…だって、市内各地で同時多発テロを行う相手に、最強のよりしろさまユキツヌシカミ不在で、片手間で戦闘?それは無茶だ。

 

 「…わたくしが、力を集めますわ。」

 

 アオバが、正座をとき、膝を立てる。

 

 「ううん。」

 

 彼女を制したのは、だいぐうじ、チューリップだった。

 

 「チューリップさん…?」

 

 「私が、行く。」

 

 「だいぐうじ!?」「本気ですか!?」

 

 おみやのジムトレーナーたちは、口々に言った。

 

 「チューリップさん、貴女、自他ともに認める人見知りで、おまけに『最強』でしょ。

 

 他人の力を借りることなんて、できるの?」

 

 カグヤが、全員の疑問を代弁する。

 

 「わからない。

 

 けど、この街を守ることが、だいぐうじの、存在意義だから。

 

 私がだいぐうじになったことの意味が、『最強』なら、だいぐうじに『最強』を求めた意味は、きっとこれだから。」

 

 「…高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)ですわね。

 

 いいですわ。背中は支えて差し上げます。」

 

ー*-

 

 演台から見下ろして。

 

 たくさんの、たくさんたくさんの、目、目、目。

 

 ささやき声は、聞き取ることすらできなくって。

 

 ...みんなが私をどう見てるのか、どう話してるのか、それが、私は怖い。

 

 私が弱いって思われたら?

 

 私が、必要ない、要らないって思われたら?

 

 ...だけど、きっとこれは、私がしなきゃいけないこと。

 

 前を向く。

 

 目、目、目。

 

 声、声、声。

 

 「うぅ...」

 

 目が、あった。

 

 数えきれない視線、聞き分けられない喧騒が、私に向けられて、きっと私を品定めしてる。

 

 「わ、私、は...」

 

 -自分を信じてるみんなを、信じてあげようよ。

 

 ー人と人、人とポケモン、ポケモンとポケモンの輪の、強さ。

 

 -いいですわ。背中は支えて差し上げます。

  

 ...そっか。

 

 これが、人と人のつながる、力なんだ...

 

 私は、この目に立ち向かいたい。アオバさんたちがくれたこの力で。

 

 「私、皆さんに頼みがあります!

 

ー*-

 

 「私、皆さんに頼みがあります!」

 

 張り上げられた大声に、集まっていた群衆はと言えば、歓喜した。

 

 そうだ、確かに群衆は品定めしていた。チューリップだいぐうじは人見知りで、大人数の前に姿を見せたことは初めてだったし、非常事態とはいえどういう吹き回しで、そして何を言うのか、誰もが注目していた。

 

 だから、その声の、思いもよらない力強さに、打ち震えた。チューリップがさらなる高み、さらなる強さを得たことを感じて。

 

 「今、サンゴジュシティは攻撃を受けています。

 

 全域でテロが発生し、サンゴジュの街は破壊され、合囲状態(戦場)になっています。

 

 けれど、私たちサンゴジュおみやだけでは、この事態を解決できません。

 

 あまりにも多くのモノを背負った私たちには、力も人手も足りないのが現実です。」

 

 強さは足りないし、権威だけでは何もできない。そして託されたもの()まで降りかかっている。

 

 けれど、それは弱みを衆目にさらすということで...

 

 「皆さんの力を、貸してください...!」

 

 チューリップが、おそるおそる顔を上げる。

 

 果たして群衆は、沸いていた。

 

 「俺たちの力が必要ってことか...!」「腕が鳴りますね。」「あのだいぐうじが人を頼るなんて...やっとだわ...!」「準備しといてよかったね!」「いくぞお前ら!戦じゃあ!」

 

 -人に必要とされるという事は、人にとってもっとも幸福を感じさせることの一つだ。特にそれが、使命だったり、大義だったりすれば。

 

 あ、あわわわわ...人前に滅多に出なかったチューリップは、呑まれかけながらもなんとか、ジムトレーナーたちに場を引き継いだ。

 

 「それではみなさま、役割を分担しますので、まずバトルに自信のある方は...」

 

ー*-

 

 サンゴジュ多発テロ発生3日目。サンゴジュおみやとフロックスグループ合同で、市街掃討・避難作戦が行われた。

 

 あちこちが焼け落ちインフラも崩壊したサンゴジュシティにて、1日でなんとか避難所を作り出し、そしてやっと、戦闘の準備の後半というわけである。

 

 市街に潜伏しているかもしれないテロリストをあぶり出しつつ、市役所周辺などの戦闘になりそうな区画に取り残された人々を護衛退避させる。

 

 市外にはコンジキおみや、ナノハナキャッスルからの救援第一陣が集まり、物資を運びこみつつ、テロリストの増援がやってこられぬように検問を築く。

 

 未だ、どこで火の手が上がるかわからない…そんな緊張感の中で、市街掃討作戦は行われた。

 

 「あっちに怪しい奴がいたぞ!」

 

 「空き家に潜んでいるかもしれない!取り壊せ!」

 

 自警団的なやり方だからともすれば暴走しかねない。フロックス系警備会社とおみやのジムトレーナーとジュンサーたちでなんとか統制し、一区画ずつパトロールしていく。

 

 「ウルガモス、オーバーヒート!」

 

 「さてはお前、爆破犯!思い知らせろダグトリオッ!」「俺の家を良くも!ヒヤッキー、みずのはどうッ!」

 

 ほうぼうで戦闘が惹起している。潜伏犯はやはりいた。

 

 「南町商店街の空きビルの立てこもり犯、だいばくはつで自決しました!」「消火に向かわせて。」

 

 「ネイティオで公園に立て籠もっていた奴、ネイティオを倒して確保です!」「みらいよちを使った時間差自爆の可能性があります!現場に、近づかないよう指示を!」

 

 蒼玻は哀しげに顔をゆがめ、すぐにアオバが憂いを隠した。

 

 (アオバちゃん、こんなのって...自決だとか自爆攻撃だとか無茶苦茶だろ.../そんな甘っちろいことを言っていられる状況じゃないですわよ。それに、これはれっきとした...

 

 ...もはや、戦争ですわ。)

 

 わりきれるものではなくてもわりきらなくてはならない時があるー転生者蒼玻の感性では人死にを許容できないけれど、残念ながらここは修羅の雪国ユキコシ地方なのだ。

 

 「チューリップだいぐうじ!

 

 至急、来てほしいという要請が!」

 

 「は、はい!今から行きます!」「わたくしも参りますわ!」

 

ー*-

 

 それは、ある怪しげな一軒家を見つけ、ジュンサーに率いられた有志トレーナーが踏み込んだ時のことだった。

 

 玄関を開け、1階のすべての部屋をクリアリングしても怪しい人物はおらず、2階だなと階段を慎重に上がったその時、階下で扉が開く音が聞こえたのである。

 

 ジュンサーたちもトレーナーたちも、ビクリと固まった。

 

 「見ていないところなんて、あったか...?」

 

 ガクガク、おそるおそる階下へ視線を向けるートイレのドアが開いて、小柄な男が、姿を見せていた。

 

 -トイレの、中...!?確かに手早くしか見なかったが、いやもしや、トイレの中ではなく、トイレの、中の中...!?

 

 「ベトベトン、ヘドロウェーブ!」

 

 そうして、ジュンサーたちは、あえなくヘドロに呑まれたのだった。

 

 だが、不幸は終わらない。

 

 ジュンサー一隊からの連絡が途絶え、サンゴジュおみやの戒厳指揮所に詰めるジムトレーナーと有志指揮員は、「こんなこともあろうかと」と腕利きのジムトレーナー、7おみや巡り成就者、さらに重症の人・ポケモンを想定してジョーイをくわえた部隊を派遣した。

 

 そして、その結果と言えば。

 

 「オレを凍らせてみるか?やってみろよ、お?

 

 少しでも動いてみろ。こいつらを殺す。」

 

 毒でぐったりしたジュンサーやトレーナーたちを縛り上げたロープの前で、男はそう告げたのである。

 

 「き、貴様…!」

 

 そういうわけで、現場のトレーナーたちでは対処できなくなった。

 

 そうして、チューリップと蒼玻/アオバの2人は、急遽、現場に召喚されたのである。

 

 だが、実際のところ、いくら強い人や偉い人を呼んできたところで、「人質を取られている」という根本的問題はあまり解決していない。

 

 だから、2人がやってきたときに、最初にテロリストが告げた言葉はこれだった。

 

 「よし、人質交代だ。だいぐうじサマ。いや…今はフロックスサマもいるんだっけか?」

 

ー*-

 

 人見知りというのは、怒らない生き物だ。なぜなら、怒るためには怒るための相手に会わなくてはならないから。

 

 故にチューリップは、自分が今抱いている感情の説明に、失敗した。

 

 毒に冒され真っ青な人々、ポケモン達。

 

 あつかましくも要求を重ねるテロリスト。

 

 最強を名乗れども何もできない自分。

 

 味わったことのない強い感情に翻弄されるチューリップの前で、蒼玻/アオバは足を動かす。

 

 「わたくしで良いのでしたら。」

 

 そう応えて、蒼玻/アオバは進み出た。その高潔な後ろ姿は、まるで光が強くなるほど影も濃さを増すかのように、チューリップが嫌悪しているすべてと対比して見えた。

 

 「貴女の力と、心が、必要ですわ。」

 

 チューリップにだけ聞こえた囁き。

 

 チューリップだいぐうじは、今にも死にそうな人々をジョーイのトラックに収容させ、ロープで縛りあげられる蒼玻/アオバを見送った。

 

 (...蒼玻くん、後でいっしょにカグヤに怒られましょうね。/アオバちゃん、これからどうなるか、はなからわかってやっただろ。まったく大したお嬢様だよ。/ふふ。…まあそれも、わたくしがこの身をベットしたことが正解であれば、の話ですけれどね…)

 

ー*-

 

 サンゴジュおみや、街を見下ろす天守閣の最上階。

 

 チューリップだいぐうじに突如招集された並みいるトレーナーたちは、見たことのないだいぐうじの姿に、背筋をピンと伸ばし直立不動となった。

 

 それくらい、チューリップは怒っていた。十数歳の少女が出していい圧ではなかった。

 

 歴戦のトレーナーたちに有無を言わさず円陣を組んで、その中央に立つ。

 

 「おいで、モスノウ。」

 

 トレーナーたちに、こおりポケモンを出させる。

 

 ジュゴン、パルシェン、ラプラス、ルージュラ、マンムー、マニューラ、トドゼルガ、オニゴーリ、グレイシア、ユキノオー、ユキメノコ、バイバニラ、ツンベアー、フリージオ、アマルルガ、クレベース、アローラキュウコン、ケケンカニ、ガラルヒヒダルマ、バリコオル、モスノウ、コオリッポ、ハルクジラ、セグレイブ、ユキコシキュウコン、ユキコシサンドパン、ユキコシクレベース...

 

 脳裏に浮かぶのは、大切なことを教えてくれた人の、別れ際の表情。

 

 脳髄を満たすのは、土足で街を踏み荒らし、大切な街と人を踏みにじる輩への激情。

 

 「もう、私は…」

 

 ー人と人、人とポケモン、ポケモンとポケモンが手をつなぎ輪を作れば、そこには強い力が生まれる。

 

 いそろったポケモン達は、己のトレーナーではなく、チューリップのほうを向いた。まるで、そうすることが、最も強いリーダーに従うことが自然の定めであると示すかのように。

 

 「…私たちは、許さないっ!」 

 

 だいぐうじチューリップは、人とポケモンが成す輪の中央で叫んだ。

 

 「ゆきげしきッ!」

 

 鍛え抜かれた数十体のこおりポケモンが、共鳴する。させられる。

 

 雲が渦巻く。

 

 雷鳴が響く。

 

 サンゴジュシティに、しんしんと、雪が降り始めた。

 

 「すべて、凍り付いて、しまえッ!」

 

ー*-

 

 バリケードで要塞と化したサンゴジュ市役所で、ホープ団陸軍中将ハッカは、降り始めた雪を見て、怖気に襲われた。

 

 「まずい...

 

 ...早く麾下全軍に連絡して!炎タイプで加熱するように!」

 

 「姐御、まさかアレを恐れてるんですかい?

 

 大丈夫、諜報通りなら届きやしませんし、どうせこの雪もタダの初雪でさぁ。」

 

 「そんなわけが」

 

 白い氷霧が、間近にいたはずの部下の姿を見えなくした。

 

 「やりやがったねぇ...

 

 ...ホウオウ!」

 

ー*-

 

 三角州上に広がるサンゴジュシティの中心市街、半径およそ3キロにわたり、大惨事が発生していた。

 

 ビルというビル、家という家から、樹氷が生えている。

 

 「これが、36体で多重奏した『グレイシャルワールド(氷河世界)』...」

 

 カグヤは、よりしろさまが使ったのでもないのにも関わらず大都市を丸々一つ凍り付かせるその破格の威力にドン引きしつつも、氷晶に包まれた街の中姉の元へと走った。

 

 これがぜったいれいどやれいとうビームであれば凍死者の山を築くのは間違いないが、「オールフリーズ(すべてが停止する)」というワザ名は伊達ではない。凍結領域では時間すらも凍結するー絶対零度では物質の運動が停止するため継時変化が発生しないという意味でーため、意識を奪う以上のことは人にもポケモンにもしない。「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」はある種のセーブボタンなのだ。

 

 とはいえあまり長い間、無防備な氷像のまま放置しておくのは、安全的にも心情的にも容れられる話ではない。

 

 「お姉ちゃんっ!」

 

 ヒヲマトウハネが翅から熱を放出して、氷像の中に封じ込められた蒼玻/アオバを瞬く間に溶かし出す。

 

 「…はぁ、はぁ…

 

 ...カグヤ、必ず、最初に助けに来るのは貴女だと思ってましたわ。」

 

 -だから、信じていたから、賭けに出れた。

 

 「お姉ちゃん、怒ろうとしてたのに、そういうこと言うの、ずるいよ…」

 

 「い、いや怒られなくても俺もアオバちゃんも反省はしてるから…

 

 /淑女の激情を励ますようなこと、必要に駆られなければしませんわよ。」

 

 「あのさ...必要ならまたするんでしょ...?」

 

 頷きに、盛大なため息が漏れた。

 

ー*-

 

 サンゴジュおみや主導の「『ゆきげしき』『ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ』36重奏によるサンゴジュシティ市街完全凍結」は、各所に混乱と驚愕をもたらしたが、しかし結果的には状況を単純化することに成功させた。

 

 サンゴジュ多発テロ発生4日目、有志トレーナーはフリーズしたサンゴジュ市街に進入し、次々と住民避難と潜伏犯捕縛による「市街解放」を押し進めた。敵と目されるテロリストたちが凍り付いているのだからこれほどぬるい仕事もない。

 

 市役所方面だけが不気味さを漂わせているものの、残る2か所のアジトも怒り狂ったチューリップだいぐうじによって鎮圧されたし、サンゴジュ都市圏そのものはと言えばサンゴジュ以外の6おみやとナノハナキャッスルとフロックスグループの8者連合が派遣したトレーナー部隊によって封鎖されている。邪魔が入る心配はほとんどなく、市街解放は達成された。

 

 一方で、有志連合にとって、厳しいお知らせも存在した。

 

 取り調べの結果(もちろん穏当な取り調べではなくエスパーポケモンが動員されている)、テロリストの正体が判明したのだ。

 

 敵の名はホープ団。

 

 ただのホープ団ゲリラではない。ホープ団陸軍...ふだんは南部山脈にいて山賊にいそしんでいる集団が、本気の軍事作戦として侵攻してきた、それがこのテロ騒動の正体。

 

 「…本格侵攻なんて、数百年ぶりだよ…」

 

 サンゴジュシティ、のみならずユキコシ地方すべてを戦乱の坩堝に投げ込む...これは、サンゴジュシティ多発テロは、不吉な戦火の狼煙でしかないのだと、始まりに過ぎないのだと、人々は感じざるを得なかった。

 

ー*-

 

 サンゴジュ多発テロ発生6日目。

 

 「これでやっと、市役所に力を注げるね。」

 

 目まぐるしい市街解放を追えて、発生5日目を休息と状況の整理に使ったサンゴジュおみや・フロックス連合は、完全凍結というマジック(魔法)解けた(溶けた)サンゴジュ市街を北進し、すっかり焼け跡と化したサンゴジュシティ市役所の前へとたどり着いていた。

 

 だが、敵もさるもの。

 

 市役所を囲むビルはすべて破壊され、周囲100mに空き地が創られている。そして、真っ黒に焼け焦げた市役所ビルはと言えば、周りのビルの破片を歪に組み合わせてバリケード化されていた。

 

 「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」

 

 ものはためしーチューリップのユキコシクレベースが、吐息とともに、市役所正面玄関を完全凍結させる。

 

 同時に8方向から、おみやのジムトレーナーが「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」を使用、同じく市役所を守るバリケードを凍り付かせる。

 

 「…あんたたち、しつこいわねぇ。

 

 こっちは早く薄い本描くのに戻りたいんだけど。」

 

 ザクザクと氷晶を踏みしめ、ショートパンツの若い女性がボール片手に現れる。

 

 「あなたたちこそ...

 

 ...許さない。私の、私たちのサンゴジュシティから、出ていってもらうんだからッ!

 

 クレベース、『ひょうがほうかい』ッ!」

 

 -ユキコシクレベースの いわなだれ!

 

 ーユキコシクレベースの ひょうざんおろし!

 

 膨大な凍土が、ショートパンツ女の頭上で崩壊し、降り注ぐ。

 

 女は、凍土に埋もれる瞬間に、ボールを掲げた。

 

 (なっ…アレは.../ノブレスボール、ですわね…なぜ...?)

 

 「あたしもね、イライラしてるのよ。」

 

 ー????の ??????????!

 

 灼熱の光が、視界を焼く。

 

 「あんたは気づいた?

 

 高貴な(ノブレス)ボールとかうそぶいてるそのボール、あたしたちが使うこのボール。」

 

 熱線が、ショートパンツ女の後光となる。

 

 「伝統に伝わり、フロックスが生み出し下賜したって言われるそれを、あたしたちも持ってる...

 

 ...あたしたちが古代ユキコシ人の末裔であることの証明としてね。」

 

 -クワズが証明したようにフロックス家が古代ユキコシ文明の末裔ならば、フロックス家が扱う伝統と権威のボールを古くから持つ彼女らもまた、古代ユキコシ文明、失われしユキコシの支配者の末裔...

 

 「あたしはホープ団陸軍中将ハッカ!

 

 あんたたちを滅ぼし、ユキコシを取り戻す者!

 

 さあ、覚悟と後悔をさせなさいッ、ホウオウ、BROKEN進化よッ!」

 

 黒と金の粒子を霧のようにふりまく焔鳥が、翼を振り上げた。

 

ー*-

 

 地上に、太陽が出現した。

 

 -ホウオウ_BROKENの シャイニングフレイム_BROKEN!

 

 ーユキコシクレベースの いわなだれ!

 

 あまりにも、歴然の結果だった。

 

 岩塊は蒸発し、そしてホウオウ_BROKENはユキコシクレベースを焼き焦がす。

 

 死ななかったのは僥倖であり奇跡だろう...チューリップが慌ててユキコシクレベースをボールへと戻すが、その顔は「まさか一撃で!?」という焦燥にまみれていた。ユキコシクレベースがギリギリ死ななかった殺意満杯の攻撃、他のポケモンで受ければ耐えられるわけがないのだから。

 

 -ホウオウ_BROKENの ブレイブバード_BROKEN!

 

 黒みを帯びた金の飛跡が、チューリップの眼前に迫る。

 

 (あっ、私、死)「おどきなさいなッ!」

 

 ピンクの燦然が、死を覚悟したチューリップの前で弾けた。

 

 -デュアルメガディアンシーの トリックルーム!

 

 「今のうちに逃げろ!ここは俺たちが引き受ける!」

 

 「で、でもアオバさん、私が、やらなくちゃ!」

 

 「チューリップさん、アイツは伝説、規格外だ。」

 

 -ポケモンバトルの強さが慰めになる相手じゃない。

 

 「わたくしたちのほうが向いていますわよ。伝説の類には。

 

 ですから/チューリップさんは、カグヤといっしょに手下や、ハッカの他のポケモンの相手を!」

 

 チューリップはとても悔しく唇をかみしめた...が、トリックルームの外でカグヤが悔しそうにしながらもハッカの手下のホープ団員の相手を始めているのを見て、口を閉じた。肉親ですら蒼玻/アオバが一人で戦うのを認めるしかないのに、文句を言える筋合いなどないのだ。

 

 「アオバちゃん、死なないで。」「もちろんですわ/だよ。」

 

ー*-

 

 「お姉ちゃん、大丈夫かな…

 

 グレイシア、ゆきなだれ!」

 

 カグヤもまた、奮戦している。

 

 「あたしはちまちま正々堂々なんてしないからね。

 

 オオニューラ、トドゼルガ、デリバード、ハッサム、リザードン、さっさとかたをつけなさい!」

 

 ホープ団の手下、その数は数十をくだらない。そしてその先頭には、ホウオウ_BROKENを扱ってなおトレーナーとして余裕があるらしいハッカが、手持ちのポケモンすべてを放りだしていた。

 

 (数が、多すぎる…!)

 

 「落ち着いて。」

 

 チューリップが、2つ目のボールを取り出そうとしたカグヤの手を掴む。

 

 「相手を、よく、見て。

 

 多数戦は、たくさんの一対一、だから…

 

 …だから、自分が見切れないほど、出しちゃダメ。」

 

 ただでさえ敵が多いのに自分のポケモンを増やしても、かえって混乱するというわけである。

 

 「でも、そういう貴女は5体出してるじゃない…」

 

 ーバイバニラの オーロラベール!

 

 ーハルクジラの つららおとし!

 

 ーグレイシアの ふぶき!

 

 ーメガユキノオーの れいとうパンチ!

 

 ーモスノウの ちょうのまい!

 

 「ああ、私?

 

 私、これでも、最強だから。」

 

 「まったく立派なだいぐうじだね!

 

 リザードンにふぶき!」

 

ー*ー

 

 「ユキコシ人のくせに百合百合てえてえするなんて、死ねばいいのに。

 

 そうよね。さっさと殺して…あげようなんて、なんて親切なんでしょ、あたし。

 

 リザードン、メガシンカ!」

 

 ハッカは、戦いの目的を凌辱から虐殺へと変えた。

 

 ーメガリザードンYの ブラストバーン!

 

 アスファルトが張り裂け、噴火する。

 

 ーハッサムの ハサミギロチン!

 

 鉄鋏は対するポケモンの首や腕を刈り取ろうとがむしゃら振るわれる。

 

 ユキコシ地方は壊れていて、どちらかにその気があればポケモンバトルは容易に殺し合いに変じる…そんなことを、まさにポケモンたちの命がかかっているのだということを、サンゴジュのトレーナーたちはこの上なく思い出した。

 

 「あのハッサムを止めろ!エテボース、ねこだまし!」

 

 「だいぐうじさま加勢します!リザードンにでんじほうだジバコイル!」

 

 「…あんたたち、ウザいよ。

 

 オオニューラ、フェイタルクロー。デリバード、はがねのつばさ。」

 

 毒手と鋼刃が、2人のトレーナーを貫いた。

 

 口から血を吐き、彼らは崩れ落ちる。

 

 「リザードン、まとめて蒸発させちゃって。だいもんじ。」

 

 命を賭けさせられているのはポケモンだけではないという事を、この世に生きた証をなにひとつ遺さないことで、2人のトレーナーは証明して見せた。

 

ー*-

 

 ...とうとう、死人が出てしまいましたわね。

 

 (蒼玻くん、わかってると思いますけれど/無茶を言わないでくれアオバちゃん。

 

 ...人が目の前で死んでてショック受けないわけないだろ。あんまり俺を甘く見てくれるなよ。)

 

 ...でしたら、もう、黙っていてくださいまし。

 

 「…ディアンシー、ムーンフォースですわ!」

 

 ”(はい。

 

 ...でも、蒼玻さんに、優しくしてあげてくださいね。)”

 

 ...これが終わったら、初夜でもなんでも、してさしあげますわよ。恋人なのにまだでしたものね。

 

 だから、今は...

 

 ...繊細な貴方の代わりに、わたくしが、戦いますわ。

 

ー*-

 

 -ホウオウ_BROKENの シャイニングフレイム_BROKEN!

 

 焔鳥の翼が赤く閃光し、熱線が蒼玻/アオバの肌を焼く。日焼けという意味ではなく、文字通りの熱傷だ。

 

 あわてて、グレイシアにはつげんちょうせいしていたイーブイがふぶきを吹きかけた。肝心のイーブイもまた、氷の表面が溶けかけてテカテカしている。

 

 「これは、終わったら治療していただきませんと、お嫁に行けなくなりますわね。」

 

 「さっさと殺して、行かなくてもいいようにしてあげようじゃないの。ホウオウ、ソーラービーム。」

 

 -ホウオウ_BROKENの ソーラービーム_BROKEN!

 

 翠の瞬き、そして白い閃光が殺到する。「自分が太陽の化身だからソーラービームのクールタイムなしとかぶっ壊れもいいところではありませんの」とアオバは言いたくなったが、そんな暇はない。

 

 ーデュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!

 

 ダイヤの剣を限界まで大きく生成して、ダイヤモンドの優秀な熱・光特性を使ってなんとかソーラービームを散らす。数値上の攻撃種族値だけで言えば上回るポケモンが存在しないだけのことはある。

 

 けれど。

 

 -ホウオウ_BROKENの シャイニングフレイム_BROKEN!

 

 地上の太陽のごとき閃光を相殺することは、できない。

 

 (イベルタルにゼルネアスに続いて、ホープ団、加減という言葉を本当に知りませんのね…

 

 /カグヤちゃん。

 

 /なんですかしら?繰言でしたら後ほど...

 

 /いや、この熱のおかげで目が覚めたよ。)

 

 命の危険を感じれば解消される程度の迷いだったのだと自嘲するところを見るに、蒼玻のSAN値は未だ回復しきれていなかったが、それを指摘するのがそれこそ無意味な繰言だとアオバもわかっている。

 

 (アオバちゃん、あれ、「熱を帯びた光」だよな。)

 

 もとになるワザが「せいなるほのお」である「シャイニングフレイム」は、炎でできた光をまき散らしている。これに対抗する方法がひとつしかないのは見えていた。トリックルームを使ったところで光の到達の仕方が変化するだけでいずれ光は到達するのだから。

 

 (ジオスケールを発揮するには、デュアルメガシンカを最大限に活かすしかない。

 

 俺の力が必要だろ?

 

 /ええ、心をあわせなければ、絆の力はデュアル(二重)に被らせられませんからね。)

 

 「さっさと死ね、今すぐ死ね、あたしの時間をユキコシ人のためにこれ以上使わせるな死ね。

 

 ホウオウ、シャイニングフレイム!」

 

 -ホウオウ_BROKENの シャイニングフレイム_BROKEN!

 

  「誇り高き俺達の燦然、誰にも超えられはしないさ!

 

 /直視すること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!

 

 「ダイヤストーム・ディセラレーション!」」

 

 ーデュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・ディセラレーション!

 

 ダイヤの渦が生み出す、最大倍率の時間減速領域。光速(マッハ874030)すらもマッハ50ほどにまで低下させる。けれどマッハ1でも充分に、生身の人間とディアンシーには対応できない速度だ。

 

 それでも、光を減速させることには、意味がある。なぜなら、光の屈折は、物質中での光速度の違いによって発生するから。

 

 無数のダイヤでできた凹面が、太陽宿す熱光を吸い込み、跳ね返した。

 

 ホウオウ_BROKENが、自らが発した閃光に呑まれて、凶なる声を上げる。

 

 けれど、イカロスは太陽光によって翼を焼かれて死せども、太陽が自らの光で灼け死ぬはずもなく、怒り狂ったホウオウ_BROKENは再びその身を閃光させた。

 

 -ホウオウ_BROKENの シャイニングフレイム_BROKEN!

 

 ...自らの光によって視界を閉ざされた状態で。

 

 ”「みなさん、光を浴びないでください!」”

 

 デュアルメガディアンシーが、テレパシーで周りのトレーナーたちに警告する。

 

 そして。

 

 ーデュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア・アクセラレーション!

 

 ここでホウオウを滅することも辞さないー光の細剣は、熱光を斬り裂き、地上の太陽へと投じられた。

 

 数百年かかるダイヤモンドの生成を刹那の内に終わらせるが如き、最大倍率の時間加速。それは、ホウオウの宿す太陽と蘇生の力を、数百万年分、その傷口に生み出した。

 

 アルソミトラのゼルネアスに起きたのと同じことだ。伝説のポケモンといえど、神格といえど、生物である限り、地質的規模の現象には耐えられない。

 

 「あっやべっ俺たちも死ぬ...ッ/空にエネルギーを放出させるしかありませんわ!)

 

 ーデュアルメガディアンシーの ジオスケール・トリックルーム!

 

 蒼玻/青葉とデュアルメガディアンシーが魂のひずみが生み出す頭痛に耐えながらも3度目のジオスケールを発動させた直後、ホウオウ_BROKENから溢れ出したエネルギーの奔流は超新星爆発のごとく、いや、恒星を再現したエネルギーなのだからまさしく超新星爆発となって、すべてを吹き飛ばした。

 

ー*-

 

 「く、そッ...」

 

 服をズタボロにされたハッカが毒づく。

 

 黒く焼け焦げていたサンゴジュシティ市役所ビルは、原爆ドームよろしく骨組みだけとなっていた。

 

 直前の警告に従って物陰に隠れていたトレーナーとポケモンたちは、おそるおそる這い出し、キノコ雲が薄れていくその下で、血まみれのハッカと翼がちぎれたホウオウの目の前に仁王立ちする純白の令嬢を目にした。もっとも蒼玻/アオバの純白の着物と髪もまた、煤けて汚れ黒く焼けただれていたが。

 

 「貴女の負けですわ。

 

 どうやら、『時間加速(さっさと)』はわたくしの武器だったようですわね?」

 

 「そうか?

 

 そう思うのでしょうね、あんたたちは。

 

 あたしたちの想いを、無念を、知らないから。

 

 でも、あたしは負けで終わらないし、転んでも、ユキコシを取り戻すまでタダでは起きないよ。」

 

 (コイツも、自決するつもりか...?/蒼玻くん、自爆するかもしれませんわ。)

 

 覗き見していたトレーナーたちが、風音に導かれて視線を持ち上げ、そして心臓を止めかけた。

 

 「あんたに、あたしほどの覚悟、あるの?」

 

 気配。

 

 陰が、蒼玻/アオバを昏くする。

 

 「俺たちほどの、覚悟がよぉ?貴様にあるわけねぇだろ?

 

 貴様らには、俺たちのことなんか、わかりゃしねぇだろがよぉ!」

 

 「そ、の、声、は...」

 

 真上。

 

 キノコ雲をバックにはばたく白い翼の上から聞こえる、懐かしき、そして今もっとも聞きたくなかった、声。

 

 「俺たちの故郷を、必ず取り戻す...

 

 待ってたぜ、アオバ・フロックスよぉ!」

 

 蒼玻は、この転生世界で最初に出会った宿敵の名前を、叫んだ。

 

 「ウキクサァァァ!」

 

 ウキクサは、雑魚だったはずが取り逃がし続けてついにはホープ団の最強の宿敵と化した令嬢を今度こそ消し去るため、騎乗せし深海の覇者へ、指示を下した。

 

 「ルギア、破壊しろ、滅しされ、終わらせろぉ!」

 

 白き翼が、金色の竜巻を纏う。

 

 -ルギアBREAKの はかいのせんこう(エアロブラストBREAK)

 

 開いた口に収束していく空気の弾が、白熱。

 

 「っ、トリックルームですわッ!」

 

 ーデュアルメガディアンシーの トリックルーム・ディセラレーション!

 

 空気をプラズマ化させながら迫るエネルギー弾が、時間減速でほぼ完全に静止する。それを見届け、蒼玻/アオバはジオスケール4回発動の代償に、頭を押さえ崩れ落ちた。

 

 誰かが叫ぶ「撤退」が、遠くに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 サンゴジュ多発テロ発生7日目。

 

 サンゴジュシティ市役所をホープ団から奪い返す算段はまだ、立っていない。ホープ団陸軍により要塞化されていた市役所は骨組みしか残っていないにも関わらず。

 

 おそらくBROKEN進化するであろうルギアと、そしてもしかしたら蘇生するかもしれないホウオウ。この2体に立ち向かうすべが、ないのだ。

 

 「不思議ですわね…」

 

 避難所運営と仮行政運営のために無数の書類を裁可しながら、全身包帯だらけのアオバはそれとなく呟いた。

 

 「不思議?何がですかアオバさん?」

 

 たまたま非番で助かったという市役所職員が尋ねる。

 

 「いえ、わたくしたちは市民を扶けつつ反攻の準備をするのにこれだけ物資と手間を消費しているのに、ある日突然前触れもなくホープ団は市内50か所も燃やして、孤立したままウキクサ中将とルギア以外の増援もなく市役所に立て籠もれている…

 

 ...そのバイタリティと兵站線はどこから来るのかしら、と。」

 

 「あー、お姉ちゃん、不思議と言えばもうひとつあるよ。」

 

 いつしか周りでみなが聞き耳を立てている。

 

 「よりしろさま、はてやまのほうへ駆け出したまま戻ってこないけど、どうしたんだろ?」

 

 蒼玻/アオバとカグヤは、お互いに顔を見合わせた。

 

 「…そういや、アルソミトラとかいう幹部、ゼルネアス持ってたな…」

 

 「「「「「それだ」」」」」

 

 みんなの声が、蒼玻の呟きに応えた。




 ・シャイニングフレイム

 ホウオウのBREAKワザ。もとのワザは「せいなるほのお」。聖なる炎を光に宿すことで、地上のすべてにエネルギーをそそぐ太陽となった。

 翼からおびただしい光を放出する。光は熱を持っており、周囲のすべてを灼く。

 なおエンテイには使えない。

 ・はかいのせんこう

 ルギアのBREAKワザ。もとのワザは「エアロブラスト」。空気/水蒸気を爆発させながらエネルギービームを撃ち出すのではなく、閃光する爆縮状態の空気弾を発射する。

 空気弾は着弾とともに起爆し、秘められたエネルギーを解放しつつ超高圧気体の爆熱膨張で周囲を吹き飛ばす。
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