お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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ホープ団三中将による仕切り直し宣言は、(結果論として)はてやま連峰という戦場を泥沼に引きずり込むことにつながった。
そもそも、倒すことがただでさえ困難でその上に回復だのBROKEN進化だのを持っているという迷惑極まった存在相手には、バトルが千日手となりやすい。だというのにフロックス姉妹はメタをとり、伝説相手に一方的にやられぬようにしたーそれ自体は極めて正しい選択だったのだが、しかしお互い決着をつけることが本格的に不可能になってしまったのである。
よく千日手のような膠着状態の表現として「決定力に欠ける」という言葉が用いられる...が、今回、なお酷いとしか言いようのない事態となった。「決定力を打ち消し合っている」とでも表すしかない...とにかく、お互いに、集中力が切れてミスりでもしない限りはお互いを倒すことが不可能になったのだ。
しかも、大威力の攻撃をすること自体も困難となっていた。戦場がはてやま東山麓からはてやまダム凍結湖面に移ったということは、氷の下約1メートルーユキツヌシカミが弱っていれば、もしかしたら数十センチないかもしれないーは約0℃の水ということである。うっかり氷を粉砕しようものなら落水し、溺水や低体温症ならともかく、最悪の場合は再凍結され、空気もない氷の下の極寒の水中に閉じ込められてしまう。
そんな状況だが、ホープ団もぐうじもフロックス姉妹も、士気は落ちない。いやむしろ上がっている。どちらも「もう少しで勝てる」と思ったことがあるし、「勝たなければ」と思っているし、それにアタマに血が上っていた。
自然、はてやまダム凍結湖面は泥沼の死闘が繰り広げられる場になった。
ホープ団のしたっぱがロズレイドを出す、カクミガシ博士のメガアブソルへのロズレイドからのどくづきをオリザぐうじのライチュウがタックルで防ぐ、ロズレイドはヘドロウェーブでライチュウを呑もうとする、ライチュウのなみのりとカンゾウぐうじのサーフゴーのゴールドラッシュが毒の波に覆いかぶさって押し流す、毒の波の中から無数の蔦が立ち上がる、即座にライチュウが電撃で焼き尽くす、蔦の中からしたっぱのメテノ軍団が姿を現して流星よろしく墜ちる、イチシノぐうじのオーロットがつるのムチを振り回してメテノ軍団を薙ぎ払う、四方八方からラウドボーンにセキタンザンにバオッキーにマグカルゴがオーロットめがけてかえんほうしゃを吐きつける、チューリップぐうじのユキコシクレベースが無数の氷塊を出現させて相殺する…
したっぱたちが袋叩きをすれば、ぐうじたちは手の空いているポケモンで攻撃を跳ね返す。
ぐうじたちが各個に攻撃をすれば、したっぱたちは見事な連携で寄せては返す波のように退き、また攻め返す。
したっぱたちのところへときおりアルソミトラがゼルネアス_BROKENのジオコントロールを飛ばして回復させる。ぐうじたちもまた回復手段くらい持ち合わせている。
早くに沈む山の日はすでに夕焼けで尾根を彩っている。空の明度はぐんぐん落ちる...だが、誰もそれに気付かないー激闘に集中していることもあるが、手元があまり暗くならないのだ。
明るさの一番の理由たるホウオウは、煌々と輝きながらも火炎を吐き、あるいは空を駆け、デュアルメガディアンシーに挑んでいる。迎え撃つデュアルメガディアンシーはマジカルシャインを乱射し、ダイヤストームで礫の暴風を放ち、ホウオウとルギアに対して一進一退の勝負を繰り広げている。もっとも蒼玻/アオバにとっても決め手に欠けることは確かで、ときおりシャンデラが「のろい」をかけてゼルネアスとイベルタルの体力を削り、ブロスターの「いやしのはどう」で自らを回復していた...それでも、アルソミトラがゼルネアスに回復を指示して、戦いは伯仲する。
そのアルソミトラはと言えば、カグヤのグレイシア相手に苦戦している。ジガルデエミュレーターは強力で、果たしてゼルネアスとイベルタルの権能を入れ替えられているのかいないのか、逐一判断しなければならない...ただしカグヤとて、切り替えをミスればデスウィングないしわざわいのよるの直撃を受けて死ぬことになる。お互いに集中力をすり減らした結果、アルソミトラはゼルネアスの力による支援を、カグヤはイベルタルの即死光線による被害の抑止をするのにせいいっぱいとなっていた。
そうしている間にも、日は完全に沈む。ホウオウが輝くのをやめた時に何人かが日没に気付いたが、もはやそれでバトルをやめられる雰囲気でもない。示し合わせるでもなくホープ団もぐうじも何匹かのポケモンで炎を焚きフラッシュを点ける。
ーその時になって、ワザによる照明の輝線が空気中の粒子を照らし出す段になって、はじめて、ホープ団は、7人のぐうじは、フロックス姉妹は、思い当たらずにいた疑問に、起き始めている異常に、気がついた。
ーそういえば、よりしろさまユキツヌシカミはダム湖面を凍らせてからどこへ消えた?
ーどうして、こんなに寒い?
ー灯が照らしている光の粒はなんだ?何が照らされている?何が空から降っている?
誰ともなく、周りの山々を見上げるー背後のはてやま山頂、鋭い稜線に、薄い月明かりに照らされる影が見えた。
数十体の、ユキコシキュウコン。ひときわ大きな影がユキツヌシカミであろうことは、「きっと」「たぶん」などという接頭辞を必要とせず確信できる。
相当に距離が離れているはずなのに、遠吠えが聞こえてきた。
雲が月を覆い隠す。灯のなかにちらつく光の粒が増えていく。粒は身体に落ちると、溶けて水滴となった。
「雪…」
狐の嫁入り…そう言及するには、これは少しばかり激しく、そして冷たすぎた。
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ユキコシ気象庁 サンゴジュ気象台速報
ユキコシ地方は、本日厳冬入りしたとみられます。
ポケモン性の極めて強い低気圧がはてやま連峰に発達し、急速に雪雲が発達しています。この影響で上空の大気が乱れ、北方海上の冬型大陸高気団が列島へとせり出しつつあります。
本日深夜にかけてから、ワカナエ、サンゴジュ、コンジキにかけて大雪が降るでしょう。またこれに伴い、海洋気象が急速に悪化し、海上ジュンサ庁ユキコシ地方統監部はユキコシ沖の全海域に冬季警報を発令、航行を大幅に制限するように勧告しています。
初雪とともに豪雪状態に突入し厳冬入りが宣言されるのは観測史上初めてで、よりしろさまの介入や対ホープ団戦闘の影響により気象が荒れていると考えられます。
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「雪...」
空から降り始めた冷たいそれに気づいて、ホープ団もぐうじも、それまで戦闘に熱中していたのがうそかのようにただただ動揺と狼狽をした。
アルソミトラなど、今にもボールにイベルタルとゼルネアスをしまいたそうにうずうずしている。したっぱたちもそわそわと浮足立ち、そのポケモンたちに至ってはお互いに顔を見合わせてひそひそ話すばかりーもうワザの出し方を覚えているのか疑わしくすら思えてくるそぶりであった。
ぐうじたちだって、あからさまにうろたえはせず落ち着きを見せているが、しかし降雪開始に思うところがあるのはいっしょだった。
サンゴジュだいぐうじチューリップ...この対ホープ団戦のきっかけの街のぐうじであり、同時にこの戦闘のトップと言える幼き最強少女は、端末から気象情報を確認し、ため息をつき、ため息が白く濁ったのを見て眉をひそめ、そして、落ち着き払ってすべてのポケモンをボールへ戻した。
「みんな、降りる、よ...!」
「えっちょっ、そんな唐突に/そうですわね、わたくしは賛成ですわ。ただちに全部隊とベースキャンプに下山の指示を。」
驚くのは蒼玻ばかりで、アオバもカグヤもぐうじたちも、チューリップの提案にうなずく。それどころかホープ団三中将までもがうなずいた。
「そのチンケなガキぐうじに賛成すんのは気に食わねぇが、まあそうするしかねぇだろうなぁ。雪が降り始めてんのにここでダラダラ戦い続けても朝までに全員なかよく凍死だ。」
ホウオウに発熱してもらうにしても、ユキコシ山岳地帯の豪雪の寒さを跳ねのけられる発熱をいつまでも続けられるわけではないし、そもそもそれをすればユキツヌシカミによって凍結せられたダム湖面が解凍されて冷水にダイブするはめになり、どちらにせよなかよくお陀仏だ。
-厳冬の山岳で夜に戦うなど、正気の沙汰ではないー
かくて、はてやま連峰を巡る対ホープ団決戦は、はてやま連峰の大自然が生物を拒絶したことで、ひとまずの休戦を見たのだった。
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「結局、山岳地帯を手に入れただけか...」
はてやまダム凍結湖面の湖畔に夜を徹し築いた穴倉の中で、ウキクサは沈鬱そうにぼやいた。
「あたしにとっては、何か進歩したように思えないのよね...」
山岳ゲリラをやっていた陸軍中将ハッカにとっては、冬に雪山に籠るというスタイルは何が平年と違うのかわからなかった。それでも、はてやま連峰を確保しておくためにてきぱきと臨時越冬アジトの設営を指示しているのはさすがプロではある。
「ダムでも崩して水害でもしますか?」
アルソミトラはと言えば、冬の間の作戦行動を完全に諦め、諦観に満ちたことを言った。冬の雪山を下りて麓の街を襲っても、凍えているだけでディスアドだしそもそも大部隊で雪中行軍などできやしないと、彼にも分っていたからである。
伝説ポケモンを4体もそろえて、オチがタイムアップ...三中将の間に物悲しい雰囲気が漂うのも当然である。
コツコツ...靴音が、ホープ団3中将の会議するテントへと近づいてくる。
「もっと、効率的な方法があるよ。」
「コンフリー...てめぇ、結局戦力を集中してもぐうじどもをぶっ殺せなかったじゃねぇか!」
テントを引き開け、ウキクサは怒鳴った。
「まあまあ。
怒りは判断効率を下げるよ。」
「あんた...!」
涼しい顔のコンフリーに、ハッカとウキクサは今にも絞め殺しそうな表情をした。
「それより、未来のことだよ。
いえ、過去のことだね。」
「未来?過去?」
「春になれば、フロックスはもう一度やってくるよ。アオバ・フロックスとはそういう人物らしい…
...となれば、最も効率良い計画は、クワズさんのプロジェクトと同じになるね。それもあらゆる意味で。
フロックス姉妹の襲来をキーとして、かの伝説の破壊神を召喚し、ユキコシを破壊する計画、そうなるかな?」
「な...コンフリー、てめぇ、俺たちに、ギラティナを手に入れろって言ってんのか!?」
「もともとはラスト団で俺がそれをするつもりだったんだ。」
明確に、コンフリーはそそのかしていた。2000年前の破壊神の力でユキコシを破壊し、破壊された文明の
「キミたちにもできるよ。しかもこんなに安定して、冬の間数か月、はてやまを領有するんだ。
はてやまおみや、はてやま山頂は、2000年前に三神が破壊神と戦い、破壊神が世界の裏側へ帰り、三神が眠りについた場所...まどろっこしいことをしなくても、カウンターパートたる三神を封じるだけで、奴は再びこの世界に現れる。
キミたちならば、期待値は100%だね。」
コンフリーは、口の端を吊り上げ笑った。
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ワカナエシティ、フロックス家本邸。
窓の外では雪が舞い、屋根から降ろされた雪が道路わきで壁をなしている。
時に吹雪が市街を覆い、屋外でのバトルどころか外出すら困難となり、除雪をしただけでは数日のうちに道路は車ごと雪に埋もれるため路面下パイプを温水が這いまわってノズルから吹き出す季節、厳冬。ユキコシ民は1000年この地で文明を発達させる間、厳冬の季節は小春日和を除いて屋内に引きこもり続けることで、辛抱強さを鍛え上げてきた...が、この屋敷の女主人には、何もせず辛抱強く春の訪れを待つ余裕もスケジュールもなかった。ならば、ユキコシを出るしかない。
「お姉ちゃん、蒼玻くん、準備は済んだ?」
キャリーケース片手に、カグヤは蒼玻/アオバの部屋を訪ねる。
「終わりましたわ/終わったぜ。」
カグヤの手先では、パルデア地方コサジ空港行き航空便のチケットがひらひら舞う。もちろんこの季節の荒れたユキコシの気象状況では航空便は全便欠航ーというより最初から厳冬期は運航していないし運航許可が下りないーしているため、発着空港はジョウト地方グローバルターミナルとなっていた。
「じゃあ、行こうか、学園島に!」
雪雲の隙間からわずかに差す日差しに照らされ、2人の令嬢は、グンジョウポートタウンを経由してジョウト地方へと抜ける特急列車目指し、ワカナエ駅へ向かうハイヤーへと乗り込んだのだった。