お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
現代日本からの転生男子こと蒼玻と、ユキコシ地方一の令嬢アオバ。2人は転生と憑依にまつわる諸問題をやっとのことで解決し、1つの身体を共有する「二重魂魄」そして恋仲として、旅を続けていた。
晴れて7おみや巡り成就者となった蒼玻/アオバ。サンゴジュシティに襲来したホープ団に対して、ユキコシ地方の総力をあげての決戦を挑む。ホープ団のアジトとなっていたはてやま連峰での戦いは激しいものとなったが、雪が降り始めたために解散となり、ホープ団との決着は春へ持ち越された。
ユキコシ地方が雪に閉ざされる厳冬。蒼玻/アオバは、ホープ団とその4体の伝説ポケモンを倒すための特訓とアイテム入手のため、パルデア沖の学園島グランデ・コンティネントを再訪するのだった...
バックアップミスで重複箇所と誤字脱字がありました。見つけた限り直しましたがありましたらご一報を。ちなみに本章は#60.5を伏線にしています。
#69 アオバ・フロックスの調査
ー*ー
冬。
蒼玻/アオバ・フロックスは、南国の離島にいた。
「それにしても暑いですわね…」
イーブイーグレイシアにはつげんちょうせい中ーに冷たい吐息をかけてもらい、一息つく。
パルデア沖、学園島グランデ・コンティネント。常夏の離島は、厳冬に突入し雪が積もっているユキコシ地方とは大違いの暖かさを誇っていた。
...しかしまあ、この暑さも目的の一つなのだから、やってきてよかったとは言える。ユキコシの富裕層には避暑ならぬ避寒という文化があり、厳冬が到来して雪に閉ざされる前に他のもっと温暖な地方へ移動するのだ。フロックス姉妹が行っているのもそれで、ただ寒さと雪を避けるだけではなく、長い時間を野外で使える暖かい地方、ポケモンについて体系的に教えている学園で、ポケモンバトルについて学び直すーそういった意図もあった。もっとも、雪と寒さから逃れるのはサブの目的であってメインの目的ではないわけだが…
「それで、ご質問は以上で良かったのかしら?部長さん。」
パーシモン・ゼミナール新聞部部長は、手帳をしまいサムズアップしてみせた。
「ええ、御協力ありがとうっす。いい記事書けそうっすよ!」
全世界がユキコシ地方に注目しているーそれぞれ別の悪の組織によって年に2都市も街を焼かれて大きな被害を出し、しかも片方の悪の組織ことホープ団は今も聖山はてやま連峰を占領し、春の雪解けまで奪還の目途は(冬の雪山行軍など遭難するだけなので当然だが)立っていない。ロケット団ですらコガネシティラジオ塔をわずかな間占拠したのみであり、「伝説ポケモン携えた悪の組織に重要地域を占拠されたままお手上げ」という状態は稀有に過ぎるのだ。当然、この学園島のパーシモン・ゼミナールに入学してきたメディア志望の生徒も、そんなユキコシからやってきた最重要人物たるフロックス姉妹に大きく興味を抱いていた。
「ああ、ひとつ聞きたいっす。オフレコっすよ。」
閉じた手帳をひらひらさせて、新聞部部長氏は追加の質問をしてきた。
「野外でのバトルの練習が、雪が積もり過ぎ、寒すぎて困難、だから雪と嵐でユキコシから出られなくなる前に
「…えぇ。では、それを教える代わりに、わたくしのトレーナー修行に付き合ってくださいますこと?」
「いいっすよ。この学園のことならなんでも知ってるっすからね!」
バトルコートまで、新聞部部長氏と蒼玻/アオバは話しながら歩いていく。二重魂魄の器用なところで、アオバが会話を担当しながら蒼玻の意識は端末を操作してバトルコートのウェブ予約を取っていた。
「アオバ嬢は会話しながら作業ができる、マルチタスク得意、と、ふむふむ...」
「それはそうですけれど、あまり優雅ではありませんから忘れてくださいませ。
それよりも、わたくしのメインの目的、ですわよね?それは、現在ユキコシ地方で起きている異常事態の解決ですわ。」
「…異常事態?ホープ団っすよね?それならさっき『冬の間は修業ができないから修行しに来た』って言ってたじゃないっすか。」
「いえ、ホープ団の4体の伝説を相手どるには、それでもまだ不足ですわね。ですからわたくしは、伝説のポケモンを封じるための道具を探しに来たのですわ。
『あかいくさり』、御存じでいらして?」
「新聞部っすからね。知ってるっすよ。
シンオウ地方で、アグノム、ユクシー、エムリットがもたらし、ディアルガやパルキアを鎮めたと言われてる神器っすよね。」
「それを、うちの分家が持っている、そう聞いておりますの。
ヒスイ分家の当代当主とその姉君はこの学園に留学中と聞きまして、それで、あかいくさりを貰えないかしらって。」
-アオバは言わない。あかいくさりを
「あー…分家って、レプトシフォンさんとミクロステリスくんっすね。確かにいい人たちっすけど...
あ、ついたっす!」
「じゃあ、バトルを始めましょうか。
おいでなさいな、クリムガン!」
「いくっすよ、キョジオーン!」
-しんぶんぶぶちょうの ミツマタが しょうぶをいどんできた!
ー*-
ポケモンバトルは勝敗こそもっとも大事ー一般的ポケモントレーナー界隈ではそう信じられている。ただ、実はもうひとつ流派があるーすなわち社交的なポケモンバトルであり、こちらは美しさや快さを重んじ、また会話が生まれるように適切に行う上流階級のバトル形式だ。もっとも今では社交バトルは確たる流派として続いてはいないが(ポケモンコンテストにはその系譜がある)、「ずるかろうが不快だろうがとにかく泥臭く勝つのではなく、会話を楽しみつつのびやかにバトルする」流儀は今でも重んじられることがある。そして名家フロックス家が設立したパーシモン・ゼミナールもまた、社交形式をも重んじている。
名家相手の情報交換とあって、新聞部部長氏は蒼玻/アオバ相手にそんな、すなわち、さっぱりとわかりやすいバトルをした。
「『しおづけ』っす!」
「ドラゴンクローですわ!」
己の身体を塩まみれにされながら、クリムガンの龍腕が塩塊を打つ。
「れいとうパンチっす!」「抑え込むのですわクリムガン!/ほのおのパンチで相殺!」
クリムガンとキョジオーンががっぷり腕を組み合い、拳に炎気と凍気を纏わせて、今にも相手に殴り掛からんと腕に力を籠める。
「ボディプレスっす!」「はかいこうせんですわっ!」
腕でクリムガンを押さえ掴んだまま、キョジオーンは大きく腰を前へ倒し、クリムガンを地面に叩きつける。同時に、クリムガンの開いた龍顎から閃光がひらめく。
「戻るっすキョジオーン!」「戻りなさいクリムガン。」
続けて2体目のボールを出す。社交的バトルでは「踊るような」と評されるテンポの速さが重要だ。
「取材の時間っすよタギングル!」「出番ですわ、シャンデラ!」
「いばるっす!」「ニトロチャージ!」
シャンデラがこんらんし、ふらふらと漂う。
(蒼玻くん、どうしましょうかしら?/どうにもこうにも...賭けるしかないだろ。)
「みがわりっす!」
「ニトロチャージ!」
シャンデラの突進が成功し、タギングルのみがわり幻像が消し飛ぶ。
「もう一度いばるっす!」
キャッキャと騒ぐタギングルが、タッタッタとシャンデラへ駆け寄る。
「イカサマっす!」「今ですわ、決めなさい、オーバーヒート!」
シャンデラの「いばる」で引き揚げられた攻撃力が、タギングルのイカサマによってシャンデラ本体へと牙をむく。
ニトロチャージで上がったすばやさによって、タギングルがワザをかけたまさにその瞬間、シャンデラが最大火力を発揮するー幸い、こんらんは今回は響かなかった。
両者戦闘不能は確実だろうと、2人はボールの回収ビームを煙の中の影へ当てる。
「そろそろラストでいいかしら?」
「いいっすよ、せっかくっすしとっておきを出すっす...テツノツツミ!」
びょ~~んと、金属質の首が跳び出し、バネに引かれ戻っていく...未来から来たとされるパラドックスポケモンは、いっそロボットの妖怪にしか見えない不気味さを見せつけていた。
「…報告書でしか見たことのないポケモンを出してきますわね…では、わたくしも、論文でしか名前を知られないポケモンを出すと致しましょうかしら。
オリセクト!」
プラズマ団の手から零れ落ち、本来の姿で復元された古代のむしポケモンが、青い身体に背負う甲羅状の砲台を持ち上げた。
「ハイドロポンプっす!」
「いわなだれですわ!」
テツノツツミが背負うプレゼント袋から放出された怒涛の水流がオリセクトを吹き飛ばす。だがオリセクトもさるもの、空中で体勢を立て直して砲台を振り、岩弾を投射していく。
「やっぱりポケモンのことを取材する時はバトルっすね...ふぶき!」
「あまり有名にされたくはないのですけれど…アイアンヘッド!」
吹き付ける凍気を割って、宙を蹴り飛び出したオリセクトの甲羅がテツノツツミを打つ。
果たしてテツノツツミは、その小さな金属腕でオリセクトの甲羅を掴み、そのまま自分ごとオリセクトを水渦で囲んだ。「うずしお」だ。
「むしのさざめきですわ!」「フリーズドライっす!」
渦潮が音波で震え、徐々に凍り付く。
氷片が散乱した中央で、組み合ったまま、オリセクトは微動だにせず凍結され、テツノツツミはドットの目をバッテンにしていた。
ー*ー
「いやー楽しかったっす。
それで、あかいくさりっすよね?…難しいと思うっすよ。」
新聞部部長氏は手帳をパラパラと確認してそう告げた。
「難しい…とは如何なわけかしら?」
「や、だって、レプトシフォンさんとミクロステリスくんは確かにフロックスを名乗ってて、アオバさんの分家っすけど…でももう数百年かもっと分かれてるっすよね?わざわざアオバさんたちを優先することはないっすよ。」
「ですけれど縁があれば伝手でお譲りいただくことは…
…優先?もしかして先約がおありなのかしら?」
「これオフレコっすよ。
リークなんすけど、フロックス家は身売りするらしいんすよ。」
身売りー名家フロックス(ヒスイ分家)がそれもこの現代に身売りとは穏やかではないが、しかしフロックス(ヒスイ分家)はユキコシ本家と同じく大財閥を営んでいることを念頭に入れれば意味は変わってくるー吸収合併だ。
「聞いてはおりますわ。経営の厳しいシンオウ総合開発グループは、ベンチャー企業アトラスタル・テクノロジーに経営買収を受けて再建するプランである…と。」
「うちの生徒会長がアトラスタルの次期社長っす。彼とレプトシフォンさんが結婚して、アトラスタル経営陣がシンオウ総合開発グループの取締役を引き受ける…ま、政略結婚っすね。」
今どき政略結婚など…と憤ったりはアオバはしない。それはもしかしたら自分がそうなる可能性があった立場だからだ。むしろ蒼玻をなだめている。
「どちらにもメリットがある話ですわね。
シンオウ総合開発グループはギンガ団やフレア団を後援して急落した信用と経営状態を経営陣刷新で立て直せるし、アトラスタル・テクノロジーはベンチャー企業からシンオウ地方の地に足を付けた伝道企業に脱皮できる…」
「それもありますけど、アトラスタルの狙いはシンオウ総合開発の技術っすよ。
フロックス家はギンガ団やフレア団に出資して、奴らが検挙されて崩壊したあと、せめて出資額を回収しようと不動産と技術資産を接収しましたからね。技術ベンチャーからすれば垂涎の的っすね。」
「ああ、それで…
ユクシー・エムリット・アグノムから作られてディアルガ・パルキアを封じたあかいくさり、技術資産の最たるものですものね…」
どうやらヒスイ分家の婚約者にして救済社たるアトラスタルはそう簡単にはあかいくさりを譲らせてくれそうにない…
…せっかく暖かい南国にきても、フロックス姉妹の旅は、そう簡単にはいきそうにないらしかった。
フロックス家(ヒスイ分家)
出典:フリー百科事典ポケットペディア
本項目では、シンオウ地方の名族であるフロックス家について説明しています。ユキコシ地方の名家・企業家については「フロックス家」をご覧ください。
フロックス家(ヒスイ分家)は、シンオウ地方の名族である。古来よりシンオウ地方に重きをなし、近年ではシンオウ総合開発グループ(
出自
フロックス家は、ユキコシ地方に存在するフロックス本家から少なくとも800年前に分家したと考えられている。フロックス本家とヒスイ分家の伝承を総合すると、当時の一族は寒さの厳しいユキコシでのノウハウを活かすために新天地シンオウ地方へと向かったとされるものの、複数の疑義が呈されており、分家時期はさらに古い可能性がある。(後略)
来歴
(前略)
フロックス家はこうして、シンオウ地方の開発に協力しながら地位を高めていき、近代化に対応するために組織を会社化して創業一族として支配するようになった。だが、ここ数年でその地位は急激に低下している。
STEAグループはギンガ団とフレア団へ巨額の融資を行っており、2組織の悪事の発覚後、信用の失墜、取引の停止、国際制裁などを受けて取締役会が当主を会長から解任し次期当主に変えるなど、急速にその地盤は揺らいでいる。STEAグループが財政破綻した場合、フロックス家は零落し、シンオウ経済にも多大な損害を与えるだろうと見て、複数の大企業・ファンド・地方政府が救済に動いている。