お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
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「私どものキンレンおみやが初めてのおみやというのは、地元のトレーナーでもないと滅多に見ませんからね。」
開口一番、キンレンおみや宮司、カンゾウ氏は、作業服の上にコートを羽織りながら言った。
「えっと、マニュアルマニュアル...っと。」
キンレンタウンは、トキトビ島北方の谷間にある時が止まったような古い町並みである。谷あいを登り、キンレン金山の精鉱場が古代のスタジアムのような威容を誇るその前に、キンレンおみや挑戦者事務所ビルの看板を掲げる3階建てレンガビルは建っている。その最上階の鉱場長室で、カンゾウ氏は壁を埋め尽くすいくつもの棚から次々とファイルを抜いては戻ししていた。
「あ、あの、カグヤ、大丈夫ですの…あの方...?」
「しっ、ああ見えてもキンレン金山を経営して鉱山観光も成功させてるやり手なんだから。」
そうは言っても、確かにファイルの抜き戻しは手の残像が見えるほどでバケモノじみているが、挑戦者が来てからマニュアルを探している姿は、蒼玻にとって「完璧トレーナーであるジムリーダー」のイメージとはかけ離れていた。
「そう言っても、くたびれたメガネのサラリーマンにしか見えませんわよ…?」
「…確かに私どものキンレンおみやは、バトルにかけてはユキコシ最弱の誹りを免れ得ません。
それと、挑戦の対応が遅れていることに関しましてはお詫び申し上げます。…わざわざトキトビの北の果てでおみや巡りを思い立つ方はここ数年いらっしゃいませんでしたので…」
過疎離島の悲哀が溢れすぎているー蒼玻は老け顔へ頭を下げた。
「地元の方でしたら、トキトビ島民がおみや巡りを始める際は、14歳になってから私どもと三日三晩鍛えたのちに集団でよりしろさまに挑むのです。」
島の少年少女を集めての宮司による集中鍛錬とレイドバトル、それが「トキトビおみやを初めてのおみやとして、本土へ旅立つ新人トレーナー」へのはなむけなのである。…が、トキトビ島滞在中に突如おみや巡りを始めることにしたアオバに年に一度のレイドバトルまで半年以上この離島で待ってもらうのはいくらなんでも厳しすぎる。
「本土の方にしても、このおみやが最初のおみやでなければ、よりしろさまと戦い、力を示せ!で良いので、受付のほうで案内されるはずなのです。私が鉱場業務で忙しい時は私が戦わず私のポケモンと勝手に戦っていただく場合もございますね。
トキトビ観光に来た方が突然思い立った場合でも、普通はある程度トレーナーとしての腕前がなければ旅などみなさんなされませんし…」
要するに、島の外から来ても中から来ても、普通は対応策があるのだ。ただ、ずぶの素人がいきなり挑んできた場合のマニュアルが、滅多に使わないので見つからないのである。
「どこでしたっけ...あっ」
バサバサバサァ!ファイルが崩落し床が書類にうずもれる。
「…ぶしつけながら、機密書類がありますので、いったん外へいただけませんでしょうか?」
「「ええ...」」
ドン引きしてフロックス姉妹が退室する。…下の階の受付から、応援の職員が走ってきた。
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「お手数おかけして申し訳ありません。あらためまして私、キンレンおみや宮司・キンレン金山鉱場長・キンレンタウン観光協会副会長・トキトビ殖産観光審議会会長、カンゾウと申します。」
作業服を着たサラリーマンとしか見えない彼はやたらと腰も低く、名刺を差し出した。
「さて、おみや巡りとは一人前のトレーナーを育てる、つまりはてやま連峰に登っても生きて帰ってこられる…つまり、ユキコシ地方のどの道を歩いても一人で生きていられる、これを一人前と申しますが、こういったトレーナーを育てるための伝統的行事であります。
その過程でトレーナーとして学ぶことが多く、そのため、おみやはジムとしての認定も受けている、というわけです。
さて、トレーナーとして一人前になるとはどういうことか?私どもは、心身、もっと言えば心技体ともに鍛えられることだ、と考えております。」
アメニモマケズカゼニモマケズ、厳しい自然や社会の中で一人のトレーナーが一流として独り立ちするためには、負けないための強い力も必要だが折れないための強い心も必要である。
「であるからしまして、私どもは、このキンレン鉱山を800年以上前から見守ってくださったよりしろさまと、この鉱山の歴史に、トレーナーとしての心構えを教えていただき、そうして学んだ折れない心によってですね、私を倒していただきたい。」
それなりに神聖な存在であろうよりしろさまに指導を頼もうという、誠意をカンゾウは見せてきた。
「というわけでですね。私どもは終点で待っておりますので、係員の指示に従い、鉱山の入口へお進みください。」
”キンレンおみや巡りの試練 キンレン鉱山見学”スタート
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トキトビ山は南北二つの山地とその間の平野からなるが、わけても北トキトビ山地は1000mを超えており、キンレンタウンがある谷間は一日のかなりの時間、山影にある。
そびえる山に挟まれ、じめじめと暗い谷間。その山際に、ポツンと四角い巨大な穴が空き、見つめていると時折ゆっくりとレールの上をトロッコが走ってくる…そんなどこかレトロな雰囲気で、キンレン金山はあった。
蒼玻はイーブイを、カグヤはグレイシアを出し、ともに、手を上に伸ばせば天井に突いてしまいそうな坑道へと入っていく。
先日ホープ団のウキクサに突き落とされた坑道よりも格段と明るいのは、あちこちで光るメリープのおかげだろう。
「トキトビ島で金が見つかったのがどの時代か、正確にはわかっていません。ジョウト地方の資料には800年前にトキトビ島から金が献上されたという一文があります。
400年前には当時のトキトビの殿様をワカナエシティの殿様が従え、トキトビの金を手中に置き、その財力で遠くカントーはトキワシティまで攻め込んだ...とされています。
そのころ、トキトビの人々はみな、田畑をひっくり返し、砂金を集めていました。」
説明音声をバックに、スクリーンには再現映像が映されている。
イシツブテが田を掘り返し、人とドッコラーがともにもっこをかついで砂を運びだし、川に運び出された砂を途方もない時間ドジョッチがかき回すと、だんだん重い砂金が流れずに残っていく。
掘り返された田を再びイシツブテが埋めなおした上に人々が稲の苗を植えていく。
「人とポケモンが共生する、どこか牧歌的な砂金採掘は、ワカナエシティの支配下に入ってしばらくして、終わりを告げました。カントー地方やジョウト地方、ウスベニシティとの争いのためには膨大な金が必要だったのです。
そして、困り果てたトキトビの民の前に、そのポケモン、よりしろさまは現れたのです。」
ドシ、ドシと、狭い坑道の向こうから足音が響く。そして、そのポケモンは姿を見せた。
坑道を照らすライトが、そのなめらかな身体を銀色に光らせる。
青みを帯びた銀色のナットが、腕や足や腹に見える。頭は金色のナット、その中央に浮かぶ目と思しき部分は赤く赤熱し陽炎を起こしている。尻尾のように突き出すのは竹だろうか?
「近年、カントーのオーキド博士とウィロー博士はこのポケモンをメルメタルと命名したそうですが、キンレン金山ではそれよりずっと前からこう呼ばれていました。
キンノコブシ。」
メルメタルのようでところどころ違うそのポケモンは、やおら落ちている石クズをナットの腕で殴った。
蒼玻とカグヤが見ている前で、粉々に砕け散った岩石にキンノコブシが触れる。土石が吸い込まれ、反対側の腕からパラパラと砂が舞った。
「キンノコブシは古くからトキトビの山の鉱石を殴り、その内部に含まれる金属を取り込んできました。そして、溶けにくい金属は取りこむことができず、体表に析出します。
目が赤熱する。尻尾の竹が空気を吸い込む。また目が赤熱する。身体の金属光沢が白く濁る。
目が銀色を取り戻したその時、腹の中央のナットが、金色の輝きを帯びていた。
「液体の鉛は金銀を取り込みますが、酸化した際にそれを放出します。鉛と酸化鉛の酸化還元はポケモンならではの神秘ですが、400年前の人々はキンノコブシと協力し、そして、同じように鉛を用いて鉱石中の金銀を取り出す技術を身につけたのです。」
キンノコブシが、グッと腕でガッツポーズを取るー何度聞いても、自分が人間たちと成し遂げた偉業は誇るべきものだと考えているらしい。
「鉛を用いた灰吹き法は枯渇したと思われていた金銀を再びトキトビの民にもたらし、キンレンタウンは空前の繁栄を遂げましたが、それも長くは続きませんでした。」
キンノコブシの人間とはかけ離れた顔が、心なしか落ち込んで見えた。
「毒性のある鉛を加熱して扱う灰吹き法は、人とポケモンの寿命を縮めました。」
空へと空いた穴から光が降り注ぐ、広間のような空間。そこでキンノコブシは立ち止まった。
案内音声が告げる。「それではここで、ポケモンが特殊状態になっても慌てないための、そして毒に苦しんだ過去の人とポケモンに思いをはせるための、バトルを始めていただきます。
業務開始です、ベトベトン!」
2体、紫色の、ドブが這いずっているようなポケモンが、のっそりと現れるやいなやいきなり「どくどく」を微小な液滴として吐き出した。
「イーブイっ!?」「グレイシアっ!?」
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カグヤの判断は早い。他の地方ならともかく、ユキコシ地方ではどくタイプとの戦闘は命にかかわりかねないし、そもそもユキコシのバトルは先手が基本である。
「グレイシア戻って!
雪辱を溶かしていくよっ!ファイアロー、BREAK!」
カグヤは透明な正八面体の結晶を掲げた。「透明なカケラ」は金色の粒子を放出し、粒子はボールからまさに出てくるファイアローへと凝縮する。
「公式戦で『透明なカケラ』は使えないけど、私はクリア済み、あくまでただの付き添いだからね。」
狭い坑道でファイアローを使うのはあまり褒められたことではない。そのすさまじい素早さが活かせないからだ。だがこの地方のファイアローは、ただのファイアローにもまして、迷わず初手で用いる利点がある。
地面が、壁面が、天井が、金色に発光する。光の粒がオーラとなって、空間に湧きだし、そしてギュッとファイアローへと凝縮する。
ファイアローBREAK-このポケモンの強さを象徴する特性「はやてのつばさ」は、BREAK状態ではひこうタイプワザの限定が破壊され、あらゆるタイプのワザを誰にも追いつけないものとする。
「ぐれんのつばさ!」
金色の光が宙を迸った次の瞬間、ベトベトンは焼け焦げ、瀕死状態になっていた。
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どく状態にされた以上、イーブイは長くもたない。チャンスがあるとすれば一回、この前と同じ、BREAKワザだ。
「一撃で決めるしかない。うそなき!」
苦しそうにはしているが、イーブイはしっかり蒼玻に声で応えた。続けてつぶらなひとみがはなたれ、ベトベトンの能力は確実に低下する。
「カグヤがカケラを使ってくれたということは、そういうこと、ですわよね?」
BREAKフィールドからオーラをチャージすれば周りのポケモンすべてがしばらくBREAKワザを封じられる…リスクを冒してわざわざカケラを使ったのはカグヤの恩情だと、蒼玻は考えた。
「イーブイ、スピードスターをBREAK!」
「お姉ちゃん、ダメッ!」
結晶から放たれた金色のオーラが、イーブイに集まる。
ベトベトンが大きく口を開ける。
金色に輝く天の河が、イーブイの身体から迸る。
ベトベトンが、紫の毒々しい塊を吐きつけた。
金の星々がベトベトンを包み込む。
イーブイが、ダストシュートに突き飛ばされ、坑道の壁面に激突する。
「…BREAKワザもBREAK進化も、BREAKフィールドからオーラをチャージするぶん隙が大きいから、タイミングが悪いと相打ちになるんだって...」
ベトベトンは当然目を回して倒れている。ただでさえ防御力が低下している状態で、メガシンカポケモンのワザよりも強力なBREAKワザを受けて耐えるのは並みのポケモンには不可能だ(だからこそ、カグヤのファイアローBREAK先制は禁じ手同然の強さを誇るのだ)。
ただ、蒼玻はそれどころではなかった。瀕死状態でこそないが、イーブイは顔を真っ青にし、息も絶え絶えである。
「イーブイ!イーブイっ!
カグヤ、どくけしかきのみはっ!?」
「今はちょうど切らしてる…けど、大丈夫。」
キンノコブシが、いたわるようにイーブイの頭をなでる。その鉛の腕に、ゆっくりとどくが染み出していく。その液体の目は、いつくしみにあふれていた。
「…もしかして、これが…」
”毒に苦しんだ過去の人とポケモンに思いをはせる”-浄化の力を得るに至るまでどれだけ、今の蒼玻と同じ景色を見てきたのか、表情に乏しいキンノコブシから読み取ることはできはしなかった。
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「なぜ、キンノコブシをよりしろさまとして私どもが崇めてきたのか、おわかりになられましたでしょうか?」
人とポケモンが長年にわたり金を求めて山を削り続け、ついにぱっくり割れた山。それを背後に、カンゾウは立っていた。
「ええ...人がポケモンをいたわり、ポケモンが人をいたわるということも…それに、多くの犠牲の上に歴史がある、ということも。」
「はい。ですから私どもは忘れてはなりません。多くの命の上に今生活していることを。どんな状況になっても諦めないことを。敬意といたわりが何よりも大切であることを。厳しい鉱山労働を勤める人々やポケモン達はそうして、困難を乗り越えてきたのです。
その結実に、挑んでいただきましょう。サーフゴー、業務開始ィ!」
キンノコブシ(メルメタル特殊個体)
ユキコシ地方、トキトビ島にのみ少数が生息するポケモン。通常のメルメタルとは異なり青っぽい灰色をしており、尻尾として突きだす竹から時折空気を吸い込んでいる。トキトビ石英でできた岩盤を殴り内部の金属質を体内に取り込むが、ときおり表面に金が析出する。
身体はメルメタルのガリウムではなく、鉛でできているが、生きている限り鉛を放出することはないため無害である。近年は毒性重金属を濾過できるポケモンとしても注目されている。