お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#71 ミクロステリス・フロックスの嘆願

ー*-

 

 生徒会長ハイペリオン・アトラスタルを訪ねたその足で、蒼玻/アオバとカグヤの令嬢姉妹は、ヒスイ分家姉弟の弟のほう、現当主ミクロステリス・フロックスの部屋へ、パーシモン・ゼミナール男子寮を歩いていた。

 

 男子寮に女子生徒が入ってくることは禁止されているだけに、絶世の美少女が我が物顔で歩いているのを、何人もの生徒が自室から顔を出してうかがっているーが、姉妹の知るところではない。フロックス家は学園島グランデ・コンティネント文教プロジェクト創始者にしてパーシモン・ゼミナール理事、生徒会・教師陣・校則のいずれも姉妹を縛ることはできないのである。

 

 「ミクロステリスくんだよね。」

 

 「…ああ、留学生か。」

 

 諦めと嘆きがあふれ出すような暗い目、蒼玻は圧倒された。

 

 (アオバちゃん...これは...

 

 「俺が、俺自身の存在意義の無さに絶望して生きる意義を見失っていたころ」の目だ...)

 

 蒼玻の恋人を自認する少女アオバの緊張が、一気に高まる。

 

 「…何をしに来たんだ、あんたら。」

 

 「あんたって、貴方、お姉ちゃんになんて言葉遣い」「やめなさいカグヤ。

 

 ミクロステリスくん、貴方、本当に今の状態をよしとしているのかしら?」

 

 「…マジで何を言いに来たんだよ。

 

 よしとするわけねえだろ、本家のボンボン。」

 

 とても名家とは思えない、ウツケ、タワケ、そう言うしかないやさぐれっぷりである。

 

 「悪の組織に2度騙されて、どこからもそっぽ向かれて、父さんは失脚、俺しかいないからって俺が継いだけど要するに『大人はみんな怪しまれるから子供をかつげ』ってことだろ?

 

 それでGCMに操られたアトラスタルにいいようにやられて、家宝のあかいくさりと姉貴(レプトシフォン)を引き渡すかわりにアリアドスの糸を垂らしてもらう、そういう話だ。誰がよしとするってんだ。

 

 でもな、俺たちにはもう、これしかないんだよ!

 

 救済合併を受けなきゃSTEAはヒスイ分家を巻き込んで倒産する!GCM社は株式市場工作でアトラスタル以外からのSTEA救済を片っ端から潰してる!俺たちにはもう、GCMとアトラスタルの言い値で身売りするしかないんだよ!

 

 どうしようもないんだから、何もできないくせに口だけ挟まないでくれよ...」

 

 「それでは、何故...メールに返信したのかしら?」

 

 蒼玻/アオバとカグヤがはるばる学園島まで来たのは、アオバを装う出所不明のメールにミクロステリスが返信して、そのCCが本物のカグヤのメルアドに来たからだーもちろん最初のメールもカグヤに届いてはいたがそちらは不審メールなので見ていなかった(アオバからのメールを見なくても毎日いっしょにいる)。

 

 「あのメールの時点で、すでに婚約も救済合併も決まっていたはず。貴方は何を『ご尽力』して欲しかったのかしら?」

 

 「…うるさいな。」

 

 「ええ、うるさいですわ。これは大事なことですもの。」

 

 「気の迷いだよ!」

 

 「気の迷いでもなんでも、言葉にしていただかねば伝わりませんわよッ!」

 

 「…しつこいな!出ていってくれ!」

 

 「貴方は、貴方は本当にそれでいいんですわね!?

 

 みすみす、みすみす...

 

 ...無理だと思っても、それでもやらなくてはとぶつかっていった、わたくしの大好きな方だっているのですわ。」

 

 (アオバちゃん...)

 

 「よく考えてくださいませ。そうでなければ何度でも貴方の心に土足で踏み込みますわ。

 

 貴方は会社を買い取ってもらうために姉を売り渡して家を救うのを、誇れますかしら?

 

 貴方の、本当の望みは?

 

 まだあきらめる時ではありませんわ。あがく時ですわ。」

 

ー*-

 

 沈黙。

 

 「…姉貴を、助けてくれ。」

 

 ミクロステリスは、やがてポツリとこぼした。

 

 「誰も姉貴のことなんか気にしちゃいない。俺だって、姉貴は大切だけど、姉貴のために政略結婚を破断にしたら、グループ全社員が路頭に迷ってシンオウ経済は暴落する。

 

 親父がヘマこいて迷惑かけまくったんだ。この上、俺の私情は挟めねえ。

 

 だからこれは、俺の独り言だ。

 

 誰か姉貴を助けてくれ。

 

 だけどこれは、俺が頼んだわけじゃない。ちょっとの気の迷いで、誰にもかなえられない願いだと知りながら無意識にメールの返信をした、それだけなんだ。それ以上であっちゃいけないんだ。俺がこれ以上、それも身内の姉貴のために、他所様に迷惑はかけられねぇ。」

 

 「…他所様ではありませんわ。

 

 わたくしはアオバ・フロックス。フロックス本家家長で、フロックス氏族氏上。分家の悩みは本家の悩みですわよ。」

 

 「…それでも。

 

 俺は頼みなんかしない。生贄を出してでも(政略結婚をしてでも)尻ぬぐいくらい自分たちでカタをつけないと、それにそうすることでしか、ヒスイ分家は未来へ進めない。

 

 GCMの思惑通りにアトラスタルに姉貴を譲るなんてしたくないさ。でも、それで家と会社を守れるなら、姉貴を助ける無理な願いを諦めるしかないのなら、これが俺たちの高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)なんだよ。」

 

 「…そう...

 

 ...であればわたくしも独り言を言いますわ。

 

 わたくしも、わたくしの初恋の人(蒼玻くん)も、命を賭けてでも守りたいものを守る、例え無理かもしれないとわかっていても心から、自ずと、誰かを思って動ける、大義も天命も義務も理由になんかならない、そういう誇り高さが高貴なる者の抱くべき志(ノブレス・オブリージュ)だと思っていますわ。ですから...

 

 ...わたくしは貴方の姉君(レプトシフォン)への想いを勝手にメールからくみ取っただけ、頼まれもしないお節介をするだけですわ。いえ、貴方の独り言を聞き取れなかったということにすれば、これは、あかいくさりを横取りしたいがための、婚約関係の邪魔、かしら?

 

 ふふ、貴方もハイペリオンさんも、ああレプトシフォンさんも、家と会社のためとはいえ、婚約関係の継続を望んでいるのですわよね?

 

 ならば婚約を破棄させようと邪魔するわたくしの役目は令嬢ではなくて、そう確か、こう言うのでしたっけ?

 

 /『悪役令嬢』ってやつだな。」

 

ー*ー

 

 「お姉ちゃん、蒼玻くん、私は2人を信じてるし、お姉ちゃんが敢えて婚約介入なんてする悪役を買って出て蒼玻くんが泥を一緒に被ることを決めたならいまさら文句は言わない...

 

 ...でもどうするの?婚約が破棄されたら当然、アトラスタル・テクノロジーはSTEAグループの救済合併を中止して、GCM社は金融攻撃の刃をSTEAに向ける。あっという間にシンオウ経済ごと破産しちゃうよ。

 

 それにレプトシフォンさんもハイペリオン生徒会長も、政略結婚をそう簡単に破談になんかしないし説得もできないと思うよ?」

 

 分家だからと言って、ユキコシ本家がヒスイ分家に頭ごなしに婚約破棄を命じられるようならここまでこじれていない。分家してから数百年経っているし、そもそも現代ではいくら名家でも本家家長が婚約関係を決められるのは6親等がいいところだろう。そして、ヒスイ分家とSTEAグループ救済は今のフロックスには不可能であることはご存知の通り。

 

 「STEAとシンオウ経済については…

 

 …今のわたくし/俺たちは悪役令嬢だぞ?

 

 投資ファンドの分際で喧嘩を売ったこと、後悔させてやる。

 

 婚約は…そうだな/悪役らしく、力で強いても、よろしいのではなくって?わたくしに『仕方がないから諦めろ』と言ったこと、根に持っておりますわ。/ああ、婚約破棄を仕方なくさせてもいい道理だな。」

 

 「…わかった。なら、私も暗躍するよ。お姉ちゃんはどんな時も、輝いてなくっちゃだから。

 

 舞台は…2週間後の学園年末夜会とかどう?来賓も大勢いる中で呑ませた条件なら、誰も撤回できないでしょ。」

 

 かくて、ヒスイ分家を巡る騒動のゴールは、定められたのだった。

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