お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
ー*ー
サンゴジュシティ残存メンバー、玉砕。
痛ましい報に、ワカナエシティに置かれた臨時戒厳司令部は静まり返る。
だが、ワカナエ市長も、フロックスグループ重役も、ジュンサーとジョーイも、モニターの向こうの各自治体首長やぐうじもわかっていた。黙祷している余裕すら許されないと。明日は我が身だと。
「あれも、どこまで効くか…」
いくらなんでも分が悪かろう…彼らの視線の先、「ねじれたとう」ことフロックスセンタービルの屋上に、機械仕掛けの華が花弁を開く。
「フロックスグループ再編公社は、ステラーシステム再起動を満場一致で可決します。」
「臨時戒厳司令部は、フロックス家にステラーシステム使用を要請する。」
余計な二重手続きではある。フロックスグループ再編・復興はユキコシ経済を支えるべく多くの公的・民間組織が手を挙げる挙国一致状態であったから、臨時戒厳司令部のメンバーは全員が再編公社に属しているのだ。
ワカナエシティ中の電気が消え、病院・ポケモンセンターでは非常用電源装置かでんきポケモン給電装置に切り替わる。
ワカナエ中から集められたエネルギーが、フロックスセンタービル基部に埋め込まれたテラパゴスの
ーフロックス姉妹がサンゴジュシティに残ることを許されなかったのはこのためだ。ジョウトとそれなりに繋がるユキコシ西部と異なりユキコシ東部はカントーにもキタカミにも陸路ではか細くしかつながっておらず、雪解け前のこの時季は海路と空路でピストン輸送しなくてはワカナエ市民はじめ東部民220万+サンゴジュ都市圏からの避難民のワカナエ側半数50万を脱出させられない。だから、サンゴジュを捨て石にしてでもワカナエをなるべく長く守らなくてはならなかった。そして現状、ギラティナの「ロストインパクト」から無事なまま戦闘するにはフロックス家のディアンシーが最適解である。
「なんとも気合が湧いてくるな…!」
「わたくしたちと貴方が頼みですものね、オリザぐうじ。」
神官たちを撃退したところで、ギラティナ、ゼルネアス、イベルタルが出てきたらそこらのポケモントレーナーなど鎧冑一触である。よりしろさまカミツラオロチとステラーシステムが伝説ポケモンをどうにかせねばならない。
西の空に日が沈んでいく。
もしかしたら、今夜が最後の晩餐になるかもな…なんて、軽口にしても誰も口にできなかった。
ー*ー
当初、早々に徹底抗戦を覚悟したワカナエシティと異なり、コンジキシティでは和平の余地があるのではと考えた。フロックス姉妹が総指揮とステラーシステム操作のために直接向かったワカナエと違い、こちらには古代ユキコシ文明をよく知る者が少なく、サンゴジュ避難民の「戦うのは絶望的だ」という声ばかり聞こえてきたからだ。
まあ戒厳司令部も交渉するのを止めはしなかった。古代ユキコシ文明はガチヤバ差別帝国主義オーパーツ古代文明であったわけでフロックス姉妹やホープ団とすれば「話すだけ無駄」だが、別に話して害はないだろう…と。
ただ、半日にしてコンジキ市役所は後悔することとなる。使者の副市長は帰ってこなかったし、なんなら副市長の生首を先頭に
「隷属か絶滅か」ここでも、
ここにコンジキシティは絶体絶命かに思われた。コンジキおみや開闢以来この街は難攻不落だったが、それは街中にたむろするラッタのBREAKワザ「いかりのまえば」で噛みつき1つで敵を瀕死にできるからであり、回復無限のゼルネアスとすこぶる相性が悪いのだ。
「キミらが来てくれて助かったよ。」
「妾らナノハナの武士道は、民草を守ることじゃからな。」
コンジキおみやぐうじカクミガシ博士のとなりで、大学のゼミルームの席の座り具合を確かめているのは、ナノハナ武士団城主、ハル・ブラシカ姫。
ハルのクチートはカクミガシのユキコシアブソルの毛繕いをしている。ユキコシアブソルの「厄を察知する性質」のせいで、毛が逆立って仕方がないのだ。
「良かったのかい?私は何と言っても引き籠もりの大学教授だから、大学でポケモンのデータをとりながら死ねるのは本望だが…」
「討ち死にするなら城を枕に、とでも言いたいのかの?
舐めてくれるな。とうにサムライの時代など終わっておる。たかだか世襲のトレーナーの身代で、寡兵にて民を逃がして有終の美とあらば、武士団としてこの上なき誉れじゃろ。」
既に先陣を切ったサムライたちは次々と郊外で接敵、古代ユキコシ文明の神官たちと戦っている。サムライ言葉や草書体を使うサムライたちにアンノーンの言霊力は効き目が悪いらしく、そこそこ勝負になっていた。そして、市街ではおみやのジムトレーナーと有志が、ビルを爆破して道路を塞ぎ、いわワザでバリケードを築き、みずワザとじめんワザで水濠を引き、はがねワザで鉄条網を構築していた。
報告どおりならギラティナが来ればこんな防壁はなんの意味もない。だがギラティナは一体しかいない以上、ワカナエかコンジキかどちらは後で来る。あるいは全市民を避難させる時間は充分にあるかもしれない…絶望の中に希望を見て、偏屈博士とラストサムライ姫は笑った。
東の空に、へばりつくように無数のアンノーンが現れて、空を黒く染めていく。
「まさに、史上最大の災厄と言うべきだね。
アブソル!」
コンジキ大学のキャンパスを眼下に、カクミガシ博士のユキコシアブソルは高く跳び上がりながらメガシンカを果たす。その額の太極図には、捕捉された厄禍の運命が収束し、ユキコシメガアブソルの黒き翼を大きく伸ばしていく。
ーユキコシメガアブソルの ディザスターウィングBREAK!
不幸と不吉の禍で塗り固められた闇翼の幻影は空いっぱいに広がり、迫りくるアンノーンたちを一薙ぎで地平線上へ追い返した。
ー*ー
「敵、ギラティナにイベルタル!照準はギラティナに合わせますわ!」
「俺の情熱はイベルタルのほうに向けりゃいいんだな!」
ワカナエ大乱の時と異なり、ステラーシステムのAI照準は行わない。伝説ポケモン迎撃システムとしてスペック上は地平線上の伝説ポケモンを狙い撃てるが、実際にそれをすれば避けられるのがオチだからだ。
「さて…やるぞカミツラオロチ!
気合ィ!熱意ィ!情熱ゥ!根性ゥッ!」
ーカミツラオロチの
果実龍の鎌首が、8つの激太のビームで空を彩った。
3本のビームが、避難が完了した西市街を焼き払い火の海に変える。
1本のビームが、ワカナエ川の数キロ上流の分水路分岐を破壊する。
3本のビームが、西側の郊外を穿ち、ワカナエ川本流から海まで続く水濠を刻む。
余りの1本のビームは、遠く地平線上に見えるイベルタル目がけ撃ち込まれ、外れたものの古代ユキコシ文明の心胆を寒からしめた。
「このよりしろさま無茶苦茶だね…荒れるとこんななんだ…
お姉ちゃん、変換終わったよ!単発射撃1秒!」
「撃って撃って撃ちまくりますわよ!」
-Emulated_”ゴースト_テラバースト” powered by ステラーシステム!
まるでピアノ線のように細く引き絞られた、ゴーストタイプの力の凝集。それが地平線まで伸び、ギラティナの黒い触手の1本を撃ち抜く。
数秒のタイムラグ…そして、爆発。
触手がもげ、空間のヒビとなって、閉じるように消えていく。ギラティナはよろめき、罵声を上げ、そして身体を大きく反り返らせる。
ーギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!
黒い閃光が、地平線からワカナエ市街まで、一直線に伸びていく。
水濠が電流となって周囲を焼き、市街の業火が鬼火に化け、雪が地から土が空から降り落ちる。
常識と法則と秩序が崩壊し始めた戦場を見下ろし、碧玻/アオバは指輪をはめた指先で天を指差す。
「誇り高き俺達の燦然、誰にも超えられはしないさ!
/直視すること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!」
黒い閃光が、フロックスセンタービルを直撃する。センタービルを包む
デュアルメガディアンシーがナノダイヤのピンクの輝きでセンタービルの展望窓を満たした。黒い閃光は塗りつぶされて消え失せて効果もなくなり、そして燦然光輝を割いて2撃目のEmulated_”ゴースト_テラバースト”がワカナエの空に奔る。
眼下では、ユキコシ電力によって上流のダムを発破されて増水した雪解け水が、破壊された分水路を越水、西郊外へ一気になだれこみ、コーシー神官たちの行く手を遮っていた。その奥の西市街の火災も、当分燃え尽きる気配はない。
「お姉ちゃん、航空便は全便脱出したって!
あとは船便と地上避難!粘るよ!」
”「最後まで、お供します!」”
ワカナエ遅滞戦はまだ、始まったばかりだった。
ー*ー
トキトビ島、トキトビシティ。
海上に浮かぶ孤島では、「ユキコシ地方亡命政府」を名乗り、キンレンおみやぐうじカンゾウとフロックスグループ各社社長会が奔走している。
トキトビ島もいずれ陥落することはもはや確信だが、高山都市
「コンジキシティ、陥落。おみやと武士団は玉砕です…」
「ゴフク屋有志を名乗る集団、空のナノハナキャッスルに入城しました。どうしますか?」
「東列島鉄道に言え!損害は全部補填する株なんていくらでも譲ってやる弔慰金の心配なんか俺は終えた!もう一本ニビからワカナエに装甲列車を出せ!」
「ハネバミタウン、謎のUFOが現れて古代文明と戦闘中!科学館のライブカメラ映します!」
「ジョウト電力から『グンジョウ原発をメルトダウンさせるぞと言えば古代ユキコシ文明は進軍を止めてくれるのでは』と…」「アホだろそいつ、古代人が原子力知ってるわけあるか?来月からの電力供給の心配でもさせておけ!」
「為替とユキコシ有力各社の株価暴落、止まりません。再編公社はすでに事実上の破綻です。GCM残党に足元を見られているかと…」「借款を全部引き上げるって脅してやりなさい。それで適当な地方から代えの資金を引っ張って。為替も中銀の外貨放出で脅せば止まる!」
「カントーリーグに現時点で判明してるデータ送ります。」
ここもまた、ひとつの前線だ。死傷者こそいないが、すべての情報を集め、前線を支え、避難ルートをつなげ、難民化するユキコシ民の安寧を図り、侵攻への防備を始めた隣接地方へ情報を届け、そして世界中の地方と交渉しここぞとばかりに足元を見る連中との経済戦を繰り広げる…
それにトキトビ島のよりしろさまであるキンノコブシは弱い。金山の主として鉱夫たちを慈しむ素晴らしい存在だが、単純火力で言えば残念ながら最弱だ。ついでに言えばトキトビ島には現在空港がなく、港もほとんどは南のワカナエ方面であって侵攻してくる古代ユキコシ文明から逃れられる島北にはキンレン港と漁港がいくつかしかないなど脱出ルートが細い。この「亡命政府」も、玉砕覚悟の、いやむしろ「島の山岳に籠もって抗戦し、カントーやジョウトに逃げた本土民衆が海の外へ逃げる時間を稼ぐ」覚悟の組織であった。
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ワカナエシティにそびえ立つフロックスセンタービル、そのねじれた巨体が、グラグラと揺れている。
繰り返される「シャドーダイブ」「ロストインパクト」はワカナエ市街をえぐり、高層ビルは氷柱や墓石や鉄塊や巨樹に置換されあるいはメンガーのスポンジよろしく欠けまくっている。
屋上に抱いた花弁型兵器はその花びらを無惨にちらしながらも光線をあちこちへ無分別に乱射し、最後の抵抗を見せていた。
本来ダイマックスの空間干渉力に対抗するためのバリアである
よりしろさまカミツラオロチと言えば、イベルタルに物言わぬ石像とされていた。実はジガルデエミュレーターでカグヤが何度か蘇生させたが、生命力を駆動する精神力にも限度というものはある。
「ちっ…まあ終わったからいいようなもの…」
オリザぐうじは、割れた窓から見える水平線のあたりの船影を見て安堵の息をついた。ステラーシステムとカミツラオロチが稼いだ1日は、確かに全住民避難を成功させたのだ。今やワカナエ港にもワカナエ空港にも1つの船も1つの航空機も1人の人も1匹のポケモンも存在しない。
「必要最小限の犠牲で抑えられた…か。
おい嬢ちゃん、早く逃げろ。」
「…それで、貴方は残るつもりかしら?オリザくうじ。」
もはや体面を気にする必要もないと、飲み終わったエナドリのボトルをゴミ箱へ投げ入れながら、碧玻/アオバは告げた。その傍らにディアンシーはもういないーポケモンにはカフェインドーピングは効かないから、一昼夜も戦えないのだ。
「…なんでわかった?」
目に隈を作ったカグヤが、気丈に応える。
「だって、このビルをそのままにしちゃおけないよね?」
巨大なエネルギープラントに、それをテラクラスターへ変換するテラパゴスのカケラ。どちらにしても戦力的にも技術的にもとても重要で…譲れるものではない。建設当時から、もしセンタービルが陥落するときには140mのビルごと自爆させて奪わせない前提でステラーシステムは造られている。
「自爆スイッチでも押しとけばいいじゃねえか。タイマー機能くらいあるだろ…
って、ごまかせないよな。」
「このズタボロのビルを信じるほど愚かではございませんもの。」
ステラーシステムのメイン機能であるビーム発射が制御が効かないのに、サブもサブの自爆タイマーに信頼性があるはずもない。
「このビルは私とお姉ちゃんのビルだよ。
始末くらい私たちでつける。
それに、私になんの責任もないわけじゃないし…」
ユクシー・エムリット・アグノムを封じたから古代ユキコシ文明が復活した…カグヤには多少の罪悪感があった。もっとも封印をしなければホープ団が3神を手に入れ、どのみち古代ユキコシ文明が復活するか7体の伝説ポケモンを持ったホープ団が暴れるかで碌なことにはならなかっただろうから、これはカグヤの気持ちの問題だが。
「…ああ、嬢ちゃんたちはそう言うだろうさ。でもそりゃ、熱意の使い方がまちがってる…というか、『熱意の効率が悪い』らしいぜ。」
「…効率?」
どこかの誰かが好きな単語だ…碧玻/アオバが身構えたのと同時に、扉は蹴破られた。
「キミらはここで死ぬには惜しい人材じゃないかい?
命を使うなら、もっと期待値良く使って欲しいものだね。」
「コン…フリー…」
元ラスト団ナンバー2が投げたボールから、キノガッサが登場する。
「オリザぐうじ、手はずどおりに。」
「アンタの手はずってのが気に食わねえけどな。」
「ちょっと、手はずって何のこと!?」
オリザはカグヤに答えない。自らの口元を袖で押さえるオリザの姿を見て、アオバは危機感に苛まれとっさに真似をしようとした…が、遅かった。
「キノガッサ、きのこのほうし。」
その催眠粉は、徹夜明けの育ち盛り少女2人には効果抜群すぎた。
「お姉、ちゃ、ん…」「不覚、で、すわ…」
カグヤも碧玻/アオバも、その場に崩れ落ちる。
「ではオリザぐうじ、お2人は預かるよ。」
「本当に、ユキコシを救ってくれるんだろうな?コンフリー。」
コンフリーは、サイボーグとなった手足で軽々とフロックス姉妹を担ぎ上げ、応えた。
「いいえ。
俺たちはラスト団。世界の
「ふん…大した情熱だぜ。」
スパークを散らしてステラーシステムからのビームが途絶え、センタービルを守るバリアが消滅する。エネルギー回線が壊れたのだ。
「おっと…このビルの期待値も、もう下の下かな。」
エネルギープラントがある地下目指してオリザが階段を駆け下りていくのを見届けてから、コンフリーはキノガッサににどげりを指示する。
ワカナエ大乱のラストスパート、クワズがガラス窓を破って飛び降り行方不明になったまさにその場所。
「電脳アップローダーの類なら詰みだが…まあクワズさんなら代替策もあるよな。」
割れた窓の下、何かが光学迷彩で隠され滞空しているのを確認し、確率計算で生きている男は手を叩く。
かくて、一度ならず二度も「ねむり」によって悪人に手玉に取られたフロックス姉妹は、今度は姉妹まとめてラスト団に連れ去られることとなり。
機影なき飛行機雲が一筋脱出していく下、古代ユキコシ文明神官軍の包囲下にあったフロックスセンタービルは、基部から閃光を発して爆発、ワカナエ島をキノコ雲で包んだのだった。
ー*ー
ワカナエシティ陥落で、ユキコシ地方本土東側はほぼすべての防備を失った。ワカナエより東にはおみやどころか大都市もなく、その代わりにワカナエを突破した神官たちはキタカミの里にたどり着くまで人っ子一人見ないことになっている。
一方で西側はまだ、避難が間に合っていなかった。もっとも深刻なのは半島部で、付け根のコンジキ・ハネバミ両市が陥落しナノハナキャッスルも玉砕した今、半島北側に追い詰められたまま避難民は孤立している。
数十万の命を背負い、ヌレバおみやぐうじのアテは老骨に気炎を吐いていた。
「サジンノリュウ、突っ込むんじゃ!」
砂が巻き上げられ、音波によって震える壁をなす。巻きあがった砂嵐は無数のアンノーンたちを襲い、素の体力が低いアンノーンたちはあわをくって逃げ出していく。
コンジキを玉砕させたのはゼルネアスを従えた神官軍だったが、コンジキ防衛の要だったユキコシメガアブソルにすこぶる相性がよかっただけでゼルネアスの破壊力はギラティナ・イベルタルほど破滅的ではないから、まだヌレバタウン守備隊にも抗戦の余地があるといえた。
「いいか、相手を倒そうとは考えんことじゃ!儂らで時間を稼ぐ!時は金にはならんが命になるんじゃ!」
「わかりやした、親方!」
折しも風は西向き、サジンノリュウが巻き上げる砂のカーテンからは砂粒が吹き下ろし、神官たちの目を襲う。
「なんぞ!?」「息が、息ができぬ…!」「目が、鼻がっ…!」
神官たちが、一部のポケモンたちごとのたうち回る。喉や目をかきむしり、酷いものは貫頭衣から露出した肌に湿疹ができている。
「ヌレバの漆器の歴史も今日でしまいかのぅ…」
砂に紛れて風散するように調整して、ウルシを焚いている。揮発したウルシオールは風下の古代ユキコシ文明神官軍を襲うわけだ。
それでも、そんな苦し紛れの策すら時間稼ぎにしかならない。
ーゼルネアスの ジオコントロール!
フェアリーオーラが満ちるとともに、神官たちがすっきりした表情で立ち上がる。それでなくともゴーストタイプやはがねタイプのようなポケモンたちは呼吸を必要とせず戦いを続けている。
砂のカーテンを出入りしながら攻撃を続けていたフライゴンたちが、こおりワザを受けて次々と墜とされていく。サジンノリュウは同族が息絶えていくのを察して怒りの咆哮を上げた。
翅脈が震えて荘厳な旋律を奏でる。砂のカーテンが音波のままに揺れる。
ゼルネアスもまた、砂のカーテンの向こうに強大な気配を感じ、フェアリーオーラを頭上に集中させていく。
「…サジンノリュウがサジンノリュウたるゆえんは、ナックラーどうしで最後の一匹まで競い合い、自らの糧になった同胞の命を受け継いで力を増すからじゃ...
…ゼルネアス、命を生み出すお前さんは、自分が倒した
死に絶えていったフライゴンの力が、空間を満たすBREAK
ひときわ大きく翅を震わせ、サジンノリュウは砂のカーテンへとつっこんだ。旋律が大空に響き渡り、砂のカーテンが音波の震動とともに巨大な球体となっていく。
-サジンノリュウの デザートゲイザーBREAK!
迎え撃つゼルネアスもまた後ろ足で立ち上がり、七色に輝く角を掲げる。
-ゼルネアスの ムーンフォースBREAK!
丘ほどもある砂塊と、月光のエネルギービームが、ヌレバタウンの空に交錯する。
爆風はあらゆる炎を吹き消し、高周波震動する砂粒は全方位に飛び散って木々を斬り裂く。
サジンノリュウは、まとった砂塊ごとゼルネアスと衝突し、そしてゼルネアスともども倒れ伏した。
…しかし、無限の生命力を持つゼルネアスは、ゆっくりと起き上がり、サジンノリュウを踏みつけた。
サジンノリュウがばたばたもがき、ゼルネアスの足によって翅を踏み砕かれる。
「…耐えられんかったようじゃのぅ...
…儂もそろそろ、逝かねばならんか。」
「師匠、本当に、逃げないのですか?
まだ、アカマツタウンまで逃げれば、船が残っています。」
「ひょっひょ、この老骨に、50キロも追っかけっこをしろと?儂とてわきまえとるわい。」
矍鑠として、アテは飄々と応える。
そして、ふいにその悪戯な表情を一変させた。
「おぬしは工房へ行け。神棚に免許皆伝の書がある。」
「っ…、師匠…」
「命が絶えても、受け継いだ漆器の技は、絶やしてはならんのじゃ。
早ぅ行かんか。」
泣きながら走り去る弟子を見届け、老人は腕まくりし、ハチマキを締め直した。
「さぁドーブル…
…わしの死に出の花道、存分に彩ってくれるかの?」
こくりと、ドーブルが頷き、漆の染みた尾を振る。
ユキコシ最年長ぐうじ、世界一の漆器職人は、己の人生を最期の作品とすべく、煙の中へ歩き出した。
ー*-
ユキコシ地方主要7都市のうち、最も西にあるグンジョウポートタウンと島部であるトキトビシティを除く5都市すべてが古代ユキコシ文明によって陥落せられたころ。
ジョウト地方、フスベシティでは、ジムリーダーのイブキが、悔しそうな表情で、空っぽの街を見つめていた。
コンジキシティ・サツキタウンが陥落したことで、ユキコシ地方とジョウト地方の境となっている山々は、東のはてやま連峰から西のおおしらやまに至るまですべて古代ユキコシ文明の手に落ちた。そして、山岳文明であろう古代ユキコシ文明を相手にするには、フスベシティはあまりにも山に近すぎる。
コーシーからの斥候と思われる不審者の目撃情報が出てきた時点で、ジョウトリーグもフスベ市役所も、フスベシティの放棄を決定せざるを得なかった。
「悔しい、わね…」
噛み締めた唇から血が垂れる。それでも、聖なるドラゴンつかいとして、ジョウト四天王として、フスベジムリーダーとして、誰かがせねばならぬことを自分の手でするのは、せめてもの矜持だった。
「カイリュー、りゅうせいぐん。」
降り注ぐ隕石が、フスベの街を焼き払う。
「必ず、戻ってくるから。」
-この日、ジョウトリーグは
全ジムリーダーと四天王に存立危機事態の招集がかけられ、水面下で立案されていた住民避難計画が発令される。
戦火は、ユキコシの外へ拡大しようとしていた。
ー*-
「あなた、何をしようとしてるのか、わかってるのかだよ?」
トキトビにある亡命政府すらも戦死したと思っている、ウスベニおみやぐうじ、イチシノは、呆れかえったと言わんばかりに、ウスベニ谷間を見下ろすウスベニ城址へ付いてきた一団へ問いかけた。
「決まってんじゃねぇか。
あのウスベニおみやがどうしようもなく完敗してあの世まで逃げるってんだ。俺たち元ホープ団が、冥土への土産にするには充分な語り話じゃねぇか。」
「それで自分たちまでいっしょに死ぬタマじゃないくせに…だよ。」
「そんなことより、あたしらにあんたの介錯を任せてもらえるってマジ?」
「元ホープ団の人たち性格悪すぎるんだよ!?」
イチシノは、どこか重荷が取れたかのような表情でダークすぎるジョークをぶつけてくるウキクサとハッカにツッコミながら、鬼火をたたえた松明をウスベニ城址の地面に突き刺し、七芒星を描いていく。
「ウスベニの祟りは、戦で無念にも負けた
同じ思いを抱いている者なら、その祟りに共鳴できる...けれどそれは、「敵によって討ち死にする」無念を再現しつつも、呪法を完璧に行うための儀式をしなければならないということで...
…白面を外せば、紙ごしにぼんやり見えていた世界が、今やくっきりと見えていた。無数の怨霊が飛び交い、地面から浮かび上がり、集まってくる。
サムライの姿や商人、農民の姿の幽霊たちが、しっかりとイチシノの網膜に映っていた。
「こんなにはっきり視たのは初めてだよ。
さあ、おいでなんだよ。
ひとつに、なろう。」
ムウマともムウマージともハバタクカミともつかないよりしろさまーサマヨウミタマが、イチシノを囲む松明七芒星に、吸い込まれるように一体化していく。怒れる怨霊を鎮めてきたサマヨウミタマの膨大な霊力、それでできた七芒星に、無数の火の玉が、亡霊が、集まってきた。
「…頼むんだよ、ホープ団。」
かつてウスベニ武士団の長が代々受け継いでいた名刀とされ、武士団滅亡から数百年経過した今でもあまりの祟りで触ることが禁じられている霊刀。イチシノはそれをウキクサへと投げ渡した。
「…もう、終わるのか。」
ウキクサが、しみじみと呟きながら、霊刀を鞘から抜く。
「そうだよ。
終わるんだよ、ウスベニの祟りも、ウスベニシティも、ユキコシ地方も。」
数百年前にヨシノシティを丸ごと滅亡させた強大な呪詛の霊力を一心に憑りつかせながら、紫に輝く身体からイチシノは声を漏らした。
「…寂しく、なるわね。」
ハッカが応えながら、シンプルな短刀を手渡す。膨大な霊力に弾かれてハッカはしりもちをつき、ために、彼女が再び顔を上げた時。
「無念、だよ…!」
イチシノの巫女服の腹からは、すでにおびただしく、赤い血が流れていた。
ウキクサが、霊刀をイチシノの首に振り下ろす。
元ホープ団団員たちがそろって合掌する中、無念なる死者たちの霊力は生きとし生ける者をさいなむ呪詛となり、ウスベニの谷間を満たし、そしてウスベニシティ一帯へと拡がっていく。
ー故郷は、誰にも渡さない。例え侵略の魔の手に陥ちようともー
時を超えた祟りが、木々を枯らし、ポケモン達を眠りに堕としていく。ウスベニシティを占領していた古代ユキコシ文明神官軍も例外ではない。
ウスベニシティ半径20㎞。そこは、かつてヨシノシティをそうしたように、草一本生えない不毛の地へと変わっていったのであった。
ー*-
カントー地方、ニビシティ。
ユキコシ地方からの立て続けの凶報に慌てふためき、ワカナエシティからの避難民を必死にさばき、やっとのことでワカナエ山脈縦断トンネルを爆破して往来を遮断したこの街だったが、労苦もむなしく、古代ユキコシ文明神官軍はワカナエ山脈の険しい山々を踏破してカントーに現れた。そして今、ギラティナの姿はニビシティ郊外の地平線に見える。
「…じゃ、覚悟はいいわよね。」
四天王、カンナ。
「俺たちのウルトラパワー、破ってみせはせん!ウー!ハーッ!」
四天王、シバ。
「古代人にも、ホントの戦いってものを教えてやる!」
四天王、キクコ。
「尻尾を巻いて、帰らせてやる!」
四天王、ワタル。
カントー地方最高の戦力が、ニビシティに立っていた。
ユキコシ地方の犠牲を無駄にはしない。この数日で蓄積された膨大な戦訓は、トキトビの亡命政府から各地方リーグに発信され続けている…
「ほう、小手先拝見としようか、現生人類。」
準備万端待ち構えているカントー最高戦力たちを前に、地平線の反対側の
ー*-
ユキコシ地方、グンジョウポートタウン…もっとも西側の大都市にも、東から古代ユキコシ文明神官軍が迫っている。
当初、ユキコシ地方の誰もが、古代ユキコシ文明は世界を敵に回すことはできずいずれ破綻するだろうと見ていた。なにせ2000年前の高山都市文明の動員兵力などたかが知れている…ユキコシ地方の総力を挙げての遅滞・漸減戦闘によっていずれはギラティナ・ゼルネアス・イベルタル以外のほとんどの戦力を失って丸裸となり、ユキコシの大地を奪還する余地が生まれるはずであった。
しかしどうやら彼らは古代ユキコシ文明の規模を、その戦力を数桁見誤っていたようであり、今やジョウト地方とカントー地方にも蚕食が始まっている。いよいよユキコシの将来の奪還を夢見ることは不可能となりつつあった。
そんな中、ユキコシ本土に残っていた最後のぐうじであるグンジョウおみやぐうじトチュウは、必死の防戦をしていた。
「プラスル、マイナン、『てだすけ』!
マイイカヅチ、『てんらいのへきれき』!」
港を離れていく船影…だがまだ港には十数隻の客船や貨物船が残っているし、そもそも水平線の向こうに船が見えなくなるまでは船にビーム攻撃が当たりうるということだ。
「てめえらには、脱出船に指一本触れさせねぇ。それが、俺の責務だ。」
紫電の巨槌が天空から地上へと振り下ろされる。それでもその神鳴りは、古代ユキコシ文明のポケモン達に禄に命中しないー言わずもがな、相変わらず上空を埋め尽くすアンノーンが何かの干渉をしているのだ。
「
バザギリ、ダブルアタック。」
「趣味でゲリラやってる元ホープ団の連中を見習った方がいいと思うのですな。
ああヤミラミ、パワージェムですな!」
ヌスビト率いるゴフク屋もまた、神官軍が繰り出す数百体のポケモン達に対して戦いを続けている。もっとも悪人のポケモンだけあって如才なく、ビル影で自分の身を守り、ヌスビトのメガヤミラミの影に入って自分を守り、やられそうになればどこかへ逃げ出し、さぞ神官たちにとって鬱陶しいだろう戦い方だった。
汽笛が鳴り響き、最後の脱出船団が桟橋を離れていく。
「船団が逃げ切るまでどれくらいかかるのですかな?トチュウぐうじ。」
「犯罪者に答えるのは業腹だなヌスビト。一番遅いので10ノット、水平線まで10キロって考えてくれ。」
「タンカーで15ノットじゃなかったかオイ、啖呵切るだけあってずいぶんとボロい船までかき集めたなあ。30分ってとこかあ?」
「そんなに長く居座らないのですな。我々は程よいところでずらかるのですな。」
ちっ、虫のいい犯罪者どもめ...トチュウが毒づくが、ヌスビトらゴフク屋は気にするそぶりもなく、一人また一人とどこかに消えていく。
トチュウとマイイカヅチだけは、最後まであきらめない。その姿を、とっくにメガヤミラミもバザギリも倒され手持無沙汰なヌスビトと手下が瓦礫影から眺めていた。
「とっくに船は去ったのですな!」「もう充分だろ、十分経っただけにな。」
マイイカヅチが紫電を打ち下ろしライチュウBREAKが電光を奔らせ、トチュウは振り返らない。
「少しでも遠くへ逃げてほしい。そう思うのが、俺の責務だろ。」
「…付き合いきれないのですな。でも、ここで死ぬつもりならこれを託すのですな。」
プラズマ団製のポケモンコントロール装置に、エーテル財団製のウルトラホール発生装置…それら、ゴフク屋が悪の組織残党から受け継いできた技術の結晶を置いて、ヌスビトらはその場を去る。
その日、深夜まで、グンジョウポートタウンには雷鳴が絶えなかった...複数のサーバーを経由し、ゴフク屋はSNSにそう書き込んだ。
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グンジョウポートタウンを守っていたぐうじトチュウの惜別電を以て、2000年の歴史を誇るユキコシ地方、その本土は完全に古代ユキコシ文明のものとなった。
トキトビ島のカンゾウぐうじら亡命政府はトキトビシティからトキトビ山脈山中に拠点を移動、キンレン金山廃鉱脈を要塞とし、上陸に備えて徹底抗戦を宣言する。一方でグンジョウポートタウンを逃げ延びたヌスビトらゴフク屋は、ゲリラ戦を続ける元ホープ団幹部ウキクサ、ハッカと合流、フスベ山脈やワカナエ山脈の深い山々に潜伏する。
いくらかの残敵を抱えながらもユキコシ地方を占拠した古代ユキコシ文明はここに
2000年の間に大きく変わっていたカントー・ジョウトの地形についていけず、
カンゾウぐうじらの安否は絶望的ー世界はここに至り、「ユキコシ地方滅亡」を実感するとともに、今や全世界の敵と化した
アンノーン(こだい) エスパー 特性:MISSING/DAMAGE/HAND
MISSING:12人を生贄とした儀式に2匹以上で現れたなら、作り出した文字列どおりの言霊が現象をゆがめる。
DAMAGE:66体以上のポケモンがバトルを奉納している儀式に2匹以上で現れたなら、作り出した文字列どおりの言霊が現象をゆがめる。
HAND:35個以上の神器を用いる儀式に2匹以上で現れたなら、作り出した文字列どおりの言霊が現象をゆがめる。
失墜の神殿(コシノミヤシティ)
12人を人柱として建設し、35の伝説のポケモンにまつわるシンボルを収め、66体のアンノーンを制御装置に組み込んだ白亜の神殿。伝説ポケモンの権能を歪める機能と、言霊を用いた「源理改変」によって物事を御都合主義的に進行させる機能を持つ。