お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
現代日本から転生憑依した青年、蒼玻。意識を失ったものの蒼玻と協力して復活しあい、同じ身体を蒼玻と共有することになったフロックス家令嬢、アオバ。姉のことが大好きな令嬢、カグヤ。3人はユキコシ地方に迫るいくつもの危機を乗り越えて7おみや巡りをクリアし、聖山はてやま連峰を占拠するホープ団に立ち向かった。
しかし、ホープ団がはてやま3神を掌握するのを阻止したその瞬間、反転世界に隠れ潜んでいた古代ユキコシ文明がギラティナの完全な掌握に成功し、現世に復活した!
世界への復讐と征服を掲げ、古代ユキコシ文明は進撃。7ぐうじ全員が玉砕しユキコシ地方は滅亡する。続けて古代ユキコシ文明は、2000年前に準備していた、伝説ポケモンの権能を捻じ曲げる儀式「失墜」により、アルセウスを含め何体もの伝説ポケモンに完全勝利。ここに至り、全世界はもはや、古代ユキコシ文明への従属を迫られていた...
一方そのころ、死亡を確実視されていたはずの、主人公たちは...?
ー*ー
創世神アルセウスが敗北したという報せに、全世界が慄いている頃。
フロックスセンタービル自爆・ワカナエ陥落とともに行方不明となり、生存が絶望視されていたアオバ・フロックス、カグヤ・フロックスの姉妹はと言えば、ユキコシ地方をはるか離れ、ガラル地方、バウ港のプライベート船ターミナルにいた。
「なんてことするのかしら、この慮外者!」
プライベートヨットから陸上に足をつけた瞬間に、アオバは、ターミナルで待っていた青年…元ラスト団ナンバー2、元ホープ団科学者、コンフリーを怒鳴りつける。
「なんてことって…そりゃ、期待値の改善だよ。」
効率を追い求め、四肢のサイボーグ化すら厭わなかった男は、まったく悪びれない。
「は?なにそれ。もっとお姉ちゃんにわかるように説明してよ。」
大海原の中で暴れても漂流するだけでどうにもならないが、上陸して場所がわかってしまえばこっちのものだ…カグヤは、今にもコンフリーを殴り殺しかねない剣幕である。
「やれ、効率を理解しない御令嬢だな。
キミらが明日につなげなきゃ、この世界の期待値は崖っぷちだというのに。」
そうごちて、コンフリーはタブレット端末を姉妹に渡した。
「見ろよ、最新のニュースヘッドラインだ。」
ー*ー
「ユキコシ陥落から1週間、列島の様子は」
「シンオウ地方無条件降伏。アルセウス敗北の衝撃」
「アローラ、イッシュ両地方、古代ユキコシ文明へ降伏交渉へ」
「フスベ山脈消滅。ホープ団残党もろともとの見方。」
「パルデアチャンピオン、パルデアリーグから離反声明。降伏を不服としたか?」
「カントーナナシマ消滅。カントーリーグ終焉とみられる。」
「フロックス家ヒスイ分家、学園島ごと焼失」
「フレア団残党、ジガルデ使用を断念。すでに『失墜』していたもよう。カロス当局は降伏準備としてフレア団残党の追撃を…」
「シリーズ降伏論3 サンゴジュシティ難民は語る」
「社説『バスに乗り遅れるな フロックスグループの即時非合法化を』」
ー*ー
「…こ、これは…」
「おかげでキミたちは一度も寄港できなかったし、俺もあっちこっち密航してこなくちゃならなかった。
いいか、この1週間でユキコシ地方は大量の難民を出して玉砕、キタカミからジョウトまで陥落した。周りの地方も次々と負け、グラードンにカイオーガにレックウザにカプ神に聖剣士4体にテラパゴスに続々とたたき伏せられ、しまいにはアルセウスまでも封印された。
強さが尋常じゃない。というより奴らは2000年前にすでに、世界征服の下準備を終えてたみたいだな。それに古代ユキコシの連中は思いついたかのように、広い範囲をギラティナに生贄として喰わせてしまう。
今じゃ、全世界が、旧ユキコシの勢力をスケープゴーゴートにして古代人に媚び、さっさと条件良く降伏することにやっきだよ。」
勝てる可能性がなく、あまりにも侵略性が強いとなれば、被害を受ける前に降参するしかない。かくて、全世界は
「そ/んな…」
へなへなと蒼玻/アオバが崩れ落ち、その手からタブレット端末が落ちてコンクリートを滑っていく。
「コンフリー…貴女…
…こうなるって、どうせ勝てないってわかってたなら、私とお姉ちゃんを、どうして…」
カグヤは途切れ途切れに、そう言って。
「…ワカナエで、終わらせてくれたら良かったのに…」
栄華の象徴たるセンタービルと、フロックス家が根付いたユキコシ地方と、共にフロックス家はその歴史を閉じるべきだったのだ、と。
「はあ…まったく。
どうしてって、それは。
期待値を上げるために、決まってるじゃないか。」
蒼玻/アオバが顔を上げる。視線の先でコンフリーは、タブレット端末を胸の前に持って見せていた。
ー*ー
「久しぶりだな深窓令嬢にお転婆次女。ラスト団トップ、クワズだ。」
電子データに自らを「代替」した男は、潜伏中のサーバーから電気信号を送信し、コンフリーの端末へと自らの表情イメージと合成音声を送信する。
「
「歴史、の…?いったい何を今さら…/そんな悠長な…いや、そうでもないわけか?」
「ポケモン伝承学最大のパラドックス、知っているかね?」
蒼玻/アオバもカグヤも、首を横に振る。
「知らない。いいだろう。
ポケモン伝承学とは、ポケモンに関する伝説、神話、言い伝え、それらを検証する学問だ。しかしそれらの中には怪しいもの、矛盾するもの、謎が、いくつも秘められている。」
蒼玻は思うー当たり前だろ、ポケモンは本来ゲーム、長いストーリーには設定の矛盾もあるし、考察の余地だってある、伝承が謎まみれで当然だ、と。けれどアオバに言われるまでもなく、蒼玻がいるこのポケモン世界は現実であり、矛盾や謎には答えがあるのもまた理解していた。
「シンオウ神話など、パラドックスの良い例だ。見ることもなきディアルガ・パルキア・アルセウス・ギラティナの、人が見ることができないであろう宇宙創世の神話…根拠などなにもないに等しいのに、新旧ギンガ団はそれを信じ、そしていくつかを実証してみせた。
これ自体もかなり不思議なことだ。
しかし、仮に、ならばシンオウ神話がすべて正しいのだと仮定すれば、矛盾が生まれるのだよ。
すべてのポケモンの遺伝子を持つとされるまぼろしのポケモン、ミュウと。」
「…聞いたことあるよ。ミュウはすべてのポケモンの遺伝子を持ってて、すべてのポケモンの祖先。だけどアルセウスは宇宙を創った。アルセウスもミュウの子孫なら、アルセウスがいない、宇宙がない時代からミュウはいたのか…って話だよね?」
「正解だお転婆次女。
かつては、アルセウスの創世神話は比喩であり宇宙とは現シンオウ人の祖先の文明文化ではないかとか、いろいろ言われていた…
…が、アルセウスにまつわる神話はおそらく正しかった。ロケット団のミュウツー研究にまつわる内部資料は、ミュウがあまねくポケモンの遺伝子を持っていてもおかしくないほどの遺伝情報量を持つことを語っている。
さて、このパラドックス、どうする?
「ミュウ、かな…?」
「深窓令嬢…に取り憑いてるほうか。どうしてだ?」
「黙秘するよ/ちょっと、蒼玻くん!?」
(言えるわけないだろ。俺たちの世界では、作品的に
メタ的視点は理由として認められない、蒼玻自身、そう考えている。ただ同時に、ポケモンニワカとしては、設定が矛盾するなら先に設定されたほうが正しく後付けがまちがっている、そう思わないでもない。
「俺の考えは、どちらも正でありどちらも否だ。
アルセウスとミュウの順序に意味はない。
この宇宙の前に、さらにもう一つ、宇宙があったとすれば、な?」
「…サイクリック、宇宙論…/なんですかしら、それは?
/ビッグバンを経て誕生した宇宙が、膨張からやがて収縮に転じ、ビッグクランチを経て消滅する…そして、どこまでも小さくなってから、どこかで新しい宇宙として再び膨張を始める…そういう、宇宙は誕生と終焉を繰り返すって理論だよ、アオバちゃん。」
「なるほど、ポケモン抜きに説明するなら、そうなるか。
俺は、宇宙はアルセウスが創り、ディアルガとパルキアが時間と空間に方向を与え、ギラティナを取り除くことで秩序が生まれ、そして宇宙が膨張を始め…
…やがて勢いを失い収縮に転じて終焉する宇宙で、ミュウが次代のアルセウスを産み落とし、アルセウスとともに終焉を乗り越えた先で再びポケモンたちをこの星に産むのだと、そう考えている。」
アルセウスが宇宙を、ミュウがその宇宙のポケモンたちを、終焉を越えて再生する…クワズの、終末からの再生を目指せしラスト団の宇宙論とは、すなわち、こうだった。
「けどそれって、根本的な矛盾の説明にならないよね?
だって、いくつ宇宙を遡っても、原初の宇宙を創ったアルセウスと、その原初のアルセウスを産んだミュウがいて、そこはパラドックスなわけじゃない?」
「いい質問だお転婆次女。
それを説明するなら1つしか無いだろう。
…繰り返し再生と終焉を迎える宇宙は、それぞれ別のものじゃない。
宇宙はループしているんだ。」
「…は?
/待ってくださいまし、それは、この宇宙は、わたくしたちは、何度も何度も…」
頭が、ついていけない。宇宙の真相、その深淵に。
「それ以外に解釈のしようがないから、そうだ。」
蒼玻が転生してきたこの宇宙は、何度も何度も、アルセウスによって創られては滅び、創り直されを繰り返している…?
「宇宙の尻尾と頭が繋がっているなら、どちらが先かのパラドックスは生じないだろう?」
この宇宙そのものがループしていて、宇宙を創世したアルセウスと終焉の時にミュウが産み出したアルセウスが同一の個体なら、ミュウが先かアルセウスが先か、どちらも正解でどちらも不正解の無意味な命題だ。
「それは、確かに、そう、だけど…
…でも全部、哲学的な、言葉の捏ねくり回しで…」
「黙って話を聞け、まだ、世界を救う話を、していないぞ。」
ー*ー
「ここまで崖っぷちになった世界を救う手段は、ない。」
クワズは断言した。
「伝説ポケモンに勝つ方法はない。例えこちらも神格を引っ立てたところで『失墜』に勝てない。
仮に古代人どもに勝利したところで、流れた膨大な血も、失われた命も、残らない。
『代替』するしかない。ここまでの、歴史をな。」
「タイムスリップ、なんて言うんじゃないだろうな?/アルセウスが負けておりますのよ。ディアルガを使ったところで目はありませんし、古代ユキコシ文明側もディアルガやセレビィの時渡りで局面を覆されるリスクくらい手を打っているはずですわ。」
結局、伝説やまぼろしのポケモンによってタイムスリップし歴史を変えるのも、ポケモンの権能に頼っているわけだ。権能を歪める「失墜の神殿」の対象内になっている。
「それに、私たちができることなら古代文明だって…」
「奴らには、復活の日より前へのタイムスリップはできないだろう。復活より前の歴史に干渉して、バタフリーエフェクトで復活の歴史が消えてしまう可能性を、否定できまい。」
それこそパラドックス、タイムパラドックスだ。
「そんなことを言えば、俺/わたくしたちとて、タイムスリップはできませんわね。タイムスリップでこの悲劇の歴史を解決すれば、わたくしたちがタイムスリップする因果がなくなってしまいますわ。」
「…だから先程から、パラドックスの話を、宇宙の話をしているんじゃないかね?
ほら。宇宙がループしているのなら。この宇宙が終焉した先でまったく同じ宇宙が1から創世し運命を繰り返すのなら。」
終焉した先の新たな宇宙は、代替物なんかじゃない。それを救うことは、この宇宙を救うことになる。
ー*ー
「でも、そんなの、どうやって…それに、本当かだって…」
宇宙は何度でも創世と終焉をループする。
運命は何度でも出会いと別れの人生をループする。
それは真実なのか?そしてそれを変えるにはどうすればいいのか?
「本当か?ポケモンの神話に関する騒動で、肝心の伝説が完全に荒唐無稽であったことがあったか?
新たな宇宙を救う方法?まったく同一の宇宙、まったく同一の出来事を繰り返すのでなければ、異なる宇宙を無限回に繰り返すのであれば、そうした開いたループではミュウとアルセウスのパラドックスを回避できない。宇宙の創世と終焉のループは完全に閉じている。
そして、運命が繰り返すとしたら、すべてのイベントを変えられないとしたら、宇宙が同一のまま何度もループするのなら、その理由はたった1つだろう。
知らないからだ。無知は人類最大の敵だ。」
運命を知っていれば、変えることができる。知らないならば同じ魂は同じ判断を繰り返し、√選択の行き着く先はいつも同じ運命だ。
「今現在のお前らの魂を、お前らのすべてを、終焉の先、ループを越えて、
あかいくさりを3神に使うな。ヒスイ分家が3つ持っていると思わずに俺はアレをお膳立てしたが、本来は1つしか手に入らずそれをギラティナに使ってもらうつもりだった。」
「いやだから、宇宙の終焉を乗り越えるって、どうやって…」
宇宙の寿命に克つには人間の寿命はあまりにも短い。それに、宇宙が一度滅んで人間が耐えられるわけがない。
「できるわけがありませんわ。」
「なぜできないと?前にもやろうとしたんだぞ。」
ー*ー
華奢な、しかし力強い足音が、ターミナルへと近づいてくる。
クワズの声と同時に、コンフリーがタブレット端末を地面において、シュートシティの方角を指差す。
「代替しろ。
我がラスト団の目指した、
代替しろ。新たな歴史で、新たな運命で。」
ー「ホップ〜!どうしたの〜!?こんなところに、呼び、出、し、て…」
ありえそうな相手からの連絡に見せかけた偽装メール…前にもヒスイ分家にやった手でクワズにおびき出されたその少女は、死んだと思っていた、そしてよりにもよってこの情勢で出会いたくはなかった相手に、声を詰まらせて。
少女の姿を見て、クワズの「前にもやろうとした」の真意を悟った令嬢と転生者は、運命とかいうものの煩わしさと滑稽さに、息を呑んで。
「アオバ、ちゃん…」
「ユウリ/さん…」
「さあ、代替しろ。
わずかに見えた、光明。