お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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 ポケットモンスター、縮めてポケモン。

 この世界の不思議な不思議な生き物。

 空に、海に、森に、街に、世界中の至る所で、その姿を見ることができる。

 憑依転生してしまった令嬢と結ばれた現代日本人、蒼玻。

 運命の相手と身体を共にし苦難を乗り越えた令嬢、アオバ。

 「お姉ちゃんと蒼玻くんが今日も幸せであるために」と頑張るシスコン妹、カグヤ。

 山と海と雪が豊かな、破壊と祝福の因果が紐解かれた「ユキコシ地方」で、令嬢たちとポケモンたちは日常を取り戻していた。

 けれど、そこへ舞い込んだのは、世界を揺るがす急報で...。

 転生ポケモン令嬢真の最終章が、今、騙られる。


劇場版ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite 「進撃の虚龍と転生令嬢」
#meta1 「ジャバウォック」は詩いだす


ー*ー

 

 ユキコシ地方、ワカナエシティ、フロックス家本邸。

 

 古代ユキコシ文明との決戦で更地となったサンゴジュ避暑地別邸と比べれば、都市部なだけにずっとこじんまりとしているが、格調高く歴史の深みを感じさせてくれる瀟洒な屋敷の中で、蒼玻/アオバと妹のカグヤは1日の執務を終え、ティータイムと洒落込んでいた。

 

 「そう言えばさー」

 

 シュークリームを7つに割ってポケモンたちに渡しながら、カグヤが話しかける。

  

 「サツキ化石博物館、ほらお姉ちゃんと蒼玻くんがオリセクトでお世話になってるとこ、あそこが新種のカセキを見つけたんだって。」

 

 「新種のカセキ?それは喜ばしいニュースですわね。/ちょっと気になるな。ティラノサウルスみたいな…えっと、ガチゴラス、だっけ?カセキかな?」

 

 「ティラノサウルスが何かわかんないけど、ガチゴラスみたいっていうのはあたりだよ。ほら。」

 

 カグヤが、プレスリリースを検索して蒼玻/アオバに見せる。

 

 ー喰らいつく(あぎと)

 

 ー引き掴む鈎爪。

 

 ー爛々たる(まなこ)、虚ろに燃え怒めく。

 

 「なるほど勇ましいですし、大きいですわね。新種というのも頷け…あら蒼玻くん?あらあら?何を動揺なさって?

 

 /…

 

 ……

 

 …いやこれ、まんまティラノサウルスじゃねーか!」

 

 大声に驚いてか、完全防音のはずの本邸の庭先からヤヤコマが飛び去っていった。

 

ー*ー

 

 「あれは、俺の前世で、一番有名だった古代生物だ。

 

 ティラノサウルス、あるいはTーレックス。だいたい一億年前に頂点捕食者やってた奴らだよ。

 

 もちろん、ポケモンなんかじゃない。俺の前世じゃポケモンは空想上の生物だ。

 

 /では、蒼玻くんとともに、あるいは別個に、異世界転生でやってきた、ということになるのかしら?」

 

 「死んで魂だけ転生してきた蒼玻くんと、とっくに死んで骨だけの化石…ねえ蒼玻くんって本当はあっちに憑依する予定だったんじゃない…?」

 

 「おいカグヤ。

 

 …とにかくいっしょに転生してきたわけじゃないだろ。宇宙の一巡を時間操作なしに超えられてきたわけないし。…あ、一巡を超えなくても同じ宇宙だから問題はない、のか…?」

 

 ややこしく考えるのを避けていた「宇宙のループの一巡」問題に、蒼玻が首をひねる。 

 

 「あまり悩んでも仕方ありませんわね。やはりここは、直接見に行くしかないのではないかしら?」

 

 蒼玻に首をひねった姿勢にされたまま、アオバはそう結論を出した。

 

ー*ー

 

 「化石を買い取りたい?」

 

 いかなフロックス家の求めといえど、容れられない…サツキ博物館はそう思ったし、そう返答した。

 

 例え法外な金額を提示されたとしても、オリセクトの件で信頼関係を構築できていたとしても…この化石の異常さにフロックス家の次に気づいたからこそ、クリーニングしたばかりの化石を手放すことはできない。

 

 ー最初は、チゴラスかガチゴラスのカセキだと思ったのだ。であれば貸し出せた…が、クリーニングをしながら復元予想図を作っていくうちに、館長らはこの化石がとんでもないシロモノではないかと思うようになった…復元できなかったのだ。化石を。

 

 ポケモンのカセキを復元装置にかけて失敗するとすれば可能性は2つ。1つ目は試料不足、2つ目はそれがカセキではなく疑似化石ー葉状の鉱物結晶みたいなものだーである可能性。だが、クリーニングを進め復元予想図に発掘品を落とし込んでいくごとにどちらの可能性も棄却される。明らかにそれは、動物の、完全に1体分の骨化石だった。

 

 ここに至り、ほとんど魔が差すような空想が、よぎってしまう…この化石が「ポケモンの」カセキではないのではないか、という。植物化石を復元装置で復元できないのと同じではないか、という。

 

 だとすれば、このたった1つの化石が、古代生物学界はおろかこの世界の常識を揺るがしかねない…

 

 「よし!固定OK!ボルトの緩みなし!」

 

 化石にまつわるあれこれを考えながら、館長らは展示室に屹立するそれを見上げた。

 

 スポットライトで照らされるそれは、何本ものワイヤで支えられ拘束されているのに、古代の王者たる風格を失わない。今にも喰らいついてきそうな顎、引き掴む鋭い爪、虚ろに怒めく眼房。そのどれもが、館長を魅了する。

 

 「おお、そこをどいてくれ。論文に載せる写真を撮りたい。」

 

 館長の求めに、快く学芸員たちは作業をやめて、化石展示台の前に整列した。化石博物館勤めというだけあって、自分たちが化石写真の邪魔にならないように姿勢を低く座っている。

 

 「館長、はい、チーズ!」「なんでお前が言うんだよ!」

 

 アットホームな職場づくりに成功したことに館長が誇らしさを感じながら、ファインダーを覗き込む。

 

 …目が、あった。

 

 「は?」

 

 よもやそんなはずはない...カメラから目を離して化石の方を確認すれば、偉大なる古代の頂点捕食者の骸骨は未だ変わらぬ威風でただ立っている。

 

 「…気のせい、か…」

 

 再び、カメラに視界を戻す。

 

 「ピントピント…っと。」

 

 動物にピントを合わせる際は、目に狙いをつけるといい…そのテクニックはポケモンの世界でも同様だ。レンズ越しにその爛々たる眼を見つめる。

 

 睨まれた気がして、館長は身体を震わせた。しかしいやそんなはずはない。約数千万年前に死んだ遺骸、それも瞳がない骨だけのシロモノが、どうやって人を睨むというのだ?

 

 パシャ。シャッター音が響く…

 

 写真を確認し、館長は腰を抜かしたー化石の顎が、大きく開き、真下にいる学芸員たちを咥えようとしている!

 

 「逃げろ!」

 

 直後。

 

 化石は短い腕を振りかざし、左足を持ち上げ、頭を固定する何本ものワイヤを力任せに引き千切り、展示台の前に並ぶ学芸員たちに襲いかかった。

 

 学芸員も館長も、たまらず展示室を駆け出し、近くにあった化石クリーニングルームへ飛び込んで扉をピシャリと締め、ポケットからモンスターボールを取り出し、息を潜めた。

 

 化石が暴れる音、ワイヤが千切れる音。ナンセンスの極みのような事態に館長らの顔は青を通り越し白い。

 

 ドタドタ、廊下を踏み荒らす音。なんだかわからないがとにかく危険であると本能で理解し、学芸員たちは震える。

 

 ドッシャーン!ガラガラ…けたたましい破砕音に彼らはボールを構え直し…しかし、クリーニングルームの扉も壁も壊れていなかった。それどころか足音も遠ざかっている。

 

 顔を見合わせ、それから1人が勢いよく扉を引き開ける。

 

 向かいの壁に大きな穴が穿たれ、その向こう、森の中へティラノサウルスの化石が去っていくのが見えた。

 

 「ふう…助かった…」

 

 「てかどうせなら記録しておくんだったな。」

 

 「にしても、なんだったんだ…?」

 

ー*ー

 

 「はあ!?ティラノサウルスの化石が逃げ出した!?」

 

 「盗まれたとかそういう書きぶりじやなくて、本当に、スタスタ歩いて逃げ出したってさ、お姉ちゃん、蒼玻くん。」

 

 「あ、あらあらあら…ちょっとわたくしに見せてくださいまし。

 

 /…化石はサツキ博物館を出て東の山中に消え、以後の行方は不明、か…」

 

ー*ー

 

 サンゴジュシティ南東、ハテヤマタウン。

 

 はてやま連峰に出現した古代ユキコシ文明がサンゴジュシティ目指して進軍してきた際に、神官軍の通り道となり、全住民避難で放棄され荒れに荒れた街は、住民が戻り復興が始まっている。

 

 街の隅の放牧地で、サンゴジュおみやだいぐうじチューリップはひとり、巨大なティラノサウルス化石と向き合っていた。

 

 「ミルタンクが逃げてきたって聞いて、何事かって思ったけど、あなただったんだね。」

 

 サツキ化石博物館から脱走しおおしらやま山中に姿を消したまま行方不明となっていたティラノサウルス化石は、どうやら東進してはてやま連峰へと到達し、ここでチューリップに見つかったわけである。

 

 「あなたはなぁに?ポケモンの化石?ポケモン?ポケモンの霊?」

 

 ティラノサウルス化石は、答えを返すはずもなく、牧草地を踏み進み足跡を刻む。

 

 「…ううん、私も返答を求めてないよ。サンゴジュを荒らす者であることには変わりないから。

 

 バイバニラ、ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!」

 

 ーバイバニラの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!

 

 氷霧が湧きあがり、指をパチンと弾くとともにバイバニラとティラノサウルス化石が同時に凍結して氷像となる。

 

 神格相手に後れを取ったことも多いが「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」は基本的には命中確定範囲攻撃一撃必殺ワザ。ゆえにチューリップは、勝利を確信した。

 

 「行け、モンスターボールっ!」

 

 きれいな弧を描いて、モンスターボールが飛んでいき、カツン、ティラノサウルス化石の氷像に当たり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、テンテンテン、跳ね返されて転がった。

 

 「モンスターボールが…反応しない!?」

 

 驚きで目を見開きながら、チューリップはそう言えばと氷像へポケモン図鑑をかざすーこちらもやはり反応しない。

 

 「…まさか、ポケモンとは関係が…

 

 …でも、機械の類にも...」

 

 チューリップは最強のポケモントレーナーだ。だが、それはポケモンバトルの最強というだけであって、ルール無用のバトルファイトをやらせると必ずしも勝てるわけではないー現に一巡前の世界では古代ユキコシ文明相手になすすべなく玉砕している。要するにポケモンバトルの範疇を超える事態にはさほど強くないのだ。となれば、「化石がポケモンと一切関係ないかもしれない」という事態には、動揺せざるを得ない。

 

 (ポケモンじゃない…?で、でもだったらどうすれば...?

 

 だ、誰かにアドバイス求める?でも...やっぱり私は『最強』だし…」

 

 去年よりは人として成長した。けれどやっぱり、電話で他人と話をするというのは人見知りにとってハードルが高い行為だ。逡巡のすえ彼女は、己の悩みを最も知っているだろう人間を頼ることにした。

 

 「もしもし、アオバさん?」

 

 -「はい、アオバ・フロックスですわ、チューリップだいぐうじ。

 

 それで何かしら?私用回線にわざわざ掛けてくるということでしたら、業務が終わってからでもいいということですわよね?一度切ってもよろしくって?」

 

 「う、ううん、秘書さんとかに聞かれたくなくて...」

 

 ー「人見知り関係…アドバイスが欲しいけれどそのことをあまりバレたくない、などですわね。

 

 それで、何のアドバイスですの?」

 

 氷像を見上げ、チューリップは大きく息を吸い込む。

 

 「私の目の前に、化石博物館から逃げた化石が歩いてて、どうもポケモンじゃないみたいなんだけど、どうすればいいと思う?」

 

 -「目の前にいる...驚いたな…/ポケモンじゃない…のですわね…「やはり」」

 

 「やはり?」

 

 ー「わたくしたちもその化石には関心が」

 

 パリーン!氷像が砕け散り、中からティラノサウルス化石が現れてチューリップめがけ腕を振るう。

 

 -「ちょ、ちょっと!すごい音がしましたわよ!?御無事でして!?」

 

 「だ、大丈夫。襲ってきただけ。

 

 モスノウ、ふぶき!」

 

 -モスノウの ふぶき!

 

 吹雪が吹き荒れ…それでもティラノサウルス化石はためらわず、痛痒を感じた様子もなく、虚ろな骨と骨の間から冷たい風を吹き抜けさせていく。

 

 「ダメージを受けてるそぶりもない...」

 

 -「物理的に拘束してしまうほかありませんわね。」

 

 「…だよね。」

 

 ティラノサウルス化石は、その言葉が聞こえていたかのように顔を上げた。

 

 虚ろな空眸に、蒼い光が灯る。

 

 「ちょ、なにを」

 

 強く足を踏み込み、化石が、飛ぶような速さで走り出す。

 

 「モスノウ、ぜったいれいど!

 

 …っ、外れたっ!」

 

 ぜったいれいどのビームが木を凍り付かせるそのすぐとなり、ティラノサウルス化石は砂埃を巻き上げながら牧草地を驀進して森の中へ姿を消していった。

 

ー*ー

 

 「気合がちとありすぎるんじゃねぇの?

 

 アップリュー、つるのムチでしばりあげろや。」

 

 ワカナエおみやぐうじ、オリザは、ワカナエシティ郊外の畦道に立って、ティラノサウルス化石と向かい合っていた。

 

 ーハテヤマタウンで捕獲を逃れたティラノサウルス化石は、そのままはてやま連峰の奥山に失踪し、はてやまダムの堤体をフスベ山脈方面へ抜けていくのを目撃されて以後再び行方不明となっていた。しかし昨日、再び人里へと姿を現すやいなや、傍若無人にも田園地帯を踏み荒らし始めたのである。

 

 「てめえのその情熱がどこから湧いてくるのか知らねえが、こっちにも農家の心意気ってもんがあるんでな。大人しく捕まってくれよ?」

 

 つるのムチで縛り上げられたティラノサウルス化石は、じたばた暴れて田泥をはね散らかしている。

 

 「大人しくしてくれよ…アップリ」

 

 バシャン!前触れもなく飛んできた何者かによって、アップリューは水田に叩きつけられ、泥にうずもれた。

 

 「横入りとは根性のない奴だぜ。てめえ、ナニモンだ?」

 

 田んぼの上にふわと浮かぶそのポケモンは、己のプレッシャーに屈しない根性男を睨みつつ、片手間にサイコパワーの奔流を起こしてつるのムチを切り裂き、ティラノサウルス化石を解放してみせた。

 

 ”「何者か…その答えを、ワタシは探し続けています。」”

 

 「…ああいや、俺の聞き方が悪かった。

 

 卑怯者にもバトルで名乗る名前くらいあるだろって、聞いてるんだ。そんな根性無しの哲学問答求めてねえよ。」

 

 ”「名前…

 

 …では、アナタたちニンゲンがつけた、この名を名乗りましょうか。

 

 ミュウツー、と。」”

 

 「…ウワサには聞いたことがあった。カントーの意気地なしどもが作った自称最強ポケモン、だったか?

 

 能力はあっても根性と躾がなってねえみてえだな!叩き直すぞ、アップリュー!」

 

 叫びながら、オリザはダイマックスバンドを踏み潰して、内包されているガラル粒子を解放する。

 

 ーアップリューは ダイマックスした!

 

 ”「根性…は知りませんが、本気なら、見せてみましょうか。

 

 …後悔しても、知りませんよ?」”

 

 浮かび上がる、遺伝子の紋様。

 

 -ミュウツーは メガミュウツーⅩに メガシンカした!

 

 メガミュウツーⅩが、その筋骨隆々な肢体にモノを言わせて跳躍、一気にキョダイアップリューの至近へ迫り、足を振り上げる。

 

 けたぐりは、キョダイアップリューの巨体を容易く高く蹴り上げた。

 

 「なかなかやるじゃねえかミュウツー。

 

 アップリュー、ダイドラグーン!」

 

 蹴り上げられた状態から、ドラゴンエネルギーを全身に纏い、キョダイアップリューは勢いよくメガミュウツーⅩめがけ墜落した。

 

 粉塵が舞う。

 

 果たしてメガミュウツーⅩは、キョダイアップリューを指先で支えたまま、一歩も動かず立っていた。その足元にはクレーター様のへこみができており、ダイドラグーンの威力とそれを受け流すメガミュウツーⅩの筋力がうかがい知れる。

 

 「アップリュー、キョダイサンゲキ!」

 

 飛び散るベタベタした酸性の液体。けれどメガミュウツーⅩはその全液をサイコパワーで吹き払い、キョダイアップリューを投げ飛ばす。

 

 「ミュウツーお前意外と根性あるな!

 

 熱くなってきたよなアップリュー!

 

 行くぜBREAKワザ、きまぐレーザー!」

 

 -キョダイアップリューの きまぐレーザーBREAK(ヤマタのげきりゅう)

 

 -メガミュウツーⅩの サイコドライブ!

 

 もはや当初の目的など忘れてオリザがミュウツー相手に戦闘を繰り広げ、水田を滅茶苦茶にするその脇。

 

 ティラノサウルス化石は再び、虚ろに怒めく空眸に蒼い光をともし、今度は南、カントー地方の方角へ、田泥蹴とばし走り去っていった。

 

ー*ー

 

 「ずっと、不思議に思っていたんだ。」

 

 ワカナエシティ南方、ワカナエ山脈縦断トンネル入口。

 

 ぽっかりと口を開けるコンクリの闇を背に、蒼玻は独白する。

 

 「なんで、俺はこの世界に生きてるのか?

 

 この、ポケットモンスターがいる世界とはなんなのか?」

 

 ー俺たちの、生きる意義、そして転生の意義とはなんなのか?

 

 「コイツはポケモンじゃない。やっぱり、ポケモンじゃない。

 

 そして、ポケモンじゃない奴の化石が歩き回っている…俺の世界の、恐竜の化石が。

 

 /蒼玻くんは、こう言いたいのかしら?

 

 …あの化石が、この世界ではない前世の世界の存在が一歩進むごとに、わたくしたちの、そしてわたくしたちの住まうポケモン世界の存在意義が侵されている、と。

 

 おいでなさきな、イーブイ。」

 

 ドシン、ドシン…巨大なティラノサウルスの化石はアスファルトを踏み砕き、ゆっくり、着実に、その姿を見せつけてくる。

 

 爛々と輝く、虚ろな瞳。それを見上げ、蒼玻はため息をついた。アオバの問いに答えるにはそれで充分だったからだ。

 

 「アレは壊さなくちゃダメだ。チリ1つ残さず。

 

 イーブイ、スピードスター!」

 

 星屑が飛び、化石の右足関節を砕く。

 

 「…私には蒼玻くんとお姉ちゃんの懸念はわかんないよ。

 

 何かこの世界に秘密があるとでも?それをあの化石が暴き出すとでも?

 

 きっとそれは、天が落ちてくるのを心配するようなこと(杞憂)じゃないのかな…?」

 

 そんな事態はサ・ファイ・ザーだけでいいーなにしろあの時は本当に天空が落ちてくるかのような神撃をくらったので。

 

 「でも、お姉ちゃんが信じるのなら私は従うだけ…蹂躙して、マハリハグルマ!」

 

 ラスターカノン…鋼エネルギーの凝縮光線が、化石の左足を撃ち砕いた。 

 

 両足を毀されたティラノサウルスが、ゴテンと前のめりに倒れる。衝撃で関節はバラバラになり、いくつかの骨は粉々になった。

 

 「焼却処分だ!シャンデラ!/オーバーヒートですわ!」

 

 化石を構成する鉱物が、焼成されてボロボロに崩れていく。

 

 他のポケモン達も次々に加わり、ティラノサウルス化石はまたたくまに粉々となって、いくつかは灰となって散る。

 

 「…そろそろ良さそうだねお姉ちゃん、蒼玻くん。」

 

 「ええ。戻ってくださいなシャンデラ、イーブイ。

 

 /さっさとズラかるか。だいぶ非合法な破壊だしな。」

 

 いちおう道路債権者かつ指定管理者であるからして、フロックス家とフロックスグループには山脈縦断道上の障害物たるティラノサウルス化石を排除する根拠はある。が、化石そのものはまだ化石博物館の所有物であるし、秘密裏に処理しておくべきものであるのは確かだ。

 

 「ブロスター、おいでなさいな。/なみのりで破片を洗い流してくれ。」

 

 ブロスターがハサミから水流を噴射し、道路上に散らばる化石片を道路脇の林内へと押し流させる。

 

 「こまごまとした後処理は後日にして、いったん帰ろっか。」

 

 蒼玻/アオバとカグヤは踵を返し、クリムガンの背に飛び乗った。

 

 「クリムガン、ワカナエに帰りますわよ。」

 

 クリムガンが翼で風を起こしながら歩き始める。

 

 ふと、蒼玻/アオバは振り返り…

 

 …そして息を呑んだ。

 

 化石を粉々に砕き焼却処分し流したはずのあたり。そこで、林床の落ち葉を巻き上げながら、岩屑が浮き上がって集まり、組み上がっていく。焼け焦げた鉱物も、岩灰も、時間を巻き戻すかのように、結びつき一つに合体していく。

 

 土を巻き上げながら、草木を引き倒しながら、ティラノサウルス化石は再び立ち上がる。

 

 喰らいつく(あぎと)が、引き掴む鈎爪が、博物館に展示されていたままかのように、傷一つないツヤツヤの状態で、木々を踏み倒して君臨していく。

 

 虚ろに燃え怒めく爛々たる(まなこ)、その空眸の中に、蒼い光が灯り。

 

 「なっ...アイツ、破壊耐性持ちかよ!?/そんな、復活できるのでしたら止められないではありませんの!?」

 

 ティラノサウルス化石は、蒼玻/アオバを一瞥し、それから猛然と、山脈縦断トンネルのほうへ走り出した。

 

 「クリムガン、反転!追うぞ!/お待ちになって!」「マハリハグルマ、ヒビで止めてっ!」

 

 マハリハグルマの創る空間亀裂が伸展と分岐を繰り返して猛追し、蒼玻/アオバとカグヤを乗せるクリムガンももアスファルトをへこませながら爆走する...が、追いつけない。

 

 ティラノサウルス化石は、カントー地方へつながるトンネルの暗闇へ、姿を消した。





 
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