お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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#meta2 虚ろなる「神の視点」に座す者は

ー*-

 

 ワカナエシティ、フロックス家本邸。

 

 空き部屋の一つを改装し、部屋の調度すべてをどかして大テーブルを置いた部屋で。

 

 蒼玻/アオバ・フロックスとカグヤ・フロックスの姉妹は、テーブルの上に広げられたユキコシ・ジョウト・カントー一円の地図に、ピンを刺していく。

 

 「ティラノサウルスはセキエイ高原を抜け、ニビジムのタケシに見つかってジムチャレンジがてら追跡されるも、敗退…」

 

 セキエイ、ニビ...トキワの森内部…SNSの投稿やニュースを見比べ、目撃地点と時間をプロットする。

 

 「このままの速度だと明日にはトキワシティに到達するね…」

 

 「いや、SNSの投稿は必ずしもリアルタイムじゃない。ほら、こことここ、タイムスタンプどおりならティラノサウルスはいったん北に逆走したことになるけど/位置情報を明らかにしないように、あるいは電波圏外だったりして、後になってから投稿することがある…ということですわね。ということは、計算よりも少し速い速度で、ティラノサウルスの化石は一路南へ直進している、ということになりますわ。」

 

 「トキワシティが目的地、じゃないよね?あてどもなくさまよってるなら直進しないだろうし…」

 

 トキワシティに刺した「R」の文字のピンを、カグヤがぐりぐりする。妙にさまになった仕草だったが、もちろんティラノサウルス化石がロケット団アジトを目指していると考えているわけではないーそうであれば、ワカナエシティのどこかにあるだろうゴフク屋の総事務所が襲われているはずだからだ。ロケット団アジトの位置をゴフク屋押収資料で知れるくらいにはこの2つの悪の組織は関係しているし類似している。

 

 「…トキワじゃなくて...」

 

 蒼玻が、セキエイ、ニビ、トキワを指でなぞり、そのままさらに地図を南へたどるーマサラタウン。

 

 「オーキド研究所…ですわね。ポケモン研究の拠点たるオーキド研に、この世界に存在しないらしい生物、ポケモンではない動物の化石が歩いてくる…冒涜的なパラダイムシフトですわ。/それだけじゃない。俺の前世、ポケモンがゲームやアニメだった世界で、プレイヤーが操作する主人公は、マサラタウンで生まれ育ちポケモンをもらって旅立つんだ。

 

 俺の世界の古代生物が行きつく先としては...いや、ものごとをメタ的に考えすぎだってのは、自覚してる。」

 

 いっそ、マサラタウンより南に進んで、海に飛び込んでくれでもすればな...などと蒼玻はごちるが、世の中をそうやってご都合主義に回せる古代ユキコシ文明のアンノーン言霊システムはとうに文明ごと滅んだのだ。希望的観測でしかないだろう。

 

 「…蒼玻くんとお姉ちゃんは、この騒動の最悪はなんだと想定してる?

 

 世間は、よくわからないけど命が宿ったっぽい未知のカセキが彷徨ってる...程度にしか思ってない。だけど蒼玻くんはゴシップじゃすまないと思ってるし、お姉ちゃんもそれに賛同してる…

 

 …教えて、私たちは何に備えたらいい?覚悟したらいい?」

 

 「…わたくしは蒼玻くんの本能的危機感にあおられているだけでしたが、今にもなれば...

 

 …粉々に砕いて焼成してもなお元通りに復活する、デオキシスを超えた不死身性、破壊耐性。

 

 …外世界、それもこの世界を創作の世界と見做しているような世界の存在。

 

 …目的性を持っての直進行。

 

 すべてが不吉ですわ。これで野放しにしては、世界の根幹すら揺らぐのではないか、そうと思えますわね。

 

 蒼玻くんは?何か、言葉にして考えを共有できますかしら?」

 

 青い瞳が閉じられ、蒼い瞳が瞬く。

 

 「俺は、ティラノサウルスが俺の世界の存在だってことと、それがオーキド研究所を目指してるかもしれないってことも、深刻で重大な危機じゃないかと思ってる。

 

 …特に、ポケモンではなく、ポケモンの攻撃に対して復活する破壊耐性を持っていた...ってことが…

 

 比喩であってほしいし比喩のつもりだけどさ。作者や、読者のような、物語の上位の存在は、物語の中の存在に傷つけられないだろ?

 

 破壊出来ないし、誰にも阻止できない、自由勝手に突き進んでる、外の世界の存在、このポケモン世界を物語と考える世界にあるはずの化石...アレがこの世界のバグだったらいい。でも、そうじゃなかったら?

 

 ティラノサウルスは『第四の壁』を超えてきた存在だ。俺はそう考えるべきだと思ってる。そしてそれが、最悪の可能性だ。」

 

 そうだ。他のある世界に於いてはポケモンの世界は『ゲーム』『アニメ』でしかない。ポケモン世界を虚構と見做すような世界から来たかもしれない謎の存在、それが動き回っているという事は、このポケモン世界の実在性を損壊するかもしれないー蒼玻はそう懸念していた。

 

 「蒼玻くんは、あの化石はわたくしたちにとって『読者』だと、考えているのかしら?

 

 /『読者』だったら、まだ...

 

 …好き勝手に創作世界を荒らして、登場人物たちの行動を引っ掻き回す…どちらかと言えばこれは、『作者』側の動きだ。

 

 アイツは俺たちを物語の中の存在だと思ってるかもしれない。アイツは悪趣味な作家気取りでこの世界を好き勝手しっちゃかめっちゃかにして…

 

 …『作者』にとっては、少なくとも、文字の上では全てが真実になる。俺たちどころじゃない、この世界の存在の可否すら、あのティラノサウルスの玩具かもしれない。」

 

 「…私たちも、私たちの世界も、あの化石にフリーハンドを許し続けてる限り、あの化石の掌の中かも...って、それって…」

 

 「要するに、この世界の危機ってことだよ、クソッタレ...!」

 

ー*-

 

 トキワシティ郊外の廃ビル。

 

 シルフカンパニーがかつて開発を試みたものの結局放棄した物件の地下に広大な空間を築き上げ、そこに、今のロケット団本部はある。

 

 かつてはタマムシシティゲームコーナーやトキワジムにアジトがあったものの、ロケット団はこの2つのアジトを放棄しこの新アジトにボスのサカキともども潜伏していたーサカキとしてはこの2アジトが現チャンピオンによって陥落した際にロケット団を解散して鍛え直したかったものの、当時は提携を離反してきたゴフク屋と大抗争中で無責任にすべてを投げ出せる状況ではなく、そしてゴフク屋がユキコシ地方からロケット団を叩き出したために現在でも引退できずにいる。

 

 ロケット団にとっても、サカキにとっても、ユキコシ地方は因縁ぶかい地方だ。カントー、ジョウトの裏社会を支配する悪の帝王となったサカキをして、ユキコシの雪と、つい少し前までゴフク屋ホープ団ラスト団の3組織が入り乱れていた蟲毒、それにBREAK力場(フィールド)などの独特な特質は手に余るものだったのだ。だからこそ、そのユキコシで騒動を引き起こした存在が偶然にも(?)アジトへ突っ込んできたことに、彼らは高揚を覚えた。

 

 -サンゴジュおみや、コンジキおみや、ニビジムの追跡を振り切り、どうやらポケモンに攻撃されても再生復活する破壊耐性があるとも言われる謎の「活きるカセキ」-そんなの、ゲットして悪用しない理由はない!

 

 「サイホーン、がんせきふうじ!」「サンド、あなをほる!」

 

 したっぱが使うじめんタイプといわタイプのポケモンが、アスファルトを砕き、落とし穴を穿ち、岩のバリケードを作る。

 

 「スリーパー、あの婆ぁにさいみんじゅつ!」「おらっ、出ていかねぇとちきゅうなげだぞわかってんのか!」

 

 ポケモンをけしかけて、街の住民や化石騒動の野次馬を街から追い出す。

 

 「マタドガス」「アーボック」「「ようかいえき!」」

 

 街のあちこちで、鉄をも溶かす毒液の沼が用意される。

 

 「計画は順調か?」

 

 「は、すべてはサカキ様の計画のとおりです。

 

 いかに強力な再生力を持とうと破壊耐性を持とうと、再生より早く溶かしてしまえばいい。いかに歩くカセキだろうと足を失ったなら歩けない…

 

 …この街を南に進むにはどうやっても溶解池にはまらなければなりません。そうなるように街を封鎖しトラップを設置したので。」

 

 「…乾坤一擲、だな。」

 

 カセキ捕獲作戦は大きなリソースを裂いているし、アジトの近くで急遽やっているのだから、失敗すれば、官憲の追及を避けながらわずかな資産で組織再建をしなければならない。しかし成功すれば、未知の体系を持つ謎のカセキを解析できるし、カセキはどんな攻撃にも対抗できるジョーカーになるかもしれない。まさに賭けだった。

 

 「絶対に成功させます、サカキ様。

 

 すべては、ロケット団の未来のために。」

 

 部下がひさまずく…が、サカキは彼を見てはいなかった。

 

 「誰だ、貴様は。」

 

 何のことだ―と部下たちがサカキの視線の先へ振り向き、そして固まる…アジトの奥深くだというのに、見覚えのない人間が立っている。

 

 「私ですか?私は...

 

 …名前など必要もない人間ですよ。『ダレデモナイ』とお呼びください。

 

 『ロケット団ボス』さん?」

 

 顔があることはわかるのに、顔を認識できない。身体は見えているのに、その身体が男のものか女のものか大人のものか子どものものかもわからない。本当に「誰でもない」し「誰かでもない」かのような不審人物。

 

 サカキが、ボールを構える。

 

 「ダレデモナイとは、ふざけた答えだ。

 

 悪いが出て行ってもらおうか。我がロケット団のために。

 

 ペルシアン、行け!」

 

 ーペルシアンの みだれひっかき!

 

 「こんなことで、大勢は変わりませんよ?

 

 確かに虚龍(ティラノサウルス)はオーバーテクノロジーです。けれどあれはダークメルヒェンな概念(アイデア)、すなわち生まれた時点で後の祭りなのです。なんだかフォクスライ()につままれたようなパルプ・フィクションではありますがね。」

 

 ペルシアンの長い爪から繰り出される、全力のみだれひっかき。にもかかわらず、ダレデモナイは血の一滴も垂らさず、痛痒のそぶりもない。少なくともダメージを与えたことを認識できず、ペルシアンは首をかしげる。

 

 「しかし、何も意味がないとはいえ、言霊がここに残ってしまうのは美しくはありませんね。」

 

 「貴様さっきから何を」

 

 「これはただの蛇足で、あなた方のような低俗な悪党ごときが、この物語を穢すべきではない…という話ですよ。

 

 『”解体()”』」

 

 パチン、指を弾く音。

 

 「…今、何をした?」

 

 響き渡る、崩落音、阿鼻叫喚。

 

 「あなた方は、虚龍(ティラノサウルス)にまつわる物語に、なんの意味も残せない…ということですよ。」

 

 「サ、サカキ様!設置中の落とし穴、毒池、バリケード…すべてのトラップが、しょ、消滅しましたっ!」

 

 「そんなわけが」「し、しかし!映像をご覧ください!」

 

 したっぱが差し出すのは、街中にはりめぐらせた無数のバリケードや溶解沼が、一瞬のうちに、まるでフォトショップで加工したかのように消え去る映像で。

 

 「馬鹿な!そんな馬鹿な!こんなふざけたことが…!

 

 これは一体!」

 

 明らかに下手人であろうダレデモナイに向かって怒鳴るサカキ。

 

 「サカキ様、誰に向かって話しておいでですか?」

 

 「…え?」

 

 そこにあるのは、たった一冊の、風に頁をめくられる白紙の本、それだけだった。

 

ー*-

 

 フロックス家の想定通り、ティラノサウルス化石はトキワシティを抜けてなおも南進し、マサラタウンに到達、そしてオーキド研究所の門前に現れた。

 

 化石の脆い足が、柵を踏み壊し、植木を蹴り飛ばす。そのたびに足先がかすかに砕けて石粉を散らしては、時間を巻き戻すかのように戻って再生していく。

 

 ヒトカゲが、ゼニガメが、フシギダネが、ゴンベが、ヘイガニが、コータスが、あたふたと草地を駆け逃げ惑う。

 

 「リザードン、かえんほうしゃだ!」「ベイリーフ、つるのムチで縛り上げて!」

 

 かつてオーキドのもとを巣だった、並みいるカントーのエリートトレーナーたち。そのひとりが、ポケモン達を指揮しながらオーキド博士に話しかける。

 

 「じいさん、アレの解析、進んでるだろ?」

 

 「…全然ダメじゃな、グリーン。」

 

 なんだかよくわからない奇怪をいくつもかかえ、しかしオーキド博士と助手たちの回答は「わからない」しかない。

 

 「強いて言えば、フロックス家が伝えてきたとおりじゃ。

 

 アレはポケモンではないが生物。もちろん植物でも機械(ロボット)でもないぞ。

 

 そして、ポケモンからの攻撃に対して即時に復活する、疑似的な完全破壊耐性持ちじゃ。」

 

 「その耐性を破る方法ってのはないのかじいさん!」

 

 「それを今調べとるんじゃ!」

 

 ティラノサウルス化石の虚ろな双眸が、オーキド博士を睨む。

 

 無言の視線が、数瞬、交錯する。

 

 オーキド博士は、見えない力に押さえつけられたかのように、微動だにしない。

 

 ティラノサウルス化石のがっしりとした骨体が、ぐいと、存在しない筋肉に力を込めるかのように動く。

 

 「っ、じいさん、危ないっ!」

 

 グリーンは心臓を縮める思いでオーキド博士を突き飛ばした。その背を、ティラノサウルス化石の鋭い足爪が通り過ぎていく。

 

 「ちっ、高い服なんだがな…

 

 おいじいさん、大丈夫、か…?」

 

 オーキド博士の、様子がおかしいーグリーンは、目を見開いたまま固まっている博士の肩を揺さぶる。

 

 「…そう、じゃったのな...」

 

 「おい、じいさん?じいさん?」

 

 「グリーン。

 

 …戦いはやめじゃ。」

 

 「なっ…どうしてだよ!?」

 

 「見て、わからんか…?

 

 あれはダメだ。」

 

 「それは、どういう…」

 

 グリーンもまた、ティラノサウルス化石へ改めて目を向ける。

 

 蒼い光が、化石の虚ろに怒めく瞳に灯る。

 

 「っ...!?」

 

 脱力感、そして、理屈や根拠よりももっと本能的かつ根源的に湧いてくる畏怖心が、グリーンにしりもちをつかせた。

 

 -あれはダメだ。勝てない。そういうふうに世界ができている…

 

 「いつかこんな時が来ると、思っていたような気がする。

 

 なぜ、こうなるのか分からんけれど……」

 

 呆然と放心したオーキド博士とグリーンに見守られる中、ティラノサウルス化石はオーキド研究所の建物を足蹴にして打ちこわし、踵を返し北へ走り去っていった。

 

ー*-

 

 オーキド研究所を大破させたティラノサウルス化石は、シロガネやまの方角へと消えた。

 

 マサラタウンから北西のシロガネやまを地図上でつなぐと、山岳地帯を超えた延長線上にはジョウト地方フスベシティ、そしてユキコシ地方コンジキシティが存在する。…山岳地帯も本当は一つの地方なのだが、カントー・ジョウト・ユキコシに囲まれたその内陸地方のことを「ホープ団の策源地」とユキコシ民が思ってそれ相応の扱いしかしてこなかったため、入ってくる情報の確度に問題があった。

 

 それでも、内陸山岳地帯から入ってくる不確かな情報はティラノサウルス化石がそのあたりをうろついていることを示していて、そして一週間もしたころにーいや、山深い地帯を踏破してきたことを思えば「たった一週間で」かーティラノサウルス化石はフスベシティ南東に出現した。

 

 ティラノサウルス化石は何かを目指して爆走している…ゴシップネタとしてしか思ってこなかった市井の人々ですら、今やそう信じるしかない。そして、向かう先には、ティラノサウルス化石が発掘された地であるユキコシ地方がある。

 

 ー虚龍は戻って来る。何処かを目指して。

 

 …何処へ?

 

ー*ー

 

 「起きてしまったからには理解しなくてはならない。だが、こんなことが起きるとは思わなかったね。」

 

 コンジキシティ、コンジキ大学キャンパス正門。

 

 カクミガシ博士はそうぼやきながら、椅子で組まれたバリケードに腰掛ける。

 

 ーマサラタウンのオーキド研究所を散々に踏みにじったのち、ティラノサウルス化石は奥山を抜けてフスベシティへ到達。ここでジムリーダーのイブキに勝負を挑まれるも無視し、メディア関係者を置き去りにして北のフスベ山脈に姿を消し…そして、山脈の向こうのユキコシ地方へと現れたのだ。

 

 オーキド研がやられたからには、次はカクミガシ研であろう…プライドとライバル意識の高いユキコシ本草学の人々はそう考えたし、実際ティラノサウルス化石はコンジキシティめがけ突っ込んできた。

 

 「未知のポケモンであるか、それとも何か取り憑いているのか、あるいは…?

 

 …おや、おでましのようだね。」

 

 ズシンズシン、骨だけだろうに何がそんなに重いのか、アスファルトに足跡を残しながらティラノサウルス化石は大学通りをキャンパスへと歩いてくる。

 

 「教授、そろそろ。」

 

 「ああ。」

 

 学生がメガホンを構え叫ぶ。「今だっ!」ー大学通りの両側のビルの窓という窓から投網が発せられ、ティラノサウルス化石をアスファルトに押し止めた。

 

 ティラノサウルス化石が頭を振ってじたばたともがくが、四隅に錘のついた投網が何重にも被さっている以上、それを押しのけて先へ進むことはできない。

 

 「よりしろさま、かかれッ!」

 

 カクミガシ博士の号令一下、路地裏から、屋上から、側溝から、マンホールから、窓から、排気ダクトから、茶色の影が飛び出しながら己が体表を金色に染める。 

 

 ーラッタ(コンジキシティ個体群)BREAKの いかりのまえばBREAK!

 

 前歯を金色に閃かせたラッタBREAKたちは、一斉に投網の隙間へ飛び込み、ティラノサウルス化石へ噛みついた。

 

 複雑な城下町と、そこに縦横無尽に出没して前歯一本であらゆる強敵を追い詰めるラッタBREAK。この組み合わせに無事でいた者は(ゼルネアスを擁した一巡前古代ユキコシ文明を除いて)存在しない。

 

 が、ティラノサウルス化石は、もがくのをやめず、そればかりかラッタBREAKたちを振り払った。

 

 「噛みつけないはずはない…となれば、効かないということか?」

 

 必中で残りHP1にするーカクミガシ博士は「種族値理論」に於けるいかりのまえばBREAKの効果をこう推定していた。強力無比だが、変化わざを弾く相手には通じない。

 

 ならばと、ティラノサウルス化石の両隣のビルで待ち構えていた学生たちがボールを投げる。

 

 「マタドガス、『かがくへんかガス!』」

 

 「ジャローダ、ちょうはつ!」

 

 ガラルマタドガスの特性により、ポケモンたちの特性が消去される。そして、ジャローダが煽り…だが、投網の中のティラノサウルス化石はジャローダのほうを向かず、変わらずコンジキ大学を睨みながら頭を振り動かしていた。

 

 「…特性ではなく、効かない…?

 

 アオバくんが『破壊されても再生する』と言っていたが、破壊耐性だけではなくやはりワザの効果耐性に特性耐性まで!

 

 いい!すごくいいデータだ!キミは『ポケモンのルール』に縛られていないのだね!

 

 追加実験と行こうじゃないか、アブソル!」

 

 実験ノートに挟み込まれたボールペン頭部のキーストーンに応じ、ユキコシアブソルの真っ黒な毛がぐんと伸びて大きな翼となる。額から上下に伸びた毛は白黒の太極図を呈し、鋭い漆黒の爪がバリケードとした椅子に突き刺さった。

 

 「さあアブソル、禍を測ろうか。

 

 ディザスターウィング。」

 

 ユキコシメガアブソルの額の太極図が、迫る災厄を吸収する。

 

 ーその厄禍は迂転するー

 

 「…は?」

 

 カクミガシ博士は、それどころかとうのユキコシメガアブソルですら、放心した。

 

 空を地平線まで埋め尽くす、「あまりにも不吉な黒翼」。それは、古代ユキコシ文明との決戦の時よりも大きく…

 

 「あの化石が、ユキコシ地方を…いやもっと、例えば列島を、世界を滅ぼすほどの災厄を秘めている…とでも…」

 

 投網の中のティラノサウルス化石は、未だばたつくのをやめない。

 

ー*ー

 

 ーミュウツーの サイコブレイク!

 

 空から舞い降りたその一撃は、ユキコシメガアブソルの幻翼を叩き消し、本体をアスファルトへ叩き落とした。

 

 「…キミ、聞いたことがあるよ。ゴフク屋からの押収資料に意見を求められたことがあってね。

 

 ミュウツー。ロケット団が作った最強のポケモン。何をしに来たんだね?」

 

 「アナタを、止めに来ました。」

 

 「…なるほど。自分を創り出したポケモン学への復讐、とかであれば、ここはユキコシ本草学だからお帰り願うつもりだったが…

 

 …あの災厄量を見てしまえば、ね。仮にも私は本草学博士であると同時にコンジキぐうじなんだ。キミを、止めるしかない。」

 

 ー野生のミュウツーが 勝負を 挑んできた!

 

 -ミュウツーは メガミュウツーYに メガシンカした!

 

 「本気を出さねばならないようだね。」

 

 ”「変わりませんよ。世界も、アナタとワタシの強弱も。」”

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