気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「ではそんなお前に朗報だ。ボッキマンを上回る真の正義の使者がいたとすればどうする?」
「えっ、ええっ!そっ、そんな人がいるんですか!?」
「ああ、いるとも……その名も……ケンドーマスクだ」
「は、えっ……?け、ケンドー……?」
「そう、ケンドーマスクだ」
面倒になった俺は門戸にケンドーマスクを押し付けようとしていた。
このまま共倒れにでもなってくれた方が好都合だからな。
しかし、門戸の表情はなんとも微妙でこいつは何を言っているんだと言わんばかりだ。
ケンドーマスクのことを知らないのかと思ったらそうじゃなかったようで、門戸は困惑した様子のままとんでもないことを言い出した。
「えっと、その……ケンドーマスクって、もしかして窃盗で厳重注意を受けていた、あのケンドーマスクですか?」
「ええっ!そんなことしてたのあいつ!?」
「は、はい、コンビニからお酒を持ち出して、神の使いが払ってくれるんだって店内に犬を入れようと大騒ぎしていたとか……」
「マジかよ……」
「んっ、そうですよ……って、やめてくださいよ!あいつのどこが真の正義の使者なんですか!?あんなのただのバカですよ!?」
「ああ、そりゃまあそうだろうけど……でもさ、いい年こいて正義の味方に憧れたってあんな風になるのがオチだろ?そもそも正しいことがやりたいなら警察官にでもなればいいじゃねーか。なんだって不死身のヒーローだの無敵の正義の味方だのが出しゃばらないといけねーんだよ?」
「そっ、それは……んっ、んんっ……確かに……い、いや、でも、この街の警察は……」
「腐敗してるって話だろ。それは知ってるよ、でも警察官になる以外にも身近な人の助けになってやるとかさ、人を守りたいってだけならいくらでも方法はあるだろ」
「それは、そうかもしれませんが……」
門戸はしばらく黙っていたが、意を決したように言葉を続ける。
「では、ボッキマンさんにはその力を使ってやりたいこととかはないんですか?120ミリ徹甲弾が数千発直撃してもかすり傷すらつかない体を持っていて、タングンステンの重装甲を軽々と握りつぶして、数十トンの武装車両を持ち上げて高層ビルより高く放り投げることができるほどのパワーがあって……それでも、あなたは何かをしたいとは思わないんですか?」
「さあな、俺はボッキマンじゃねえけど、何もないんじゃねーの。逆に聞くけど、そんな力にどういう使い道が思いつくわけ?俺に教えてくれよ」
「そ、それは、法で裁けない悪を討ったり……正しいことをするために、より大きな……」
俺は思わず門戸の言葉を遮る。
「言っておくけどな。正しいことがしたいなら力なんていらないし、法で裁けない悪なんてものは世の中にはないんだぞ」
「えっ……?」
「正しいことがしたい、なら自分の力の範疇でできることをやればいいだろ。お前が力が欲しがってるのは自分が正しいことをしたいんじゃなくて誰かに何かをやらせたいんだろ?」
「……」
「それからな、法の裁きっていうのは合法かどうかってことであって、善やら悪やらをどうこうしようってもんじゃないんだよ。そういうのは法律じゃなくて宗教の話でそもそもお角違いだ」
「じゃ、じゃあ、その力で社会を!たくさんの人々を!んんっ、正しい方向へと導くとか!そういうことだってできるでしょう!?」
「導くだの方向がどうだの、そんな信号や交通標識みたいな真似をするためにどうして力が必要だと思うんだ?信号が暴力を振るうか?標識が何かを壊したりするか?」
「んっ、んんっ、それは……その、それは……僕が言いたいのはっ!」
俺は埃を払いながら立ち上がると、腰に手を当てて軽く伸びをする。門戸は何か言いたげに口を開いているが言葉にならないようだ。
門戸の目尻には涙が浮かんでいるように見えるが、おそらく気のせいではないだろう。こいつが人に期待するのは勝手だが、俺はそんなものに付き合ってやるつもりはない。