気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「じゃあ何やってんだろうな……」
思わず口をついて出た言葉は虚空へと消えていく。
本当に何をしているんだろうか。
俺は取材なんかされたって困る。
だって自分のこれまでしていたことの意味がよくわからないからだ。
(どうして今まで何も疑問に思わなかったんだ?)
記憶が無いわけじゃない。
数年前、何処にいたとか何を見ていたとかそういうことはちゃんと思い出せる。
子供の頃に遊んだおもちゃのことや学生の頃の記憶だってある。
ただ、その時に何を考えていたのかとかどういう理由でそうしたとか、それがまったく思い出せないのだ。
だから過去を思い出そうとすると、まるで赤の他人の思い出を見せられているような気分になってしまう。
「何をやっていたんだ……」
俺は気がつくと走っていた。習慣のように何年も何十年も。
あたかも電子が決められた回路をなぞるように。
訳がわからなかった。
俺には目的があったはずだ。
いや、あったというよりそうしなければならなかった理由があるはずなのだ。
だけど、その理由は一体なんなのか……。
そのことを考えると自分が何か大きな渦のようなものに飲み込まれていくような不安を感じてしまう。
それに比べれば、自分がずっと勃起していただとか、異常な力を持っているだとかということはどうでもよかった。
無敵の力を持つ不死身の体。
戦車砲が直撃しても傷ひとつつかない肉体。
山を崩し、地面に大穴を開けて、鋼鉄を紙切れのように容易く引き裂き、脳天に落雷が直撃しようが、数千度のプラズマに包まれようが、痛くもなければ熱くもない。
普通ならばとても素晴らしいことだと感じるだろう。
この力が欲しいと心の底から願う人々がいることだって俺は理解している。
しかし、そんなことは今の俺にとってはどうでもいいことだ。
問題なのは自分自身のことだ。自分の心境の変化の方がずっと重要だ。
「はあ……」
何故なら、この力で何かしたいとかそういった気持ちが一切湧いてこないから。
肉体が強いという程度では、決して抗えないものに流されるように日々を過ごすしかないと感じているから。
「……情けないな」
帰ろう。
何を見ようが何処にいようが俺が考えるのは自分のこと、湧き上がってくるのは鬱屈とした感情のみ。
それなら家で静かに寝ている方がよっぽどマシだろう。
俺は再びスニーカーを履きパーカーについた汚れをはたき落としながら立ち上がると、家に戻るためにゆっくりと歩き出す。
道中で「芝生を掘り返すな、湖で泳ぐな。天は見ている」という何だか場違いに感じる警告が目に入ってきたが、それを見て足を止めるまでには至らなかった。