気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「ついに見つけたぞ、ボッキマン!覚悟しろ!」
「…………」
ケンドーマスクだっけ。
昼間に会った剣道の面を被ったバカにまたもや絡まれてしまう。
こんな雨の中で……こいつどこまで頭がおかしいんだ。
「ボッキマンじゃねーよ」
「隠そうとても無駄だ、すでに貴様の正体はラブラドル・レッドリーパーの神通力により捉えられているのだ!」
「そうだったのか……」
俺はもうどうでもよくなってしまっていて、適当に相槌を打ちながら奴の方を見る。
ケンドーマスクの相棒のゴールデン・レトリバーは黄色いレインコートの中で悲し気な顔をしながら俺を見ていた。
「なあ、神通力だかなんだか知らねーけどさ……こんな土砂降りの中で犬を連れまわしたりするなよな」
「彼が真に休息できる日が来るとすれば、お前のような悪党がこの世界から消え去った時だ!」
「そっか……なあ、ラブラドル・レッドリーパー、お前はどうなんだ?ケンドーマスクに付き合って正義の味方ごっこをやるのは楽しいか?」
俺はレインコートの中から顔を出しているラブラドル・レッドリーパーのつぶらな瞳を見ながらそう問いかける。
「……」
だが、犬は何も答えることなく申し訳なさそうに頭を下げただけだった。
「はっは!ボッキマン、彼を懐柔するつもりだったんだろうがそうはいかんぞ!彼はこのケンドーマスクの正義に共感し、私と共に戦うことを決意したのだ!」
「へえ、そりゃ素晴らしいな」
俺は土砂降りの雨の中、ケンドーマスクの演説を聞き流していた。
適当に切り上げて帰ってもよかったのだが、退屈だった俺はこの後に起きるであろうことを見たいという気持ちが勝ってしまった。
「それで、俺をどうしようって?」
「ふん、決まっているだろう……これよりお前には天罰が下されるのだ!」
ケンドーマスクが拳を構えながら、足を踏み出すと雨を大量に吸い込んだブーツがぶちゃりと音を鳴らす。
だが、ケンドーだとか名乗っている割には竹刀だの木刀だのが出てくる様子はない。
どういうことだ、と思ったらこいつが自分で戦うわけではないらしい。
「行け!ラブラドル・レッドリーパー!殺せ!」
「くぅん……」
「おい、殺せって……お前なあ」
ラブラドル・レッドリーパーは小さく鳴いたかと思うと雨に濡れた地面に伏せたまま動こうとしなかった。
俺にはそれがバカな飼い主の言動についての犬なりの謝罪のように見えた。
頭の良さそうな犬だし、正義とやらを見せつけてやりたいケンドーマスクに振り回されて困っているのかもしれない。
「な、何をしている!おい!ボッキマンを殺すんだ!」
「……」
「ほらやれ!ラブラドル・レッドリーパー!殺人ミサイルだ!」
ケンドーマスクの怒鳴り声にラブラドル・レッドリーパーはびくりと体を震わせるが、それでも伏せたまま起き上がる気配はない。
「おいケンドーマスクさんよ、あんたは何もしないのかよ」
「な、なんだと……アニメだって主人公が仲間のモンスターに命令して敵をやっつけてるだろうが!これが我々の戦い方だ、文句はあるまい!」
「モンスタ―扱いかよ」
「そ、それはお前の一方的な誤解だ、偏見だ!ラブラドル・レッドリーパーは私の親友だ!仲間だ、パートナーだ!」
この犬がこいつをどう思ってるかは定かではない。
だが、ラブラドル・レッドリーパーの方は俺を恐れているだけではなく、少なくともこれからやってくる危機に対し、主人を守ろうと備えているようだった。
そして奴は突然立ち上がるとその一点を見つめて、姿勢を低くしながら唸り声をあげ始める。