気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「脅威かそうでないかは私が判断します。そしてこの犬には私の任務を妨げる明確な悪意があると判定しました」
「ふっ……わかっていないようだな。この犬にあるのは敵意でも悪意でもないぞ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「そりゃな、お前たちロボットに人々を守るっていう崇高な使命があるように、その犬にだって主人を……っておい、何してんだ?」
ロボットは問答無用とばかりにその右腕を機械的に回転させると、上腕部から音叉のような形状のブレードを展開する。
ブレードにはどうやら高圧電流が流れているらしく、バチバチと耳障りな音を立ててながら雨粒を弾いていた。
「ひ!う、うわあっ!」
ケンドーマスクは激しく飛び散る火花と、無数のトタン板をハンマーが叩き続けるような音に驚き、再び情けない声を上げる。
「その怪物と私が同じだとおっしゃりたいのですか?」
「怪物?そうじゃなくてただの犬だろが……お前さっきからなんかおかしいぞ?どっか壊れてんのか?」
「…………」
俺はロボットに話しかけたままちらりと犬の方を見たが、彼はご主人様を守るようにロボットの前で唸り声を上げているだけだ。その様子は先ほどまでと特に変わりはない。
しかし、ケンドーマスクを守るという使命を果たすためかそれともそれ以外の何かか、ラブラドル・レッドリーパーはロボットに対して完全に腹をくくったようで、高圧電流にも怯むことなく果敢に立ち向かおうとしていた。
ロボットがブレードを構えたまま、少し低めのトーンでケンドーマスクに告げる。
「ケンドーマスク様、当局への登録がなされていない刃物を携帯しているあなたはすでに無力化の対象者と判断されています。速やかに私の指示に従うことを推奨します」
「むっ、むむむ、む、無力化ですか……」
「へえ~……ケンドーマスク、あんたやっぱ武器とか持ち歩いてたんだな?」
「い、いや、これは……武器というか緊急時の護身用というか悪の組織に捕らえられた時に自決するためであって……」
「自決って……」
ケンドーマスクは慌てた様子で濡れたシャツの腹に手を入れプラスチック製のケースを取り出すと、まるでロボットに対してその中身を献上するように膝をついた姿勢でうやうやしく両手を掲げる。
「ほら、これです!これ!!」
ケンドーマスクが取り出したのは刃渡り3センチ程度の折り畳み式のポケットナイフだった。
どうやらロボットの言う通り武器を隠し持っていたようだが……チャチなドラゴンの装飾が施されたそれは武器というにはあまりにも貧弱で、自転車のタイヤに穴を開ける悪戯にも使うにも苦労しそうなくらい役に立ちそうにないものだった。
こんなもんで自決するくらいなら悪の組織とやらに処刑されてしまった方がマシなんじゃないだろうか。
「……おいおい、ロボットさんよ。まさかそのチンケな刃物に恐れ慄いてるってのか?俺なんかさ、こないだパワードスーツを着た連中にリンチされたんだぜ。先にあいつらの凶器を没収してくれよな」
「ケンドーマスク様、素直に過ちを認め速やかにご対処頂いたことに感謝いたします」
「へ、は、はあ、もちろん……で、では私はこの後どうすれば?」
「刃物を使用を許可します。その犬の息の根を止めてください」
「はい、わかりました、では、私はこれで……」
ケンドーマスクはそそくさと折り畳みナイフを収めると立ち上がりその場から離れようとするが、ロボットに指示された内容に気がついたのか再び腰を抜かして地面にへたり込んでしまった。