気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「では、急ぎ隠れ家に向かうぞ!ラブラドル・レッドリー……」
ケンドーマスクの言葉を遮るようにロボットは再び立ち上がると、左腕を素早く展開させて大型の機関銃のようなものを俺たちに向ける。
それは警告ではなかった。
「オーバーザビーチとは海を越えての射撃戦を実現するための設計原理であり、それはすなわち厳しい環境下でも確実に作動するという信頼性を表しています」
「はあ?」
ロボットの意味不明な言葉に俺とケンドーマスクは思わず動きを止めてしまう。
その唐突な解説になんの意味があるのか俺にはわからなかったが、あるいはロボットなりに考えた俺の虚を突くためのものだったのか、だがいずれにせよ次の瞬間にはロボットはためらいなく射撃を開始していた。
「ど、どど、あうおぅおおおっ!!?」
遠雷のような激しい銃声と共に大量の血と体組織の欠片が宙に舞い飛ぶ……ように思われたがそうはならなかった。
銃口から撃ち出された弾丸はケンドーマスクとラブラドル・レッドリーパーを避けるようにして、ぬかるんだ地面に小さな水柱を無数に立てるだけに終わった。
もちろん俺は何もしていない。
ロボットの射撃の腕が下手だったというわけでもない。
俺の予想とは違い、黄色いレインコートを着たゴールデン・レトリバーは無力な存在ではなかったのだ。
「ラブラドル・レッドリーパー!?!」
ケンドーマスクの驚きの声を耳にしながら、俺はベンチから体を起こす。
「はは、おい……マジかよ……」
次の瞬間、ラブラドル・レッドリーパーは大きく息を吸い込んでその体を数倍に膨らませると、耳をつんざくような咆哮と共に口から衝撃の波を吐き出し、ロボットを爆発的な勢いで吹き飛ばした。
「あひっ!」
強風に煽られたケンドーマスクが転倒し、破れたレインコートがコウモリのようにばさばさと宙を舞う。
少し緩やかになった雨の中で、花火のように空高くに打ち上げられたロボットが湖に向かって落下していくのがわかった。
俺は感心する。
「……すげえな、お前ちゃんと強かったんだな」
ラブラドル・レッドリーパーは俺に振り返ると、尻尾を振りながら嬉しそうに吠えた。ロボットが湖に落下し派手な水飛沫が上がる。
だが、ラブラドル・レッドリーパーの攻撃はまだ終わらないようだ。
彼が高らかに遠吠えすると、ずどんと爆弾が炸裂したかのような音を立てて湖面から大きな水柱と共に巨大な竜巻が姿を現したのだ。
ロボットを飲み込んだ竜巻は猛烈に風を巻き上げ、その体を蛇のようによじりながら上空へと昇っていく。
「ははは……こりゃすげーわ」
どうやらラブラドル・レッドリーパーはあの偉そうなロボットをどこか遠いところまで竜巻で飛ばそうと考えているようだ。
なんて滅茶苦茶なんだろう、俺は思わず笑ってしまった。
(だが……)
竜巻がそのまま空へと駆け登って行くかと思われたその時、爆音と共に竜巻が破裂し、大量の泥を含んだ水飛沫を撒き散らしながらロボットが姿を現した。
そして空中で体をぐるりと回転させると、背中のバックパックから蒸気を噴射し、俺たちに狙いを定めてミサイルのように急降下を始める。
「!」
これまで竜巻が巻き上げていた降り注ぐ泥水を切り裂きながら、ロボットは地上にいるラブラドル・レッドリーパーへと急加速しながら突撃する。
ラブラドル・レッドリーパーは激突の寸前で体当たりを回避したものの、ロボットの動きは想像以上に素早く機敏で、見るからにギリギリだ。
鋼鉄の巨体が地面を掠めるその衝撃と風圧は、それだけで爆撃でもされたかのようなものだった。