気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「ラブラドル・レッドリーパー!大丈夫か!?」
地面に転がったままケンドーマスクは声を上げる。
一撃を避けただけでラブラドル・レッドリーパーは体勢を大きく崩し、肉球からはわずかに出血していることが確認できた。
あの犬が不思議な力を持っているのは間違いないだろうが、技術者たちの悪意の結晶のような戦闘兵器を相手をするには分が悪すぎるようだ。
ロボットは地上で伏せているラブラドル・レッドリーパーに追撃をかけるべく空中で方向を変え、背中からジェットを噴射しその推進力をどんどんと……このままではいずれラブラドル・レッドリーパーはやられてしまうだろう。
「ぼ、ぼぼ、ボッキマンじゃないそこのあなた!頼む!あの子を助けてくれえっ!」
ケンドーマスクが悲鳴のような叫び声で俺に助けを求める。
どこまでも勝手な奴だ、俺の知ったこっちゃないのに。
(……)
だが、気がついた時にはすでに俺は飛び出していた。
今まで座っていたベンチが粉々に砕け散り、巻き上がる風で辺り一帯の雨粒の流れが逆になる。俺は「軽く跳び上がったつもり」だが、無敵の力をみなぎらせた周囲の大気は瞬時に熱されて炸裂していた。
その爆発的な推進力の中で空気のベールに囚われたまま、俺はまるで天を貫くようにロボットの装甲に激突する。
どうという衝撃もなく痛みも一切感じてはいなかったが、ロボットの方はそうもいかなかった。
俺に衝突したロボットの全身の装甲の大半は耐え切れず一瞬で砕け散り、背中に装着されていたジェットパックはでたらめに蒸気を噴射しながらバラバラに吹き飛んでいく。
沼のようにぬかるんだ地面に転がっていた銃身の曲がった機関銃を踏みつけてへし折り、ロボットの残骸を片手で鷲掴みにすると、俺はラブラドル・レッドリーパーに呼びかける。
「もう大丈夫だ」
ラブラドル・レッドリーパーは嬉しそうに俺の側に駆け寄ってくると、しっぽを左右に振りながら元気よく吠えてくれた。
「ボッキマンではない人!やったな!流石は伝説の超人だ!」
ケンドーマスクが嬉しそうに声を上げる。
装甲を失って剥き出しになったロボットの骨格から筋肉を模した繊維が剥がれ、雨に濡れた小さな電子機器がジジジジと死にかけたセミの鳴き声のような音を立てながらバラバラと落下する。
「おっと!ボッキマンではない人、気をつけるんだ!奴はまだ動いているぞ!」
ケンドーマスクの言う通りだった。
こんな状態でもロボットはまだ稼働を続けており、光学センサーの成れの果てをぎちぎちと動かしながら状況を把握しようとしている。
このまま湖に投げ捨ててやろうか、と考えていたところで話かけられてしまい思わず手を離し、落としてしまった。
「あなたは、何者なんですか?」
その問いかけを無視し、コードやチューブやアクエーターやらが剥き出しにされたロボットの胸を踏みつけたまま口を開く。
「お前さ、やっぱどっかおかしいんじゃねーの?」
「どういう意味でしょうか?」
「そこの犬だよ。なんで犬なんか殺そうとしたんだ?」
「それはあなたも見ていたでしょう。普通の犬じゃなかった。異常な力を持った……」
「バカだなお前も。それで犬を殺すのに夢中になってて俺の動きに気がつかなかったなら本末転倒じゃねーか」
「おっしゃる通りです。ですがこの失敗は次に活かされるはずです」
「ねーよ」
次なんてないんだよ、お前には。
そう言いながらロボットの内臓を潰そうと足に力を込めようとした瞬間、ロボットの体が青白く光り、ばりばりと破裂するような音を立てながら大量の蒸気と共に電流をまき散らし始めた。