気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「す、すまなかった!ほっ、ほほ、本当にすまなかった!」
「……何がだよ」
「私は自分が恥ずかしいよ!君のことを怪物だと決めつけてしまっていた!こんな善意の塊のような優しい心の持ち主だとは思ってもいなかったんだ!」
「善意っていうか……別に俺の金でもなんでもねーしな」
「し、しかし……君は私とラブラドル・レッドリーパーの命を守り、ラミッサの凶行も止めてくれたんだ!」
ケンドーマスクが顔を上げる。
何て汚えツラなんだ。
髪はボサボサで肌は傷跡だらけ、ケンカのせいか前歯が数本が欠けてしまっている。
おまけに目は真っ赤に腫れ、伸び始めた無精ひげにまで鼻水が垂れていた。
(……変な奴だな)
しかしそこにいたのは犬をけしかけて俺を殺そうとしたバカではなく、逞しく盛り上がった肩を持った人懐っこそうな男だ。
そのボロボロの顔で無邪気に笑いかけられるとなぜだか悪い気がしなかった。
俺はフードの上からガシガシと頭を掻いて、それから何とか口を開く。
「……一歩(いっぽ)だ」
「一歩?」
「俺の名前だよ。没木一歩(ぼつきいっぽ)だ」
「ぼ、ぼぼ、ぼっ……いや~ハハハ!いい名前だな一歩氏!」
「一歩でいいって」
「そういうわけには……そうだ、私も名乗らねばな。私は名は拝東怜(はいとうれい)だ!改めてよろしく!!」
「わかった、よろしくな……それでだ」
「うん、何でも言ってくれ!」
「その、秘密にというか、もう言うなよな……俺が、そのボッキマンだとか」
俺はそう言って曖昧に地面の方を指差してみせる。
「え、ああっ!?もちろんだ。元々ラブラドル・レッドリーパーに導いてもらっただけだ。私一人では君にたどり着くことは出来なかった。君がボッキマンだと言い張る資格など私にはない」
「ラブラドル・レッドリーパーか……」
ちらりと視線を映すとタオルをかけられたままのラブラドル・レッドリーパーはテントの前で伏せをし、ブルブルと体を震わせていた。
「その、ずいぶん寒そうだけど……ドライヤーはないのか?」
「いやー電気を使おうとするとすぐに警察が飛んで来るんで……だが安心してくれ!もう少しでラブラドル・レッドリーパーの神通力が回復するはずだ!」
「神通力?」
「神通力だ!……ラブラドル・レッドリーパー、いつでもいいぞ!」
ラブラドル・レッドリーパーはその声を合図にすっくと立ち上がり、遠吠えを始める。
するとその直後、ラブラドル・レッドリーパーから濃霧のような蒸気が立ち上ったかと思うと周囲に熱風が吹き荒れた。
「……すげえな」
気がついた時にはびしょ濡れだった俺の髪やパーカーはまるで乾燥機にかけたようにカラカラに乾いていた。
驚いたことに大量に水を含んでいたスニーカーも一瞬で元通りだ。
ラブラドル・レッドリーパーの毛もケンドーマスクのシャツもすっかりと乾き、風に吹かれたラミッサはころころと転がっている。
「ああ!なに、何なのです!」
「これが神通力か」
「どうだすごいパワーだろう!」
ケンドーマスクはぼろぼろになった袖の匂いを嗅ぎ、苦笑いを浮かべながらラミッサを拾い上げる。
「ただ洗剤を使ってキレイに洗ったわけじゃないからな。早く風呂に入って服も洗濯機に入れた方がいい!」
「いや、それでもすごいな」
「ああ、ただ我々に見せたような竜巻を作り出すといった大技を使うと、疲れてしまうのか眠る時間が増えてしまうんだ」
「……そうか、大変なのに悪いな。ありがとう、ラブラドル・レッドリーパー」
ラブラドル・レッドリーパーは鼻を鳴らし尻尾を揺らすと、また伏せの体勢になる。
「長いのか?ラブラドル・レッドリーパーとは……」
「そうだ、出会いは数年前のことだ。その日のパトロールを終え、段ボー……ベッドの上で横になり目を閉じていた私の顔をぺちぺちと叩く者がいた」
「それがラブラドル・レッドリーパー?」
「ああ、その時は警察が私を注意しに来たのだと思ったが。子犬だった。こう、手のひらに収まるくらいの……」
そう言うとケンドーマスクは両手で何かを抱えるような仕草をしながら、伏せているラブラドル・レッドリーパーに目をやった。