気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。   作:でぃくし

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熱風乾燥犬⑤

「じゃあ、俺は行くからな。何か用があったら人造湖まで来てくれ、たまにあの辺りでジョギングしてるから」

 

「ああ、あそこかぁ……なるほどお、わかった」

「どうした?」

「い、いやここからだとちょっと遠くって……」

 

「……それぐらいトレーニングだと思えよ。ラブラドル・レッドリーパーの散歩にもなるだろうしな」

「う、うん!そうだな!よし!私も君のようにパンチ一発で大岩を砕けるようになってみせるぞ!一緒に頑張ろうな、ラブラドル・レッドリーパー!ラミッサちゃん!」

 

「はい!!」

 

そんな会話をして俺はケンドーマスクの隠れ家を後にする。

 

辺りはすっかり暗くなっていて、街灯のはちみつのような色合いの光が石灰色のコンクリートタイルにたっぷりと塗されていた。

 

「マジかあ……」

 

俺は目についた店でスマホを調べてもらったが、内部が完全に焼失しておりデータの復旧は無理と聞かされる。

 

そりゃそうか、あれほどの電撃が直撃した精密機器が無傷でいられるはずもないよな。そう思うと同時に俺は胸の内にひんやりとしたものを感じていた。

 

あのスマホに愛着があったとかそういう話ではなく、会話履歴や連絡帳などをまったくチェックしてなかったことにその時になって初めて気がついたのだ。

 

これといった記憶はないものの、もしかしたら過去の俺は誰かと付き合いがあって、連絡を取り合っていたのかもしれない。

だがそれを知ることは不可能になってしまった。

 

もちろんSNSのようにサーバが外部にあるようなものならどうにかなるかも知れないが、中には取り戻せない記録もあるだろう。

 

(……今まで壊されてなかったのがおかしいのか?)

 

どっかの傭兵部隊にアサルトライフルで一斉掃射されたことがあるし、グレネードの爆発にも巻き込まれた。過去には崩壊したビルの下敷きになったこともあれば、どっかのトンネルを走っている最中に山ごと爆破され生き埋めにされたこともある。

 

だからスマホは壊れていてもおかしくないはずだが、その辺の記憶は少し曖昧だ。

 

奇跡的に壊れてなかったということもあるかもしれないが、まあ普通に考えればこのパーカーと同じく何度か買い替えていたのだろう。

 

「あーあ……」

 

新しいスマホの購入手続きを済ませ、店を出る。

在庫がなく、受け取りは数日後。

 

一番安いモデルだ。

 

どうせ誰かに見せるわけでもない。陳腐な、地味な黒だった。

 

(服も靴もそろそろ買い替え時だな……)

 

俺は不死身の体と無敵の力を持っている。

暑さ寒さで苦しむことはないし、腹は空かなければ、病気にもならない。

 

それでも俺は服を着ることをやめなかった。

裸になると死んでしまうから……というわけじゃない。

 

ただ何となく心の中で、この体を覆う必要があると考えているだけだ。

 

それがたとえ完璧であり、いかなる攻撃を受けようとも決して壊れず、汚れないものであるとわかっていてもだ。

どんなに体が無事だろうとも服や靴がボロボロになれば俺は買い替える。

 

それはほどほどに隠されているべきなんだ。

 

裸も、真実も、そして俺の過去も。

すべてがはっきりと曝け出さられるのがいいことだとは俺には思えない。

 

どんなことにも然るべきタイミングがあるはずなんだ。

例えば裸になるとしたらシャワーの時とか、過去を明かすなら地獄の閻魔様の前でとかだ。

 

(まあずっと勃起してるのを見られたくないだけだけどな俺は……)

 

……けれど曝け出したそれを受け入れてくれる相手がいるとしたら……それはとても嬉しいことだよな。

 

いや、勃起の話じゃなくてさ。

いや、勃起の話なのか?

 

とにかく、今はそんな感じなんだ。

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