気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
「さっきから何言ってんだ?」
「観測そのものを禁じられた存在……こんなことは初めてです……この街に存在する全ての事象を記録し観察するために生まれたはずの私が見ることを許されていないデータ。興味深いことです」
まるで己に疑問を投げかけるようにドローンは円を描きながら飛ぶ。
さっきから会話しているような気がするのだが、しつこく撮影するような真似をしていたのは俺の姿が見えていないからなのか?
……とは言え心当たりがないわけでもない。
気を利かせたケンドーマスクが監視カメラやドローンに俺を追跡させないようにラミッサにあれこれと細工を依頼したのか、あるいはラミッサが言っていたウイルスにこいつも侵されていて色々と変になっているか……。
あるいはその両方かも知れないが、俺にはどうでいい。
「教えてください。あなたは一体何なのですか?」
ただでさえ面倒なおっさんの相手をさせられた上に、壊れたドローンの世話までしてやるつもりはない。
俺は呻き声をあげているおっさんをそっと横たえる。
「知らねーよ。セントラルにでも聞いとけよ」
「セントラル……セントラル……??」
「……」
「……セントラル……セントラル、セントラル……セントラル??」
セントラル……ラミッサの話に出ていたロボットセキュリティの中枢を担うという存在。そのセントラルの名前を出すとドローンはこれまで忘れていた何かに気づこうとでもするように同じ言葉を何度も呟いた。
「あぐっっ……ああ……まじで目が痛てええ……」
おっさんはその下で相変わらず情けない声を上げている。
ちょうど救急車のサイレンが聞こえてきた。
そろそろ潮時だ。
「おいおっさん。ほら救急車だ。搬送先はあの世じゃないから安心しろ」
「セントラル……一般的な単語のようですが、なぜ今それを口にしたのですか?一体なぜ……」
「うっせえな。誰でも知ってるだろそんなもん」
「あなたを観測できない理由はそのセントラルの干渉ということなのですか?」
……もう勝手にしてくれ。
これ以上は付き合ってられない。
「んなことより、おっさんのことをちゃんと見とけよ」
次の瞬間、俺は風のような速度でビル街を走り抜けていた。
ドローンもサイレンも彼方に置き去りにするほどの勢いで走りながら俺は大きなため息をつく。
初めからこうしておけば、おっさんも痛い目に遭わなかったかもしれない……と考えるとなんだかなとは思う。
まあな、俺悪くねえけどな!
(しかしバカなおっさんだったな……)
あんな調子でよく賞金稼ぎとしてやって来れたよな。
全部作り話なのかも知れないが。
「……」
若干の後悔を滲ませつつも俺の姿は街の喧騒の中に吸い込まれていくのであった。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
(見てくれよこれ……信じられるか?)
お気に入りのパーカーの袖を引っぱりながら心の中でぼやく。
袖口から胸にかけて、さっきのおっさんの血でうっすらと汚れている。
そもそも連日のジョギングで酷使していたせいで、色褪せしてあちこちほつれているような奴だが、それでもやはり気分はよろしくない。
そうこうしていると追い打ちするように空からぽつぽつと水滴が垂れて、見境なくパーカーの生地を濡らす。
……雨まで降ってきた。
何というか、ここ数日いいことが何もない。
外出する度にトラブルに巻き込まれている気がする。
こうなると誰かに呪われているんじゃないかとさえ思えてくるぐらいだ。
「ついてねえな……」
さっきまでのゴタゴタの気分転換に少しジョギングしていたのを一時中断すると、俺は雑居ビルの通用口前の段差に座り込み、雨が止むのを待つことにした。
しとしとと降っていた雨はやがて激しさを増し、やがてバケツをひっくり返したような豪雨になる。
ただでさえ平日の昼間、しかも治安のよろしくない迷路のような路地裏だ。
周囲から人の気配はあっと今に消え失せ、ぬかるみに矢のような水滴が叩きつけられる音で支配された。
普通ならこんな土砂降りに晒されたら最後、体温を奪われてひどい寒気に襲われ数日間寝込むハメになるだろう。