気がついたら無敵だった、そして勃起も止まらなくなっていた。だから俺は裏でこそこそ生きていく。 作:でぃくし
(つか寒そうだよな。パーカーくらい着た方がいいって絶対)
そんなことを心の中で呟いてると女が再び口を開く。
「あの~ところでお兄さん……それって怪我ですか?」
「へっ?」
慌てて視線を戻す。
この服……おっさんの血で汚れたパーカーのことを指してるんだろう。
「ああ、これ……」
袖を引っぱり改めて確認してみるとかなり派手に飛び散っている。
これでは返り血でも浴びたのかと思われても不思議ではない。思わず汚れを隠すように手で押さえてしまうが無駄なことだ。
「んー……怪我っていうか、変なおっさんを絡まれて、成り行きでなんかおっさんが転んで、それで血が……」
「喧嘩だったの?」
「まあ……おっさんから襲いかかって来たつーか……」
「じゃあお兄さんは悪くないんだ」
「……でも初めから相手をせずに逃げてればおっさんも怪我をせずに済んだだろうしなー」
「けどおじさんが転んだだけなら血はつかなくない?」
「へ?」
「だからお兄さんはおじさんを……うん」
「……??」
俺が戸惑っていると女は考え込むような素振りを見せて頷く。
「……なるほど」
そしてまたぎこちなく笑ってみせたが、さっきよりも自然な表情に見えた。
だがそれでも疲れて果てて気の抜けた営業スマイルのようだ。
……てかこの女、なんで話しかけてくるんだ?
俺を怖がってたんじゃないのか?
それとも俺が暴力を振るうタイプかどうか気にしてんのか?
(でもそんなシケた顔すんなら話かけてくんなよ……)
俺はパーカーのフードをさらに目深にかぶると、腕を組んで壁にもたれかかる。
ちらりと上を見ると、まだ3階だ。
遅い……時空が歪んでんのか?
これが宇宙旅行ならもう月面に旗を立ててる頃合いだろう。
「……それでお兄さんはどエロ変隊の人?」
いや、それよりも何か忘れているような……。
んん……?変態?
「へっ、えっ、えっ!?ど、どえ、どエロ変態!??なに?なんで??」
「あっ、ごめんなさい。どエロ変隊って店のお客さんかなって」
「え?あっ、あーいや……違うよ」
そういえばどエロ変隊パイオマンだっけ。
このビルはそんなふざけた名前の店が入っているんだったな。
勝手に決めつけんなよ……そう言いかけて言葉を飲み込む。
さっきからおかしいぞ俺。決めつけてるのはこっちの方じゃないか。
女に怖がられてるだの殴られると思われてるだの。
怖がられてるのは事実かもしれないが、だからってこんな態度を取ってたら恐怖をこっちから煽っているようなものだ。
俺は別に話しかけられたくないわけじゃない、怖がらせたくなかったはずだ。
「悪い、えっと、あのさ……」
「なにかな?」
「あんたさ、やっぱりこのビルで占いやってたりすんの?」
「うん、週一でシフトを回してて……」
「週一で占い師?まじで?それじゃ大変だな」
「……そう、でもその分、別のお仕事を入れてるから」
「すげえ、あんた賢いな」
まるで小学生のガキみたいな感想を返すと、女はまた疲れたように笑う。
「もう占い師は趣味みたいなものかも」
「趣味を仕事にしたのか?すげーな」
(そういう意味じゃねえだろ、つくづくバカだなおめーわよ!)
なんとも間抜けな反応をしてしまったが、それでも嫌な顔を一つせずに笑ってくれたお陰で居心地の悪さもだいぶ薄れてきた。
こうして話してみるとタトゥーがすごくて露出度が高いだけの普通の女だ。
5階、そして6階……エレベーターは下ることなく順調に上がって行く。
これなら月の裏側に行くことだって夢じゃないだろう。
初めて会った時は照明の暗さも相まって、女の顔が死にかけのヤモリか何かに見えたが、中々どうして整った顔立ちじゃないか。
しっかりと二重のラインがのった切れ長の目に、長いまつ毛。
……こんな掃き溜めのような薄暗いエレベーターの中じゃなくてバーとかレストランとかの方がよっぽど似合うんじゃないだろうか?