鋼銀の旅人     作:木原 無二

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プロローグ 上

「あなたは、なんで魔法の数が足りていないのですか!?」

 

牢獄の中に声が甲高い声が響く。

まるで森の木々がざわめくかのように警察と犯罪者達がコソコソと話始めた。

だが、そんな事は知らないと言わんばかりに壁にもたれ掛かった目が虚ろな老人は話し始めた。

 

「…それは、俺が若い時にあったあの獣とのせいだ。」

 

老獪は語る。

 

「……ほんと、ロクでもない話だ。」

 

 

____________________

 

『記録する魔法を獲得しました。』

 

「…あ、今日は誕生日だったか。」

 

孤児院から家出してから 2時間。青あざを夜風で冷やしながらゴミ袋の上で一等星を無意味に眺めていた。

 

孤児院()の人に反抗し、孤児院を家出して街の野犬共にボッコボコにされた。

路地裏特有の匂いと犬に噛まれた唾液と自分の血、そしてゴミの匂いが妙に入り混じるのが気持ち悪い。

特に、痛みが感じにくくなっているのが、その気持ち悪さを増幅させていた。

 

ゴミ袋から這い出ながら自分の魔法を思い出してみる。

 

(記録する魔法って言ってたよな?何を記録するんだろうか?)

 

「『鑑定』と。」

 

『記録する魔法

人生を記録します。』

 

「…んー、よくわかんね?」

まぁ、いいや。とりあえず孤児院に帰ってごめんなさいって謝ろう。

 

路地裏からクレヨンで真っ黒にした画用紙に爪楊枝で傷つけた様な街中に出る。

周りからは腫れ物を見る様な目で見られるが、気にしない。

そう、気にしない。

 

無意識に何か別の事を考えたくなった自分にTVからの音が入ってきた。

 

『2000年からの人類の新時代、教授はどう考えますか?』

『どうも何も、私は人類が次のステージに辿り着いた。そう考えています!』

『次のステージ、と言うのは?』

『我々は4歳から10歳のまで誕生日に魔法を授かる様になれました。これは、猿から人間になったように、我々も新たなステージに至ったというわけです!』

 

これも、どうでもいい。

僕は、魔法は嫌いだ。

 

院長先生曰く、自分は『対象の魔法を知ることが出来る魔法』、所謂『鑑定』と言われている魔法を持っているので金の成る木らしい。

 

今日はその金にするための怖い大人達が孤児院に来る日だった。

簡単に言えば、僕は売られて院長の懐に金が入るという事だ。

 

(…殴られるかな)

 

痛いのは嫌だ。

さっきだって、野犬達に嬲られたのだ。噛み跡は今は痛くなくても後で痛くなるだろう。

 

なぜか、(ライトノベル)で読んだことを思い出した。

 

その本では、とある高校生が、一人の女の子を助けるために世界と文字通り(ガチで)戦うという内容だった。

 

けど、現実はそう上手くはいかない。

ましてや、自分はまだ10歳なんだ。怖い大人なんて無理無理。

 

 

そうやって売り飛ばされて、よく分からん4畳半の部屋に目隠しでブチ込まれ、部屋の隅っこで三角座りをしていた。

部屋の虫食い壁のせいか少し肌寒い。

 

刺青の入ったヤツに「ここにいろ」って言われて三時間。

まじで暇なので、こうなった原因の自分の魔法をもっと知るようにした。

 

「鑑定。」

 

『無常仮寝

MP34/35

所持魔法

 

『体内の血液を増やす魔法』『手で触れた物を保温する魔法』『頭の中で1d100を振る魔法』『滑舌が5分間良くなる魔法』『お互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法』『記録する魔法』『対象の魔法を知ることが出来る魔法』』

 

まじで一体何に使えるんだろうか?

友達だと、『爪切りで爪をそこそこ飛ばす魔法』とか、『カードのシャッフルが綺麗にできる魔法』とか。

まじで神様は一体人間に何を期待しているのだろうか?

 

そんな事を考えているとドカドカと鉄の階段が響く音がしてきた。

さっきの男だろうか?

 

扉が開かれると、そこにはヘラヘラした男が一人とさっきの刺青のおっさんがいた。

「こいつの魔法を鑑定しろ。カンベェはその餓鬼にメシ渡せ。俺は少し出る。」

そう言うと、おっさんは出て行った。

 

金髪のヘラヘラしたカンベェとか言われた奴にビニール袋を投げつけられる。

「おい餓鬼、名前は?」

…口クセェ…

「…無常。お兄さんは?」

「あ?どうでも良いから俺の魔法早く調べろよ?」

うっわ、感じわる。

まぁ見るからに三下感がすげぇわ。

 

「分かったけど、先にご飯食べさせて。一日何もご飯を食べていないんだ。」

「…ッチ、さっさと食ってやれよ?」

 

金髪はしゃーなしそうにそう言い、座って待ち始めた。

(鑑定…)

魔法というのは使ったら使う程、手順を減らしていける。

文字通り、大人になってゆくと、無詠唱で手足の様に使えるらしい。

自分?

そりゃ、あのクソ院長に子供達の鑑定をめちゃくちゃされまくったからねぇ。

良くも悪くも育ててもらったと言うべきか。

 

ビニール袋の中から魚肉ソーセージをを取り出しながら金髪の魔法を見ていく。

 

…うんうん、どれも対してロクな魔法じゃねぇな。なんだこの自分を催眠する魔法が使えるって。

 

…いや、自分にとっては違う…。

だとしても…

(ここから逃げ出して何になる?僕はあの主人公になんか慣れっこない、ただの凡人だぞ?)

10歳の自分の先はわかっていない。だが、ロクでもない未来を迎えそうなのは心の底から実感できた。

 

…守るべき女の子なんていない7歳のクソったれな現実はダンゴムシと戯れ合う事(子どもが歩むべき他愛のない日常)も許されないらしい。

 

「おい、餓鬼。早くしろよ。」

時間が来たようだ。

もういい、運に任せよう。

小さな声で口元を隠しながら呟く。

「『頭の中で1d100を振る魔法』」

 

5以下が出たら実行しよう。

 

脳内で、カランッと人生を投げ捨てようとする音が鳴り響く。

出てきた数字は…

 

 

 

 




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