立花響(♂)は少女達に愛される 作:勝機を零した、掴み取れん
「……なにこれ」
任務を終え、部屋へと戻った響だったが、目の前に映る光景に驚きを隠せなかった。
なぜなら、部屋の中があまりにも汚くなっていたからだ。
任務に行く数時間前の部屋はある程度綺麗だったはずなのに、今は衣服をかけていたハンガーラックは倒れていて、その服が部屋中に散乱している。まるで強盗に入られたかのようだった。
「あぁ……! ひびきぃ……」
そして、目の前には今にも泣きそうな表情の翼がいた。
恐らくこの状況は、彼女が生み出してしまったものなのだろう。
「翼さん……何やってるんですか」
翼の姿を確認した彼は、彼女が何をしたのかなんとなくわかってしまい、少し呆れたような表情をしてしまう。
────
響は散らかってしまった部屋を綺麗にするため、落ちていた衣服を畳む作業などを行っていた。ちなみに翼は彼のベッドに腰掛けて、その場で待機していた。
「……大丈夫? やっぱり私も……」
「翼さんはそこで待っててください。変に手伝うと、また散らかるかもしれませんから」
「そう……だよね」
響に鋭い言葉を貰ってしまった彼女はかなりのショックを受け、落ち込んでしまう。
「そういえば、どうして俺の部屋の掃除をしようとしたんですか? いつもならそんな事しないのに……」
「えっと……その……響、いつも任務で忙しいから……私が代わりにそういう事をすれば……響の負担も減るのかなって思って……。だから、掃除をしようと思ったんだけど……普段やってなかったせいで結局、部屋の中を滅茶苦茶にしてしまって……」
「そういう事ですか……」
そう、翼は片付けがとても苦手だ。彼女の部屋は普段から衣服やゴミで散らかっており、基本的には響が彼女の所に行っては、家事を行っている。
そのため、普段からそういったスキルのない彼女がいきなり掃除を始めようとすれば、この有様になるのは仕方が無いことでもあった。
「私の事……嫌いになった……?」
守るべき大切な人に迷惑をかけてしまった。嫌われてしまうかもしれない。そう思った翼の声はとても弱々しかった。
「別にこんな事で翼さんの事を嫌いになったりなんてしないですから。安心してください」
「よ、良かった……」
「それに……その事を聞いて、なんか嬉しかったです。翼さん……俺の事を心配してくれてたんだなって……」
「あ、当たり前じゃない……! だって、私にとって響は……」
その先を言おうとしたが、翼は言葉を詰まらせてしまう。
「……?」
そんな彼女を、響は少し心配した様子で眺める。
「……私、やっぱりダメだよね」
そして翼は、声を振り絞るように弱々しく話し始めた。
「……翼さん?」
「響の役に立とうとして頑張っても……結局、響に迷惑をかける事になって……」
自分の気持ちを零し始める翼。そんな彼女の話を、響は静かに聞いていた。
「あの時もそう……私が弱かったから、奏も……響も救う事ができなかった。それどころか……響には戦う運命まで背負わせてしまった」
話せば話すほど、自分の不甲斐なさが露呈してしまう。
「私は……誰かを守ることも……できなかった……!」
情けない。そう思ってしまった翼は涙が止まらなかった。
しかし、そんな時に不意に、彼女は響に抱きしめられた。
「ひ……ひびき……!?」
突然の事に驚いてしまった翼。しかし、彼から伝わる優しい温もりに、彼女は少しだけ落ち着きを取り戻した。
「翼さんは……弱くなんてありません。翼さんが守ってくれていなかったら……俺はあの時、死んでいましたから」
響は彼女を落ち着かせるように、優しく声をかける。
「それに……戦う道を選んだのは、俺自身の選択です。戦う力が……誰かを守れる力があるのに……黙って見ることなんてできません」
「でも……その力を与えてしまったのは……私の……」
「それでも自分のせいだと言うなら、俺は……翼さんのおかげで救われたって……胸を張れるように生きていきます」
「私の……おかげ……」
「それに、一方的に守ろうとしなくてもいいと思うんです。俺が翼さんを守って……翼さんも俺を守ってくれる。お互い支え合えば……いいんじゃないですか?」
今までの人生を自分のせいにする訳でもなく、それ所か、自分のおかげだと言ってくれた。
全てを肯定してくれた。
「……いいの? こんな私でも……響に守られてもいいの……?」
そんな彼の優しさに、翼は甘えてしまうしかなかった。
「いいんですよ。翼さんは、俺にとって大切な人ですから」
「響……ありがとう。こんな私を……許してくれて」
そう言って翼は、両手を彼の後ろへと回し、離さないと言わんばかりに強く抱き締め返した。
(私……やっぱり響のことが好き。こんなに優しくて……私の事を大切な人って言ってくれる人を好きにならない方が無理だよね。ありがとう、響……!)
(いつかこの気持ち……響に伝えられると……いいな)
彼の胸の中で嬉しそうに笑う翼。今の彼女は響と出会って以来、一番嬉しいという感情に満ち溢れていた。
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