デジモンバトルユニバース ~電幻魔獣怪奇譚~   作:地水

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目覚める黄金剣:中編

 目の前に現れた黄金の魔獣・ズバモン。彼は白いマントを靡かせて、スナイモンへと飛び掛かっていた。

対してスナイモンは自慢の大鎌でズバモンの突進を受け止めると、そのまま弾き返そうとする。

だが、ズバモンの頭部にある刃はスナイモンの大鎌すら弾き飛ばした。

 

『トゥエニスト!!』

 

『ギャッ!?』

 

ズバモンが振り下ろした斬撃がスナイモンの大鎌に直撃し、そのまま吹き飛ばされる。

その際に斬撃が直撃した大鎌の刃が欠けてしまい、それを見たスナイモンは驚きの声を上げた。

 

『ギシャアア!?』

 

『へっ、どうでぇ!』

 

斬撃を叩き込まれて怯むスナイモンに、ズバモンは自慢げに鼻を鳴らす。

自分の得物が使い物にならなくなったと悟ったスナイモンは俺達の方に背を向けると、大空へと大きく跳んだ。

まるで本物のカマキリのように飛び上がったそれを見て、ズバモンは睨みつけながら叫ぶ。

 

『テメェ、逃げてんじゃねえぞ! 降りてこーい!』

 

勢いつけて走り出したズバモンは逃げたスナイモンを追いかけようとする。

だが、行方が消えるとすぐに立ち止まり、悪態をついた。

 

『ちっくしょう、逃げ足だけは韋駄天並かよ!?』

 

『ズバモン!』

 

彼を呼び止めるようにウィザーモンの声が響いた。

血気盛んそうな様子だったズバモンの歩む足が止まり、ゆっくりと振り向いた。

そしてウィザーモンの姿を見るとパアッと表情が明るくなる。

 

『おぉ!! よぉウィザーモンじゃねえか! 元気にしていたか?』

 

『ズバモン……探したんだぞ』

 

『おいおい、そこまで心配かけちまったのかよ? 悪かったって、謝るからそんな辛気臭そうな顔するんじゃねえって!』

 

近くまで駆け寄ってきたウィザーモンの表情を見て、ズバモンは困ったような渋い顔をする。

俺には背中が見える角度になってしまったためにその顔を伺う事ができなかったが、きっと色々な感情がないまぜになったものだと察することができるだろう。

先程の戦いによる傷の痛みに耐えながら俺は立ち上がると、ズバモン達が駆け寄ってやってきた。

 

『おい、人間のあんちゃん。大丈夫かよ』

 

「まあ一応無事だな。それより、お前は……」

 

『さっき名乗った通り、オレの名前はズバモン。お前が手にした立派な剣だが、アレはこのオレその人よ』

 

立てた親指を自分へ向けて自慢げな表情をするズバモン。

それを見て俺はじっくりと見てみるが、確かにあの黄金剣の意匠をこのズバモンの体に何処か似ていた。

彼の言う通り黄金剣がズバモンだったというのは本当らしい。

俺はさらに追及しようとするが、そこへウィザーモンが咳ばらいをして言い出した。

 

『真守、ズバモン、話したい事は山々あるがここは危険だ』

 

『ああん、危険ってどういうことだぁ?』

 

「あ、そうか……被害が大きくなりすぎた。騒ぎを聞きつけて誰かがやってくる」

 

『そういうことだ。別の所へと逃げるぞ』

 

真守の言葉に肯定するように頷いたウィザーモンは目の前へと手を翳す。

すると何らかの文字が描かれた大きな円陣が三人の足場に広がって出現し、瞬く間もなくズバモンとウィザーモン、そして俺はその円陣の中へと消えていった。

 

 

謎の空間に飛び込む前に見えたのは後に残されたのは破壊された神社の建物とその切り裂かれた破片だけ。

静まり返った昼下がり、騒がしくなる前に脱出できたことを不幸中の幸いだと思いながら俺は流されるがままに出口へと流れていった。

 

 

 

~~~~~

 

 

数年ぶりか数十年ぶりか、とにもかくにもあの神薙神社に長く眠っていたこのオレ――ズバモンは"マサモリ"なる人間によって呼び起こされた。

まるで泥に沈んだかのように眠っているのは存外悪くなかったが、何かを目覚めたオレは謎のデジモン・スナイモンの襲撃に遭っているコイツを助けた。

……なんで助けたかは分からないが、無視するってのは違うし、何より目覚めが悪いってもんだ。

ともかく助けた俺は古くからの戦友であるウィザーモンと再会し、こうして彼の隠れ家までやってきたのだ。

魔法陣から出てきたオレは先に辿り着いていたウィザーモンへと訊ねる。

 

『ここは?』

 

『私が作った拠点の一つだ。さっきまでいた場所から遠く……五十土町にある魔法部屋だ』

 

そこに広がっていたのはいくつもの本棚が並べられた部屋で、その本棚には分厚い本が大量に並べられていた。

何処か辛気臭さを覚える魔法使いであるウィザーモンらしい部屋に若干懐かしさをオレは感じていると、そこへ遅れてマサモリが魔法陣から出てきて到着した。

 

「んとっとと……どこだ此処?」

 

オレは周囲を珍しそうに見回しているマサモリの姿を見た。

灰色を基調とした上の着物と紺色の袴、長く伸ばした後ろ髪を一本に縛っている。

顔立ちは……まあ所謂伊達男、と言ったところか? 女好みの顔だと感覚的に分かるが、オレにはその良さがわからない。

ウィザーモンの説明を受けて今自分が置かれた状況を理解したマサノリはオレへ訊ねる。

 

「えっと、ズバモン、お前がさっき助けてくれたのか?」

 

『まあな。たっく、デジモン相手に立ち向かうたぁ無謀だなぁ』

 

「無謀って……」

 

『まあいい。オレが目覚めたのはテメェのおかげだ。礼代わりにといってはなんだが、お前が追ってる件とやら、オレもかませろよ』

 

オレはニヤリと不敵な笑みを向けながら、マサノリに提案を告げた。

だがマサモリは一瞬考え込むような仕草をした後、意外な答えを口にした。

 

「考えさせてくれ」

 

『あっ、なんでだぁ? オレならあんな刃欠けの鈍野郎に勝てるぞ!』

 

「助けてくれたことには感謝する。だけど、まだわからないことが多い……特にあのスナイモン、油断ならない」

 

すました顔で語るコイツにオレは眉を顰めた。

一体何を、と告げるオレへとウィザーモンが口を挟んできた。

 

『いや、真守の言う通りだ。あのスナイモンは今のズバモンと同じく実体を持っていた』

 

『あん、実体? そういや実体化していたな……』

 

先程交戦したスナイモンの様子を思い出して、オレは疑問を持つ。

 

――本来、デジタルワールド以外でのデジモンは人間達がいるようなこの世界へ来ると実体のない幽霊のような形で干渉ができない。

物を掴もうとすればすり抜け、壁を通り抜けようとすればそのまま部屋の中へ入れてしまうような具合にだ。

便利な部分も確かにあるが、実体がなければ飲み食いも欲しいものも手に入れられない部分を見ればどちらかと言えば不便な状態……デジモンであるオレが知る限り、これを解決するには二つの手段がある。

 

一つはデジモンが人と心を通わせることで実体化する方法。

こっちは人間と意思疎通して仲を深める必要があるため、あのスナイモンがこの方法を取ったとは考えにくい。

 

そしてもう一つ、デジモンが人の世界で実体化する方法がある。

それはデジモンが憑りついて、欲望や感情といった気力を糧に実体化をする方法。

スナイモンが何者かに憑りついて実体化したのなら筋が通る。

 

今のスナイモンの状況を推測して合点がいったオレはウィザーモンへ訊ねた。

 

『スナイモンが実体化していたってことは、誰か人間に憑依していた時ってことか?』

 

『その通りだズバモン、恐らくその可能性が高い。だが行動理由は……』

 

「おい、それって本当なのか?」

 

そこへウィザーモンが言ってる所にマサノリが遮った。

マサモリはそれこそ驚愕したような表情を浮かべており、続けざまに発した言葉に驚愕した。

 

「……もしその話が本当なら、デジモンが憑いている人間に心当たりがある」

 

『本当か? してその人間ってのは?』

 

手がかりがあるってことに驚いているオレの横で、ウィザーモンは冷静に訊ね返した。

 

マサモリは少し息を整えると、そのスナイモンの正体を口に告げた。

 

「恐らく、スナイモンに憑りついてるのは……」

 

「士族から盗賊になった人だ」

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 ウィザーモン達へある程度話した後、俺は魔法陣を潜り抜けて、五十土町へと戻ってきた。

見慣れた西洋と東洋が交わったような街並みに何処か安心感を覚えると、ゆっくりと歩き出す。

様々な人々が通り過ぎていく中……そこで、不意に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

『おい、マサモリ』

 

少し上を振り向くと、近く壁の塀の上に乗っている半透明姿のズバモンの姿があった。

どうやら人々には目立ってないらしく、彼の姿に対して特に反応をしてなかった。

ズバモンは訝し気な目でこっちに訊ねてくる。

 

『さっきしたあの話、本当なのか?』

 

「ああ、そうだ」

 

『オレぁどうにも信じられねえよ。士族ってつまるところあれだろ、お侍様ってことだろ? なんで誇り高いお侍様がデジモンになんぞ憑りつかれるんだよ』

 

「詳しい事は分からないけど……それでも俺は止めなくちゃならない」

 

『そりゃなんで?』

 

「頼まれたからだ。うちの道場に助けを求めてやって来た子がいた」

 

 

ズバモンにそう言いながら、俺は事件に首を突っ込むきっかけとなった出会いを思い出す。

 

それは数日前の事、自分が勤めている剣術道場にとある子供がやって来た。

少し汚れている割には見事な柄の着物を纏っているその少女は俺へ助けを求めてきた。

 

――お願いします、父を、父を止めてください!

 

――何があったんだ

 

――このままだとあの人は、鬼に、鬼になってしまいます

 

泣きながら懇願されたその少女の涙を無碍にできないと思った俺は事情を聴くことにした。

その娘は元士族の姫であり、数年前に母親を亡くして父親と資産を切り崩しながら暮らしているという。

だが、その資産もつきかけ、立派な士族だった父の食い扶持を繋ぐ術はなく、困り果てていた。

娘である自分を売れば、父親の生活の足しになると言ったが、父親はならんと一点張りで激しく拒絶した。

ある時父親はおかしくなった。まるで鬼か魔性に憑りつかれたようにおかしくなったのだ。その頃からであった。巷で騒がせている人斬り事件が流行り始めたのは。

狙われているのは武家屋敷や資産家といった金のある所ばかりで、金目の物は全部持っていかれていた。

盗まれたその金目の物の一部を父親は持ち帰ってきたのだ。

人斬り事件の元凶が父であると悟った娘は止めるしかないと思い、町の中でも腕の立つ俺に助けを求めたのだ。

藁にも縋る思いでやって来た彼女の話を聞いて、俺は首を突っ込むことにした。

 

そして今に至った話を聞いてズバモンは目を細めて口を開いた。

 

『お前さん、よくもまあ見返りもなしにそこまでやれるなぁ』

 

「……放っておけるわけにもいかないだろ。誰かが罪を犯すのに放っておけるわけが」

 

『まあねえ、それがお前の人の好さってものなのかねぇ』

 

人気がない所に差し掛かった所で塀を飛び降りたズバモンは俺の前に立つと、鋭い視線を向けてくる。

まるで喉元に刃を押し付けられているような緊張感を俺に襲い掛かるが、すぐにズバモンは目を逸らすとあっけらかんな答えを返してきた。

 

『だが、オレはそんなお前のような見返をを考える前に先に行動に移すヤツ、嫌いじゃねえぜ』

 

「……! それって!」

 

『ま、とりあえずは今回の人斬り事件の犯人をどうにかとっちめねえとな』

 

ニヤリ、とズバモンは笑うような仕草をする。

人と異なる姿をしているが、どうやら彼と俺の目的は同じようだ。

少なくとも此処にいる彼らを信じてもよさそうだと、俺は信じたい気持ちでいる。

 

『で、例の士族の親父ってのは何処にいるんだ?』

 

(かや)ちゃん……道場に駆け込んできた娘が住んでいたっていう誰も使ってない幽霊屋敷があるんだが、そこに財宝をため込んでいる。と」

 

『んあじゃあ、早速行くか』

 

「なんも準備もなしにか?」

 

俺の忠告を聞いて進めようとしていた足を止めるズバモン。

ばつが悪そうにチラリと横目を向けて、少し不機嫌そうな声で告げた。

 

『んぐっ……おいおい、準備って何の準備だよ? 腹ごしらえでもするつもりかよ?』

 

「ああ……そうだな、俺朝から何にも食ってないし、一度飯屋に行くか」

 

『おいちょっと待て、本当に腹ごしらえするってのか!?』

 

俺の呟いた言葉を聞いて慌てふためくズバモンだったが、朝から何にも食べてない方が堪えた俺はとりあえず近くに飯屋がないか探すことにした。

表通りへと出ようとした俺を、ズバモンが叫ぶ声が聞こえた。

 

 

『おまっ、飯ならオレにも奢りやがれってんだ!! 食わせろぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

ズバモンの叫ぶ声が、天にまで響いた……かもしれないのであった。

束の間の平穏が戦地へ向かう二人を癒すのであった。

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