デジモンバトルユニバース ~電幻魔獣怪奇譚~   作:地水

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目覚める黄金剣:後編

夜を迎えつつある夕方。

五十土町内にある、とある幽霊屋敷にやってきた俺とズバモン。

長年放置されていたのか草木が茫々と無造作に生えており、屋敷はもはや壊れる寸前なほど廃れていた。あまりの荒れ具合に俺とズバモンは眉を顰めるが、その屋敷の奥にいる存在に気付いていた。

 

『おいマサモリ、気付いてるか?』

 

「ああ、確かにいる」

 

奴さんがいるかもしれない恐る恐る足を踏み入れる俺達。

幽霊屋敷の土間に当たる部分の入り口から内部へ入ると、すぐ隣へ繋がっている居間に何か積み重なっていた。

目を凝らしてよく見ると、それは金銭や小判、簪に綺麗な反物といった金目の物になりそうな物品が山のように積み上げられていた。

そのどれもが人斬り事件の現場で襲撃を受けた店や家のものだと俺は悟った。

 

「盗まれたものがこんなに」

 

『へっ、とんだ盗人だぜ。金目になりそうなもんを根こそぎ集めて蓄えてるたぁ』

 

ズバモンは呆れた様子で山積みになっている盗まれた物を見ていた。

するとそこへ何者かが声が聞こえてきた。

 

「だ、誰だぁ……お前?」

 

振り向くとそこには少し汚れた着物を纏った初老手前の男性がいた。

男の顔は痩せこけており、まるで鬼か何かに憑かれている有様だった。

ズバモンへ目配せすると、何かを感じ取ったように頷き、この男が件の士族の親父さんだと思った。

俺は緊張しながらもはっきりとした声で名乗り上げた。

 

「桐谷流剣術師範代、緋山真守。茅という娘の頼みでお前の凶行を止めに来た」

 

「茅、だと……お前、オレの一人娘に何をっ」

 

「鬼に憑かれて盗みを繰り返している父親を止めてくれと頼まれたんだ」

 

俺は臆する自分を殺しながら士族だった親父さんを見据えた。

親父さんはブツブツと呟き、定まらない視点で下を向けて様子を取り乱し始める。

 

「俺はっ、母を先立たれていない茅のためにっ……身売りさせたくねぇ……俺はどうなってもいい、でも、茅、娘だけは、娘だけは生きて、生きて、生きて……ああああああああああ!」

 

うわ言の様につぶやく親父さんだったが、その背後から異形の幻影が出現する。

鋭い大鎌を持ったカマキリのような半透明の化け物――スナイモンは、親父さんの動きと連動するように苦しむような様子を見せる。

まるで男の苦しみがスナイモンにも伝わってるように……その様子を見て、ズバモンは俺へと向かって叫ぶ。

 

『マサモリ! ここじゃあ戦いに不利だ! 殴り飛ばすか蹴り飛ばしてでもいいからアイツを外へ出すぞ!』

 

「あ、ああ……わかった!」

 

俺はズバモンの言葉に従う形で男へと近づき、体を掴んで親父さんを外へと投げ飛ばした。

襖を破りながら既に日が落ちて夜になった外へと放り出たその瞬間、親父さんの姿と重なり合うようにスナイモンの幻影が重なり、その姿をデジモンの姿へと変えていく。

完全に実体化したスナイモンへと姿を変えると、野性じみた奇声を上げて襲い掛かろうとする。

 

『キシャアアアアア!!』

 

「ズバモン!」

 

『いいぜ、マサモリ……どうやら(エニシ)は既に結ばれてるみてぇだ!』

 

迫るスナイモンを前に逃げず構えをとる真守(オレ)と、彼の呼び声にズバモンは大きな声で答えた。

振り下ろされた大鎌をズバモンが頭部で受け止めると、そのまま自分を黄金剣の姿形となってはじきとばし、真守の手元へと収まる。

しっかりと握りしめたその黄金剣を構え、俺はいったん見据えて……そして切り込み口を見つけ、走り出した。

 

「ッッ!!」

 

スナイモンが振り下ろす大鎌からの風の刃――真空波を目掛けて、俺は一閃した。

振り下ろした黄金剣の刀身は真空波を受け止め、そして容易く砕け散らせる。

まるで硝子が砕け散るような耳につく音が鳴り響かせ、真守は斬撃を叩き込む

 

「ハァ!」

 

『ギッ』

 

突き出した黄金剣の斬撃をスナイモンはなんとか防いだ。

金属音が鳴り響く中、そこで目にしたのは前にスナイモンの大鎌につけたはずの皹が跡形もなく治っていたのだ。

もしや負った手傷が治るほど先程より強くなっているのではないか……そんな俺の懸念がぶち当たるように、スナイモンは両腕の大鎌が一瞬歪んだ。

否、歪んだというよりは形を変えたのだ。まるで戦斧のように肥大化した大鎌は、容赦なく振り下ろされた。

 

「ぐっ!?」

 

ガキィン、と重量を誇る鈍い一撃が黄金剣越しに響いた。

どうやら攻撃の一撃一撃が重くなっているようで、例え砕けぬ(こわ)れぬと謳った黄金剣でもこれを受け止めるには一苦労すると俺は悟る。

それになぜ、突如スナイモンの大鎌が変貌したのか、俺がその事に驚いていると黄金剣となっていたズバモンが声を発する。

 

『なるほどな、あのスナイモン飲み込まれてやがる』

 

「飲み込まれているだと?」

 

『ウィザーモンは奴さんに憑りついていると推測してたが……今、目の前にしてわかったぜ、逆だ。アイツの娘を思う感情が大きすぎて、乗っ取られているんだよ。だからああいう体の構造を無視した無茶ができやがるってんだ!』

 

――それは、本来ならあり得ない事。

異界からの魔獣・デジモンに利用される人間のはずが、内包していた負の感情に飲み込まれ、宿主の激情のままその力を振るっている状況。

スナイモン自身が何の目的で男に近づいたかは分からないが、それが運の尽きだった。

男の娘を失いたくない心の叫びが、スナイモンを支配し、逆に乗っ取ったのだ。

スナイモンと化した男はその凶刃で盗みを働き、そして誰かを手に掛けた。

もはや歯止めが聞かないところまでやってきた事を悟ると、俺は黄金剣を握る手を強める。

 

「止めるぞズバモン……アイツの凶行を、ここで断ち切る!」

 

『おうよ! 策はあるんだよな?』

 

「今、思いついた……あとは俺と、お前を信じる!」

 

俺は決意を決めて、再び走り出す。

確かに策は思いついたが、上手く行く保証はない……だが、引き下がるわけにはいかなかった。

このまま魔獣の力で凶行を繰り広げられるわけには、親父さんの悪行に悲しむ娘の茅ちゃんを泣かせるわけにはいかなかった。

地面を蹴り上げる速度を速め、素早く駆け出していく。

目指している先では再びスナイモンが両腕の大鎌を振り下ろそうとしていた。

 

『ギャッ!』

 

振り下ろされた大鎌が、俺へと迫る。

ここだ、と言わんばかりに俺は全身の力を込めて、黄金剣を独特な軌跡で振るった。

 

 

「二十剣撃・二ノ陣」

 

 

「覚醒顎(かくせいあぎと)」

 

 

まるで翼を広げる鳥のように、両サイドにいくつもの刃の軌跡を素早く描く。

スナイモンの大鎌がその軌跡に触れた瞬間、ガキィンと共に大鎌は俺――真守の真横に深々と突き刺さった。

地面へと刺さったそれを抜ける様子はなく、スナイモンがこまねいてる所へすかさず次の技を叩き込んだ。

 

 

「二十剣撃・三ノ陣」

 

 

「昇り赤龍(のぼりせきりゅう)……おりゃああああ!!」

 

 

黄金剣での力一杯に衝撃をスナイモンの空いた大鎌へと下段から上段へ叩き込む。

まともに受けてしまった戦斧のような大鎌へ皹が入り、ガラス細工のように砕け散った。

自慢の得物を失い、スナイモンから悲痛な声が響き渡る。

 

 

『キシャアアアアア! か、やぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

スナイモン自身の叫びと親父の叫びが入り混じって、慟哭が幽霊屋敷を突き破って轟く。

己を蝕む魔物の悲しみを断ち切るをつけるべく、俺は走った。

 

 

『キシャ、あああああああああ!!!』

 

 

スナイモンは地面に突き刺さった無事な方の大鎌を引き抜き、勢いよく振りかざした。

だが……振りかざされたその刃を受け流し、スナイモンの横っ腹へ横からの蹴り飛ばす。

常人大を超える巨躯は地面を転がり、仰向けとなる。

だが大鎌が重くてスナイモンはうまく立ち上がれない……それを見て、思わず呟いた。

 

 

「やっぱりな……アンタ、巨大化した大鎌のせいで自慢の速さが落ちてる」

 

『ギィィィ……』

 

「スナイモンとやらのままだったら、もうちょっと苦戦していたが……人と混じり合いすぎたから、できた隙だ」

 

 

 

人とデジモン、肉体が持つゆえに苦しむ者と実体を持たない故に渇望する者。

苦しむ者同士が生み出した異常な武器は相手を倒すには十分なほどの威力を持つが、同時に思わぬ弱点を生み出した。

知識人じゃない自分らしからぬ頭を使った考えを巡らしながら、俺はとどめの一撃を叩き込もうとした。

腰を捻りながら落とし、身体を捻った状態で、地面を蹴り上げて走る。

 

 

「二十剣撃・十六ノ陣」

 

 

「疾車(はやぐるま)!」

 

 

それは目にも止まらぬほど走る車輪の如く、素早く体を回転させた斬撃。

スナイモンは大鎌を無理やり構えて迎え撃つが、暫し拮抗した後に大鎌を弾き飛ばす。

そして回転した勢いのまま胴体目掛けて叩き斬った。

 

 

金色の光が、闇夜の中で光り輝く。

その幻想的な光景に、ある意味俺は魅入られていた。

 

叩き斬られたスナイモンは再び幻影となって倒れ伏す。

透けた体のスナイモンから出てくるように一体化していた親父が吐き出された。

すぐさま近寄って確かめると、男には微かに息があり、どうやら生きているようだ。

 

一先ずは一安心……そう思った俺はチラリと幽霊屋敷の方に視線を向けると、すぐさま次の問題が出てきた。

 

 

「あっ、ここにある盗まれたもの、どうしよう」

 

 

俺は困り果てたように、苦笑をうかべるしかなかった。

ともかく、人斬り事件はもう起こる事はなくなったのは確かだ。

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

その後、士族だった男こと茅の親父さんはウィザーモンの手により命は無事に済んだ。

だがデジモンと融合していた事は相当の負担だったようで、少しの間は病院住まいと言われた。

その間の茅の面倒と次の稼ぎ口はうちの道場で面倒を見ることになった。

 

一方、真守の知人……藤田五郎とやらの伝手で知ったが人斬り事件は迷宮入りとなった。

無理もない……事件を引き起こした犯人は茅の親父さんがスナイモンと融合してため、蟷螂の怪物が盗んでいたのだ。

世間から見れば蟷螂の怪物は何者なのかの分からないまま、何も知らない人々は化け物の蟷螂の当分怯える事となるだろう。

それはそれとして、彼とやらは何か俺を怪しんでいたようだが……それは別の機会になるだろう。

 

 

そして今、真守は早朝の道場での一仕事を終えて、朝飯の準備をしていた。

本来なら師範かそれに関わる人間が準備するのだが、それより一足早く飯の準備をしていた。

――それは、新たなる隣人であるオレ達のためのものだった。

 

「ほら、ズバモン、ウィザーモン、できあがったぞ」

 

『ありがとう、マサノリ』

 

『おう、サンキュー』

 

道場での掃除を終えたオレ達の前に差し出されたのは、お盆に乗った握り飯と沢庵、味噌汁。

白く炊きあがった米を塩で味付けして三角上に整えて海苔を巻いた握り飯、大根を糠につけて漬物にした黄色い沢庵、青葱と豆腐をぶちこんで味噌で味付けした汁物、だったか。

とにかくシンプルながら美味そうなそれをオレ達デジモンは早速ありつくことにした。

我ながら箸を器用に使って口へ運ぶとひろがる素朴な味は初めて食べた自分達にとっておいしいものだと感じさせてくれた。

 

『うんめぇなぁ、デジタルワールドじゃ肉とか野菜が主流だったが、こういう飯もいいもんだなぁ』

 

『そうだな、ロンドンや中華でも飯はありつけたが、日ノ本の飯はなかなかどうしてシンプルながら美味しいんだ……』

 

「それって褒めてるのか?」

 

真守はジト目で見ながら、自身の作った握り飯にありつく。

料理の腕は中々いいもんだな、とオレは思いながら若干辛めに整えた味噌汁を味わっていると、急に真守が話しかけてきた。それも真剣な面持ちで核心をつくような言葉を用いて。

 

「なぁ、なんでデジモンってのは五十土町に現れたんだ? なんで別の世界にいるお前達デジモンが人間の……そう、人間の世界にやってきたんだ?」

 

『それは、恐らく我々が追っているデジモンが他のデジモン達をこの町へ呼びよせているからだ』

 

「呼び寄せている?」

 

『ああそうだ、ソイツはこのオレが一度が倒した。確かに倒したんだが……オレ達の推測だが、復活しようとしてるようだな』

 

ウィザーモンの言う通り、この町にはデジタルワールドから呼び寄せられたデジモン達がいる。

そしてその元凶となっているのは、オレが倒したとあるデジモン。

世界から世界への移動を自由に行き来でき、デジモンと絆を結んだ人間――テイマーともジェネラルとも呼ばれている奴らを糧に復活しようとしている。

 

何処かに潜むソイツを、オレは見つけ出して悪行を止めなければならない。

オレは真剣に考えている他所で、真守はウィザーモンへ質問をぶつけていた。

 

「じゃあ、まだあんな事件が起きるってのか?」

 

『ああ、その通りだ』

 

「だったら、俺がその魔性退治、協力するよ」

 

『『……なんだって!?』』

 

真守が告げた決意にオレとウィザーモンは異口同音で聞き返した。

人斬り事件はともかく、ただの人間にこれ以上巻き込むわけにはいかないとオレもウィザーモンも思っていたが、そんなオレ達の気持ちを露知らず、真守は堂々と言った。

 

「この町で好き勝手する連中を放っておけるわけにはいかない。人外相手ならなおさらだ」

 

『……ほう、勇気があるな君は』

 

『いいのかよ。危険な目に遭うのはお天道様が西へ沈む事みたいに確かなんだぜ』

 

「構うものかよ。ウィザーモン、ズバモン。お前らがいればなんとかなるさ」 

 

自信を以って語るその瞳にオレは説得は難しそうだなと悟った。

何故かって? その瞳に宿った光はオレ自身が口にする不朽不滅の光によく似ていたからだ。

感心するウィザーモンと目配せして、オレはやれやれと言った表情を浮かべて、真守に言いつけてやった。

 

 

『いいだろう、耳かっぽじって聞け! 人間・マサモリ!』

 

 

『オレとお前は一心同体、人刃一体だ! オレ達が折れない限り、悪さする奴らの宿業をオレ達が叩き斬ってやる!』

 

 

道場に響き渡る、異界の魔獣・デジモンの誓いの言葉。

 

 

これがこれから五十土町にて起こるデジモンが引き起こす怪奇譚の、一人の剣客と黄金の魔獣たちの出会いの話の、その始まり。

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