祝福の花を君に   作:キューマル式

12 / 65
第12話 『ウォルターの傷口に無自覚に塩を塗るスタイル』

 俺と『618』は予定とは大きく違うが、無事ルビコン3へとたどり着いた。

 あとはウォルターたちとの合流なのだが……。

 

『『53』、『618』、無事で何よりだ』

 

 俺は前世の記憶で知っていたことだが、ウォルターとカーラは盟友でありハウンズたちの話もしていた。だからカーラ経由で俺たちのことはすぐにウォルターに伝わり、翌日にはこうして通信で会話ができる状態になっている。

 

「あたしとウォルターは古い知り合いでね。 すぐにあんたらの仲間ってのにもピンと来たんだよ」

 

『カーラ、2人の保護、感謝する』

 

「なぁに、あたしのところに来る前にクズどもの巣窟でドンパチして、その腕を買っただけさ。

 それに……弾薬やACの修理費は今度しっかりとその腕で稼いで払ってくれるんだろう、『ミスター出世払い』」

 

『……『53』、名前が増えたな』

 

「増えて嬉しい名前か、これ?」

 

 俺は苦笑する。

 

「それで、ハウンズのみんなは無事なのか?」

 

『安心しろ、全員無事だ。今は休養している。

 それが終われば……仕事の時間だ。

 俺たちは密航者、ここでの身分が必要だ。そこで傭兵ライセンスの入手をカーラに依頼していた。

 全員分には足りなかったが……拾ったものを使うことにした。『621』のルビコンでの名義はその拾ったライセンス名『レイヴン』となる。覚えておけ』

 

 この世界線でも『レイヴン』の名前を『621』は手に入れたらしい。これはもうそういう運命なのだろう。

 

『こちらはこちらで4人で傭兵としての実績をつくる。

 その間、お前たちもカーラから傭兵ライセンスを貰い、傭兵として活動して実績をつくれ。

 カーラ、2人を頼めるか?』

 

「構わないけど、遠慮なくこき使うよ。

 いいんだね?」

 

『構わない。 それに応えられるだけの実力をその2人は持っている』

 

「猟犬への信頼が厚いね、ウォルター」

 

 そう言ってカーラは肩を竦める。

 

『合流はおって指示する。

 依頼に関してはなるべくお前たちの自由意志で選べ。お前たちの選択は尊重するよう、カーラにも言っておこう。

 ……次に会う時まで必ず生き残れ。

 『53』、『618』、お前たちなら、それができるはずだ』

 

 それを最後にウォルターからの通信は切れた。

 

「さて……そういうわけだからあんたたちのACの整備が終わったら仕事を始めるよ。

 その前に……」

 

 そう言って、ドッグタグ状のものを俺と『618』に渡してくる。

 

「そいつがあんたたちの傭兵ライセンスだ。機体登録は完了している。

 あとは名義……名前を入れれば完成だ」

 

「名前……名前かぁ……」

 

 なかなかの難題だ。俺は前世の記憶はあるが、自分の名前などのパーソナリティはまったく覚えていない。

 現世でも改造前の名前は、改造時に他の記憶とともに失っている。名前らしきものなら『C1-53』という強化人間としてのナンバーがあるが……これを名前として登録するのはどう考えてもダメだろう。

 隣を見ると、無表情ながら『618』も俺と同じく困惑している様子が分かる。正直、前世があって感情のある俺より『618』のほうが難題だろう。

 

「思いつかないなら、あたしが案を出そうか?」

 

「……例えばどんな?」

 

「スシとかハンバーグとか……」

 

「はいはい、俺たちをあんたのフルコースに加えなくていいから。

 名前は自分で考えるよ」

 

 とはいえ、どうしたものか……それにこの分だと『618』も思いつかないだろうから一緒に考えてやらないとかわいそうなことになりそうだ。

 そう考えて、俺はいいことを思い付いた。

 

「そうだ、『618』。 『ヒナタ』と『アオイ』っていうのはどうだ?

 二人合わせると俺のAC名にもなってる、太陽に向かって咲く花の名前になるんだ」

 

「あなたが『ヒナタ』で……私が『アオイ』……?」

 

「そうだ。 まぁ、ただの思いつきだし、他に案があるならそれでも……」

 

「いい。 『アオイ』、がいい……!」

 

 無表情のはずが、食い気味で『アオイ』という名前を要求する『618』。

 その様子を見ながらカーラがくつくつと笑った。

 

「なるほどね。 感情が死んでるはずの第四世代型強化人間なのに、妙に感情らしきものが見えると思ったら……そりゃ、こんな刺激を受け続けてれば感情だって戻るってもんよ」

 

「どんな刺激だよ?」

 

「さてね、あたしはACに蹴られて死にたくはないからなんも言わないよ。

 それで、ライセンスネームは『ヒナタ』と『アオイ』でいいんだね?」

 

 それ以外には考えつかないので、それでいいと頷く俺と『618』……改め『ヒナタ』と『アオイ』。それを見てカーラが頷く。

 

「よし、それじゃ『ヒナタ』に『アオイ』。 ACの修理と補給はあたしらに任せな。

 あんたたちは飯喰って風呂入ってベッドで寝て、それが終わったら……仕事の時間だよ!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『ブリーフィングを開始するよ』

 

 

『今回の依頼はあたし、『RaD』からの依頼だ。

 この間、空から落ちてきたあんたたちがドンパチ派手にやった『ジャンカー=コヨーテス』の連中だけど、あんたたちから受けたダメージはかなり大きかったみたいだね。失った戦力の補充のために、BAWSに戦闘用MTを大量に発注してるのが分かった。

 現地の武装勢力だろうが企業だろうがならず者だろうと、BAWSは金さえ払ってくれれば誰にでも武器を売るってスタンスだからね。手ごろに武器が欲しけりゃBAWSで買い物ってのはわかる話さ。でもね、それをみすみす『ジャンカー=コヨーテス』の連中に渡してやる義理は無い。

 そこであんたたちの出番だ。BAWSからのお買い物帰りの『ジャンカー=コヨーテス』のクソどもを襲撃して、買ってきた物資を全部ぶっ壊してもらいたい。輸送隊には当然護衛もいるだろうが、全部まとめて蹴散らしな。

 

 ただ一つ気になるのが……この護衛に『ジャンカー=コヨーテス』の幹部がついていそうってことだ。

 あのオーネスト=ブルートゥ(クズ)の部下だけあって、どいつもこいつも筋金入りのクズの狂人どもだよ。もし現れたら、きっちり引導を渡してやりな。

 

 じゃあ、期待してるよ。 『アオイ』、それに『ミスター出世払い』』

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『来たよ、『ミスター出世払い』、『アオイ』。

 コヨーテスのクソどもだ』

 

 機体のセンサーアイを望遠モードにしてみれば、MTや強力な武器を積んだ大型トレーラーの列と、それを囲むようにしている護衛のMT部隊。

 

「……カーラ、明らかにあいつら相手に機嫌が悪いな。 何かあるのか?」

 

『あのMT購入の代金で使われた何割かは、オーネスト=ブルートゥ(クソ野郎)に持ち逃げされた『RaD』の資金なんだよ。

 人から盗んだ金で豪遊してるのを見たら、ぶっ殺したくなるだろ?』

 

 それは確かに。

 

『さぁ、さっさと仕事を始めようか。 『ミスター出世払い』、『アオイ』』

 

「……その『ミスター出世払い』ってのはどうにかならんか。

 せっかく『ヒナタ』って名前にしたんだからさ」

 

『この依頼で修理費と弾薬費がしっかり稼げたら考えてやるよ』

 

(これ、明らかに楽しんでるな……)

 

 そう思い、俺はそっとため息をつくと『アオイ』へと話しかける。

 

「行けるか、『アオイ』」

 

『……いつでも』

 

「よし、それじゃ……仕事を始めようか!」

 

 言って、『日向葵』と『曼珠沙華』は同時にアサルトブーストを起動、その輸送車列に突っ込んでいく。

 

『しゅ、襲撃だぁ!』

 

『護衛は前に出ろ!』

 

 無法者集団にしては判断も動きも早い。『ジャンカー=コヨーテス』は伊達に『RaD』が手を焼く無法者の最大勢力というわけではないようだ。

 だが……大企業の私設部隊や、惑星封鎖機構の部隊と何度も戦ってきているような、戦うことに関してだけはプロ中のプロである俺たち相手にはあまりに遅すぎる。

 

『……撃つ!』

 

 アオイの『曼珠沙華』から放たれた連装グレネードキャノンが『ジャンカー=コヨーテス』どもの護衛の中心で炸裂する。あるものは直撃で爆散し、あるものはその暴力的なまでの爆風でまるでおもちゃのように吹き飛ばされた。

 そうして出来た護衛の穴に、プラズマミサイルを撃ちながら俺はアサルトブースト全開で飛び込む。即座に俺を撃ち落とそうと火線が放たれるが、遅い。俺は輸送車列の中央にたどり着く。

 

「アサルトアーマー、起動!」

 

 そしてアサルトアーマーを発動させた。先の『曼珠沙華』の連装グレネードキャノンに劣らないパルス爆発が巻き起こる。ろくな装甲を施していない輸送車両はもちろん、その荷台で急いで起動しようとしていたMTも、これから使う予定だった武器弾薬も、何もかもがパルス爆発に巻き込まれ爆散していく。

 

『ああ!? 俺たちの武器が!』

 

『連中を殺せ! じゃないと俺たちがボスに殺されるぞ!!』

 

 そんな威勢のいい声が聞こえてくるが、今の強襲だけで輸送車両のほとんどは物資ごと吹き飛び、生き残った護衛は陣形も連携も何もあったもんじゃないほどに乱れている。ここから先はすでに殲滅戦だ。そう時間はかからないだろう。

 そう思った次の瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

『敵、上ッ!!』

 

 戦場で感じる、まるで背中に氷柱を押し込まれたような感覚……『殺気』を感じて、『日向葵』がクイックブーストで後退するのと、アオイの警告は同時だった。

 

 

 ドス ドスッ!

 

 ズガァーーーン!!

 

 

 今まで俺の居たところに数本の針が突き刺さり、追って突き刺さったグレネード弾が炸裂、『日向葵』の装甲を爆風が舐める。

 

「これは……敵ACか!?」

 

 カメラアイを向ければ、そこにはこちらに向かってくる2機のACの姿があった。

 軽量と重量の、どちらも逆関節型のACだ。軽量の方の右手にはニードルガン、重量の方の左手がハンドグレネードになっており、今しがた撃たれたのはこれだろう。

 

『んー、あなたたちですか。 今回のモデルの方々は』

 

「モデル?」

 

『そう、モデルです! あなたたちは私の『芸術』を表す、モデルなのです!』

 

「……」

 

 重逆関節ACからだが……何を言っているのかわからない。分かるのは絶対にお近づきになりたくない種類の人間だということだけだ。

 すると、残った軽逆関節ACの方からも通信が入る。

 

『オーカ君、君の『芸術』は間違っている!』

 

『むっ! 爆発と炎こそ『芸術』でしょうに、ファセット君!』

 

『いいや! 『芸術』とは無駄を切り落として加工した美しさのことだ!』

 

『……相変わらずあなたの『芸術』とは合いませんね、ファセット君。

 ではちょうどモデルも2体あるわけですし、『芸術』を競いましょう!』

 

『望むところだ!』

 

 そう言って俺たちへの戦闘態勢を整える敵AC2機。そこにカーラからの通信が入る。

 

『そいつらが『ジャンカー=コヨーテス』の幹部だ。

 重逆関節ACの方が『アーテスト=オーカ』のAC『ファイアボンバー』、軽量逆関節ACの方が『カッター=ファセット』のAC『ブリリアント』だよ。

 『炎と爆発が芸術』って言って人を燃やしてくる狂人と、『無駄を切り落とすと芸術』って言って人間の手足を切り取ってくる狂人だよ』

 

「なんだその地獄の狂人欲張りハッピーセットみたいなのは」

 

『あのオーネスト=ブルートゥ(クソ野郎)の部下で幹部だよ。 まともなわけないだろう』

 

 カーラのなんだか凄まじい説得力のある言葉である。

 

『ヒナタ……よく分からないけど……この敵は何を言っているの?』

 

「長時間聞いていると脳が腐る。

 さっさと黙らせるに限るイキモノって認識でOKだ」

 

『……了解、即時殲滅する』

 

 突然の狂人たちの登場に少し面喰っていたアオイも、いつもの戦闘モードに戻ったようだ。

 そして、『ジャンカー=コヨーテス』の幹部たちとの戦闘が始まる……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

今日のアセン

 

AC名:『ファイアボンバー』

パイロット名:『アーテスト=オーカ』

 

R-ARM UNIT:MA-T-222 KYORAI(ナパームボムランチャー)

L-ARM UNIT:DF-ET-09 TAI-YANG-SHOU(炸裂弾投射機)

R-BACK UNIT:WB-0000 BAD COOK(火炎放射器)

L-BACK UNIT:DIZZY(ハンドグレネード)

 

HEAD:AH-J-124 BASHO

CORE:CC-3000 WRECKER

ARMS:AC-2000 TOOL ARM

LEGS:RC-2000 SPRING CHICKEN

 

BOOSTER:BST-G2/P04

FCS:FCS-G1/P01

GENERATOR:AG-E-013 YABA

 

EXPANSION:なし

 

 

解説

無法者集団『ジャンカー=コヨーテス』の幹部、『芸術家』を名乗るうちの1人。

別のグリッドでしっかりとした両親から教養を受けて育ったが、その両親が爆炎の中でもだえ苦しみながら焼け死ぬ光景を見ながら思ったのは『両親を失った悲しみ』ではなく、『両親を殺した爆発と炎の美しさ』だった。以降、ドーザーとしてグリッド012に流れ着く。

『芸術家』を自称し、コーラルドラッグをキメながら敵対者を炎と爆発の中で躍らせることを『芸術』と称する狂人。しかし、頭の足りないただの無法者とは違いしっかりとした教養を受けた人間で、オーネスト=ブルートゥの下でコヨーテスの荒くれ者たちを率いる。

 

機体はRaD製の重逆関節ACを使用。その高い跳躍力で頭上からナパームを降らせ、火炎放射器であぶり、炸裂弾投射機で足を止めさせたら、高爆発力のハンドグレネードを直撃させるという戦法をとる。

集団戦術が基本のMTにとってナパーム・火炎放射器・炸裂弾投射機・ハンドグレネードと、広範囲への攻撃を充実させたこのACは恐怖の対象であり、恐れられている。

 

ちなみに無法者集団『ジャンカー=コヨーテス』は技術者集団『RaD』に比べると機体整備環境が整っているとは思えないため、『ジャンカー=コヨーテス』幹部のACは取り付けに専用クレーンなどが必要な肩武装は使わず、腕武装のみを使用するという縛りをつけている。

 

あのカーラが『ジャンカー=コヨーテス』には手を焼いていたという事実から、オーネスト=ブルートゥ以外にも強力な幹部がいたのだろうという妄想から着想したキャラとAC。オーネスト=ブルートゥの幹部は全員独自の感性を持った『芸術家』の狂人という設定。基本この世界の芸術家はAIに駆逐されているため、そもそもまともな『芸術家』はほぼ存在しない。

アセンに関してはナパームを何とか使えないかと考えたのが着想元。結論、少なくとも作者にはナパームは使いこなせなかった。

こうなると頭目のオーネスト=ブルートゥより強いんじゃないかという問題が……本当にカーラは何を思っていろいろ絶妙に噛み合わない『ミルクトゥース』を組んだんだろうか?

もしかしたら『乳歯だけに噛み合わない』というカーラの笑えるジョークだったのかもしれない。

 

元ネタは太陽の塔で有名な『岡本太郎』の『芸術は爆発だ』から。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。