アオイは激怒した。必ず、かの自分のことを『ダチ』だと言ってきた少女、『リトル=ツィイー』を更生せねばならぬと心に決めていた。
アオイには料理は分からぬ。強化手術で感情を失い、戦うためだけの存在として生きてきた。しかし『ヒナタ』に命を助けられて以降は、彼を思うと胸の中がポカポカし、無くしたはずの感情もゆっくりとだが戻ってきていた。そんな中で、手料理を振る舞ってくれるというのは親愛の証だということは知っていた。
ルビコン解放戦線からの『捕虜救出作戦』の依頼を成功させた『ヒナタ』と『アオイ』は少しの間だけ、護衛をかねてルビコン解放戦線の拠点の中で過ごしていた。
そんな中でアオイに近づいてきた、アオイと変わらない歳の少女が『リトル=ツィイー』だった。彼女は自分を助け出してくれた独立傭兵が自分と同じくらいの歳の男女だと聞き、お礼に来たのだという。そんな彼女が持参したのが彼女手製の『ミールワームのミートパイ』だった。
それを一緒に食べながらたわいない話……もっとも話しかけるのはツィイーの方だけでアオイは答えるだけだが……に花を咲かせる少女2人。リトル=ツィイーは他者との距離をすぐにつめてくるタイプだったようで、アオイのことを『ダチ』といい、アオイもそれがなんだかくすぐったいような、奇妙な感覚に陥っていた。
様々な話をしていくと、ツィイーの今後の話になった。ツィイーが捕虜収容所でどのような扱いを受けていたかは分からないが、彼女はすでにルビコン解放戦線の戦士として、次なる戦いに戦意を滾らせていた。そして彼女は自身の相棒たるAC『ユエユー』を見せてくれるという。
「これがあたしの相棒の『ユエユー』だ!」
自慢げに愛機を紹介するツィイー。その実物を見て、端末で内装と武装データを見て、数瞬目をつぶったアオイは……ツィイーを問答無用で張り倒した。
「な、何するだぁ!?」
「……ツィイーはACを舐めてるの?」
「そんなわけあるか! あたしはACのコアをゆりかごに育ったんだぞ!
そんなACを舐めるだなんて……」
「……なら、この無茶苦茶なアセンは何?
独立傭兵として戦い続ける私からみたらこのACで戦場に出るのは、ACを舐めてる素人としか思えない。
もし戦場で出会ったら即座に撃墜して追加報酬にするボーナスバルーンでしかない。
これはミートパイのお礼と、『ダチ』としての忠告」
「……」
辛辣だが、同じくらいの歳でありながら様々な戦場を渡り歩き、戦い続ける経験豊富な独立傭兵であるアオイの言葉には生半可ではない重みがあった。
「まず……フレームが全部バショウシリーズなのは問題ない。BAWS製で安いし手に入りやすく、さらに頑丈で信頼性も高い」
「ああ。 それに帥父に憧れてて……帥父がこれだから」
「……ルビコン解放戦線で手に入る内装パーツには限りがあるから内装もしょうがない。
でも武装の選択について……これはもう絶対におかしい」
『ユエユー』の武装は両手に小型ハンドグレネードランチャー、左肩にパルスシールドだ。右肩の武装はない。
「……なんでこの武装なの?」
「それは……あたしは敵を叩き潰せるでっかい火力がほしいと思ったから両手にハンドグレネードランチャーを。
あと肩のパルスシールドは、周りの大人が少しでも防御力を上げて生きて帰ってこれるようにってつけてくれたんだ」
「……でもそのでっかい火力って足を止めないと撃てないでしょ。しかも両手に装備……戦場で攻撃のたびに隙をさらすことの愚かさは言わなくてもわかるでしょ。
あとパルスシールドはあればいいってものじゃなく、使いこなせないと真価を発揮できないもの。使いこなせないパルスシールドなんてデッドウェイトでしかない。
私でも難しい武装だけど、ツィイーは使いこなせてたの?」
「……」
それを言われるとツィイーは黙るしかない。実際、パルスシールドを張りながら敵に突進、ハンドグレネードランチャーを連射していたところを囲まれて集中砲火を受けて行動不能になり、ツィイーはベイラムの虜囚となったのだから。こんな使い方をしていて、使いこなせていると言えるわけもない。
「……こうなったら、私がアセンを考える」
「出来るのか?」
「出来ないと独立傭兵なんて出来ない。 それに……ヒナタにたくさん教えられたから」
ヒナタはハウンズの仲間となった直後から、仲間たちにアセンについてのアドバイスと理論を語っていた。
それはヒナタの前世からしたらごくありふれたアセン理論でありセオリーだ。それは数え切れない『プレイヤー』たちが各パーツ特徴を理解し、試行錯誤の末にたどり着いたもので、その考え方をハウンズたちに教え込んだのだ。
ただし、ここにヒナタとこの世界の傭兵たちの間に大きな差があった。
ヒナタは元AC6プレイヤーという前世を持ち、ゲームだからこそいくらでも試行錯誤が出来た。だがその試行錯誤に、この世界の傭兵たちにとっては命を掛けねばならない。そもそも、すべてのパーツを知りその特徴まで知っている人間などこの世界では皆無なのだ。
この世界でヒナタの理論にたどり着くには、それこそ数え切れない戦場を生き残る必要がある。そしてそんな傭兵が自分のたどり着いた理論……飯の種を他人に教えるわけがない。結果、この世界の人間のアセンというのはヒナタのようなAC6プレイヤーにとっては『なんでこんな機体になるんだ?適当に組んでるのか?』と頭をひねるものが多いのだ。
だからこそ、そのヒナタのアセン理論と知識には千金の価値があり、それを知ることの出来たハウンズたちはすでにこの世界では一線を画す戦力なのである。
とりあえずツィイーの希望を聞くかたわら、アオイは使用できるルビコン解放戦線の持っているパーツリストに目を通すことにした。
「? なんで解放戦線の倉庫に、アーキバスのパーツがたくさんあるの?」
ルビコン解放戦線の武器供給元として有名なのは地元ルビコンの企業である『BAWS』と『エルカノ』である。そこに中立の立場である『タキガワハーモニクス』や『メリニット』、『ファーロンダイナミクス』といったところだ。ベイラム系列も比較的その辺りは緩いので『ベイラム』や『大豊』のパーツも入手可能である。
しかしアーキバスはその辺りは厳重で、関連企業である『シュナイダー』などならまだしも『アーキバス』そのもののパーツをルビコン解放戦線へ卸すなど絶対にあり得ないのだが……アオイの目にするリストには結構な貴重なパーツまでが載っていたのだ。
「ああ、それ連中から奪ったやつだ」
「奪った?」
聞けば、アーキバスが『壁』を制圧した辺りからアーキバスの輸送部隊の動きが乱雑になっており、その輸送部隊を襲って鹵獲したものらしい。
『壁』の攻防戦における、輜重部隊を率いる『ヴェスパー
ちなみにこの被害に『ヴェスパー
結果としてアーキバス陣営は各地で物資不足となっており、敵対するベイラムやルビコン解放戦線に後れをとる事態が各地で発生していた。
そんな理由で、このルビコン解放戦線の拠点にもアーキバスから鹵獲したパーツがあったのである。
「これなら……ツィイーの希望を聞きつつ、なかなかの機体が出来る!」
そして30分後……。
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『ツィイー、前方に敵複数』
「おらぁ、燃えろぉぉ!」
左手から放たれたナパーム弾によって広範囲に炎が広がり、敵集団は炎熱地獄に落とされる。高温の炎でAPが削られる中、マシンガンで反撃に転じるが……。
「当たるかぁ!!」
脚部クローラーが大地を噛み、高速で機体が動く。その速度でマシンガンを避けた。
「反撃だ!」
右手のバズーカ、そして右肩の連装グレネードキャノンが火を噴く。普段なら動きを止める隙をさらさなければ撃てないはずのその2つの大火力は、何の制限もなく放たれ。敵集団が壊滅した。
『次、重四脚MT』
次に現れたのは重四脚MT、装甲も厚く場合によってはACすら屠る強力な戦力だ。
だがツィイーは恐れること無く重四脚MTに接近、左手のナパーム弾を叩き込む。炎に包まれる重四脚MTは逃れようと移動と同時にマシンガンで反撃に転じた。ツィイーはそれを横にクイックブーストで回避すると連装グレネードキャノンを叩き込む。
高温の炎によってACSに障害が発生していたところに連装グレネードキャノンの衝撃は致命的だった。ACS負荷限界によりスタッガー状態で動きを止める重四脚MT。
「ここだぁぁぁぁぁ!!」
そしてツィイーは機体の最後の武装を使用する。ナパームボムランチャーから持ち替えられたそれに火が入った。エネルギーをフルチャージされたそれはロケットを点火、その推進力で前へと高速で移動を開始する。その先端には高出力のエネルギーで形成された穂先が発生していた。
『レーザーランス』……アーキバスの中でもかなり貴重な格闘武装、それがツィイーの手によって重四脚MTに叩き込まれる。スタッガー状態で動きを止めていた重四脚MTはそのランス
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「……お疲れ様」
「ああ、ありがと。 これが……あたしの新しいユエユーか」
シミュレーターモードを終え機体から降りてきたツィイーをアオイが出迎える。それに手を振って感慨深そうにツィイーは生まれ変わった愛機『ユエユー MK-Ⅱ』を見上げた。
頭部・コア・腕部は今までと変わらずバショウシリーズだ。しかし脚部は大きく変わりエルカノ製の軽量タンクへと変わっている。
武装もツィイーの希望である『高火力』を聞き入れながらも全面的に見直された。メイン武装はアオイも愛用し攻撃力と継戦能力に優れた大豊製の『バズーカ』。右肩は『連装グレネードキャノン』。左手にはMTとの集団戦を想定し広範囲に炎を散布する『ナパームボムランチャー』、そして左肩のハンガー部分には格闘武装である『レーザーランス』を装備している。そしてそれを支えるだけのエネルギーを供給するのはアーキバス製のジェネレータだ。
「ありがとう、アオイ。 これで企業どもにこれまでのお返しがしてやれる!」
「……対空能力は低いから、飛んでいる敵には気をつけて。
それと……私たちの前には出てこないで。出てきたら撃墜することになるから」
「わ、わかってるよ。 その時には白旗でも上げるさ」
しっかりと格の違いを感じさせられ冷や汗をにじませながらも、ツィイーとアオイは握手をする。
ルビコン解放戦線の拠点の片隅で、こんな奇妙な女の友情は育まれていた……。
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今日のアセン
AC名:『ユエユー MK-Ⅱ』
パイロット名:『リトル=ツィイー』
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:AH-J-124 BASHO
CORE:AC-J-120 BASHO
ARMS:AA-J-123 BASHO
LEGS:EL-TL-11 FORTALEZA
BOOSTER:なし
FCS:FCS-G2/P05
GENERATOR:VP-20C
EXPANSION:PULSE ARMOR
解説
ルビコン解放戦線の少女戦士『リトル=ツィイー』。彼女は捕虜収容所から救出された後、アオイと友誼を結んだ。
その際に見せられた『ユエユー』のあまりの状態にアオイが激昂、アオイの監修によって生まれ変わったツィイーの愛機がこの『ユエユー MK-Ⅱ』である。
頭部・コア・腕部は変わらずバショウシリーズを使用。しかし『使いこなせもしないパルスシールドを装備するより速度を上げた方が生存率が上がる』という考えと、ツィイーの希望である『大火力』を両立するために脚部を軽量タンク脚へと大幅に変更した。
メイン武装はアオイも使用している攻撃力と弾数の優秀な『大豊製バズーカ』、右肩は『連装グレネードキャノン』を装備し、ツィイーの希望である大火力を無理なく叶えた。
さらにルビコン解放戦線の戦士として1対多数が想定されることから広範囲に高温の炎をばらまく『ナパームボムランチャー』を装備し、そして本機最大の特徴とも言える高威力格闘武器『レーザーランス』の
防御に関しては速度の上昇と、コア機能として『パルスアーマー』を装備。パルスシールドより何倍も使用が容易で確実なため、総合的な防御力と生存性を高めている。
ただし対空能力に関しては脆弱なため速度を生かして地上戦に持ち込むか、僚機、一番はミサイル機のような対空に強い機体とコンビを組みたい。
ツィイーの希望に対して極めて理想に近い形に仕上げたアオイのアセンのセンスが光る機体。
ジェネレータやレーザーランスなどアーキバスの希少なパーツが使われているが、これは第一次『壁』攻略戦において輜重部隊担当の『ホーキンス』がケガで長期戦線離脱してしまった結果、輸送部隊が襲われる頻度が非常に高くなり、その鹵獲品である。
マッドスタンプに続いて、元からある機体の強化機体。今回は最弱候補としても名高いユエユーの強化案である。
基本戦術は軽量タンクのスピードで動きながらナパームボムランチャーで広域に炎のダメージをまき散らし、隙を見てバズーカと連装グレネードキャノンで攻撃。スタッガー状態にしたところをバショウ腕から繰り出される必殺のランス
バショウは格闘武装を積むだけで大きく変わるため、これでドルマヤンに鼻で笑われることはないだろう。