祝福の花を君に   作:キューマル式

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第32話 『いるさっ ここにな!(ヒューッ』

 

「こんな状況で自らの獣欲を優先するとは……」

 

 

 見張りを気絶させ、自らの爆弾と追跡機能付きの首輪を解除しながらケイトはつぶやく。

 どうやら大規模な襲撃を『RaD』は受けているらしい。現在、『RaD』は混乱の真っ只中だ。それを好機と見た、以前からケイトのことを好色な目で見ていたこの男はケイトに襲いかかって来たのだ。

 しかしコーラルによって遺伝子から弄くられている新世代型強化人間であるケイトを舐めてはいけない。即座に男を無力化すると、逆に自分を縛っていた枷である首輪を取り払った。

 

 

「……本当にどうしようもないほど愚かですね」

 

 

 侮蔑のまなざしでもう一度気絶した男の股間を蹴り上げると、ケイトは独房を出た。格納庫に向かい、何でもいいので機体を強奪しここから脱出しなければ……そう思いながらケイトは独房を振り返った。

 毎日のように尋問と称した無駄話をした、様々な秘密を知るだろう謎の強化人間……。

 

 

「イレギュラーヒナタ……あなたの存在は、悪くありませんでしたよ」

 

 

 ケイトは最後に自分でも気付かずに小さく微笑んで、独房を後にした……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 『RaD』の中枢、コントロールセンター。

 

 

「チャティ、あたしたちも出るよ!

 『コヨーテス』(クソども)相手でも手一杯なんだ、『ブランチ』の連中まで相手にするには手が足りない!」

 

「了解だ、ボス」

 

 

 ついに出陣を決めた『RaD』のトップ陣。しかし、そこに待ったの通信が入る。

 

 

『カーラ……あなたは『RaD』の総大将よ。 前線にまで出てくることは無いわ』

 

 

 それは居住ブロックへの通路で、今も5倍以上の戦力を相手に防衛戦を指揮している『アマゾネス』隊の隊長、モアからだった。

 

 

『それに……『ブランチ』には個人的にも因縁があってね。 あたしが行くよ』

 

「モア、あんたの因縁は分かったけど、あんたが抜けたら居住ブロックの防衛はどうなるんだい!

 それに『ブランチ』のACは3機、別々の場所から侵攻してきてるんだ。一つはミスター出世払いに対処してもらうつもりだけど、それでも頭数が足りないんだよ!」

 

 

 だがそのカーラのもっともな指摘に、モアは驚くべき回答をした。

 

 

『防衛戦の指揮はフィーメルに任せる。 戦力に関しても……今、『援軍』が到着した!

 その援軍の総大将が是非とも『ブランチ』の対処に回るってさ。

 あたしと『総大将』とミスター出世払い……ブランチ対策の数はこれで揃っただろ?』

 

「『援軍』!? あたしら『RaD』に援軍だって!?

 どこのどいつだい、『援軍』ってのは!?」 

 

 

 『RaD』は技術者集団だが、同時に無法なドーザー組織でもある。そんな自分たちへの援軍など心当たりが無く、混乱したカーラが叫ぶ。そこに老人の声が割り込んだ。

 

 

『援軍は儂じゃよ』

 

「あ、あんたは……!?」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 『RaD』の居住ブロックへと続く地区では、激戦が繰り広げられていた。

 

 

『この……!』

 

 

 アオイの『曼珠沙華』が高度を取り、空から両手のバズーカ・連装グレネードキャノン・ガトリングガンによって地上を侵攻してくるMTに対して攻撃を行う。その苛烈な攻撃は敵MT部隊にダメージを与えるのだが、同時にそれを越える量のミサイルが『曼珠沙華』へと迫る。

 空中でブースターを巧みに操りそれらをかわしていくアオイだが、数発は避けきれずに当たり、それがボディブローのように『曼珠沙華』を徐々に痛めつける。

 減らしても減らしても濃密な敵の壁……それがアオイたちを苦しめていた。

 

 

『俺は無敵のラミー様だぞ!』

 

『アマゾネス隊はミサイルを一斉発射。 その隙に防衛線を1ブロック後退させる!』

 

 

 モアの指揮の下で、ラミーやアマゾネス隊、RaD戦闘部隊も奮戦しているが、5倍以上という単純にして絶対的な数の差は如何ともしがたい。何とか敵の陣形に穴を空けて、アオイが指揮を執っているだろう敵ACを撃破すれば状況もかわるだろうが、それができない。結果、ジリジリと後退しながら遅滞戦術で敵を削っているが、そろそろ後退も限界だ。

 そんな状況の中でもたらされたのが新たな敵、独立傭兵組織『ブランチ』の介入だ。

 

 

『『ブランチ』がここを!

 あいつら……ここまで勝手な『自由』を振りかざして蹂躙しようというの!?』

 

『隊長、お待ちを! 今隊長が抜ければ数で大きく劣る我々は崩される可能性が極大です!!』

 

『チィ!?』

 

 

 『ブランチ』の名を聞いた途端、あのモアが飛び出そうとするのを慌てて副官のフィーメルが止めた。

 工場ブロック、食料プラントの防衛に成功した姉妹たちが戻ってくるには未だ時間がかかる。

 

 

『援軍がほしい……』

 

 

 思わず、弱音ともとれる言葉がアオイから漏れる。本来なら何の意味もない、ただの愚痴だ。愚痴で戦況は変わりはしない。

 しかし……。

 

 

『援軍ならここにいるぜ!』

 

 

 その言葉とともにどこからか連装グレネードキャノンが飛んできて、敵の一部を吹き飛ばした。

 続くようにミサイルが複数の目標に直撃し、爆発する。

 

 

『もう、なんでツィイーだけ先に行っちゃうのさ!』

 

『ダチのピンチなんだ、助けに入って当然だろ』

 

『我々は帥父のお供なんだぞ! 帥父の命より先に動くやつがあるか!』

 

『……構わんよ、フレディ』

 

 

 そう言ってアサルトブーストで加速した4機のACが降り立った。

 そのうちの1機は、このルビコンにおいて有名なACである。

 

 

『あなたたち……ルビコン解放戦線! しかも『サム=ドルマヤン』!?』

 

『如何にも。 独立傭兵ヒナタに用があってやってきた。

 もっともここに来るまでにある程度の状況は傍受しておる。

 力を貸そう。 ツィイーとエリック、それにフレディをここの防衛に使うがいい』

 

『……随分前に腑抜けたって話を聞いてたけど、まるでそうは見えないわね』

 

『若い力に火をつけられたのでな、燃え残りの老木ももう一度くらい燃え上がってみようと思っただけだ。

 それに無線を傍受したが……『ブランチ』の連中が来ているのだろう。

 奴らには言ってやりたいことがあるのでな』

 

『わたしと同じということね……フィーメル! この戦線を任せるわ!

 わたしは『ブランチ』の連中とちょっと楽しいダンスをしてくるわ』

 

『……了解しました。 隊長、ご武運を』

 

『ツィイー、エリック。 おぬしらには確かな才がある。

 だがそれに溺れるな。フレディの言うことを聞いて、戦場に必要な慎重さを学ぶがいい。

 フレディよ、若い2人の戦士を頼む』

 

『お任せください、帥父!』

 

 

 モアの『ガルトルニス』とドルマヤンの『アストヒク・S』はアサルトブーストを起動させてこの戦線を離脱していく。

 そして残されたのは『RaD』の防衛部隊と、ルビコン解放戦線のAC3機……リトル=ツィイーの『ユエユー MK-Ⅱ』とギーシュ=エリックの『ハングリーワーム』、そしてリング=フレディの構成を大幅に変更させたホバータンク型の愛機『キャンドルリング+』である。

 そんな中、ツィイーの『ユエユー MK-Ⅱ』がアオイの『曼珠沙華』に並んだ。

 

 

『久しぶり、アオイ!』

 

『うん……』

 

『今日は並んで戦える。 頼むぜ、ダチ公!』

 

『……わかったよ、ダチ公』

 

 

 心なしか嬉しそうに頷くアオイ。

 圧倒的な数の差によって押されていた居住ブロックへ続く地区での戦いは、『RaD』へのAC3機の増援によって勝敗の天秤が大きく動こうとしていた……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 『RaD』の中央コントロールセンターへと続く道。そこを進むホバータンク型のAC。『ブランチ』所属の女独立傭兵『シャルトルーズ』の駆るAC『アンバーオックス』である。

 空中戦を得意とするホバータンクという特殊なカテゴリーながら、タンク型特有の積載量からくる高火力を誇り、本人の腕と相まって『見つめ合うと死ぬ女傭兵』という異名をもって恐れられている。

 

 

『まったく……なんだってこんなところを攻めるのやら。

 あたしら『ブランチ』のすべきは自由のための戦いだろ。 こんなドーザーどもの巣窟なんてどうでもいいだろうに……』

 

 

 『レイヴン』の自由のための戦いを支え、自由を抑圧する強大な惑星封鎖機構や企業と常に戦うシャルトルーズにとって今回の任務は不満だった。なぜなら『自由のための戦いっぽくない』からである。

 とはいえ、彼女もプロだ。仕事となれば私情など挟まないが、愚痴の一つも漏れるものだ。

 その時。

 

 

『そうかい。 そんなに自由のための戦いとやらに酔いたいなら他でやりなよ』

 

『ッ!?』

 

 

 重リニアライフルのチャージショットが襲いかかり、『アンバーオックス』が揺らぐ。しかしシャルトルーズも冷静に機体を制御し、アサルトライフルの追撃をアサルトブーストを起動させて回避した。

 そして『アンバーオックス』の前に降り立ったのは、モアの駆る『ガルトルニス』だ。

 それを見たシャルトルーズは、笑いを堪えられなかった。

 

 

『あははははっ、誰かと思えばレイヴンとの自由のための戦いにブルって逃げたシャルトルーズ先輩じゃないか!

 こんなところに落ちぶれてたのね。 臆病者にはお似合いの場所じゃないの』

 

『……わたしのことをどう言おうが構わないわ、名前を継いだ後輩さん。

 でもね、これ以上は進ませない。

 あんたたちを邪魔する『自由』……行使させてもらうわ、後輩さん!!』

 

『あはははっ、やってみなよ先輩ぃぃ!!』

 

 

 『アンバーオックス』が武装を構え、『ガルトルニス』が跳躍する。

 昔と今の2人の『シャルトルーズ』の戦いが始まった……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 2人の『シャルトルーズ』の戦いが始まったちょうどそのころ、サム=ドルマヤンも『ブランチ』所属の独立傭兵、『キング』と接触を果たしていた。

 その任務達成率の高さから『完成された傭兵』の異名を持つキングは、突如として現れたドルマヤンにも動揺することなく相対する。

 

 

『これはこれは……ルビコン解放戦線創始者『サム=ドルマヤン』とこんなところで会えるとは、光栄だな』

 

『……一つ尋ねたいことがある』

 

『何なりと』

 

 

 キングの言葉に、感情を抑えたようなドルマヤンの問いが飛ぶ。

 

 

『何故コーラルの再発見の情報を星外企業どもにリークした。

 それによって引き起こされるだろう災禍を予想できなかったわけでもあるまい』

 

『それは抑圧を続ける惑星封鎖機構から『自由』を得るためですよ』

 

『『自由』、だと?』

 

『もはやルビコンは独力で惑星封鎖機構の抑圧から自由を得ることは不可能。外的要因が必要だった。

 アーキバスやベイラムを利用し、この状況を打開するための方策ですよ』

 

『……では、その星外企業による侵略で振り撒かれている災禍をどう見る?』

 

『『自由』のための必要な痛みかと』

 

『なるほど……よくわかった。 おぬしらは惑星封鎖機構や企業と変わらん。

 おぬしらの本質は『自由』の名のもとに自分のやりたいことだけを他人に押しつける、『自由の押し売り』よ』

 

『灰でまみれた古くさい警句を唱えるだけの老人ではなにも変わらなかったでしょう?

 だから我々が閉塞した状況を変えたのですよ』

 

『……そうよな、わしの力不足でなにも変わらなかったことは確かに事実よ。

 しかし、流れた子や民の血と涙を『必要な痛み』の一言で済ませるようなものたちを信じられるわけがない。

 どちらにせよ……この災禍によって流れた血と涙の責はとってもらう!』

 

『灰まみれの哀れな老人にはご退場願おう!』

 

 

 サム=ドルマヤンのAC『アストヒクS』とキングのAC『アスタークラウン』は同時に動き出した……!

 

 

 

 

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今日のアセン

 

AC名:『キャンドルリング+』

パイロット名:『リング=フレディ』

 

R-ARM UNIT:HML-G2/P19MLT-04(ハンドミサイル)

L-ARM UNIT:PFAU/66D(ハンドパルスミサイル)

R-BACK UNIT:SONGBIRDS(連装グレネードキャノン)

L-BACK UNIT:FASAN/60E(プラズマキャノン)

 

HEAD:VE-44B

CORE:VE-40A

ARMS:VE-46A

LEGS:VE-42B

 

BOOSTER:なし

FCS:FCS-G2/P05

GENERATOR:VE-20C

 

EXPANSION:PULSE ARMOR

 

 

解説

サム=ドルマヤンが復活した……。

喜びに沸くフレディは鹵獲したアーキバス系パーツで機体を大幅に変更した。

タンク型であることは変わらないものの、ホバータンクを採用し、ドルマヤンが主に地上戦で戦うことを想定し、空中から彼を援護することを中心に考えるようになる。

ホバータンクによって大幅に増えた積載量は装甲と武装にまわされることになり、ハンドミサイルとハンドパルスミサイルによる追尾、そして空中から撃ちおろされる連装グレネードキャノンとプラズマキャノンの高火力は相手を容易にスタッガー状態に陥らせ、その瞬間ドルマヤンによるブレードによって、死は免れないだろう。

 

アーキバスの輸送部隊の乱獲によって強化されたルビコン解放戦線の機体その3。

ぶっちゃけ、ハンドミサイルと連装グレネードキャノンくらいしか元の機体の面影はなく、完全に別機体である。

元が地上戦用の高速タンクだったが、ドルマヤンの復活に伴い、地上戦主体の彼の援護のために空中戦型となっている。

 

戦法としてはアサルトブーストでの空中機動を繰り返しながら各種武装を繰り出すというもの。

ホバータンクの特殊な挙動をしっかり把握していないと使いこなすのは難しいが、援護能力も火力も高く、使ってみて面白い機体である。

 

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