「そら、あんたら急ぎな!
ここに港町が出来りゃ、この中央氷原に出っ張ってきたいアーキバスやベイラム、それにほかの企業からも利用料で大もうけだ。
ここが気張りどころだよ!!」
第何十便かの大陸間輸送用カーゴランチャーでやってきたカーラは現場を見て檄を飛ばす。
ここは中央氷原東端に位置する海沿いの拠点、そこに作業用MTやACまで投入し、いま急ピッチで港町が建設されている。
元々建設用ACとして開発された『レッカーシリーズ』や物資運搬用逆関節脚として開発された『スプリングチキン』の面目躍如といったところで、その作業効率は恐ろしく高い。
「カンナ、調子はどうだい?」
カーラは『RaD』の工作建築部隊、通称『カーペンターズ』を率いる重四脚AC、それに乗った女へと話しかける。
『カンナ=クギノミ』……明らかな偽名だがここではそんな人間掃いて捨てるほどいる。職工であると同時に技術者、そしてAC乗りという稀有な人材だ。職人としてもAC乗りとしても能力が高く、技術者としての能力も高いため、カーラとよく共同で開発作業をやるほどである。そんなカンナから返答が返ってくる。
『作業は順調、予定との誤差はほとんどないよ』
「結構、予定通りなのは良いことだね」
『ただ……いいのかい?
ここは中央氷原の玄関口として、企業どもが物資輸送やらでいくらでも使いたがる要衝になる。
出来上がったら部隊を差し向けられて力尽くで奪われる……なんてことも十分ありえるよ』
そんなカンナの懸念にカーラが答えた。
「無論、織り込み済みだよ。
実はフィーメルが『BAWS』と『エルカノ』に今後の協調と技術開発協力の交渉をしてる。
実質的な『同盟』を結ぼうって話さ」
今までも『RaD』はその技術力の高さから『エルカノ』とACパーツの共同開発など協調路線を取っていた。それを一歩進ませ、さらに『BAWS』も加えて『ルビコン3地元企業による同盟関係』を結ぼうというのだ。
と、その時タイミングを見計らったようにカーラの通信機が鳴る。
「ああ、フィーメルかい。 ちょうどあんたの話をしてたところさね。
それで……。
そうかい、よくやってくれたね! 向こうにはよろしく伝えといておくれ!」
フィーメルをねぎらい通信機を切ると、カンナに次第を聞かせる。
「『BAWS』と『エルカノ』と『RaD』の三企業同盟、通称『アライアンス』が成立したよ!」
『……フィーメルの交渉力は知ってるけど、どれでもよくすんなり行けたもんだね。 こういっちゃなんだけど、どう取り繕ったって私ら無法なドーザーだよ。
闇市場で武器を売りさばく『死の商人』がせいぜいだろうに、よくもまぁ企業として信用してもらえたもんだね』
「そこは強力な仲介人がいてね。 『サム=ドルマヤン』っていうジジイなんだけど」
『なるほどね……そりゃ納得だわ』
カンナがその仲介人の名前にすべてを納得する。少しだけ、彼に憧れて突如自分と母の前から消えて烈士となった父のことを思い出し、苦々しい気分になりながら……。
もともと星外からルビコンを抑圧する惑星封鎖機構と戦い続ける、ルビコン解放戦線創始者である『サム=ドルマヤン』はルビコンにとってはヒーローのようなもので子供のころから彼に憧れていたという人物は多い。そういった子供が成長し、『BAWS』や『エルカノ』へと就職することでそのシンパは非常に多かった。
同時にルビコン解放戦線は両企業のお得意様だ。その創始者である『サム=ドルマヤン』が両企業に対する影響力が大きいのは当然とも言える。
もっともここ近年の腑抜けた様子に失望の声も多く、一時はその影響力を大きく落としていたのだが、最近になって往年のような活躍を続ける『サム=ドルマヤン』に再び影響力が戻ってきた。
そんな影響力を持つ『サム=ドルマヤン』からの直々の紹介である。『BAWS』と『エルカノ』はその高い技術力を確認し、『RaD』を自分たちと同じく『ルビコン3の地元企業』だと認め、同盟締結に至ったのである。
『BAWS』と『エルカノ』は現在のコーラル争奪戦争においては表向きは中立を宣言し、金さえ払えばどんな組織・陣営・人物にも製品を売っている。そして『RaD』も同一の方針となる。
「そこでこの港町が完成してから力尽くで「寄越せ!」とか言ってみな、確実にそいつらには『アライアンス』からの物資販売はストップだ。
ルビコンに侵略しといて、その侵略先で補給元を失ったらどうなるか……やる奴がいるとしたら、そいつはコーラルドラッグで頭がキマッたドーザーよりバカ野郎だね」
『違いない』
『アライアンス』の販売しているのは武器弾薬だけではない。生活必需品も大量に売っているのだ。それらが無くなれば確実に、このルビコンで生き延びることは不可能になるだろう。
「それにこの町は『アマゾネス隊』や『ハウンズ』、それに『レッドガンの借金野郎ども』が守りにつく。
戦力的にも政治的にも、この町は誰にもやらないさ」
『そいつは安心だね』
「ところでカンナ……」
キリがいいと、カーラは話を変える。
「あいつ……
あのクソ忌々しい『ジャンカー=コヨーテス』の連中もこれで全滅だ」
『そいつは今週一番のグッドニュースだ』
「『ジャンカー=コヨーテス』の貯め込んでた物資も手に入ったし、何よりこれであいつに奪われた楽しいおもちゃ……オーヴァードレールキャノンを弄くれる」
『楽しそうだね』
オーヴァードレールキャノンは今後確実に必要になる……ヒナタの話からそれを知るカーラは、ヒナタの知るタイミングより早くその作業に入ろうとしていた。
しかし、カーラの思惑はそれだけではない。
「それが終わったらなんだけど……ちょっとあたしの趣味に付き合って欲しくてね」
『カーラの趣味って言えば、笑える武器だろ? 何かいいのが思い浮かんだのかい?』
「ああ、いいのが降りてきたんだよ」
それはミスター出世払いの話していた、別の世界のAC。聞いていて久々にワクワクした『ソレ』……そして、心のどこかで必ず必要になるだろうと考えた『ソレ』の作成にカンナを誘ったのだ。
『いいね、相変わらずイカれたアイデアだ! そういうロマンの塊は大好きだよ、私は!』
「だろ!!」
ある意味似た者同士のマッドな技術者によって、『何か』がこの世界に産声をあげようとしていた……。
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ここはルビコン解放戦線の拠点近く。
砂嵐が吹き荒れ視界は最悪だが、特殊な秘匿回線は鮮明な音声を伝えていた。
『そういうわけでヴェスパーⅤどのの復帰が決定した』
『バーゲンセールはこれにて終了ということよ』
「そうか……どうせ望外の幸運だ、いつまでも続くとは思っていなかった。
私や六文銭を含め、戦線の優秀な同志たちがアーキバス系列のパーツでACを強化できたのだし、十分すぎる戦果だ。
……それよりも輸送ルートをリークしたことは上手く隠せているだろうな?」
AC『天翔鷲翼』の中でその秘匿回線で会話をするのは、ルビコン解放戦線の実質的な軍事的指導者である『ミドル=フラットウェル』である。
彼はアーキバスへと忍ばせた目と耳から、アーキバスの内情をつぶさに聞かされていた。
『もちろん、抜かりない』
『今のアーキバスの仕事には穴が多いわ。
やりようはいくらでもある』
現在のアーキバスは兵站関係がボロボロになったところにコーラルを追い西の中央氷原へと渡る必要が出てきて、事務方は大忙しであのスネイルですらチェックに穴が開いている。まさにスパイ天国といった様相になっていた。
「ならいい。
しかしもし露見した兆候があったら……」
『……分かっている。 すぐに脱出してそちらに合流する』
『……私もそのときには確実に彼を送り届けるわ』
(例えこの身に代えても……)
女の静かに燃えるような決意は、ただ彼女の中だけに響く。
『それにしても……最近の帥父は一体どうしたというのだ?
少し前まではカビの生えた警句を唱えることしかしない燃え尽きたただの老人だったというのに……今はまるで別人、私よりも高く飛ぶやもしれない力強さを感じる』
「それがよく分からない。
あの演説と戦線に出て大いに戦果を上げ、兵たちの士気はこれまでにないほどに上がっていることはよいことだが……『BAWS』『エルカノ』『RaD』の同盟、『アライアンス』の立ち上げの後押しなど、ずいぶんと独自の判断で動いている。
ドルマヤンとフラットウェルが不仲という噂はすべて真実だ。
どこまでも
フラットウェルとしてはドルマヤンはただの精神的な象徴としていてくれればいいものを……と思いながらも、その戦闘能力が間違いなくルビコン解放戦線最強であることは認めており、その最大の戦力が自分の自由に動く駒ではない、いつどんなことをするのか予想もつかないことに頭を抱えていた。
『何かきっかけがあるのではないか?』
「……帥父が変わったのは、たしかベイラムの捕虜収容所から救出された後、その依頼を受けた独立傭兵と話をしてからだ。
人払いを厳重にしていて何を話したのか分からんのが残念だが……」
『その時の独立傭兵……たしかストライダーの護衛を成功させたヒナタとアオイという2人だったな?
君はその2人をつぶさに見たのだろう? どう思った?』
『……独立傭兵アオイは私が『戦友』と認められるほどの逸材だったわ。
独立傭兵ヒナタの方は……私では計りきれないわね。 あれは本物を超えた『本物』よ、そういう凄みを秘めていた。
もしかしたら……あなた以上かもしれない』
『……面白い。 彼が何を考え、何のために戦うのか……知りたくなった』
「……コーラルをめぐる戦いは今後は中央氷原が中心となるだろう。
我々ルビコン解放戦線も中央氷原に拠点を構築し、私が直接指揮をとる」
『独立傭兵ヒナタ……中央氷原で会うのが楽しみだ』
『……それ確かヴェスパーⅠも言っていたわよ』
『それは……ますます興味が沸いた』
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「ええ、分かっています。
人は人を捨て、新たな存在へと進化することが出来る。
それを邪魔するものたちは……イレギュラーたちは私たち姉妹が消し去ります」
彼女の言葉に答えるように、背後に立つキャロルが答える。
「もうすぐ惑星封鎖機構の艦隊が到着します。
当初予定の倍近い数を吐き出させました。 ご安心ください、ラナ姉様」
「うふふ……キャロルちゃんはいつも優秀ねぇ」
「別に普通のことです、ジェニファー姉様」
「ふふっ……それにしてもケイトちゃんがイレギュラーに加担するなんてね。
お姉ちゃん読めなかったわぁ。 あの子、簡単に状況に流されるだけの子だったし」
「ほーんと、どこに出しても恥ずかしいお姉ちゃんだったよね、ケイトお姉ちゃんはさ!」
「……よしなさい、ジェニファー、リージュ。 いかに使命を忘れたとはいえ成功例の姉妹です。
私たちできっちりと消去する……それを愚かな姉妹へのせめてもの手向けとしましょう」
「うふふっ……わかりました、ラナ姉さん」
「はぁい、ラナお姉ちゃん!」
姉妹たちから視線を彼女……ラナ=マークソンは正面へと戻す。
「もうすぐ惑星封鎖機構の艦隊が到着します。そうすればいくらイレギュラーといえど……。
ご安心ください、
そして
その声に答えるように赤い、コーラルで満たされたカプセルがゴボリッと音を立てた。
こうしてルビコンのすべての勢力はアーレア海を越え中央氷原に集う。蜜を求める虫たちのように。
しかし、その甘い蜜は同時にとてつもない猛毒であることを知っているものは少ない。そしてルビコンの裏にうごめく闇を知るものはもっと少ない。
その闇は静かに、しかし確実に大きくうごめいていた……。
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今日のアセン
AC名:『棟梁マイスター』
パイロット名:『カンナ=クギノミ』
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-3000 WRECKER
CORE:CS-5000 MAIN DISH
ARMS:AS-5000 SALAD
LEGS:LG-033M VERRILL
BOOSTER:BC-0200 GRIDWALKER
FCS:FCS-G2/P10SLT
GENERATOR:AG-T-005 HOKUSHI
EXPANSION:PULSE ARMOR
解説
『RaD』の工作建築部隊、通称『カーペンターズ』を率いる女。
明らかな偽名だが職工であると同時に優秀な技術者、そしてAC乗りという稀有な人材であり、兵器にロマンやジョークを盛り込むことを理解できる。
つまりカーラと似た感性の持ち主なので、カーラのお気に入りの一人として今までも共同研究などを行っていた。
施設の設計や建設に関してはカーラ以上であり、彼女の陣頭指揮を執る『カーペンターズ』は、どんな場所にも的確に、必要な建物を建てていく。
本来は作業用としてACを使うが、いざという時には防衛担当のモアですら認める戦闘能力で戦いに参加する。
エンブレムは『カンナと釘とノミで作られた三角形』。
基本的にきっぷの良い姉御肌の好人物なのだが、何故かドルマヤンやルビコン解放戦線の話をすると渋い顔をする……。
……実はインデックス=ダナムの娘であり、突如自分や母をおいてルビコン解放戦線に参加した父について言いたいことが満載。
ダナム「家族? 家族は俺の行動を理解してくれているはずだ。
違ってたら土に埋めて貰っても構わないぞ」
本人のきっぷのいい性格のおかげで『父の性格ならそう行動するだろう』と理解してしまっているので恨みや憎しみはないが、それはそうと父に会ったら殴った後にルビコンの土に生き埋めにするくらいは許されると思っている。
職工としての腕、技術者としての頭脳、人を動かす指揮力、そしてAC乗りとしての腕……悲しいことにダナムの持ち合わせていなかったすべてを持ち合わせたハイスペック娘。
彼女と再会したとき、それはダナムが土に埋められるときである。
機体はオーソドックスな重四脚AC。元々は『カーラのAC『フルコース』を四脚AC化し、高火力と格闘戦を両立する機体』というのがコンセプト。
ミサイル系を主軸としてそこに高火力なハンドグレネードランチャー、格闘戦に対応したパルスブレードを装備している。
ミサイルの波状攻撃で衝撃値を溜め、ハンドグレネードランチャーでスタッガー状態、そこにパルスブレードを叩き込むというのが主な戦法。
肩のグレネードキャノンではなくハンドグレネードランチャーを装備している理由は単純、『地上でも硬直の隙を無くすため』。
四脚ACを使用していると、たまに間違えてホバー形態の時以外に肩キャノンを撃って硬直してしまうことがあるので、その操作ミスを無くすためというのが採用理由で、『腕武器は地上でも空中でも硬直しない』という四脚ACの特徴を生かしてミスを無くすためのもの。その辺り操作に心配ないのなら肩にキャノンを装備するという方がいい。
実際にとりあえずアーキバスバルテウス相手にテスト戦闘してみたが十分強い。だが……ハンドグレネードランチャーのリロードがとにかく長い。基本的に撃ち終わったらハンガーにしまってパルスブレードで格闘戦、という流れになっているのでハンドグレネードランチャーのリロード時間が長くなり、使いたい時にまだリロード中という事態も多かった。
それを考えるとリロード時間の短い大豊ハンドグレネードランチャーや小型ハンドグレネードランチャーにしたほうがいいかもしれない。
今回で長かったチャプター2も終了となります。
敵幹部であるマークソン5姉妹も顔見せしました。
ちなみに
ラナ=マークソン→長姉
ジェニファー=マークソン→次女
ケイト=マークソン→三女
キャロル=マークソン→四女
リージュ=マークソン→五女
です。
ラナ姉様は当然『アレ』似な機体ですが、次女も五女も何かに狂った『ロマン機体』ですのでお楽しみに。
次回からチャプター3、決戦の中央氷原編となりますが……すいませんが
またも体調が芳しくないので1週間お休みをください。
以下、我が家でのやり取り。
息子「パパお出かけしよ!」(菌を園から持ってきた張本人ながら、ちょっと発疹が出たくらいで健康そのもの)
作者「俺に死ねと申すか? よろしい、死んでやろう。だがヴァルハラでは俺が先達だ。雑用でこき使ってやるから覚悟しろよ」(熱40度、咳止まらず)
妻「2歳の息子相手に銀英伝ごっこしてないで寝てろ!」
息子「ママ、パパは?」
妻「パパは置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いにはついて行けない」(熱39度、嘔吐するレベルの激しい咳)
作者「お前もドラゴンボールの天さんやってねぇで寝てろ!」
弟者「兄者も義姉者ももちつけ!」
息子「おじちゃ、遊ぼ!」
弟者「こいつを思いっきり甘やかしたいんですがかまいませんね!」
作者「ジュースはアンパンマンジュースを2本まで!
昼食はマックのハッピーセットを許可!
お菓子は夕食の支障にならない程度なら許す!」
弟者「おかのした!」
映画のアンパンマンは、ばいきんまんが最高だったようです。
こんな感じで園から持ち込まれた菌でバイオハザードが発生している真っ最中の我が家。
……何で子供の持ち込むウィルスって大人相手だと超強力なんだ?
というわけでチャプター3の第1話は8月となります。
ちょっと実験的な試みもするつもりです。
次回もよろしくお願いします。