「ゲッフゲッフ」
シャーレビルで作業中また咳が来ると確信し手を押さえる。案の定喉の痛みと共に赤い液体が手にかかっているではないか。書類に付着しなくてよかった……
「この体もあとどのくらい持つのかな……」
わかっていたことではあったが自分の体が壊れて行っているという証拠をまじまじと見せつけられているようで中々来るものがある。こんな状態でも動けるのだから、アロナの力も大したものだ。
『先生……』
「気にしないでアロナ、後任の先生はもう見つけてるから。私の大学の後輩でね悪いやつじゃないと胸を張って言えるよ」
『そういう問題じゃ……』
『アロナ先輩の言う通りです。ただでさえ短い命を書類などで縮めないでください』
「ごめんねアロナ、プラナこれは男としての意地みたいなものだから譲れないんだ……でも、前向きに検討はするよ」
さてと、今の時間は……不味いな。そろそろ当番の子が来てしまうじゃないか。速く血を処理しなくてちゃ、見られたら不味い。今日の当番は……?
――コユキか。警戒しなくちゃな
――――
「にはは~黒崎コユキ来ちゃいました☆!」
勢いよく扉を開ける音と共にコユキがシャーレへ来訪してきたことを告げた。
「やぁ、コユキおはよう。今日は悪いけど書類と睨めっこするだけのお仕事だ…」
「え~そんなのないですよ先生ーそれじゃセミナーでの仕事とくぁらないじゃないですかー」
あからさまに嫌そうな顔をするコユキフッフッフだが、今の大人の力をなめるなよ
「そうかーじゃあカジノに行けるようユウカやノアに口添えしてあげようかと思ったけどやめておくよ…」
ビクッっとコユキは体を震わせている。
「残念だなー私のブラックカード貸してあげるの……」
「喜んでやらせていただきます!書類仕事でも、お茶くみでも何でもなんでも言ってください!」
「正直でよろしい」
勝ったッ!!計画通り...!
「やーっとひと段落ついたー」
「お疲れ様コユキ」
白い机に突っ伏しぐでーと避けているコユキに入れたてのココアを渡す。
「ありがとうございます先生」
「どういたしまして……おっと、コユキちょっとごめん」
電話がかかってきてしまい私は席を外す。
「もしもし、あぁ、お前か。どうした?引き継ぎの件でわからないことがあるから俺に聞きたいって?わかった、詳しく教えてくれ……」
―――
「むぅー先生遅いなー」
コユキは背の高いイスに座り足をぶらぶらさせながら暇を持て余していた。
「なにか、面白いことないかなー」
ふと、部屋を見渡す。
「ん?にはは☆面白いこものみーっけ」
コユキが見つけたものは金庫だった。キヴォトスにおいては旧式の金庫であったが、セキュリティはしっかりとしていた。左右に鍵が付いており、ダイアル式のロックもかかっていた。通常の生徒では見つけたとて開けられるものではなかっただろう。この子でなければ……
「『シャーレの秘密は見ない』って約束ですけど、私物は別ですよね?貯金くらい見たって減るものじゃないんですから」
この場にいない誰かに向けたであろう言い訳を一人愚痴った後、コユキは近くにあったゼムクリップを二つ持ってくる。
「これを、伸ばしてー後はカチャカチャすれば」
コユキはあっという間に金庫の左右についていた鍵を開けてしまう。
「にはは、アナログも行けますね!」
ダイアルを適当に回す、少なくともコユキ本人にとっては適当だったのだろう。
「御開帳ー!おぉ?へ……」
金庫の生身はコユキの想像を裏切る者だった。山ほどの金も、沢山のR指定本でも、なかった。ほとんど何もない。ただ一つそこに佇んでいたものがあるだけ…
「日記帳?」
黒い表紙に今年の数字が刻まれている本。そこらへんの本屋さんでも売っているであろう日記。日記自体に意味はない。ただそれはシャーレの先生の日記であると話は変わって来る。
「読んでみますか…」
この時のコユキは八割の好奇心と二割の背徳感で動いていた。好奇心は猫を殺すという言葉はまさしく金言であったと証明する行動であった。
――――
日付:◇月□日20**年
今日からこの日記を始めることにした。生徒を支えられる喜びと同時に、最近体調がすぐれない。疲れが取れないし、咳が止まらない。アロナに診断してもらった結果、大人のカードの代償だと告げられた。体が衰弱していき最終的には必ず死んでしまうという。どう伝えたらいいのか、生徒たちに対してどう振る舞えばいいのか分からない。
日付: ◇月▽日20**年
シャーレで作業中、息が切れてしまった。当日当番だった生徒が心配そうな顔をしていた。彼女に対して何も言えなくて、自分でも情けない。このままでは生徒たちに迷惑をかけることになるのかもしれない。
日付: △月〇日20**年
悩んだ結果、最後まで生徒たちにはこのことを告げないことにした。しかし、連邦生徒会には言わなければならないのでリンちゃんと相談した。相談した結果として私は自身の命尽きる日まで先生でいることにした。私が死んだ後は知り合いに頼んで次の先生になってもらうことにする。
日付: ▲月☆日20**年
もう病気の影響で仕事をすることが難しい。時々、血を吐いてしまうなんてしょっちゅうだ。おかげで隠すのが大変である。アロナやプラナには休めと言われるが、これは私の責任だ。死にたくない、死にたくない、独りぼっちになりたくない、誰か助けて(湿っていてぼやけている)最後まで突き進まなくてはいけない。それが私の生きざまだ。
日付: 12月某日2023年
体調がますます悪化してきた。最近では起き上がるのですら大変だ。時々送られてくる生徒たちから手紙やメッセージが届く。彼女らの応援が心強いけれど、この状況をどうしようもない自分の無力さが胸を締め付ける。
―――
日記の一ページの一部分に水滴が落ちる。
「え…?」
コユキの中の何かが決壊した。頬に伝わる水分の熱が脳裏に刻まれる。大人のカード……それ自体は知っている。いつもキヴォトスの危険があるときはそのカードを使うことがあると風の噂で耳にした。この日記に書いてあることが本当だとしたら、先生はいままで自分の命を削って戦ってきたということだ。それがどれだけ辛いことか若いコユキには想像できなかった。そして、理解できなかった。でも、先生が死ぬという事実のみが頭にすっーと入って来て理解できた。
「コユキ?――っ!?……そっか、見ちゃったか。大丈夫涙…」
駆け寄った先生が手を差し伸べるがコユキはその手を振り払ってしまう。
「コ、ユキ?」
「何でですか?」
「え?」
わからないという風な顔をする先生に更に顔を赤くするコユキ
「何で!?そんな風に他人を優先できるんですかっっ!おかしいじゃないですか!先生は頑張ってきたんでしょ!?それなのに……こんなのって」
そこにあったのはいつも騒がしく泣くコユキではなくただただ先生の胸の中で静かに涙を流すコユキの姿だった。
「コユキ大丈夫…ゲフッ」
先生はコユキから距離を置き、口を片手で覆う
「こんな時に……」
「先生っ!?」
混乱するコユキを対照的に…いや混乱しているコユキを見ていたからこそ冷静な先生は呂律の回らない喉で何とか声を出す。
「コユキ悪いけど、そこの木箱の『月曜日』の棚を開けてくれない。そこに症状を収める薬があるから」
「はっ、はい」
大急ぎでコユキは先生の示した場所まで駆け寄り、言われた通りに錠剤を取り出す。
「先生、これ……」
「ありがとう」
先生は錠剤を受け取りベルトにぶら下げてあったペットボトルの水で胃の中に流し込む。
「はっーありがとうコユキおかげで助かった」
「いえ、どういたしまして……先生私決めました」
意を決したかのようにコユキは先生に声をかける。
「なにを?」
「先生が死ぬなら最後の時まで一緒にいてあげます」
「ダメとは言わせません。私は先生が拒絶しても引っ付きます」
決意が固いと見た先生は不安そうで、それでいてどこか憑き物が落ちたかのような表情を浮かべながら
「コユキの自由にすると良い。ただ当番の日は増やしてあげるよ」
それだけ言って笑ったのだった。
な、長いっピ。3000文字とか書いたことないよ……さて、これからこの二人はどうなるのやら…まぁ、死別だろうね
活動報告にて短命ばれされた生徒の意見を募集しています。存分に呪い会おうじゃないか❤
この中で一番最高のエピソードと言えば?
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コユキ
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ノア
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ミネ
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黒服
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ヒマリ
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アスナ